アーティファクト

〜神歌〜

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✯第一章 西の国〜前編〜✯

16話❅ うん……やっぱりあっそぼーー ❅

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(大いなる炎の神よ、あらゆる罪を焼き尽くし、全ての悪を鎮め……

偉大なる命の炎をともし、温もりと慈悲にて、全ての救いを求める人々に美しき手を差し伸べたまえ……)
 あれから一週間が経ち、セリアは本物の天使になるために、起きてから直ぐにファイアーエンジェルの魔法を使い、天使の姿になり祈りを捧げていた。

 風の魔女が去った後、ロアが本物の天使になるための方法を教えてくれた。
 セリアの罪を昇華する必要があると、その為にまずは祈りを捧げることが、日課に加わった。


 セリアの今までの日課は……


 起きる、掃除、洗濯、精霊達が遊びに来たら遊ぶ、アーティファクト作りを学ぶ、遊ぶ、自由時間が基本で、一日の大半を遊んでいる、更に遊ぶは自由時間では無く勝手に決めた日課であった。
 そのセリアにまともな日課が追加されたが、基本は変わらない様に思えた。
 例外は旅をしてる時で、その間は時間の全てをセリエが管理している。

 セリエも祈りを捧げ終えた様で何かに気付いた。
「セリア?精霊さん達来てるよ。」
「うーん……ちょっと今日はいいや、ごめんねしてくる」
「?」
セリエは不思議に思った。
 余程、悔しかったのかセリエの傷を見ると、セリアは笑えずにいた。
 セリアが見抜いた通り、セリエの頬の傷は霊傷であり傷痕ははっきりと残っている。
 セリアが外で精霊達にごめんねをして、戻って来た時に驚いた。
 セリエが闇の天使の姿で居たのだ。
 その力の影響だろうか、頬の傷は一時的に消えている。
「お姉ちゃん……なんで?」
「セリア忘れたの?」
「え……」


「笑っていようよ……
やることやってさ……

人はいつ死んじゃうか解らないんだから……
死ぬまでにやらなきゃいけないって意識しすぎちゃ体が持たないよ。

シャルルさんも出かける前に心配してたよ。

私の傷痕がそんなに気になるなら、ずっとこの姿で居てあげるから、遊んでおいで、セリアはセリアらしくしてないと出来る事も出来ないよ」
セリエはそう優しく言ってくれた。

「うーん……」
 セリアは確かにこの三年間で遊ぶのが好きになった。
 明るくなり陽気になり性格も変わった。
 三年前は無理に演じていたが、姉妹で遊んだりして楽しくなり変わっていったのだ。
「やっぱり、いいよ今はそんな気になれないかな」


 セリアが遊ぶ気になれないのは二日前……


「うーん……心地よい夜風ですね~」
 風の魔女ウィンが深夜、バルゲルの外れでくつろいでいた。
 今日は新月で月も無く、ただ心地よい風が吹いてる夜で遠くを眺めながら、明日のお買い物を何処でするか考えていたが。
 背後の空が明るくなって来た。
「あれ?月はあっちのはず……って今日は出て来る筈ないよね?」
風の魔女ウィンはそーっと後ろの空を見ると……


 白い翼をはためかせ、ホーリーエンジェルの姿をしたセリアが夜空にいた。
「あら~あなた、ファイアーエンジェルだけじゃなかったの?」
風の魔女ウィンが微笑みながら言うと。


「おねぇちゃんの顔を……」
セリアが静かに言い。
「私にお願いかしら?」
風の魔女ウィンが白々しく聞く。


「元に戻せーーー‼︎」


セリアは叫びながら、上空から急降下し風の魔女ウィンに襲い掛かった!
「ふふふっ」
風の魔女ウィンは微笑みふっと息を吐くと突風がセリアを襲うが、その突風はセリアを通り抜けた。
「幻?」
風の魔女ウィンはホーリーエンジェルがセリアの幻だと気付いた。

「……」
背後からセリアの呟きが聞こえて来た。
 ウィンはハッとした瞬間、セリアが背後に炎の天使の姿でいた。
 セリアが微笑むが、その微笑みには怒りが篭っている。

 ウィンは長い距離を取ろうとしたが、急にファイアーウォールが二人を囲む様に壁を作り結界を形成した。
 セリアがフランマレーニスを使い、炎の天使になると同時に結界内にウィンを閉じ込めたのだ。


「へ~やるね、さっすが金色、それだけの力があれば天使への道も楽なんじゃないの?

と言うか?本当に人間なの?」
風の魔女ウィンはそう言い、少し疑問に思えた。
 セリアは答える事なく、風の魔女ウィンに襲いかかる。

 聖炎の槍を振りそして風の魔女を叩きのめそうとするが、軽やかに風の様にウィンは躱していく。
(これが昔のセリアちゃん、冷たさと寂しさの塊ね……
ほんとにこれじゃ、何百人くらいならすぐに殺しちゃうか……)
風の魔女ウィンはそう思いながら、可愛い笑顔のまま躱して行く。

 セリアは苛立ち始める、幾ら殺気をぶつけても幾ら怒りを込めても、その風の魔女ウィンの楽しそうな笑顔を歪める事は出来ないのだ、むしろ遊ばれてしまっている。

「本気を出せ!ウィン‼︎」
「えーそんなことしたらセリアちゃんは死んじゃいますよ?」
「うぁぁぁ!」
セリアが本気をだし、水の翼と光の翼が生え六枚の翼を持つ姿を見せる。


「えっ⁈」
ウィンは驚き、その美しさに一瞬目を奪われた。
 それは正に大天使の姿であった。

 セリアはお構いなしに更に速い槍捌きでウィンを襲った。
「うわわっちょっと!」
風の魔女は慌てて、避けるが躱しきれない。

「ほ~らほら!当たっちゃうよ!」
今度はセリアが楽しみ始める……
「くぅーっ」
風の魔女ウィンの白いローブが一瞬で深い緑色に変わった瞬間‼︎
 セリアは吹き飛ばされた。
 フランマレーニスの結界すら突き抜け、数十メートルは飛ばされ、バルゲルの分厚い街の壁に叩きつけられる。
 セリアは瞬時に体を炎に変えたが、もう一瞬遅ければ深傷を負っていたに違いなかった。
 セリアは倒れ込み、すぐに立ち上がろうとしたが、破滅の魔女となったウィンに手を差し伸べられた。

「まだやりますか?
死んだら何も出来ませんよ?」
 しだいにウィンの深い緑のローブは白いローブに変わっていく。

 仕方なくセリアはウィンの手を取り立ち上がる。
 セリアはセリエに聞かされていた。
 風の魔女がセリアのやる気を出させる為にセリエの顔に傷をつけたのだと、風の魔女ウィンが今は悪い魔女では無い、セリアも風の魔女の周りにいる精霊達でそれは痛い程解っていた。

「お姉ちゃんの傷……治してよ……」
「うん?なぁに?」
「お姉ちゃんの顔の傷治してよ」
「いやぁ」
「いじわる……」
セリアが呟く。
「私は魔女よ、簡単に聞いてあげません」
「……」
「それとさっき、楽しんで無かった?」
「え?」
「あなたに笑顔が無いと調子狂いそうになりますね、ほんとに……」
「笑えなくしたのはそっちじゃん」
セリアが言う。


 風の魔女はため息をつくが優しく言った。
「風の精霊達から聞いたけど、元気無いみたいね。
でもね私はあなたに、ちゃんと天使になって欲しいの、だから頑張りなさい。

近いうちに変な魔女が西の国に災いを振り撒きに来るわよ。
それを何とかしなさい、それまでは遊んでていいから、セリエの言った通り笑顔でいれる様にしなさい。」


 そう風の魔女は教えてくれた。
「なんで魔女の事を教えてくれるの?
そいつを何とかしたらいい事あるの?」
セリアは聞いた。
「私にとって西の国に災いを振り撒く魔女は、敵以外の何者でも無いわ、私はこの国が好きだからね。

それに天使になるのに悪い魔女倒す事と、話を聞く魔女を大人しくさせるのが一番手っ取り早いのよ……

魔女は罪の存在そのものだから、だからロアさん、魔鏡の魔女がまだ海の国に居た時の様に、罪を楽しむ魔女だったら私は容赦しなかったわ。

でも魔鏡も本気を出したら私も解らないわね。
魔鏡と奇術は別格の存在だから……」
「別格?」
「そう……邪神を捕まえ殺した魔女の二人組……

私でも神は殺せなかったわ……
でも相手が邪神だから神から見て罪にはならない、それを引き換えに奇術は魔女からエルフに戻り死ぬ事が許されたのよね……

年老いた魔女の望みはただ一つ、死ぬことよ」
「って!それじゃロアさんの夢って……」
「死んで天国に行く事かしらね、そうじゃないと良いけど……」
「そんなの嫌だよ!」
セリアは本気で嫌がる。

「考えて見てセリア……
死ねない事は罰でもあるのよ。

永遠に生き続ける。

それは孤独以外の何物でもないの……
過去の知り合いは死んで行く、新しい友情が芽生えてもお別れしなきゃいけない……愛も続かないわ……
いつか気がおかしくなるから……


それを永遠に繰り返してごらん……

生きてる事が苦しくなるから……」
淡々と風の魔女は話している。
「風の魔女……ウィンさんは?
苦しくないの?」
セリアは聞く。

「私も苦しかった事があるのよ
だから世界を滅ぼそうとした……

でもソテリア様が現れてくれたの、あの人は私に言い続けてくれたわ……

一人じゃない!
あなたは一人じゃない‼︎


そう言い続けてくれたのよ、私に一人じゃないって教えてくれたの……
そして二千年かけて、楽しみを探すことを教えてくれたのよ。

いま好きなのは綺麗になること。
でもいつか飽きちゃうと思うから、その時はまた何か探すわ」
「じゃあ、ロアさんも楽しみが見つかれば……」
「それより簡単な事があるわ」
風の魔女ウィンはセリアを見つめて話を続ける。
「あなたが天使になれば、仮初の命を授かり、ロアさんと同じ時間を生きれる……一人じゃなくなるのよ。

私は魔鏡と一緒にいるか解らない、私だって死を選びたくなるかも知れない……でも私は魔女でいる事を選び続けているのよ」
「え……」
「訳はいつか解るわ、知りたければ……
解ってるわね?」
「私が……」
「そう、お利口さん」

 風の魔女ウィンはそう言いセリアの頭を撫でてくれた。
 そして一陣の風が吹き消えて行ったのだった。



 そんな事が二日前にあったのだ、直ぐに遊ぼうなんて気が起きないのは当たり前である。

 が……

「うん……やっぱりあっそぼーー」
そこはセリアであった、セリアは外に出ようとしたが微笑んだセリエに背を向けたまま言った。
「お姉ちゃん、魔法解いていいよ……

私……頑張るからね!」


 セリアはそう言い外に飛び出し精霊達を呼び始める。
「ありがとうセリア」
セリエが静かに微笑んで言う。


 明るい笑い声が何日ぶりだろうか……
楽しげに響き渡っていた。
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