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視姦〜絶望感たっぷりなのが良いんだ
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「俺、今、運転免許取りに行ってるんだ。車の運転が上手いと、運転手にしてもらえるんだぜ? 免許取ったらドライブ連れてってやるよ。レンタカーとかあんじゃん?お前、何処行きたい? お前の行きたいとこ何処でも連れてってやる」
長いキスの後、亜也人の頬を両手で包みながら、良二が嬉しそうに瞳を輝かせた。
亜也人と良二が休憩場所に使っていた空き教室は、二人がいない間も暗黙の了解で立ち入り禁止になっていたようで、最後に良二と過ごした時のまま残っていた。
亜也人にとってもともと学校は、ただ良二の側にいたくて追いかけて来た場所であり、良二と一緒に過ごす以外何の目的も無かった。良二の家に転がり込んでからはいつも一緒にいられるのだから、そもそも、もう来る必要が無い。
しかし今は、この場所がある事がありがたかった。ここが無ければ、ひょっとしたらもう良二とは会えなかったかも知れないと思うと、埃の被った机も干からびたジュースの飲みこぼしも何もかもが愛おしかった。時が止まっていたかのような空間に二人並んでいると、穏やかだったあの頃に戻ったような気がした。
「あと、飯も作れるようになったんだ。飯の支度とか掃除とか洗濯とか色々やらされてるから嫌でも覚えちまって…」
「大変なんだね」
「まぁな。でも下っ端だからしょうがねぇよ。お前は? お前は何してるんだ?」
「俺は…」
頭に浮かんだものを亜也人は慌てて搔き消した。
言われた瞬間、松岡の顔が真っ先に浮かんだ。
松岡の、厚く逞しい胸板と凛と張った筋肉質の腕、頭の横に両手を突いて見下ろす時の、何かを訴えるように切なく細めた目や、熱い吐息を吐きかける唇。亜也人を執拗に求める時の松岡がたちまち脳裏に浮かび上がり、亜也人の意識を松岡とのセックスの最中に引き戻した。
その生々しさ。
さっきまでの穏やかな気分が一転、ぞわぞわとした胸騒ぎに変わる。
身体に火が点く。肌を合わせた時の熱と快楽が瞬時に蘇り、鳥肌を立てながら背筋を駆け上がる。
俺が何をしているか。
俺は、良二以外の男とセックスをしている。良二が一人で頑張っている時に。
自分がとんでもない事をしている事に今更ながら気付かされる。
良二はどこまで知っているのだろう。松岡に囲われているのだからセックスしている事は知っている筈だ。しかし、あんなにしつこくされている事を知っているだろうか。一体どうすれば良い。無理矢理なのだと言い訳すべきなのか。本当は嫌なのだと泣いて訴えるべきなのか。
身体が震え、亜也人は、良二の顔をまともに見ることが出来なかった。
察したのか、良二は、「ごめん、変なこと聞いたな」と、寂しそうに亜也人の頬を撫でた。
「俺のせいだよな。俺が堪え性が無いばっかりに…お前にばっかり我慢させて…。…ああ、チクショウ! 俺は、ほんっとダメだ!」
「良二…?」
「俺、ちゃんと解ってるんだ。あんな事しちゃいけない、ってちゃんと解ってる…。でもお前見てるとどうしようも無くなって…。本当、ごめんな、亜也人」
「良二、何言ってるの? どうしたの…」
良二は答えず、片手で亜也人の頬を包み、唇を寄せてふたたび口付けた。舌と言わず唇ごと口の中を荒々しく舐め回し、痛いぐらいに舌を吸う。息も出来ないほどの激しいキスに亜也人の意識が遠くなる。逃れようにも、耳の横をがっしりと手で押さえられ、顔を動かす事も出来なかった。
「りょう…じ、苦し…」
「俺、本当、ダメだな…。我慢しなきゃ、って解ってるのに、全然…。クソッ。解ってんだよ。でもダメなんだ…。亜也人…亜也人…」
片方の手を亜也人の解禁シャツの裾から脇腹へ差し込み、胸元を手のひらで大きく撫で回す。性急な愛撫に背中が反り返る。なんという力だろう。荒々しい手の動きに、皮膚を千切り取られてしまいそうな感覚に襲われる。抱き締められた腕が折れそうに痛い。
怖い。
亜也人は咄嗟に思い、そう思った自分にまた戸惑った。
「良二…待って…」
「待てない…」
「良二!」
「なんだ、嫌なのか?」
亜也人は慌てて首を振った。
「じゃあなんだ? やっぱ俺のこと怒ってんのか?俺のせいで、松岡、ってヤツのとこに行かなきゃならなくなったから、そんで、お前、怒ってんのか?」
「違うっ!違うよっ!ただ…」
セックスするのが怖い、とはとても言えなかった。
「ただ、何だ! 何でそんな顔するんだ!俺が怖いのか?」
「そんなわけない!」
「だったらなんでそんなに怯える。頼むよ…怖がらないでくれ。お前に怖がられたら俺…」
「怖がってなんか無いよ。怖がるわけないじゃんか!」
まるで、自分自身に言い聞かせているようだった。
怖いわけない、怖がる理由がない。不安を掻き消すように、亜也人は良二の胸元にすがりついた。
「信じてよ…。良二が好き…。良二が好きなんだ…」
「泣くなよ。俺も好きだ。好きだよ、亜也人…」
良二が、尖った表情を緩め、亜也人の瞳をじっと見る。苦しそうな顔だった。自分が苦しめているのだ、と思った。自分が、良二が嫌がることしているから。自分が、大好きな良二を苦しめ悩ませている。
久しぶりに会ったのに。
「良二、ごめんね。良二は何も悪くない。俺が悪いんだ…。ねぇ、キスして。もっともっと抱き締めて」
良二は、苦しそうな顔を更に泣き出しそうに歪めて亜也人を見、ゆっくりと顔を近づけた。
「俺も好きだよ、亜也人…。俺、絶対、もうお前に酷いことしねぇ。もし俺が酷いことしそうになったら俺を止めてくれ」
チュッ、と触れる程度に唇を吸い、一旦、亜也人から顔を離す。それから、ふたたび激しいキス。
大丈夫。俺は良二が好き。良二だけが好き。
亜也人は良二の腕の中でギュッと目を閉じた。それが合図のように、良二が亜也人の背中を机の上に押し付け、重なった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その夜、松岡は亜也人を最後まで求めては来なかった。
マンションに連れて来られて三カ月近くが経とうとしていたが、松岡が亜也人の身体を求めなかったのはその夜が初めてだった。
松岡は、亜也人と良二が会った事も知っていた。
積川と会ったんだろ、と詰め寄られた時の松岡の顔が、未だに、亜也人の脳裏にチラついた。
冗談じゃない、と思った。
どうして松岡にあんな顔をされなければならないのか。誰のせいでこんな事になったと思っているのか。
囲われの身としての務めはちゃんと果たしている。これ以上何を求めるのか。もう何も求めないで欲しい。優しさなんかいらない。慰めも、憐れみもいらない。
お願いだからそっとしておいて欲しい。それが出来ないなら、いっそ、思い切り痛めつけて欲しい。
それなのに、翌日、松岡はひどく優しく亜也人を抱いた。
まるで、良二の付けた傷を癒すように、亜也人の反応を見ながら、亜也人の身体を、始終、優しく丁寧に扱った。
堪らなかった。
余計な事をするな、と抵抗したが、言葉はすべて聞き流され、抗う手すらも優しく払われた。
松岡が何を考えているのか解らない。
やりたい事があるなら好きにすればいい。松岡の方が立場は上だ。こちらの気持ちなど聞く必要は無い。
それなのに、『お前が好き』とはどういう事だ。
学校へ行く事も、心の中では反対しているくせに甲斐甲斐しく送り迎えをする。行くな、と一言命令すれば良いものを、行かせておいて、後になってあんな顔をする。
そして、おそらく今日もまた松岡は、「積川と何を話した」と聞くのだろう。いや
ひょっとしたら何も聞かないかも知れない。何も聞かないくせに、また、あんな顔で見るのかも知れない。
もうやめて欲しかった。これ以上心を掻き乱されたく無い。もう、『好きだ』なんて言われたく無い。
亜也人は、松岡が校門に車を横付けすると直ぐに乱暴に後部座席のドアを開けた。
「三時半に来るから、ちゃんとここで待ってろよ」
返事をせずにドアを閉め、逃げるように校門をくぐる。どうせ、紀伊田に見張らせてるのだろう。周りを見ないよう真っ直ぐ玄関に向かうと、亜也人が使用している二年校舎の下駄箱の前に、見覚えのある顔が立っていた。
「山下さん…」
今年の三月に卒業した山下が学校に何の用だろう。不審に思いながら近付くと、山下は、よお、と片手を上げて笑った。
「久しぶり」
「あの…」
「あ、うん。積川、今日、来れないから、それ伝えに来た」
「来られない、って…」
「別に、何もないから心配すんな。あいつが部屋住みになったのは聞いたよな。あいつ、今、色々大変なんだ」
ひとしきり話した後、山下は、「それより、今からちょっといいか?」と漠然と切り出した。
「今から、って…」
「ああ、ここじゃなんだから別の場所で…」
山下は下駄箱の入り口を抜け、裏口に向かって歩き出した。
教職員の専用口として使用されている裏口は、教材の搬入業者が一日に数回来る程度で、殆ど人の出入りは無い。
その裏口を抜けた先の駐車場に、スモークを貼った黒塗りのワンボックスカーが停まっているのが見えた。
「山下さん、あれ…」
亜也人はふと足を止め、しかし、次の瞬間、いきなり脇腹に激痛が走りガクリと膝を折った。
「山下さ…んっ⁈」
今度は太ももに立て続けに二回、皮膚がバチンと弾かれるような音がして、亜也人は動けなくなった。
山下は、地べたに倒れ込む亜也人に、「ごめんな」と声を掛けると、亜也人の背中と膝下に腕を回して自分の胸の前に軽々と抱き上げた。
意識はハッキリしていたが、身体が痺れて動けなかった。抵抗できないまま、亜也人は駐車場に停まっていたワンボックスカーの中に押し込まれた。
荷台に下ろされ、俯せになったところを、見知らぬ男に手首を縛られ、髪を掴まれて顔を上げさせられた。
途端に、鋭い視線が亜也人の瞳を貫き、亜也人は凍りついた。
こんなに恐ろしい目を見るのは初めてだった。良二を見た時に感じた恐ろしさとはまた違う、鋭く尖った、それでいてじっとりと貼り付くような、薄気味の悪さがその目にはあった。
身動き出来ない亜也人をよそに、その目は、亜也人を抑えつけるように見下ろした。
「ご苦労だったな、山下」
後ろで山下が、「これっきりで勘弁して下さい、内藤さん」と呟いた。
内藤。
亜也人は、思わず男の顔を二度見した。
この人が、内藤。良二がお世話になっている…。でも一体何故。
「まぁ、そんなに怖がるな」
内藤は、亜也人の前に身を屈め、顎を掴んで亜也人の顔を左右に向かせ、品定めするように見た。
「確かに、見た目は申し分無いな。前見た時より大人になって…綺麗になった」
「………?」
「覚えてないだろうよ。前に一度、お前を見てる。今にも死にそうな顔してたよなぁ、あの時は。それが、よくもまぁこんなふうに生き返ったもんだ。積川のお陰か?だとしたら、あいつも大したヤツだぜ」
笑った顔すら恐ろしかった。そもそも本当に笑っているのかさえ解らないような、恐ろしく表情の無い顔だ。骨と皮だけの尖った顔に、切れ長の鋭い目。細く吊り上がった神経質そうな眉が、冷たいイメージをより一層際立たせていた。
内藤は、顔を引攣らせて固まる亜也人を見て口許だけで笑うと、押さえ付けていた男たちに命令し、亜也人の身体を起こし向かい合わせに座らせた。
「お前を呼んだのは他でもない。お前の大切な良二のことだ」
「良二のこと…?」
「良二が今、大事な時だってのは知ってるな。あいつには俺の片腕になってもらおうと思ってる。あいつには素質がある。俺はそれを伸ばしてやりたい。お前だって、あいつが偉くなったら嬉しいだろ?」
「…………」
「わかんねぇか。とにかく、あいつは上に行ける奴だし、あいつもそれを望んでる」
そこでだ、と、内藤はふいに語気を強めて亜也人をまじまじと見た。
「お前、良二を助けてやってくれないか」
「助ける、って…」
「俺たちの世界は厳格な縦社会だ。…縦社会って知ってるか?上には絶対逆らえない、上の意見が絶対の世界だ。良二は今そこにいる。もちろん、兄貴分の命令は絶対だ。そして次に、金。上に取立ててもらうには金がいる。つまりこの二つをいかに上手く用立てるかでその後が決まるってわけだ。
そして、さっきも言ったが、俺は、良二には上を目指してもらいたい。そこでお前の力が必要なんだ」
「俺の力…?」
メガネの真ん中に指を添えてフレームを整えると、内藤は、改めて亜也人に視線を向けた。
「これはお前にしか頼めない。お前にしか出来ない事なんだ。俺の言いたい事、解るよな?」
自分がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。飲み込んだのに、何かがまだ喉の奥に引っかかっているようで亜也人は何度も唾を飲み込んだ。
「お前だって良二の役に立ちたいだろ?お前が松岡に囲われてることは知ってるよ。この前それで良二とモメたんだろ? 可哀想に、良二、凄くショック受けてたぞ。そりゃそうだよな。てめぇが大変な時に、てめぇの色が他の男といちゃついてるんだから」
「違う!」
「お前はそうでも良二はそうは思わねぇよ。だが、お前が良二の力になるっていうなら話は別だ。自分のためにここまでしてくれるお前を良二が許さないとでも思うか?お前は、良二に感謝されこそすれ、疎まれたり嫌われたりする事は絶対に無い。むしろ、今よりもっともっと大切にされる筈だ。いいか。大袈裟でも何でもなく、今、良二を助けてやれるのはお前だけなんだ」
「俺…だけ…」
「そうだ。お前だけが良二を助けられる。どうだ? 良二のために力を貸してやってくれないか?」
亜也人には断る理由が見つからなかった。内藤は亜也人の心を見透かしたように満足気に笑った。
その後、亜也人は再び荷台に俯せに寝かされた。念のため、と言われ足首を縛られて、目隠しをされると同時にワンボックスカーが走り出し、車が止まると二人の男に両脇を抱えられ、引きずられるように何処かへ連れられた。
高層ビルなのか、ずいぶん長い間エレベーターに乗せられ、フカフカの絨毯の上を歩かされた後、ようやく目隠しを外される。
ホテルにしてはシンプルすぎる部屋だった。モノトーンで統一された広い部屋の中央に大きなベッドが一つだけ。他に何も置かれていないだけに、ぽつんと置かれたベッドが一際大きく目を引いた。
「お前たちは外で待機してろ」
内藤は一番最後に入って来て部下に指示すると、亜也人の腕を引っ張り、部屋の奥へと歩き出した。
奥には更に細い通路が続き、トイレとバスルームが並んでいた。バスルームの前に来たところで、「準備しろ」と、いきなり中に突き飛ばされた。
「準備って…」
「一時間後にここへ男性が訪ねてくる。良二が世話になってる上部組織の偉い様だ。それまでにケツの中を綺麗にして準備万端整えろ」
「あの、俺…」
「なんだその顔は。お前に出来る事なんてこれしかねぇだろう。それとも何か?松岡とは出来て、良二が世話になってる人とは出来ないって言うのか?」
「そんな事は…」
「なら、さっさと準備しな。それとも俺に洗ってもらたいのか?」
亜也人は慌ててかぶりを振った。内藤は、イラついた様子で、「世話を焼かすな」と、バスルームの扉を閉めた。
仕方なく、亜也人は服を脱いで、シャワーのコックを捻った。
身体には良二に付けられた傷がまだ残っていた。
先日、亜也人は久しぶりに会った良二に脇腹を噛まれた。人に本気で噛まれたのは初めてだった。食いちぎられると思った。動物のような牙は無いが、人間も本気になれば人を噛み殺せるのだという事を、亜也人は、良二に噛まれながら思った。良二の付けた傷はそれぐらい痛かった。
しかし、そうさせたのは自分だ。自分が良二の嫌がることをするから良二が怒る。
もう二度と良二を怒らせたくなかった。自分は怒られても構わない。しかし、良二の気分を損ねるような事はしたくない。
誰よりも良二の力になりたかった。良二の力になり、良二の役に立ちたい。自分がどれほど良二を愛しているか、ちゃんと証明しなければいけないと思った。
だからこんなことぐらい平気だ。
亜也人はシャワーヘッドを握り、くまなく身体を洗った。身体の中も、お尻にシャワーを当て中にお湯を含ませ、丁寧に洗い流した。
「お前の対応次第で良二の心証が決まるんだ。くれぐれも粗相のないようにしろ」
一方的に弄ばれるだけなのに何が対応だ。思いながらも、言い返しもせず受け入れている自分が可笑しかった。
バスルームを出ると、内藤にバスローブを渡され、着替えてベッドの中で待つよう指示された。
亜也人は、シーツを頭の先まで被って気持ちを落ち着かせた。
ほどなくして、寝室の扉が開き、男が入って来た。
おかしい。
亜也人はすぐに異変に気付いた。
足音が二つ。いや、三つ。
しかし、気付いた時には遅かった。
いきなりシーツを剥ぎ取られ、亜也人は見知らぬ男に羽交い締めにされた。
後ろに一人、左右に一人づつ。三人の男に身体を押さえられたところで、開けっ放しになった扉からまた誰か入って来る。
和服姿の初老の男と、お付きらしきスーツの男。そして、最後に内藤が入って来た。
七十代前半、というところだろうか。シルバーグレーの頭髪に、浅黒い肌。横幅のわりに上背の無い体格。年相応の衰えはあるものの、ずっしりとした覇気のある雰囲気と眼光の鋭い瞳がカタギの人間ではない事を物語っている。皆が固唾を飲む中、初老の男は亜也人の前まで歩いて来ると、怯える亜也人の頬を撫で、ニタリ、と薄気味悪く笑った。
「こりゃあ、噂通りの美少年だ」
「染谷様のお眼鏡に適うと良いのですが」
「無粋な事を。これを気に入らないほうがどうかしてる」
金歯の目立つ口元をひん曲げて笑うと、染谷と呼ばれた男は、亜也人に、ぬっ、と顔を近付け、首を傾けて色んな角度から亜也人の顔を眺めた。
「本当に、むしゃぶりつきたくなるぐらい見栄えの良い子だねぇ。俺のムスコがまともなら直接ぶち込んでめちゃめちゃに泣かしてやるものを、身体の自由が効かんのがなんとも残念だ…」
ため息をつき、後ろに控えるお付きの男に目配せする。お付きの男が、手に持っていたアタッシュケースを素早くベッドの上の亜也人の足元に置き、蓋を開けて男の方へ向けた。
「これはまた凄いコレクションですねぇ」
「ああ。現役高校生と聞いただけで、脳が疼いて止まらなくてな。気付いたらこんなに選んでしまっていた。役立たずの年寄りの楽しみなんてこれくらいしかないからな。今日は、じっくり見せてもらうよ」
またあの顔だ、と亜也人は思った。今まで何度も目にしてきた、この、常軌を逸した、黒目の拡がった目。亜也人を痛めつける時、男たちは一様にこんな顔をする。この、興奮に支配され我を忘れた男たちを見ると、亜也人はたちまち動けなくなってしまう。自分が生贄になったような気がして足が竦む。男たちは、亜也人の竦んだ足元を見て更に目の奥を鈍く光らせる。初老の男もまた、亜也人の表情の変化を楽しむかのように、アタッシュケースを亜也人の方に向けるよう指示を出した。
見た瞬間、亜也人の背筋が凍りついた。
グロテスクなおもちゃが、アタッシュケースに溢れかえるほど詰め込まれている。
小指ほどのものから、身体が壊れてしまいそうなほど大きなもの、トゲのついたものや丸い玉が数珠繋ぎになった長いもの。黒い革の拘束具、何語か解らない文字の書かれたローション。多種多様なおもちゃや責め道具が異様な存在感を纏って亜也人の視界を埋め尽くしている。
こんなものを使われるのかと思うと身の毛がよだつ。しかし恐ろしさを感じれば感じるほど亜也人の身体は動かなくなった。
「そうそう。この、本気で怖がる顔が堪らないんだよ。ポルノ男優みたいなアンアン言うやつは好きじゃなくてね。こういう、絶望感たっぷりなのが良いんだ…」
恍惚とした表情で亜也人を見つめると、染谷は、内藤がベッドの足元に用意した背もたれ付きの椅子に移動して腰掛け、「はじめてくれ」と声を掛けた。
途端に、両隣りの男が亜也人の足首を左右に大きく開き、バスローブの両肩を腕の真ん中までずり下げる。下には何も身に付けるなという言い付けを守っていた亜也人は、脚を広げられた事でいやがおうにも染谷の目の前に自分のペニスを晒す格好になってしまった。
「や…だっ…」
閉じようとしたところを足首を掴まれMの字型に開かれ、背後の男に膝裏を抱えられて前へ突き出された。両サイドの男がアタッシュケースから革のベルトを取り出し左右の足首に装着し、それを終えると今度は両手首に手錠をかけてそれぞれの足首に縛り付けた。こうして亜也人は、手首と足首を固定され、脚を大きく開いたまま身動き出来ない状態にさせられた。ペニスは無防備にも染谷の目の前に晒されている。
はぁはぁという鼻息が、ペニスの先端にかかかる。ザラザラとした手が陰茎を摘み、からかうように左右に揺らした。まるで猫が獲物をいたぶるかのようだった。いや、自分は獲物なのだ。
「これはまた綺麗なおチンポだ。ほんのり赤らんで小さくて可愛らしい。玉も小ぶりでコリっとしている。これが勃ったらどうなるのか早くみてみたい」
言葉を合図に、背後の男が首筋にむしゃぶりつき、両サイドの男が左右それぞれの乳首に飛びついた。両方の乳首を同時に責められ、亜也人がビクッと身体を震わせる。乳首を摘み、こすり、撫で、根元を甘噛みして乳輪をキツく吸い、乳首の先端を舌の先で舐め、転がす。両方の乳首を、左右の男にそれぞれやりたいように弄ばれ、空いた方の手でペニスを握られ扱き上げられる。誰に何をされているのかも、自分が今どんな体勢でどこを責められているのかも解らない。ただ、予測不能の快楽に頭が混乱する。乳首の奥がツンとして腰の奥が熱く疼く。身体全体が身の置き所がないほど疼き熱く火照る。たまらず身体をよじらせると、真正面に座る染谷が、「待て」と声を上げた。
「その痣はどうしたんだ」
身体をよじった時に、ウエストに溜まっていたバスローブが外れたらしい。隠れていた噛み痕を見付け、染谷は興奮しているようだった。
「それは何だ。誰に付けられた。もっとよく見せてくれ」
傷痕のある左手側の男が足首に繋がれた手首のベルトを外し、亜也人の腕を高く上げる。良二が噛んだ痕は、ウエストの一番くびれたところから背中側に、赤紫色の楕円形になって拡がっている。真ん中は薄く紅を引いたような赤で、外へ行くにしたがいだんだんと青黒さが混じり紫味の濃い赤になる。まるで腐り落ちる寸前の果実さながらの毒々しさだ。ただの打撲でない事は、綺麗に並ぶ、赤い傷になった歯型からも一目瞭然だった。
「おお、おお。この綺麗な白い肌にこんな痕を付けるとは、何とバチ当たりな奴だ。単に残虐な奴なのか、恐ろしく独占欲が強いのか…。どちらにせよ、まともな神経ではないな。可哀想に、私が撫でてあげよう…」
しかし、染谷の手が傷痕に触れることは無かった。
触るな。
指先が近付く気配を感じた瞬間、亜也人は反射的に染谷の手を蹴り上げていた。
同時に、頬に衝撃が走り、目頭に火花が散った。
内藤に横っ面を叩かれたのだ。内藤は亜也人を引っ叩くと、片手で亜也人の腕を捻り上げ、もう片方の手で脇腹の傷痕を乱暴に掴んだ。
「貴様、舐めた真似してんじゃねぇぞ」
あまりの痛さに亜也人が「ギャッ」と声を上げる。それすらも気に入らないと言いたげに、内藤は、悲鳴を上げる亜也人を睨み付け、掴み上げた手首を再び足首に縛り付けると、アタッシュケースからベルトをもう二本取り出しMの字型に開いた脚の太ももと脛を、左右それぞれ離れないよう一緒に縛り付けた。こうして亜也人は脚の自由を完全に奪われた。
「大変失礼を致しました、染谷様。あとは、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
染谷は、「私は全然構わないよ」と椅子に座りなおした。
太ももと脛を固定されたせいで、亜也人は、さっきよりも更にペニスを突き出す格好になった。染谷の好色な視線が絡み付いているのが解る。
恥ずかしさと恐ろしさで、頭がどうにかなりそうだった。
下唇を噛んで顔を背けると、「顔が見たい」と言われ、紐付きの首輪を付けられ無理に前を向かされた。
「そうそう、お前の綺麗な顔が歪むところが見たいんだ。ここでじっくり見せてもらうから、いい顔で泣いておくれ」
男の一人がアタッシュケースの中身をベッドの上にぶちまけ、その中からローションを取り出し、亜也人の胸元にまんべんなく垂らす。もう一人の男がそれを手のひらで身体一面に伸ばすと、後ろの男が、脇腹から腕を前に回して股間をもみしだく。まるで、極上の獲物にたかるハイエナのように、男たちが再び亜也人の身体に取り付き、ペチャペチャと音を立てながら思うがままに弄び舐めしゃぶる、その様子を染谷が瞳をいやらしくギラつかせながら眺めている。
顔を背けると、途端に首輪の紐を引かれ前を向けと指示された。ただ、引っ張られるだけなら無視も出来るが、紐を持っているのは内藤だ。従わなければ何をされるか解らないという恐怖が、亜也人の抵抗心を奪っていた。
「少し硬くなってきたねぇ。真っ直ぐで素直な良い形だ。長すぎず短すぎず、先っぽも丸くて綺麗だ。次はどうして欲しい?舐めてもらいたいか? おいお前、この子のペニスを舐めてやりなさい」
話を振られたお付きの男が、「私が、ですか?」と目を丸める。しかし次の瞬間、「他に誰がいるんだ」と、低いドスの効いた声が響き、お付きの男の顔色がスッと変わった。
気の良いお年寄りのフリをしていても、やはり極道なのだ。スーツ姿の男は、すぐさま亜也人の前に移動し、慣れない手つきで亜也人のペニスを握った。
「男のモノをしゃぶるのは初めてか? なら、私が教えやるから言う通りにしろ」
染谷の指示で、亜也人を抱えた男たちが、亜也人が舐められている様子が見えるような角度に体勢を変える。それから直ぐに、「袋の下から陰茎を上に向かって舐め上げろ」と染谷が指示を出し、お付きの男が言われた通りに亜也人の陰茎に舌を這わせる。
「いやぁっ! やだっ!」
ぎこちない触れ方が逆に羞恥心を増幅させる。見世物にされているという悔しさが、恥ずかしさと合わさって絶望感を揺り起こす。しかし、亜也人の涙を堪える姿は染谷を喜ばせただけだった。
「そうだ、そうだ。次はカリ首の溝を舌の先でぐるっと一周…そうそう、上手いぞ。見ろ、ずいぶん硬くなってきた。その調子で先っぽを上から吸い上げろ。もっとジュルジュル音を立てて吸うんだ。そろそろカウパーが出てきたんじゃないか? 一度口を離してペニスの先をこっちに向けろ」
染谷の忠実な僕である事を態度で証明するかのように、お付きの男が言われた通りテキパキと亜也人の下腹部を染谷の方へ向ける。染谷は椅子から身を乗り出して亜也人のペニスの先端を嬉々とした顔で眺めると、背後から亜也人を抱きかかえいる男に、もっとお尻を持ち上げて、割れ目を見せるよう指示を出した。
「おやおや、こっちもびっくりするほど可愛いじゃないか。この子は処女じゃないんだろ?なのに、この初々しい色の具合はどうだ。ほら、もっと拡げて中を見せておくれ」
「あっ、いやぁっ!」
背後の男にお尻の肉を掴まれ左右に拡げられ、亜也人はついに悲鳴を上げた。
辱めを受けるだけでなく、男たちに囲まれ、好奇の目に晒される。突然参加させられたお付きの男や内藤にまで見られている事が悔しくて恥ずかしくて涙が止まらなかった。身体の痛みには耐えられても屈辱に耐える事は出来なかった。特に、首輪の紐を持って見下ろしている内藤の忌々しい物でも見るような目。その、冷笑を含んだ親しみのない目が亜也人を絶望の淵に立たせた。
「ほら、力を入れてヒクヒクさせてみろ」
「も…ゆるして…ださい…」
「ん? 何を許して欲しいんだ?何をどう許して欲しいのかちゃんと言ってみろ」
「……ないで」
「何だ? 聞こえんぞ?」
「広げないで…」
「どこをだ? 言わなきゃわからんぞ」
さらに、後孔をぐぐっと拡げられ、亜也人が辛そうに顔を顰める。
「お尻を…お尻の穴を…」
絞り出すように答えると、染谷は、「おお、おお」と大袈裟に喜び鼻息を荒くした。
「そうか、そうか、広げられたくないのか。なら、塞いでやらんとな」
後孔に硬く冷たいものが押し当てられたと思ったら、いきなりズブズブと中に入って来た。
オモチャだ。身体が拒絶しているのだろう。感じたことの無い違和感が襲う。しかしそれも束の間、突然、捻じ込まれたオモチャがブィンブィンとうねり出し、亜也人は、ああっ、と声を上げて身をよじらせた。
「ははは。上手い具合に当たるだろう? どうだ感じるか?」
「いやっ、いやぁぁっ、抜いて! 抜いてくださ…あヒッ」
肉壁をほじくり返すように、捻じ込まれたオモチャが、亜也人の窮屈な身体の中をくねくねと動き回る。違和感が徐々に快感に変わっていく。心は拒絶するのに身体が受け入れてしまっているのが情けなかった。
「ほお。後ろはすっかり開発済みか。この子は、後ろの方が感じるみたいだねぇ。もっと刺激の強いのが欲しいんじゃないのか?おい!」
引き抜かれたと思ったら、すぐにまた鋭い衝撃に襲われる。メリメリと、身体を割られるような痛みと内臓を押し上げられる圧迫感。身体の中心が焼けるように熱く、苦しくて息が途切れ途切れになる。
それでいて、鳥肌が立つような快感が背筋をザァッと駆け上がって行くのが解った。
「あああんっ、あっ、んっ、も、だめっ、あっ。やめ…てっ!」
お腹の奥が熱を持ってジンジンと脈を打ち、頭がぼぉっと甘く痺れて上手く働かなかった。自分の声とは思えない、何処から出ているか解らないような声が、自分の意思に反して止め処なく漏れ響いた。
「や、あっ、あん、や、も、やめてくださ、あぃっ、や、だめっ…」
「何がだめだ。ん? 気持ちよくておかしくなりそうなのか?」
「んっ、ちがっ…あぁん!」
「ほらお前たち、もっともっとこの子を泣かせてやれ。そうだ、中だけでイかせたら褒美をやろう。道具は好きに選んで良い」
「いやっ!やめて下さいっ! あ、いやっ!やぁっ! 」
褒美と聞いて色めき立った男たちが、めいめいにベッドの上に散らばるオモチャを手に取り、ふたたび亜也人の周りに群がる。
亜也人は、「色んな体位が見たい」という染谷の要望で、脚の拘束を解かれ、しなやかな脚をベッドに投げ出していた。両手首は万歳をした状態でベッドに縛り付けられ、首輪は嵌められたまま、内藤が紐を持って傍に立っている。見張りなど立てなくとも、亜也人に抵抗する気力が残っていない事は、泣き疲れて腫れ上がった目元を見れば一目瞭然だった。それなのに、ベッドの横でまんじりともせず見張る内藤が、亜也人には滑稽に思えた。
こんな凶悪ななりをして、偉い様の言う事はちゃんと聞くんだ。
紐伝いに、内藤の尖った顎をぼんやりと見上げる。
どこかで見た顔だと、ふいに思った。
内藤は、前に一度会った、と言っていたが、亜也人には全く記憶が無い。しかし、内藤を見ていると、確かに前にどこかで会ったような、前から知っているような妙な感覚を覚える。
記憶を辿っていると、内藤が視線に気付いて亜也人の方を見た。
心が弱っているのだろう。たすけて、と言いかけて、亜也人は、ハッと口を噤んだ。
内藤は、一瞬、瞳を大きく見開き、しかし次の瞬間、男の一人が亜也人のお尻の肉を掴んで大きな数珠状のオモチャを後孔に挿入すると、それと同時に亜也人から視線を外し男の手元の方に向けた。
「可愛い顔して美味そうに飲み込むねぇ。こんなにグチュグチュ音を立てて、なんと卑猥なお口だろう。ほら、聞いてごらん。グチュグチュグチュグチュ…」
亜也人はもはやされるがままだった。
無駄な抵抗をして痛い思いをするよりも、身を任せてしまったほうが楽だと身体が知っている。自分の意思とは関係なく強制的にイカされることにももう慣れていた。好きなだけイカせれば、そのうち飽きてやめるだろう。亜也人は身を任せてただその時を待った。
「おお、凄いな。こんなに柔らかいのにちゃんと射精しよる。おい内藤。この子、潮も吹けるんじゃないか?お前の自慢の真珠入りのイチモツでこの子に潮を吹かせてやったらどうだ」
「お戯れを…」
「なんだ嫌なのか?」
「いえ、私が相手をしたらおそらくものの数分で気絶してしまうでしょう。まだまだ時間はたっぷりあるのにそれでは勿体無いです」
「こいつめ、言ってくれるな」
染谷の下衆な笑いが耳に障った。
「しかし、オモチャはさすがに飽きた。そろそろ生で入れてるところが見たい。誰か…。そうだ、表に若いのがいたろう?」
「ああ、あれはうちのモンじゃありません」
「うちのモンじゃなくても構わんよ。俺は若い子同士のエネルギッシュなセックスが見たいんだ。あの若いのを呼んでこの子の相手をさせろ」
山下ーーと、内藤の声が響いた。
瞬間、亜也人の意識が覚醒した。
山下!? 山下さんのことか!? 山下さんに相手を…。
「いや!!」
亜也人は、咄嗟に、手を伸ばして内藤の腕を掴んだ。
「いやです!! やめて下さい! 山下さんは先輩なんです!!」
内藤は何も答えなかった。
ただ、死んだように押し黙り、暗く淀んだ目を亜也人に向けた。
「いやだ! いやです! お願い!いやっ!」
亜也人の叫びと重なるように、部屋の扉がキィッと開いた。
長いキスの後、亜也人の頬を両手で包みながら、良二が嬉しそうに瞳を輝かせた。
亜也人と良二が休憩場所に使っていた空き教室は、二人がいない間も暗黙の了解で立ち入り禁止になっていたようで、最後に良二と過ごした時のまま残っていた。
亜也人にとってもともと学校は、ただ良二の側にいたくて追いかけて来た場所であり、良二と一緒に過ごす以外何の目的も無かった。良二の家に転がり込んでからはいつも一緒にいられるのだから、そもそも、もう来る必要が無い。
しかし今は、この場所がある事がありがたかった。ここが無ければ、ひょっとしたらもう良二とは会えなかったかも知れないと思うと、埃の被った机も干からびたジュースの飲みこぼしも何もかもが愛おしかった。時が止まっていたかのような空間に二人並んでいると、穏やかだったあの頃に戻ったような気がした。
「あと、飯も作れるようになったんだ。飯の支度とか掃除とか洗濯とか色々やらされてるから嫌でも覚えちまって…」
「大変なんだね」
「まぁな。でも下っ端だからしょうがねぇよ。お前は? お前は何してるんだ?」
「俺は…」
頭に浮かんだものを亜也人は慌てて搔き消した。
言われた瞬間、松岡の顔が真っ先に浮かんだ。
松岡の、厚く逞しい胸板と凛と張った筋肉質の腕、頭の横に両手を突いて見下ろす時の、何かを訴えるように切なく細めた目や、熱い吐息を吐きかける唇。亜也人を執拗に求める時の松岡がたちまち脳裏に浮かび上がり、亜也人の意識を松岡とのセックスの最中に引き戻した。
その生々しさ。
さっきまでの穏やかな気分が一転、ぞわぞわとした胸騒ぎに変わる。
身体に火が点く。肌を合わせた時の熱と快楽が瞬時に蘇り、鳥肌を立てながら背筋を駆け上がる。
俺が何をしているか。
俺は、良二以外の男とセックスをしている。良二が一人で頑張っている時に。
自分がとんでもない事をしている事に今更ながら気付かされる。
良二はどこまで知っているのだろう。松岡に囲われているのだからセックスしている事は知っている筈だ。しかし、あんなにしつこくされている事を知っているだろうか。一体どうすれば良い。無理矢理なのだと言い訳すべきなのか。本当は嫌なのだと泣いて訴えるべきなのか。
身体が震え、亜也人は、良二の顔をまともに見ることが出来なかった。
察したのか、良二は、「ごめん、変なこと聞いたな」と、寂しそうに亜也人の頬を撫でた。
「俺のせいだよな。俺が堪え性が無いばっかりに…お前にばっかり我慢させて…。…ああ、チクショウ! 俺は、ほんっとダメだ!」
「良二…?」
「俺、ちゃんと解ってるんだ。あんな事しちゃいけない、ってちゃんと解ってる…。でもお前見てるとどうしようも無くなって…。本当、ごめんな、亜也人」
「良二、何言ってるの? どうしたの…」
良二は答えず、片手で亜也人の頬を包み、唇を寄せてふたたび口付けた。舌と言わず唇ごと口の中を荒々しく舐め回し、痛いぐらいに舌を吸う。息も出来ないほどの激しいキスに亜也人の意識が遠くなる。逃れようにも、耳の横をがっしりと手で押さえられ、顔を動かす事も出来なかった。
「りょう…じ、苦し…」
「俺、本当、ダメだな…。我慢しなきゃ、って解ってるのに、全然…。クソッ。解ってんだよ。でもダメなんだ…。亜也人…亜也人…」
片方の手を亜也人の解禁シャツの裾から脇腹へ差し込み、胸元を手のひらで大きく撫で回す。性急な愛撫に背中が反り返る。なんという力だろう。荒々しい手の動きに、皮膚を千切り取られてしまいそうな感覚に襲われる。抱き締められた腕が折れそうに痛い。
怖い。
亜也人は咄嗟に思い、そう思った自分にまた戸惑った。
「良二…待って…」
「待てない…」
「良二!」
「なんだ、嫌なのか?」
亜也人は慌てて首を振った。
「じゃあなんだ? やっぱ俺のこと怒ってんのか?俺のせいで、松岡、ってヤツのとこに行かなきゃならなくなったから、そんで、お前、怒ってんのか?」
「違うっ!違うよっ!ただ…」
セックスするのが怖い、とはとても言えなかった。
「ただ、何だ! 何でそんな顔するんだ!俺が怖いのか?」
「そんなわけない!」
「だったらなんでそんなに怯える。頼むよ…怖がらないでくれ。お前に怖がられたら俺…」
「怖がってなんか無いよ。怖がるわけないじゃんか!」
まるで、自分自身に言い聞かせているようだった。
怖いわけない、怖がる理由がない。不安を掻き消すように、亜也人は良二の胸元にすがりついた。
「信じてよ…。良二が好き…。良二が好きなんだ…」
「泣くなよ。俺も好きだ。好きだよ、亜也人…」
良二が、尖った表情を緩め、亜也人の瞳をじっと見る。苦しそうな顔だった。自分が苦しめているのだ、と思った。自分が、良二が嫌がることしているから。自分が、大好きな良二を苦しめ悩ませている。
久しぶりに会ったのに。
「良二、ごめんね。良二は何も悪くない。俺が悪いんだ…。ねぇ、キスして。もっともっと抱き締めて」
良二は、苦しそうな顔を更に泣き出しそうに歪めて亜也人を見、ゆっくりと顔を近づけた。
「俺も好きだよ、亜也人…。俺、絶対、もうお前に酷いことしねぇ。もし俺が酷いことしそうになったら俺を止めてくれ」
チュッ、と触れる程度に唇を吸い、一旦、亜也人から顔を離す。それから、ふたたび激しいキス。
大丈夫。俺は良二が好き。良二だけが好き。
亜也人は良二の腕の中でギュッと目を閉じた。それが合図のように、良二が亜也人の背中を机の上に押し付け、重なった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その夜、松岡は亜也人を最後まで求めては来なかった。
マンションに連れて来られて三カ月近くが経とうとしていたが、松岡が亜也人の身体を求めなかったのはその夜が初めてだった。
松岡は、亜也人と良二が会った事も知っていた。
積川と会ったんだろ、と詰め寄られた時の松岡の顔が、未だに、亜也人の脳裏にチラついた。
冗談じゃない、と思った。
どうして松岡にあんな顔をされなければならないのか。誰のせいでこんな事になったと思っているのか。
囲われの身としての務めはちゃんと果たしている。これ以上何を求めるのか。もう何も求めないで欲しい。優しさなんかいらない。慰めも、憐れみもいらない。
お願いだからそっとしておいて欲しい。それが出来ないなら、いっそ、思い切り痛めつけて欲しい。
それなのに、翌日、松岡はひどく優しく亜也人を抱いた。
まるで、良二の付けた傷を癒すように、亜也人の反応を見ながら、亜也人の身体を、始終、優しく丁寧に扱った。
堪らなかった。
余計な事をするな、と抵抗したが、言葉はすべて聞き流され、抗う手すらも優しく払われた。
松岡が何を考えているのか解らない。
やりたい事があるなら好きにすればいい。松岡の方が立場は上だ。こちらの気持ちなど聞く必要は無い。
それなのに、『お前が好き』とはどういう事だ。
学校へ行く事も、心の中では反対しているくせに甲斐甲斐しく送り迎えをする。行くな、と一言命令すれば良いものを、行かせておいて、後になってあんな顔をする。
そして、おそらく今日もまた松岡は、「積川と何を話した」と聞くのだろう。いや
ひょっとしたら何も聞かないかも知れない。何も聞かないくせに、また、あんな顔で見るのかも知れない。
もうやめて欲しかった。これ以上心を掻き乱されたく無い。もう、『好きだ』なんて言われたく無い。
亜也人は、松岡が校門に車を横付けすると直ぐに乱暴に後部座席のドアを開けた。
「三時半に来るから、ちゃんとここで待ってろよ」
返事をせずにドアを閉め、逃げるように校門をくぐる。どうせ、紀伊田に見張らせてるのだろう。周りを見ないよう真っ直ぐ玄関に向かうと、亜也人が使用している二年校舎の下駄箱の前に、見覚えのある顔が立っていた。
「山下さん…」
今年の三月に卒業した山下が学校に何の用だろう。不審に思いながら近付くと、山下は、よお、と片手を上げて笑った。
「久しぶり」
「あの…」
「あ、うん。積川、今日、来れないから、それ伝えに来た」
「来られない、って…」
「別に、何もないから心配すんな。あいつが部屋住みになったのは聞いたよな。あいつ、今、色々大変なんだ」
ひとしきり話した後、山下は、「それより、今からちょっといいか?」と漠然と切り出した。
「今から、って…」
「ああ、ここじゃなんだから別の場所で…」
山下は下駄箱の入り口を抜け、裏口に向かって歩き出した。
教職員の専用口として使用されている裏口は、教材の搬入業者が一日に数回来る程度で、殆ど人の出入りは無い。
その裏口を抜けた先の駐車場に、スモークを貼った黒塗りのワンボックスカーが停まっているのが見えた。
「山下さん、あれ…」
亜也人はふと足を止め、しかし、次の瞬間、いきなり脇腹に激痛が走りガクリと膝を折った。
「山下さ…んっ⁈」
今度は太ももに立て続けに二回、皮膚がバチンと弾かれるような音がして、亜也人は動けなくなった。
山下は、地べたに倒れ込む亜也人に、「ごめんな」と声を掛けると、亜也人の背中と膝下に腕を回して自分の胸の前に軽々と抱き上げた。
意識はハッキリしていたが、身体が痺れて動けなかった。抵抗できないまま、亜也人は駐車場に停まっていたワンボックスカーの中に押し込まれた。
荷台に下ろされ、俯せになったところを、見知らぬ男に手首を縛られ、髪を掴まれて顔を上げさせられた。
途端に、鋭い視線が亜也人の瞳を貫き、亜也人は凍りついた。
こんなに恐ろしい目を見るのは初めてだった。良二を見た時に感じた恐ろしさとはまた違う、鋭く尖った、それでいてじっとりと貼り付くような、薄気味の悪さがその目にはあった。
身動き出来ない亜也人をよそに、その目は、亜也人を抑えつけるように見下ろした。
「ご苦労だったな、山下」
後ろで山下が、「これっきりで勘弁して下さい、内藤さん」と呟いた。
内藤。
亜也人は、思わず男の顔を二度見した。
この人が、内藤。良二がお世話になっている…。でも一体何故。
「まぁ、そんなに怖がるな」
内藤は、亜也人の前に身を屈め、顎を掴んで亜也人の顔を左右に向かせ、品定めするように見た。
「確かに、見た目は申し分無いな。前見た時より大人になって…綺麗になった」
「………?」
「覚えてないだろうよ。前に一度、お前を見てる。今にも死にそうな顔してたよなぁ、あの時は。それが、よくもまぁこんなふうに生き返ったもんだ。積川のお陰か?だとしたら、あいつも大したヤツだぜ」
笑った顔すら恐ろしかった。そもそも本当に笑っているのかさえ解らないような、恐ろしく表情の無い顔だ。骨と皮だけの尖った顔に、切れ長の鋭い目。細く吊り上がった神経質そうな眉が、冷たいイメージをより一層際立たせていた。
内藤は、顔を引攣らせて固まる亜也人を見て口許だけで笑うと、押さえ付けていた男たちに命令し、亜也人の身体を起こし向かい合わせに座らせた。
「お前を呼んだのは他でもない。お前の大切な良二のことだ」
「良二のこと…?」
「良二が今、大事な時だってのは知ってるな。あいつには俺の片腕になってもらおうと思ってる。あいつには素質がある。俺はそれを伸ばしてやりたい。お前だって、あいつが偉くなったら嬉しいだろ?」
「…………」
「わかんねぇか。とにかく、あいつは上に行ける奴だし、あいつもそれを望んでる」
そこでだ、と、内藤はふいに語気を強めて亜也人をまじまじと見た。
「お前、良二を助けてやってくれないか」
「助ける、って…」
「俺たちの世界は厳格な縦社会だ。…縦社会って知ってるか?上には絶対逆らえない、上の意見が絶対の世界だ。良二は今そこにいる。もちろん、兄貴分の命令は絶対だ。そして次に、金。上に取立ててもらうには金がいる。つまりこの二つをいかに上手く用立てるかでその後が決まるってわけだ。
そして、さっきも言ったが、俺は、良二には上を目指してもらいたい。そこでお前の力が必要なんだ」
「俺の力…?」
メガネの真ん中に指を添えてフレームを整えると、内藤は、改めて亜也人に視線を向けた。
「これはお前にしか頼めない。お前にしか出来ない事なんだ。俺の言いたい事、解るよな?」
自分がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。飲み込んだのに、何かがまだ喉の奥に引っかかっているようで亜也人は何度も唾を飲み込んだ。
「お前だって良二の役に立ちたいだろ?お前が松岡に囲われてることは知ってるよ。この前それで良二とモメたんだろ? 可哀想に、良二、凄くショック受けてたぞ。そりゃそうだよな。てめぇが大変な時に、てめぇの色が他の男といちゃついてるんだから」
「違う!」
「お前はそうでも良二はそうは思わねぇよ。だが、お前が良二の力になるっていうなら話は別だ。自分のためにここまでしてくれるお前を良二が許さないとでも思うか?お前は、良二に感謝されこそすれ、疎まれたり嫌われたりする事は絶対に無い。むしろ、今よりもっともっと大切にされる筈だ。いいか。大袈裟でも何でもなく、今、良二を助けてやれるのはお前だけなんだ」
「俺…だけ…」
「そうだ。お前だけが良二を助けられる。どうだ? 良二のために力を貸してやってくれないか?」
亜也人には断る理由が見つからなかった。内藤は亜也人の心を見透かしたように満足気に笑った。
その後、亜也人は再び荷台に俯せに寝かされた。念のため、と言われ足首を縛られて、目隠しをされると同時にワンボックスカーが走り出し、車が止まると二人の男に両脇を抱えられ、引きずられるように何処かへ連れられた。
高層ビルなのか、ずいぶん長い間エレベーターに乗せられ、フカフカの絨毯の上を歩かされた後、ようやく目隠しを外される。
ホテルにしてはシンプルすぎる部屋だった。モノトーンで統一された広い部屋の中央に大きなベッドが一つだけ。他に何も置かれていないだけに、ぽつんと置かれたベッドが一際大きく目を引いた。
「お前たちは外で待機してろ」
内藤は一番最後に入って来て部下に指示すると、亜也人の腕を引っ張り、部屋の奥へと歩き出した。
奥には更に細い通路が続き、トイレとバスルームが並んでいた。バスルームの前に来たところで、「準備しろ」と、いきなり中に突き飛ばされた。
「準備って…」
「一時間後にここへ男性が訪ねてくる。良二が世話になってる上部組織の偉い様だ。それまでにケツの中を綺麗にして準備万端整えろ」
「あの、俺…」
「なんだその顔は。お前に出来る事なんてこれしかねぇだろう。それとも何か?松岡とは出来て、良二が世話になってる人とは出来ないって言うのか?」
「そんな事は…」
「なら、さっさと準備しな。それとも俺に洗ってもらたいのか?」
亜也人は慌ててかぶりを振った。内藤は、イラついた様子で、「世話を焼かすな」と、バスルームの扉を閉めた。
仕方なく、亜也人は服を脱いで、シャワーのコックを捻った。
身体には良二に付けられた傷がまだ残っていた。
先日、亜也人は久しぶりに会った良二に脇腹を噛まれた。人に本気で噛まれたのは初めてだった。食いちぎられると思った。動物のような牙は無いが、人間も本気になれば人を噛み殺せるのだという事を、亜也人は、良二に噛まれながら思った。良二の付けた傷はそれぐらい痛かった。
しかし、そうさせたのは自分だ。自分が良二の嫌がることをするから良二が怒る。
もう二度と良二を怒らせたくなかった。自分は怒られても構わない。しかし、良二の気分を損ねるような事はしたくない。
誰よりも良二の力になりたかった。良二の力になり、良二の役に立ちたい。自分がどれほど良二を愛しているか、ちゃんと証明しなければいけないと思った。
だからこんなことぐらい平気だ。
亜也人はシャワーヘッドを握り、くまなく身体を洗った。身体の中も、お尻にシャワーを当て中にお湯を含ませ、丁寧に洗い流した。
「お前の対応次第で良二の心証が決まるんだ。くれぐれも粗相のないようにしろ」
一方的に弄ばれるだけなのに何が対応だ。思いながらも、言い返しもせず受け入れている自分が可笑しかった。
バスルームを出ると、内藤にバスローブを渡され、着替えてベッドの中で待つよう指示された。
亜也人は、シーツを頭の先まで被って気持ちを落ち着かせた。
ほどなくして、寝室の扉が開き、男が入って来た。
おかしい。
亜也人はすぐに異変に気付いた。
足音が二つ。いや、三つ。
しかし、気付いた時には遅かった。
いきなりシーツを剥ぎ取られ、亜也人は見知らぬ男に羽交い締めにされた。
後ろに一人、左右に一人づつ。三人の男に身体を押さえられたところで、開けっ放しになった扉からまた誰か入って来る。
和服姿の初老の男と、お付きらしきスーツの男。そして、最後に内藤が入って来た。
七十代前半、というところだろうか。シルバーグレーの頭髪に、浅黒い肌。横幅のわりに上背の無い体格。年相応の衰えはあるものの、ずっしりとした覇気のある雰囲気と眼光の鋭い瞳がカタギの人間ではない事を物語っている。皆が固唾を飲む中、初老の男は亜也人の前まで歩いて来ると、怯える亜也人の頬を撫で、ニタリ、と薄気味悪く笑った。
「こりゃあ、噂通りの美少年だ」
「染谷様のお眼鏡に適うと良いのですが」
「無粋な事を。これを気に入らないほうがどうかしてる」
金歯の目立つ口元をひん曲げて笑うと、染谷と呼ばれた男は、亜也人に、ぬっ、と顔を近付け、首を傾けて色んな角度から亜也人の顔を眺めた。
「本当に、むしゃぶりつきたくなるぐらい見栄えの良い子だねぇ。俺のムスコがまともなら直接ぶち込んでめちゃめちゃに泣かしてやるものを、身体の自由が効かんのがなんとも残念だ…」
ため息をつき、後ろに控えるお付きの男に目配せする。お付きの男が、手に持っていたアタッシュケースを素早くベッドの上の亜也人の足元に置き、蓋を開けて男の方へ向けた。
「これはまた凄いコレクションですねぇ」
「ああ。現役高校生と聞いただけで、脳が疼いて止まらなくてな。気付いたらこんなに選んでしまっていた。役立たずの年寄りの楽しみなんてこれくらいしかないからな。今日は、じっくり見せてもらうよ」
またあの顔だ、と亜也人は思った。今まで何度も目にしてきた、この、常軌を逸した、黒目の拡がった目。亜也人を痛めつける時、男たちは一様にこんな顔をする。この、興奮に支配され我を忘れた男たちを見ると、亜也人はたちまち動けなくなってしまう。自分が生贄になったような気がして足が竦む。男たちは、亜也人の竦んだ足元を見て更に目の奥を鈍く光らせる。初老の男もまた、亜也人の表情の変化を楽しむかのように、アタッシュケースを亜也人の方に向けるよう指示を出した。
見た瞬間、亜也人の背筋が凍りついた。
グロテスクなおもちゃが、アタッシュケースに溢れかえるほど詰め込まれている。
小指ほどのものから、身体が壊れてしまいそうなほど大きなもの、トゲのついたものや丸い玉が数珠繋ぎになった長いもの。黒い革の拘束具、何語か解らない文字の書かれたローション。多種多様なおもちゃや責め道具が異様な存在感を纏って亜也人の視界を埋め尽くしている。
こんなものを使われるのかと思うと身の毛がよだつ。しかし恐ろしさを感じれば感じるほど亜也人の身体は動かなくなった。
「そうそう。この、本気で怖がる顔が堪らないんだよ。ポルノ男優みたいなアンアン言うやつは好きじゃなくてね。こういう、絶望感たっぷりなのが良いんだ…」
恍惚とした表情で亜也人を見つめると、染谷は、内藤がベッドの足元に用意した背もたれ付きの椅子に移動して腰掛け、「はじめてくれ」と声を掛けた。
途端に、両隣りの男が亜也人の足首を左右に大きく開き、バスローブの両肩を腕の真ん中までずり下げる。下には何も身に付けるなという言い付けを守っていた亜也人は、脚を広げられた事でいやがおうにも染谷の目の前に自分のペニスを晒す格好になってしまった。
「や…だっ…」
閉じようとしたところを足首を掴まれMの字型に開かれ、背後の男に膝裏を抱えられて前へ突き出された。両サイドの男がアタッシュケースから革のベルトを取り出し左右の足首に装着し、それを終えると今度は両手首に手錠をかけてそれぞれの足首に縛り付けた。こうして亜也人は、手首と足首を固定され、脚を大きく開いたまま身動き出来ない状態にさせられた。ペニスは無防備にも染谷の目の前に晒されている。
はぁはぁという鼻息が、ペニスの先端にかかかる。ザラザラとした手が陰茎を摘み、からかうように左右に揺らした。まるで猫が獲物をいたぶるかのようだった。いや、自分は獲物なのだ。
「これはまた綺麗なおチンポだ。ほんのり赤らんで小さくて可愛らしい。玉も小ぶりでコリっとしている。これが勃ったらどうなるのか早くみてみたい」
言葉を合図に、背後の男が首筋にむしゃぶりつき、両サイドの男が左右それぞれの乳首に飛びついた。両方の乳首を同時に責められ、亜也人がビクッと身体を震わせる。乳首を摘み、こすり、撫で、根元を甘噛みして乳輪をキツく吸い、乳首の先端を舌の先で舐め、転がす。両方の乳首を、左右の男にそれぞれやりたいように弄ばれ、空いた方の手でペニスを握られ扱き上げられる。誰に何をされているのかも、自分が今どんな体勢でどこを責められているのかも解らない。ただ、予測不能の快楽に頭が混乱する。乳首の奥がツンとして腰の奥が熱く疼く。身体全体が身の置き所がないほど疼き熱く火照る。たまらず身体をよじらせると、真正面に座る染谷が、「待て」と声を上げた。
「その痣はどうしたんだ」
身体をよじった時に、ウエストに溜まっていたバスローブが外れたらしい。隠れていた噛み痕を見付け、染谷は興奮しているようだった。
「それは何だ。誰に付けられた。もっとよく見せてくれ」
傷痕のある左手側の男が足首に繋がれた手首のベルトを外し、亜也人の腕を高く上げる。良二が噛んだ痕は、ウエストの一番くびれたところから背中側に、赤紫色の楕円形になって拡がっている。真ん中は薄く紅を引いたような赤で、外へ行くにしたがいだんだんと青黒さが混じり紫味の濃い赤になる。まるで腐り落ちる寸前の果実さながらの毒々しさだ。ただの打撲でない事は、綺麗に並ぶ、赤い傷になった歯型からも一目瞭然だった。
「おお、おお。この綺麗な白い肌にこんな痕を付けるとは、何とバチ当たりな奴だ。単に残虐な奴なのか、恐ろしく独占欲が強いのか…。どちらにせよ、まともな神経ではないな。可哀想に、私が撫でてあげよう…」
しかし、染谷の手が傷痕に触れることは無かった。
触るな。
指先が近付く気配を感じた瞬間、亜也人は反射的に染谷の手を蹴り上げていた。
同時に、頬に衝撃が走り、目頭に火花が散った。
内藤に横っ面を叩かれたのだ。内藤は亜也人を引っ叩くと、片手で亜也人の腕を捻り上げ、もう片方の手で脇腹の傷痕を乱暴に掴んだ。
「貴様、舐めた真似してんじゃねぇぞ」
あまりの痛さに亜也人が「ギャッ」と声を上げる。それすらも気に入らないと言いたげに、内藤は、悲鳴を上げる亜也人を睨み付け、掴み上げた手首を再び足首に縛り付けると、アタッシュケースからベルトをもう二本取り出しMの字型に開いた脚の太ももと脛を、左右それぞれ離れないよう一緒に縛り付けた。こうして亜也人は脚の自由を完全に奪われた。
「大変失礼を致しました、染谷様。あとは、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
染谷は、「私は全然構わないよ」と椅子に座りなおした。
太ももと脛を固定されたせいで、亜也人は、さっきよりも更にペニスを突き出す格好になった。染谷の好色な視線が絡み付いているのが解る。
恥ずかしさと恐ろしさで、頭がどうにかなりそうだった。
下唇を噛んで顔を背けると、「顔が見たい」と言われ、紐付きの首輪を付けられ無理に前を向かされた。
「そうそう、お前の綺麗な顔が歪むところが見たいんだ。ここでじっくり見せてもらうから、いい顔で泣いておくれ」
男の一人がアタッシュケースの中身をベッドの上にぶちまけ、その中からローションを取り出し、亜也人の胸元にまんべんなく垂らす。もう一人の男がそれを手のひらで身体一面に伸ばすと、後ろの男が、脇腹から腕を前に回して股間をもみしだく。まるで、極上の獲物にたかるハイエナのように、男たちが再び亜也人の身体に取り付き、ペチャペチャと音を立てながら思うがままに弄び舐めしゃぶる、その様子を染谷が瞳をいやらしくギラつかせながら眺めている。
顔を背けると、途端に首輪の紐を引かれ前を向けと指示された。ただ、引っ張られるだけなら無視も出来るが、紐を持っているのは内藤だ。従わなければ何をされるか解らないという恐怖が、亜也人の抵抗心を奪っていた。
「少し硬くなってきたねぇ。真っ直ぐで素直な良い形だ。長すぎず短すぎず、先っぽも丸くて綺麗だ。次はどうして欲しい?舐めてもらいたいか? おいお前、この子のペニスを舐めてやりなさい」
話を振られたお付きの男が、「私が、ですか?」と目を丸める。しかし次の瞬間、「他に誰がいるんだ」と、低いドスの効いた声が響き、お付きの男の顔色がスッと変わった。
気の良いお年寄りのフリをしていても、やはり極道なのだ。スーツ姿の男は、すぐさま亜也人の前に移動し、慣れない手つきで亜也人のペニスを握った。
「男のモノをしゃぶるのは初めてか? なら、私が教えやるから言う通りにしろ」
染谷の指示で、亜也人を抱えた男たちが、亜也人が舐められている様子が見えるような角度に体勢を変える。それから直ぐに、「袋の下から陰茎を上に向かって舐め上げろ」と染谷が指示を出し、お付きの男が言われた通りに亜也人の陰茎に舌を這わせる。
「いやぁっ! やだっ!」
ぎこちない触れ方が逆に羞恥心を増幅させる。見世物にされているという悔しさが、恥ずかしさと合わさって絶望感を揺り起こす。しかし、亜也人の涙を堪える姿は染谷を喜ばせただけだった。
「そうだ、そうだ。次はカリ首の溝を舌の先でぐるっと一周…そうそう、上手いぞ。見ろ、ずいぶん硬くなってきた。その調子で先っぽを上から吸い上げろ。もっとジュルジュル音を立てて吸うんだ。そろそろカウパーが出てきたんじゃないか? 一度口を離してペニスの先をこっちに向けろ」
染谷の忠実な僕である事を態度で証明するかのように、お付きの男が言われた通りテキパキと亜也人の下腹部を染谷の方へ向ける。染谷は椅子から身を乗り出して亜也人のペニスの先端を嬉々とした顔で眺めると、背後から亜也人を抱きかかえいる男に、もっとお尻を持ち上げて、割れ目を見せるよう指示を出した。
「おやおや、こっちもびっくりするほど可愛いじゃないか。この子は処女じゃないんだろ?なのに、この初々しい色の具合はどうだ。ほら、もっと拡げて中を見せておくれ」
「あっ、いやぁっ!」
背後の男にお尻の肉を掴まれ左右に拡げられ、亜也人はついに悲鳴を上げた。
辱めを受けるだけでなく、男たちに囲まれ、好奇の目に晒される。突然参加させられたお付きの男や内藤にまで見られている事が悔しくて恥ずかしくて涙が止まらなかった。身体の痛みには耐えられても屈辱に耐える事は出来なかった。特に、首輪の紐を持って見下ろしている内藤の忌々しい物でも見るような目。その、冷笑を含んだ親しみのない目が亜也人を絶望の淵に立たせた。
「ほら、力を入れてヒクヒクさせてみろ」
「も…ゆるして…ださい…」
「ん? 何を許して欲しいんだ?何をどう許して欲しいのかちゃんと言ってみろ」
「……ないで」
「何だ? 聞こえんぞ?」
「広げないで…」
「どこをだ? 言わなきゃわからんぞ」
さらに、後孔をぐぐっと拡げられ、亜也人が辛そうに顔を顰める。
「お尻を…お尻の穴を…」
絞り出すように答えると、染谷は、「おお、おお」と大袈裟に喜び鼻息を荒くした。
「そうか、そうか、広げられたくないのか。なら、塞いでやらんとな」
後孔に硬く冷たいものが押し当てられたと思ったら、いきなりズブズブと中に入って来た。
オモチャだ。身体が拒絶しているのだろう。感じたことの無い違和感が襲う。しかしそれも束の間、突然、捻じ込まれたオモチャがブィンブィンとうねり出し、亜也人は、ああっ、と声を上げて身をよじらせた。
「ははは。上手い具合に当たるだろう? どうだ感じるか?」
「いやっ、いやぁぁっ、抜いて! 抜いてくださ…あヒッ」
肉壁をほじくり返すように、捻じ込まれたオモチャが、亜也人の窮屈な身体の中をくねくねと動き回る。違和感が徐々に快感に変わっていく。心は拒絶するのに身体が受け入れてしまっているのが情けなかった。
「ほお。後ろはすっかり開発済みか。この子は、後ろの方が感じるみたいだねぇ。もっと刺激の強いのが欲しいんじゃないのか?おい!」
引き抜かれたと思ったら、すぐにまた鋭い衝撃に襲われる。メリメリと、身体を割られるような痛みと内臓を押し上げられる圧迫感。身体の中心が焼けるように熱く、苦しくて息が途切れ途切れになる。
それでいて、鳥肌が立つような快感が背筋をザァッと駆け上がって行くのが解った。
「あああんっ、あっ、んっ、も、だめっ、あっ。やめ…てっ!」
お腹の奥が熱を持ってジンジンと脈を打ち、頭がぼぉっと甘く痺れて上手く働かなかった。自分の声とは思えない、何処から出ているか解らないような声が、自分の意思に反して止め処なく漏れ響いた。
「や、あっ、あん、や、も、やめてくださ、あぃっ、や、だめっ…」
「何がだめだ。ん? 気持ちよくておかしくなりそうなのか?」
「んっ、ちがっ…あぁん!」
「ほらお前たち、もっともっとこの子を泣かせてやれ。そうだ、中だけでイかせたら褒美をやろう。道具は好きに選んで良い」
「いやっ!やめて下さいっ! あ、いやっ!やぁっ! 」
褒美と聞いて色めき立った男たちが、めいめいにベッドの上に散らばるオモチャを手に取り、ふたたび亜也人の周りに群がる。
亜也人は、「色んな体位が見たい」という染谷の要望で、脚の拘束を解かれ、しなやかな脚をベッドに投げ出していた。両手首は万歳をした状態でベッドに縛り付けられ、首輪は嵌められたまま、内藤が紐を持って傍に立っている。見張りなど立てなくとも、亜也人に抵抗する気力が残っていない事は、泣き疲れて腫れ上がった目元を見れば一目瞭然だった。それなのに、ベッドの横でまんじりともせず見張る内藤が、亜也人には滑稽に思えた。
こんな凶悪ななりをして、偉い様の言う事はちゃんと聞くんだ。
紐伝いに、内藤の尖った顎をぼんやりと見上げる。
どこかで見た顔だと、ふいに思った。
内藤は、前に一度会った、と言っていたが、亜也人には全く記憶が無い。しかし、内藤を見ていると、確かに前にどこかで会ったような、前から知っているような妙な感覚を覚える。
記憶を辿っていると、内藤が視線に気付いて亜也人の方を見た。
心が弱っているのだろう。たすけて、と言いかけて、亜也人は、ハッと口を噤んだ。
内藤は、一瞬、瞳を大きく見開き、しかし次の瞬間、男の一人が亜也人のお尻の肉を掴んで大きな数珠状のオモチャを後孔に挿入すると、それと同時に亜也人から視線を外し男の手元の方に向けた。
「可愛い顔して美味そうに飲み込むねぇ。こんなにグチュグチュ音を立てて、なんと卑猥なお口だろう。ほら、聞いてごらん。グチュグチュグチュグチュ…」
亜也人はもはやされるがままだった。
無駄な抵抗をして痛い思いをするよりも、身を任せてしまったほうが楽だと身体が知っている。自分の意思とは関係なく強制的にイカされることにももう慣れていた。好きなだけイカせれば、そのうち飽きてやめるだろう。亜也人は身を任せてただその時を待った。
「おお、凄いな。こんなに柔らかいのにちゃんと射精しよる。おい内藤。この子、潮も吹けるんじゃないか?お前の自慢の真珠入りのイチモツでこの子に潮を吹かせてやったらどうだ」
「お戯れを…」
「なんだ嫌なのか?」
「いえ、私が相手をしたらおそらくものの数分で気絶してしまうでしょう。まだまだ時間はたっぷりあるのにそれでは勿体無いです」
「こいつめ、言ってくれるな」
染谷の下衆な笑いが耳に障った。
「しかし、オモチャはさすがに飽きた。そろそろ生で入れてるところが見たい。誰か…。そうだ、表に若いのがいたろう?」
「ああ、あれはうちのモンじゃありません」
「うちのモンじゃなくても構わんよ。俺は若い子同士のエネルギッシュなセックスが見たいんだ。あの若いのを呼んでこの子の相手をさせろ」
山下ーーと、内藤の声が響いた。
瞬間、亜也人の意識が覚醒した。
山下!? 山下さんのことか!? 山下さんに相手を…。
「いや!!」
亜也人は、咄嗟に、手を伸ばして内藤の腕を掴んだ。
「いやです!! やめて下さい! 山下さんは先輩なんです!!」
内藤は何も答えなかった。
ただ、死んだように押し黙り、暗く淀んだ目を亜也人に向けた。
「いやだ! いやです! お願い!いやっ!」
亜也人の叫びと重なるように、部屋の扉がキィッと開いた。
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