セラフィムの羽

瀬楽英津子

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「お願い、俺も連れてって!」

「ダメなもんは、ダメだ」

「頼むよ。何でもするから。絶対、役に立つからっ!」

 鋭く光る目が、「いい加減にしろ」と、低く凄んだ。

「つべこべ言ってねぇでさっさと後ろを向いてケツを突き出せ」

 言われ、宇治原駿うじはらしゅんは、ベッドに仰向けに突き飛ばされた身体をおずおずと反転させた。
 容赦の無い愛撫に身体中の血が熱く騒ぐ。
 両手をついて四つん這いになると、後ろからお尻の肉を割り裂くように開かれ、硬く反り勃つ男根を乱暴に捻じ込まれた。

「あああぅっ、待って! いきなり奥まではっ!!」

 抵抗したところで聞き入れられる筈もなく、後ろから羽交い締めにされて背中に覆い被さられ、猛り切ったモノを根元まで押し込まれる。
 これ以上入らないところまでグリグリと押し込まれ、そこから、グッ、と勢い良く突き上げられた途端、抑えていた射精感が限界を迎え、強烈な快感とともに熱い精液がペニスの先から迸った。

「ひと突きでイッちまうとは、たいした淫乱ヤロウだな……」

「だって良二が……」

「名前は言うんじゃねぇ。やってる時に名前を呼んでいいのはアイツだけだ……」
 
 ビクビクと引き攣る肉壁をこすり上げながら、敏感になった奥の部分を、身体が前方に放り出されてしまいそうな勢いで突きまくる。
 名前を呼ぶことすら許されない、ただ性欲 を満たすためだけの乱暴なセックスに、駿しゅんの、肉付きの薄い細い身体が、いたぶられる獲物のように力なく揺さぶられる。
 繰り返し押し寄せる快楽に、膝がガクガクになって崩れ落ちそうになるのを腰を抱えられて何度も突き上げられ、開きっぱなしの口の端から、吐息と一緒に唾液が伝い漏れた。

「あああっ、いいっ、凄くっ、きもち……いっ、あっ、あ」

 愛おしい男に貫かれながら、宇治原駿は容赦無く襲う絶頂感に眉を顰めた。
 
 石破組のフロント企業であるモデルプロダクション、N企画が、一年前神戸三宮にオープンさせたメンズ専用デートクラブ〈シエスタ〉の売れっ子コールボーイ、宇治原駿うじはらしゅん
 若干十九歳にして、入店以来、月間指名本数連続ナンバーワン記録を更新し続けるこの宇治原駿が、積川良二せきかわりょうじと出会ったのは、駿しゅんが、ここ、〈シエスタ〉のオープニングメンバーとして働き始めてすぐの事だった。
 月に一度、東京から視察に訪れる社長に呼び出されて事務所へ行くと、社長の内藤の他に背の高い男が来客用のソファーに座って待っていた。それが積川良二だった。
 社長の内藤は、入り口で棒立ちになる駿を足先から頭の先まで舐めるように見上げ、隣りに座る積川良二をチラと見た。

『どうだ。お前の好きなタイプだろ?』
 
 内藤の言葉に、積川良二は、『全然ちげーし』と不快感を露わにした。

『こんなもんで俺を誤魔化そおっての?』

 その言葉の意味を知ったのは、良二の相手をするようになって暫く経った頃だった。
 いつものように後背位で貫かれている最中、ふいに、良二が、耳元で絞り出すように呟いた。

『アヤト……』

 泣いているような、痛みを堪えるような声だった。
 聞いた瞬間、駿は、良二に忘れられない相手がいることを悟った。
 良二は、その、『アヤト』という名前の男に心を捕らえられているのだ。そう考えれば、後背位でしか挿入しないのも、セックスの最中、名前を呼ばせないのも合点がいった。
 自分は身代わりなのだ、と思った。
 身代わりにされること自体は珍しくない。そもそも、こういう店を利用する客の殆どは自分の心の中に別の誰かを住まわせている。それなのに、なぜかやけに胸が騒いだ。
 良二のことは、社長に可愛がられているという事と、自分と一つしか歳が違わないくせに、妙に大人びた、まるで心の奥に深い闇をいくつも抱えたような男だという印象しか無かった。
 優しさのカケラもなく、当時から売れっ子コールボーイとしてこの界隈では名の知れた駿に対しても、鼻の下を伸ばすどころか気にもかけず、見かけ通りの冷たく乱暴なセックスをした。
 それなのに何故こんなにも胸が騒ぐのか。
 その理由を、駿は、他の誰でもない、アヤト本人から気付かされることになった。
 きっかけは、駿の口から知らずに漏れていた『アヤト』という言葉。その言葉に、偶然隣に居合わせた仲間のコールボーイが反応した。

『アヤト、って、あの、寺田亜也人てらだあやと?』

 仲間は、『あくまで噂』と前置きした上で、寺田亜也人のことを、N企画に所属するモデルでありながら、一方で、海外セレブや高級官僚など、各界の著名人から絶大な人気を誇るVIP専用の高級コールボーイであるらしいと興奮気味に話した。

『商材写真見たことあんねんけど、ごっつい美形でほんまビビったわ』

 容姿は他の誰とも比べ物にならないが、そう言えば、パッと見の雰囲気は少しお前に似てる、と仲間は言った。

『色白で黒髪。あと、体型とかな……』

 言うなり、『そうそう』と、スマホの画像ホルダを開き、一枚の画像を表示させて駿の前にかざす。
 瞬間、吸い込まれそうな深い漆黒の瞳と目が合い、駿は激しく動揺した。

 ーーー敵うわけがない。

 咄嗟に思ったことこそが本音だった。
 色白、黒髪、骨格の小さな薄い身体、長い首、しなやかに伸びる細い手脚。身体のパーツやバランスは確かに自分と良く似ている。しかし、黒目の澄んだ大きな瞳や、キュッと結ばれたほんのりと紅く色付く唇、ひっそりと佇みながらも意識の奥に深く焼き付けられる凛とした美しさは、見る者を魅了するだけでなく、人を引き付ける強力な何かを持っていた。
 人を惑わす“魔力”というものが本当に存在するのなら、亜也人の持つ特別な雰囲気はまさにそれだと駿は思った。
 その魔力を目の当たりにして、駿は、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えると同時に、怒りとも失望とも取れない、どうしようもない悔しさを覚えていた。
 何をどう足掻いても敵わない自分が惨めだった。
 こんな男の身代わりなど誰に務まるというのか。
 駿は、自分がただ亜也人と背格好が似ているというだけで、身体だけを身代わりにさせられているような気がして堪らなく悔しくなった。
 ならば、良二の相手などもう金輪際しなければ良いものを、不思議とそういう気持ちにはなれなかった。それよりも、良二の心に住みつく寺田亜也人を憎らしく思った。
 ろくに知りもしない、ただ画像を見ただけの相手をここまで憎む自分に、駿は、自分が良二のことをただの客としてでは無く一人の男として意識し惹かれていることに初めて気が付いた。
 出会って間もない、まだ何者なのかも良く解らない相手にこれほどまでに心を乱す自分が信じられない。それでも気付いてしまった恋心は駿の胸を切なく駆り立てた。
 良二の心の中に自分が居ないことが辛い。
 良二の心を占領している寺田亜也人が憎らしく、亜也人を良二の中から追い出してやりたいという気持ちがムクムクと膨れ上がった。
 月に一、二度、プレイルームで行為に及ぶだけの少なすぎる接点も、駿の良二に対する思いに拍車をかけた。
 良二の一番になりたい。
 それから約一年、駿は、良二への思いだけを胸に、来店時はもちろん、プライベートな連絡先も交換し、店の外でも会うようになっていた。
 良二は、相変わらず後背位でしか挿入せず、名前を呼ぶことも禁止したが、良二が自分を求めてくれるなら、駿は、ただの性欲処理でも構わないと思った。
 一番近くにいれば、いつか一番になれる。
 駿は、自分にそう言い聞かせて良二に抱かれた。
 だからこそ、良二が突然東京へ行くと言い出したことは、駿にとって、自分の信念を揺るがす一大事だった。
 
「お願いッ……お、俺もっ……一緒にッ、行きた……あんっ……ぅふんっ……」

 獣のように貫かれながら、駿は、無言で後ろを犯す良二に訴えた。

「俺、役に立つからぁ……ッ……あぁッ……おっ、俺、りょ……じの……役に……」

 四つん這いの肘を折ってシーツに崩れると、良二が、羽交い締めにした腕を解き、腰を掴んでお尻を持ち上げる。
 あっ、と思ったのも束の間、ぐっ、と、腰を引き寄せられ、いきなりガツンと奥を突かれた。

「あっ、やぁっ!」
 
「聞き分けのないこと言ってねぇで、しっかりケツ上げとけ」

「はぅっ! あっ、あ……りょ……じッ……あ、イヤッ……」

 奥の深い部分を突かれ、ビリビリとした快感が下腹部に走る。
 答えなどもらえないことは解っていた。
 何をどう言おうと良二にとってはただの戯言。
 良二は言葉など求めていない。良二が求めているのは、亜也人という男に良く似た白くて細い身体だ。
 面影を重ねられることに虚しさを感じながらも、良二に身体の奥深くを掻き回されると、女のようによがり狂ってしまう自分が情けなかった。
 自分は所詮この身体でしか良二を繋ぎ止められない。
 そんな駿の気持ちを知ってか知らずか、良二は、シーツに顔を突っ伏して悶える駿の腰をガッツリと鷲掴みにし、欲望のまま腰を突き上げた。
 
「んあぁ、ぁんぁあっ、あんっ、だめッ、あっ」

「もうちょっと辛抱しろ」

「いやッ、漏れるッ! 漏れちゃうッ!」

 お尻の奥を突かれすぎて、射精感なのか尿意なのか解らない痺れがジンジンと下腹部を熱く疼かせる。
 
「はっ、やめっ、も、ダメっ! もうっ……ホントにっ……」

 おかしくなる。
 思った瞬間、いきなり射精し始め、精液にしては大量の熱い液体がビュウビュウとシーツに飛んだ。

「はひっ……はあっ、ぃやぁッ……や……」

「スゲェなお前、こんだけ出してもまだビンビンじゃん……」

「やぁあぁッ! そんなしたら、また……あッやぁッ! やあぁあぁ!」

 ひと突きごとに意識が飛びそうな快感が走り、熱いものがペニスの先から迸る。

「やっ……とまんな……ィッ……んぁッ、またぁッ」

「とまんなくて良いからいっぱい出せよ」 

「やらっ……も……やめれ……んぁっ……」

 どんな声を上げているのかも解らない、自分の身体の重みも感じられないほど意識が朦朧としているにも関わらず、ペニスを突き抜ける、切ないような身悶えるような快感だけはハッキリと感じられる。
 精液を吐き出しても一向にやまない絶頂感に、ペニスがビクビクと脈を打ち、お尻の奥がゾクゾク震えながら痙攣する。
 貫かれたまま膝を折られ、うつ伏せにされた状態で、背中にのし掛かられたのが最後の記憶だった。
 目を覚ますと、駿は、良二とセックスをしていたラブホテルのベッドの上で内藤に見下ろされていた。

「社長……」

 駿は、気を失った時の状態のままベッドに放置されていたらしかった。
 内藤は、駿の枕元に立ち、まだ起き抜けでぼんやりとしている駿を、冷笑混じりの笑みを浮かべて見下ろした。

「若造一人落とせないとは、ナンバーワンが聞いて呆れるな……」

 ひどく落ち着いた、それでいて挑戦的で冷酷な目が駿を見据える。咄嗟に起き上がると、膝の上にバスローブを投げつけられ、駿は、おずおずと袖に腕を通した。
 おぼつかない手付きでバスローブを羽織り、内藤に向き直るようにベッドの上に正座する。恐る恐る見上げると、内藤は、お前の考えていることなどお見通しとばかり、身体を屈めて怯える駿の前髪を指先で弄んだ。
 
「安心しろ。店の外で積川と会ってたことは大目に見てやる……。それより、お前、一年もアイツの相手をしてるくせに、まだモノに出来ないのか?」

「社長……あの、俺……」

「まぁ、そうビビるな。誰も規約違反で懲罰だなんて言ってねぇだろ?」

 親しみの無い鋭い目に、駿は、息を飲んだまま身体を硬直させた。
 社長の内藤が石破組の四代目であることは、業界内では言わずと知れた有名な話だった。
 駿も、もちろん納得の上で入店した。
 フロント企業だと解っていて入店を決めたのは給料と待遇の良さがずば抜けていたからだ。
 しかし、内藤と間近で対峙してみて、駿は、裏社会の人間と接点を持ってしまったことを初めて後悔した。内藤の表情からは、見る者を一瞬で震え上がらせるような、無慈悲なまでの残忍さが滲み出ていた。
 内藤は、恐ろしさのあまり目を逸らすことも出来ない駿をからかうように見詰め、口角の下がった薄い唇を片方だけ吊り上げた。

「それはそうと。お前、寺田亜也人のことを嗅ぎ回ってるらしいな。そんなにアイツが気になるか?」

「え……」

「気になるなら連れてやろうか? 会ってみたいんだろ? 寺田亜也人に」

 内面を射抜くような眼が、駿に、「首を縦に振れ」と圧力を掛ける。
 逆らうことなど出来るわけが無かった。
 内藤の、獲物をいたぶり殺す前の獣のような目を見上げながら、駿は、息を飲んだまま身体を硬直させた。
 


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 キリリとした大きな目が、亜也人を見て、糸のように細く目尻を下げた。

「初めまして。加山信親かやまのぶちかといいます。狭い部屋だけどテレビもゲームもあるし、他に何か欲しいものがあったらすぐに用意するから遠慮なく言ってね」

 誕生日の翌日、夕食を終えると、松岡が改まった様子で、「話がある」と切り出し、亜也人はそこで七代目山﨑組の組長が襲撃された事と、その犯人探しのために積川良二が神戸を離れる可能性があることを聞かされた。
 早朝の電話とその後の松岡のすがりつくようなセックスから、何か厄介な事が起こったのだろうと予測はしていたが、積川良二の名前を聞いて松岡の異変の理由が腑に落ちた。
 良二のことになると、松岡は、普段の冷静さが嘘のように我を失う。
 今回も、状況を伝えるなり、一刻も早く避難しなければならないと、有無を言わさず亜也人をマンションから連れ出し、車で一時間以上も掛かる古めかしい一軒家へと連れて来た。
 家は、松岡が懇意にしている加山という男の自宅で、今回の騒動が収まるまでここで過ごすよう言いつけられた。
 亜也人にとっては、“寝耳に水”の事態だった。
 積川良二とのこれまでの経緯を考えれば、松岡が神経過敏になるのも無理は無いのかも知れないが、亜也人は、良二の事で松岡が心を乱すたび、まるで自分が松岡を苦しめているような気がして胸が苦しくなるのだった。
 元はと言えば、自分が良二と松岡を引き合わせてしまったのだ。良二と松岡の確執の原因は自分にある。それなのに自分だけが悠長に避難する気にはなれなかった。
 こんな時こそ、松岡の傍にいて松岡を支えたい。
 しかし、一方で、自分のことを思ってくれる松岡の気持ちを無下には出来ないという気持ちもあった。
 松岡の考えに背くことが松岡を余計に不安にさせてしまうのかも知れない。松岡を安心させるためにも、松岡の言う通りにすることも必要なのかも知れないと亜也人は思った。
 幸い、連れられた家は思ったほど居心地も悪くなく、紹介してくれた加山信親かやまのぶちかも、感じの良い、信頼出来そうな男だった。

「松岡さんからだいたいの事は聞いてるよ。君も色々と大変だったけど、ここなら安全だから安心してね」
 
 安心できる環境だからこそ、亜也人は、自分だけが守られている状況に軽い罪悪感を覚えた。

「別に俺が大変なわけでは無いですけど……」

 自分への情けなさが知らずに口から漏れた。
 しまった、と思い顔を上げると、同時に加山が、「え?」と聞き返した。

「えっと。僕は、松岡さんから君をここにかくまうよう頼まれてるんだけど……」

「え? あ、だからそれは吉祥きっしょう……松岡さんが俺を心配しただけで、俺は別に……。その……本当に大変なのは吉祥……ま、松岡さんであって、俺が大変というわけでは無いので、そんなに気を使わないで下さい」

 答えた途端、加山の目が、鳩が豆鉄砲を喰らったようにまん丸に開かれた。

「えっ……と。その、狙われてるのは君……なんだよね。君は何ともないのかい?」

「何ともない、と言うか……。もともと俺のせいだし、それよりも吉祥の方が、俺のせいで苦しい思いをしてるのに、俺なんかのためにこんなに色々してくれて……」

 話の途中で、加山の表情が心なしか曇っていくのを感じ、亜也人は思わず身体を硬らせた。

「あの、俺……何か変なこと言ってますか?」

 加山はますます目を見開き、しかしすぐに、泣きながら微笑んでいるような、妙にしんみりした顔で亜也人を見た。

「大丈夫。亜也人くんは何も変なことは言ってないよ。それよりも、松岡さんが苦しんでると言ったよね? 松岡さんは本当に苦しんでるの?」

「あ、はい……」

「どうしてそう思うの?」

「どうして、って……」

 それは、松岡が苦しそうな顔をするからだ。
 しかしそれがちゃんとした理由にならないことを亜也人は知っている。
 周りはいつも確証のある理由を求める。亜也人の言う、なんとなく感じる違和感や、いつもと違う空気、表情の変化や声の感じ、身体全体から漂う雰囲気は、全て“気のせい”で片付けられてしまう。
 理由を言ったところで、いつものように、『気のせいだ』と呆れられるのがオチだと思った。
 亜也人は、返事を待つ加山の視線から逃れるように項垂れた。
 加山は、「ごめん。そんなこと聞かれても解らないよね」と、亜也人を気遣うように穏やかに目を細めた。

「質問を変えよう。じゃあ亜也人くんは今回のことをどう思ってるの?」

 追求されなかった安心感からか、亜也人は、普段の口ベタな人見知りが嘘のように初対面の加山にすんなりと口を開いていた。

「今回のことは……その……悪いことをしたと思ってます」

「悪いこと? 誰が?」

「え? あっ、お、俺が……。その……全部俺のせいなので……」

「え。ちょっと待って。どうして君のせいになるの? 悪いのは君を狙ってる奴でしょ?」

「そうですけど、もともと俺のせいというか、俺が吉祥を巻き込んでしまったから……」

「でも、君だって充分傷付いてる。君のこれまでのことは松岡さんからザックリと聞いてるよ。君は完全に被害者だ」

「そうですけど、俺が原因なのに、その俺がそういうことを言うのはおかしくないですか?」

 再び、加山の目が大きく見開かれる。
 加山は、信じられないものでも見るように亜也人を見たが、亜也人が気付いて顔を強張らせると、スッと表情を戻した。

「僕は君が原因だとは思わないし、おかしいとも思わないけど、亜也人くんはそう思ってるんだ」

「あ……はい」

「それはどうして? 松岡さんがそう言ったの?」

「いえ。吉祥は何も言いません」

「ならどうして……」

 穏やかに笑っているものの、僅かに緊張の色の浮かぶ加山の瞳が、亜也人を真っ直ぐに見詰める。
 瞬きもしないで見詰める加山の真剣な瞳を見ながら、亜也人は小さく呟いた。

「それは……」

 俺が全ての元凶だから。
 
 これまでの事を振り返れば、一晩では語り尽くせないほどたくさん理由はある。
 しかし、全ての原因を突き詰めていくと、結局はそこに辿り着いてしまうことに亜也人は気付いていた。
 松岡が苦悩する姿を見るたび、俺なんかと出会わなければ良かったのにと、松岡との出会いそのものを否定する思いが頭を巡る。
 しかし、それを口にすることは出来なかった。
 紀伊田にも、佐伯にも、当然、松岡にも、これまで何度も口にし、その都度、咎められてきた。
 その言葉は最悪の極論であり、何の救いにもならない、二度と口にするなと言われ、以来、亜也人は、言わないよう口を噤んできた。
 過ぎてしまったことを悔いたところで何も始まらない。変えられない過去を嘆くより、未来に目を向けるべきだと言われた。嫌な過去は忘れて幸せな未来を創造しろ、とも言われた。

『それがお前のためだ』

 松岡に囁かれるたび、亜也人は、松岡と過ごす未来に胸を膨らますと同時に、忘れろと言われた過去に対して一抹の寂しさを覚えた。
 松岡の言う通り、過去を忘れられたらどんなに良いだろうと思う。
 松岡の言う通りにしてあげられたら、松岡を不安にしなくて済むのだとも思う。
 不安は全てのマイナスの感情の源だ。これまでの災厄を振り返ってみても、亜也人は、自分に起こった様々な出来事が、自分や相手の中にある不安が引き起こした凶行なのだと感じるようになっていた。
 しかし、それを知っている筈の自分が松岡を不安にさせている。
 良二に対する松岡の過剰な反応が自分のせいであることは解っていた。
 自分の些細な言動が松岡の不安を煽り疑心暗鬼にさせている。
 その不安こそが、松岡を必要以上に良二に固執させ、過剰な行動に駆り立てていることも解っていた。
 亜也人は、松岡を不安にさせたくはなかった。
 なのに、自分が一番不安にさせている。
 拭いようのない自責の念に、亜也人は自分自身で打ちひしがれていた。

「俺が……悪いんです」

 ふつふつとした気持ちを抑えながら、亜也人は、喉元を迫り上がる涙を手の甲で口を押さえながら堪えた。
 加山は、すぐには何も聞き返さず、優しく穏やかに、宥めるように目を細めて亜也人が落ち着くのを待った。

「お、俺……」

「大丈夫。何も言わなくていいからゆっくり気持ちを落ち付けて……」

 ぐずぐずと口籠る亜也人に苛立つ様子もなく、加山は、小さな子供をあやすように亜也人の背中をポンポンと撫でた。
 亜也人は、自分を責めるどころか否定もしない加山に戸惑うとともに、自分のペースに合わせて話を聞いてもらえるという慣れない状況に、違和感を覚えながらも小さな安堵を覚えていた。
 気持ちの変化が亜也人に少しだけ勇気を与えたのだろう。
 今まで誰にも言わなかった胸の内を、ふと、打ち明けてみたくなった。
 亜也人は、口を塞いでいた手を外し、加山に向かってゆっくりと顔を上げた。

「あの……怒らないで聞いてもらえますか?」

「え……?」

「今から言うこと……。俺……変なこと言うかも知れませんけど……その……聞いてもらっても良いですか?」

 加山はピクリと眉を動かし、しかし直ぐに、柔らかい笑みを浮かべて、「いいよ」と頷いた。

「こんなこと言ったら叱られるのかも知れないけど……俺……俺……」

「大丈夫だから、ゆっくり言ってごらん」

「お、俺……その……良二のこと……嫌いにはなれないんです……」

「良二、って……」

 加山の顔が強張り、空気がピンと張り詰める。
 穏やな笑顔から一転、驚きと疑念の入り混じった気難しい表情を浮かべながら、加山は、身を乗り出すように亜也人を見た。

「良二、って、君を狙ってる、あの積川良二?」

 亜也人は、加山と視線を合わせたまま頷いた。

「皆んなが言うほど悪い奴じゃないんです。良二は俺を助けてくれたんです。中学の頃、俺が酷い目にあってた時……誰も助けてくれなかったのに、良二だけが俺を助けてくれたんです。だから……こんなこと言ったら吉祥が悲しむって解ってるけど……でも俺、良ニが悲しむのも嫌で……良二が悲しい目に遭ったり酷い目に遭ったりするのは絶対に嫌で……」

 堰き止めようもない気持ちが胸を押し上げ、亜也人は堪らず声を上げた。

「俺、良二には幸せになってもらいたいんです!  そう思うのはおかしいですか? 俺が良二の幸せを望むのは間違ってますか?」

「亜也人くん……」

「吉祥を苦しめてることは解ってるんです。でも俺にはどうしても解らなくて……。俺が良二のことをこんなふうに思うのは吉祥を傷付けることになりますか? 俺は良二を嫌いにならなきゃダメですか?」

 亜也人を見詰める加山の目が、みるみる寂しく陰り始める。
 眉を八の字にして黙り込む加山を目の前にして、亜也人は、自分はまた絶望されたのだ、と唇を噛み締めた。
 母親も、教室も、仲間も、知らない大人も、皆良二を嫌い、『あんな奴の傍にいてはいけない』と、亜也人に良二から離れるよう強要した。
 見て見ぬふりをして助けてもくれなかった連中が、助けてくれた良二をこぞって責める。
 その理不尽さに反発すると、今度は、言うことを聞かない亜也人を、『人の気持ちが解らないバカ者』と罵り、恩知らずな薄情者だと一方的に亜也人に絶望した。
 加山も絶望するのだと思った。
 そもそも良二から逃れるために加山のところへ避難したのだ。かくまわれている当の本人が良二を庇うなど、それこそ人の気持ちを踏み躙る行為だと責められても仕方ない。
 しかし、誰もが良二を嫌い拒絶する中、自分までもが良二を突き放してしまったら良二は本当に一人になってしまう。そんな真似は亜也人には出来なかった。
 自分の気持ちなどどうせ解ってもらえない。お前はおかしい、とよく言われた。周りが言うように、自分はおかしいのだと思った。
 だから加山にもきっと絶望される。
 しかし加山は、突然悲劇に見舞われでもしたかのように、今にも泣き出しそうに瞳を充血させながら亜也人の両肩を強く掴んだ。

「ーーー全く、なんて事を言うんだ君は……。君は全然間違ってない。そんなことで君が悩む必要は全くないんだよ」

 予想外の加山の反応に、亜也人は驚きを通り越して呆気に取られた。

「あの……俺……」

「君はただ優しいだけだ。積川良二のことを一番良く知ってるのは君だものね。知らない奴らにとやかく言われる筋合いは無い」

「でもそのせいで吉祥が苦しい思いをするんです……」

「それは松岡さんが乗り越えるべき問題でしょ?」

「え……」

「君は、相手の気持ちを考えすぎてしまうんだ。相手を思いやる気持ちは大切だけど、自分の気持ちを殺してまで相手を思う必要は無いんだよ。君は、松岡さんが好きで、積川くんに幸せになってもらいたい。君の気持ちは何も間違って無いし、責められるべきものでも無い。例えそれで松岡さんが苦しんでいたとしても、それは松岡さんが自分で乗り越えなきゃ意味は無いんだ」

 加山の、力のこもった言葉が亜也人の心を揺さぶった。
 否定されなかったことが素直に嬉しかった。気持ちを受け止めてもらえた安心感からか、堪えていた感情が堰を切ったように溢れ出し、涙が次から次へと頬を流れた。

「俺っ、吉祥が……好きですっ……。でっ、でも……良二も……良二にも幸せになってもらいたくて……」

 想いの全てを吐き出すように、亜也人は、加山の肩に顔を埋めてしゃくり上げた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 一種異様な光景だった。
 扉が開くと同時に、ソファーの前に整列した男たちが、「お疲れ様です」と一斉に頭を下げる。
 クラブ〈エンプレス〉
 積川良二が頭を務めるカラーギャング、〈スティンガー〉の本拠地。その、防音扉で塞がれた司令部は、フロアの喧騒が嘘のように静まり返っていた。
 空気がキンと張り詰め、息を吐く音すら聞こえない。
 痛いくらいの緊張の理由は、ボス、積川良二の帰還だけでは無かった。

「たっ、たふけてくらはい……おねがひれふ……」

 部屋の一番奥、ビニールシートが敷かれた床の上に、血塗れの男が、両手足を縛られた状態で転がされている。
 衣服は皮膚もろともナイフでズタズタに引き裂かれ、傷口から流れ出た血が、真っ赤な血糊となってシャツにへばりついている。
 顔は人相も解らないほど腫れ上がり、口の中に溜まった血が、男が喋るたび、唇の端でブクブクと泡を立てた。

「どうだ、吐いたか……」

 積川良二の不気味なほど落ち着いた声に、手下の男が、「はいっ!」と姿勢を正した。

 今から約一ヶ月半前の七月の半ば、ここ、クラブ〈エンプレス〉にあるスティンガーの司令部でちょっとした乱闘騒ぎあった。
 積川良二はこの騒動を頭代行を任せている部下の新庄しんじょうから電話で知らされた。
 当初は、スティンガーの所属メンバーと高校生の不良グループとの間にある個人的な確執が原因で起きたただのいざこざであるとの報告を受けていたが、その後の調べで、相手の不良グループが、関東建仁会会長、郷田暦彦ごうだれきひこの一人息子が通う高校の不良グループであることが解った。
 そこへ来て今回の襲撃事件である。
 内藤から犯人探しを命じられた時、積川良二は真っ先にこの騒動を怪しんだ。
 もしやと思って探らせると、積川が睨んだ通り、騒ぎの本当の目的は、今回の山崎組組長、仰木伝介おうぎでんすけ襲撃の黒幕とされる、関東建仁会会長、郷田暦彦の一人息子を狙ったものである事が解った。
 もちろん、スティンガーの頭である積川良二はそんな指示は出していない。
 スティンガーの後援組織である石破組と関東建仁会が兼ねてから対立関係にあったのは事実だが、それはあくまで対抗勢力であるという建前上のものであって、郷田本人との間に直接怨恨があったわけでは無い。
 加えて、スティンガーは積川が指揮するいわば積川の私兵であり、たとえ内藤でも積川の許可なくスティンガーを動かすことは出来ない。
 また、頭脳派で知られる内藤が、郷田の息子を拉致するなどという短絡的な計画を立てるとは到底思えなかった。
 背後に何かある筈だと、積川良二は、実行犯の周辺を再度探らせた。
 すると、案の定、竜星会の名前が浮上した。
 
「積川さんの名前を語って、下っ端をたらし込んだようです。メンバーの中に、郷田の息子と出身校が同じ人間がいるのもリサーチ済だったようです」

「ずいぶんと用意周到だな。うちに郷田に喧嘩を売らせて、ケツ持ちの石破組を嵌めようって魂胆か」

 もとは竜星会の傘下であった石破組が本家に認められて内部昇格した事で、親団体であった竜星会と石破組のパワーバランスが崩れたことは言うまでも無い。
 一部の噂では、石破組四代目の内藤が、親団体である竜星会を蔑ろにして本家に取り入ったとの噂も流れ、そのせいで積川は本家の若衆からもあからさまな嫌がらせを受けていた。
 そういった背景の中で起きた今回の事件。被害者は、七代目山崎組の組長と若頭、ボディーガード、愛人。首謀者は、七代目山崎組の対抗勢力である関東建仁かんとうけんじんかいの手の者であると見られている。
 上っ面だけを見れば、敵対関係にある二つの大きな暴力団同士の抗争劇だ。
 しかし、積川良二は当初からこの事件の不自然さに気が付いていた。
 今回の襲撃の被害者は四人。
 この事件で、山崎組の若頭であり竜星会会長でもある加藤高嗣かとうたかつぐが眉間を撃ち抜かれて即死。ボディーガード、山崎組組長仰木伝介の愛人が流れ弾に当たって重体の後、死亡。山崎組組長仰木伝介は重傷を負いながらも一命は取り留めている。
 組長の仰木を狙ったのなら、通常、ボディーガードが最初に銃弾を浴びている筈だった。
 しかし、現場の状況は、あきらかに竜星会の加藤高嗣が最初に銃弾に倒れている。
 しかも、至近距離から狙っても難しい、慎重に照準を合わせなければまず当たらない眉間を一発で仕留めているあたり、犯人は、最初から加藤を狙っていたと考えるのが自然だった。
 加藤が死んで真っ先に疑われるのは、加藤と因縁を持つ人間だ。
 加藤の地位ともなれば少ならず因縁は付き物だが、現時点では、内部昇格のシコリを残す内藤の名前が一番に上がるのは目に見えていた。 
 
 ーーーだとしても、内藤さんを嵌めるために、自分ンとこの頭を殺るなんてことがあんのか?
 
 疑問に思ったが、竜星会が関わっている以上、その線から攻めるのが得策と思われた。

「竜星会の誰に頼まれた……」

 積川良二の声は必然的に脅しめいたドスの効いた声になった。
 息苦しいほどの威圧感に、血塗れの男がヒィィッと奇声を上げた。

「ひっ、ひりまへんッ! ほんとに、なにも……」

「そいつは本当に何も知りません。積川さんから密命を受けたと思い込んで勇み足をしたまでです」

 男の狼狽えようを見兼ねた頭代行の新庄が、男の代わりに答えた。

「こいつを庇うのか?」

「いえ。この一件は全て留守を預かる自分の責任です。今、別の人間に犯人を特定させてますので、分かり次第すぐに報告します」

 新庄の真摯な態度に、積川良二はその先の言葉を飲み込んだ。
 過程がどうであれ、今は犯人を特定することが先決だ。まずは郷田の息子を拉致するよう仕向けた犯人を見つけ出し、そこから山崎組組長襲撃への手掛かりを掴む。
 新庄は、有言実行を地で行く信頼出来る男であり、言葉の通り、必ず近日中に犯人を上げるに違いなかった。そこまで行けば積川良二の目的は七割方達成されたも同然だった。

「すぐに片付けるからな。……待ってろよ、亜也人……」

 ふいに漏れた積川の呟きに、その場に居合わせた誰もが背筋を震わせた。
 積川良二を狂わせる唯一の存在、寺田亜也人。
 その名前を積川良二が口にしたことで、この案件が積川良二にとって特別な意味を持つことを誰もが理解した。
 失敗は絶対に許されない。
 それぞれの思いが、重苦しい空気となって部屋の中で大きくとぐろを巻く。
 身体にへばりつくような圧迫感に顔を引き攣らせる面々をよそに、積川良二だけが不敵な笑みを浮かべていた。


 一方その頃、〈エンプレス〉のバーカウンターで、一人の男が不機嫌そうにグラスを傾けていた。

「あの……失礼ですが、ひょっとして寺田亜也人さんではないですか?」

 店に着いてから、もう何度も声を掛けられている。
 一度目は、振り返った途端、『ごめんなさい』と謝られ、二度目は、『何か感じ変わった?』と不思議そうな顔をされた。
 三度目は、一方的に、『亜也人さんッ?』と顔を覗き込み、『あれっ?』とあからさまに困惑され、四度目は、隣に座られて何か言いたそうにジロジロと見られた。
 五度目ともなるとさすがに返事をする気にもなれず、一部始終を目の当たりにしていたバーテンダーが気を利かせて、声を掛けてきた相手に無言で首を横に振った。
 そういう経緯もあり、再び掛けられた声に、宇治原駿は、ついに、「いい加減にしろ」とブチ切れた。

「どいつもこいつもアヤト、アヤトうっせーよ! ってか、人の顔見てガッガリしてんじゃねーよ!」

 駿の反撃に、声を掛けた相手がそそくさと引き返す。
 不貞腐れながらグラスに残ったジントニックを飲み干すと、やり取りを見ていたバーテンダーが、「サービスです」と、お代わりのグラスをコースターに乗せた。

「誤解されてるといけないので言っときますけど、別にお客さんの外見が悪いとかではないので気にしない方がいいですよ」

 言われなくとも、自分の容姿が人並み以上であることは百も承知している。そうでなければ、三宮のメンズ専用デートクラブでずっと指名ナンバーワンを取れるわけが無い。
 事実、何処へ行っても、『整っている』と言われこそすれ、『不細工』だと言われたことは只の一度も無い。デートクラブでも、『写真より実物の方が良い』といつも客に喜ばれてきた。
 それが、積川良二とともに東京に来てからというもの、行く先々で、一方的にはしゃがれて一方的にガッガリされる。
 自分を見て表情を強張らせる相手を目の当たりにするうちに、駿は、自分が冴えない奴になってしまったかのような錯覚に陥り、どんどん気分が落ちて行った。

「俺、そんなにアヤトって奴に雰囲気似てんの?」

 クサクサとした気持ちが収まらず、食ってかかるようにバーテンダーに問い掛けた。
 バーテンダーは、膨れっ面でカウンターに身を乗り出す駿に苦笑いした。

「まぁ、髪型とか身体つきとかは確かに良く似てますね。華奢で、横から見るとぺらんぺらんなとことか、そうやって肩を竦めて見上げるところとか、猫背気味なところとか……。あと、その、真っ黒い髪と白い肌もそっくりです。もっとも、俺が知ってるのはまだ亜也人さんが積川さんと付き合ってた頃なんで、今はどうなってるか解りませんけど……」

「付き合ってた、っていつの話し?」

「二年くらい前だったかな……。いつも積川さんと一緒にいたからよく覚えてます。そりゃあもう溜め息が出るほど綺麗な人で、そんなんだから、積川さんのヤキモチが酷くて大変だったなんて話も聞きましたけど、なんだかんだ言って亜也人さんのこと凄く大事にしてたし、二人はずっと一緒にいるもんだと、皆んな、思ってたんですけどね」 

 その頃の情景を見るように遠い目をするバーテンダーの柔らかい表情に、駿の胸がチクリと痛んだ。

「なんで別れたの……?」

 聞いたところでどうなるわけでも無い。しかし、殆ど反射的に、駿は、聞いていた。

「そんなに大事にしてたのに……」

「さあ。無理やり別れさせられたって話しですけど、俺もあんまり詳しいことは知りません」

 再び胸の奥が痛み、駿は堪らず目を伏せた。

『無理やり別れさせられた』

 バーテンダーの言葉が頭を巡る。

 ーーーそんなの、ますます勝ち目が無いじゃないか。

 自分で出した答えに、駿は、自分自身で絶望した。
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