元社畜の転生者は魔導士になりたい~魔王を倒す為に、訳アリ女の子と冒険者になります

めれ

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怪しい彼女と謎編

11話 彼女の本音

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俺達三人はいつもサーシャと行くカフェに足を運んだ。
 
天井からやたらと吊るされているキャンドルと、その一つ一つの小さな照明が、少し
古臭いソファやらテーブルやらに温かみを感じさせてくれる。
 
コーヒーの匂いが充満した店内の角席を陣取り、各々の注文をウェイターのお姉さんに頼んだ。
 
「それで、なんでダンにこんなことしたのさ」
 
最初に話題を切り出したのは俺だ。料理を待ってからでも良かったのだが、性分せっかち目の為早く聞きたかった。
 
俺の向かいに腕と脚を組んで座る偉そうなリリナは、周囲を見回すことを止め、こちらに向き直った。
 
「だから死活問題だったって話、そのまんまよ」
 
「死活問題って、働いてないんですか?」
 
リリナの含みがある言い方に対してサーシャは質問をした。

死活問題でパパ活するってよっぽど切羽詰まってるか、それとも性根が腐ってて嘘をついているのか。
 
「働いてない、というかここに来たのはつい最近。一文無しで実家から飛び出してきたから、死ぬところだったの」
 
「道理で見たことなかったわけだ。そんな恰好してたら嫌でも目に入るし」
 
「そんな恰好って何よ、あたしのお気に入りなんだけど。デリカシーないわけ?」
 
無神経だったことは悪いとは思うけど、いちいち突っかかってくるその物言いも鼻につくけどね、と内心で思っておく。
 
「実家ってどこなんですか?」
 
「この街から南に進んだとこにある『ニクロ』ってとこ」
 
俺はローグ以外の街は知らない。サーシャは「あー」と納得しているみたいだが、全然分からない。俺はサーシャに「どこ?」と聞いてみる。
 
「ニクロはローグから徒歩で2日くらいで着く街ですね。織物業が盛んな街ですよ。ここら辺の服はほぼニクロの布地が使われているんですよ」
 
そうなのか、全然興味がないから知らなかった。

というか俺が無知なだけかもしれない。そんなシェアが高いなら食うには困らなさそうだし、対人関係だろうか。
 
「そこから出てきた理由を聞いても?」と俺がさらに質問をする。リリナは「はぁ」と気だるそうに大きなため息をつき、口を開いた。
 
「どうせ信用されたいと思うけど。あたし、母親が出て行って父親と二人暮らしだったんだけど、父親がダメな奴で酒と賭博ばっかして、雰囲気最悪だったから出てきたってわけ」
 
ひどい親だな。どこの世界にもダメ親は存在するものなんだと少し同情する。
 
つまり、盗聴した話はほとんど合っていたということだ。
 
「それでこっちに来たんだけど、お腹空いて死にそうだったところに、偶々金出してくれそうな男を見つけたから近づいたの、わかった?」
 
「でも、ここって許可証ないと出入りできないはずでしょ?冒険者なの?」
 
「冒険者に見える?門番みたいな人に言われたけど、胸当てたら通してくれたわよ」
 
は?警備ガバガバ過ぎんだろ。

そいつを見つけたらひっ捕まえて説教してやる。
 
「急に出てったらお父さん心配するんじゃないですか?」
 
「おめでたい人ね、そんな訳ないでしょ、あんなクソ親。毎日喧嘩は当たり前、暴力上等、身体売れって言い出す始末。最低でしょ?そんな人のところにずっといたいと思う?出ていくのも納得だと思うけど?」
 
何も言い返せなかった。サーシャも「すいません」と謝ってしまう。
 
「でもあんたら、どうせあたしの話なんて信用しないでしょ?あたしの事疑ってたもんね。あたしは悪人なんだし、もしかしたらお金返さないかもしれないわよ?」
 
確かにリリナがダンを金づるにしていたことは悪いことだ。

しかし、今の話を聞いて素直に彼女を責められるだろうか。話し方や雰囲気から嘘ではないことが分かってしまう。
 
それに何故か、そこまで悪い人間には見えないのだ。さっきダンに対して「悪いと思っている」と言っていた。

少なくとも、根っからの悪人ではないということが分かる。
 
雰囲気はどんどん悪くなっていく。

店内に漂うコーヒーのいい香りも雑音になるレベルだ。それに加え沈黙が口を重く閉ざしてしまう。何か話をしなければ。
 
「うまく言えないけど、俺はそこまでリリナが悪い人には見えないんだよね。おかしな話だけど。」
 
サーシャは「ヤナギさん?」とこちらを向く。それに対してリリナは目を丸くし、驚いたような表情をしていた。かと思えば「ぷっ」と吹き出し笑い始める。
 
「ハハハ!悪いでしょ、何言ってるの?頭にお花でも生やしてるの?ウケるんですけど。男騙して平気な面してる女のどこが?あんたのお気持ちとかどうでもいいんですけど?」
 
リリナは笑っているような、怒っているような混ざり合った感情をこちらにぶつけてくる。

でも俺は、彼女の姿が全然平気だとは思えない。

少なくとも罪悪感は感じているようだ。

俺たちが詰めた時に白を切れば良かったものを、彼女はあっさりと自らの罪を認め、さらには貰ったものを返すとも言ったのだ。

根っから腐ってる奴なら、なんだかんだと言い訳や自己弁護をして悪びれず同じことを繰り返すだろう。
 
俺がいた会社では、俺自身も含めてそんな奴ばかりだった。

営業なんてものは言葉巧みに専門知識で相手を騙して、恩を売る。客から何か言われたらまず言い訳、上司を呼んで自己弁護。

俺は悪くない、悪いのは客の方。おかしいのは相手。罪悪感なんてものは最初に捨てる。

なぜなら俺たちがやっていることは「良いこと」だから、相手にとっては必要なことだから。
 
そうしなければ食っていけないから、自分の人間性を殺すしかない。

それが仕事、もしくは会社、あるいは社会。どれだけ人を蹴落とせるか、どれだけ相手を騙すことが出来るか、どれだけ自分を正当化できるか、それらすべてになんの疑いもなくナチュラルに生きていける人は出世していくのだ。
 
しかし、その社会から離れて改めて実感する社会の歪さ、資本主義が富を与えると同時にもたらした人間性の破壊。
 
そんな社会だから、人を信用できないのだと俺は思っているし、もちろん根っからの悪人が一定数いるからこそ詐欺や犯罪が多数存在する中で相手を安易に受け入れることが出来ないことも理解している。

でも俺は、もうあの社会の本流に呑まれていた時の俺とは違う。

リリナは少なくとも根っこからの悪人ではないと思う。だから俺は、自分の胸の内を話してくれた相手は信用したい。
 
「俺はリリナが言ったことを全部信用する。口は悪いけど少なくとも悪人ではないと思うんだ。だからダンに謝って、お金返して、もう二度とこんなことをしないでほしい」
 
正直答えになっているかどうかは分からないし、自分でも何言っているんだと思うところもある。自分の中でどこか矛盾しているのかもしれない。

しかし、相手を誘導するのではなく、自分の気持ちを相手に伝えることの方が大事なのではないかと感じる。
 
俺の一連の話から、少し間がありつつもサーシャが俺に続けて言葉を発し始める。
 
「・・・わたしもヤナギさんに同感です。事情が事情ですし、逆の立場ならわたしも罪を犯していたかもしれません。なので、リリナさんの話を信用します」
 
サーシャの言う通り、俺がもし同じような境遇だったら何をしでかすか分からない。

そんな相手を責め立てられるくらい、出来た人間ではない。
 
俺たちを真顔で見ながら少し考える様子を見せるリリナ。腕組みと脚組みをやめ、自分のスカートをギュッと握っていた。
 
「・・・そんな簡単に人の事信用していいの?あたしの話が全部嘘かもしれないのに?甘っちょろすぎるわよ、あんたたち」
 
「疑うのは簡単だよ。人を信用するのって色々な条件をクリアして、初めて得られるものだと思う。本来は簡単に人を信用しちゃいけないのかもしれない。でも少なくとも俺は、リリナが嘘をついているように見えないし、自分の事を話してくれた相手を疑いたくない」
 
彼女はうつむく、そして沈黙。

葛藤が渦巻いているのか、それとも罵倒する語彙を探しているのか。その沈黙は1秒が1時間にも感じられるくらい長く、ずっしりと俺達にのしかかってくる。
 
5分は立っただろうか、厨房から調理音を響かせる店内の空気に「ふぅ」と声が聞こえる。
 
「・・・わかったわよ、お金返して謝るわよ。でも、もし何もなかったとしても信用したあんたらが悪いからね?」
 
やっぱり悪いやつなのかもしれないと一瞬思ってしまった。なぜそんな上から目線で言える立場だと思っているのだろう。 
 
一応これで課題は一旦クリアした。話がなんとなくまとまったからか、俺とサーシャは一緒に「はぁ」とため息をついてしまった。
 
しかし問題はここから、ダンがどういう行動をとるかということ。

ことの経緯をすべて話したとして、快く受け入れてもらえるだろうかという心配だ。下手をすると彼女を殴りかねない。

仕方のないことなのだが、どうも気になってしまう。いや、これはあくまで当人同士の問題だし、いたら邪魔かもしれないな。
 
「とりあえず、飯食ったら謝りに・・・」と俺が話そうとしたのと同時にリリナは言葉を重ねてきた。
 
「今日はやめとく、心の準備いるし。あとお願いなんだけど今日泊めてよ」
 
!?何言ってんだこのアマ。脈絡なんも無しに宿泊希望してきたぞこいつ。

面の皮が厚いにもほどがあるだろ。

サーシャも「?」の表情を隠せなくなっている。
 
「いや、なんでそうなるの?嫌だよ」
 
「お金諸々全部返すってなったらお金無いから宿泊できないし、それにあたしが逃げないように見張れるでしょ?」
 
どうも一理あるような気がしてくるが、うまく言いくるめられている気もする。そもそもずっと思ってたけど、どの立場からものを言ってるの?
 
「いや、だからって泊めていい理由には・・・サーシャはどう思う?」
 
俺は逃げた。

サーシャなら、どうにかしてくれるのではないかと思ったからだ。何気にここまで来れたのもサーシャのおかげだ。

もしかしたらサーシャの一声で宿泊を諦めてくれるかもしれない。そう踏んだのだ。
 
「宿なしはちょっとかわいそうですし、泊めてあげましょう」
 
了承したのだった。優しすぎないだろうか、彼女は。
 
「え、てかさ。あんたら同棲してんの?そういう関係?邪魔して悪いわね」
 
「いや!パーティ組んでるから成り行きで!悪いと思うなら泊まるなよ!」
 
「まあまあ、隠す必要もないでしょ。それともやましいことでもあるの?」
 
「ねえよ!」
 
俺は弁明をするが、何を言っても手玉に取られてしまう。サーシャは俯いたまま無言になってるし、たまったものではない。
 
そんなやり取りを繰り広げていると「お待たせいたしました~」と横からウェイトレスさんが料理を運んできた。
 
「あ、料理来たわよ!ほら、食べて家行くわよ!」 
 
目を輝かせるリリナは、さっきと打って変わり表情が柔らかくなった気がする。

肩の荷が下りたからなのか、単に腹が減っていたからなのか。
 
随分と自分勝手な性格だなぁと内心思いながらも、人となりを聞いたせいかそこまで悪感情を向けることができない。
 
俺とサーシャはリリナに複雑な感情を抱きながら、目の前の温かな料理にありつくのだった。

◇◆◇

飯を終え、銭湯に行った後に俺とサーシャの家に着く俺達3人。
 
「案外悪くない家じゃない」と、どこから物を言ってるんだと癪に障る言葉を投げてくるリリナは、お構いなしに暖炉の前のソファーに座る。

そのソファーは俺がいつも寝ている聖域なんだけど・・・
 
一応ソファーは一人が寝転がっても少し余裕があるくらいの大きさではあるのだが、ついさっき知り合った女性の横に座れるほど自信過剰ではない。
 
サーシャは「着替えてきます」といい自室に戻り、ドアが閉まる。

部屋着に着替えるのだろう。

サーシャは白が好きなのか、普段から白い格好をしているにも関わらず、寝る時も真っ白の部屋着を着ている。
 
ソファーの背もたれに体を預けるリリナは、サーシャが自室に戻る姿を見たからか俺に質問をしてきた。
 
「あんたら一緒に寝てないの?」 
 
「寝てないよ。というか、リリナが座ってるところが俺の寝床だし」
 
俺が説明をするとリリナは「ヘタレ」と鼻で笑ってくるのだった。

こいつ、今からでも力ずくで部屋から追い出してもいいんだぞ。

俺は、ソファーの後ろにある長テーブルと併設されている椅子に腰を掛けると、今日の事を思い出しながら「はああ」と息を吐き出した。
 
「リリナの着替えは・・・ないか。サーシャの服何着かあるかもしれないから借りれば?」
 
「良いんだったら借りようかと思うけど、あたしの方が大きいし入るかしら。どう思う?」
 
俺の事を試してんのか?思春期なら胸の事だと思うだろうが、十中八九身長の話だろう。

サーシャよりリリナの方が見た感じ、5センチほど高いように感じる。
 
「頑張れば入るんじゃない?5センチくらいの差だったら大丈夫そうだけど」
 
「あれれ?胸の大きさ分かるなんて、ずっとあたしの胸見てたんだ~。エッチ~」
 
「うるさいわ!」
 
リリナが俺の事をからかってくる。

クソこいつマジで追い出そうかな、家主になんて態度取りやがる。そんな大層な人間かお前は。
 
するとサーシャは真っ白い部屋着に着替え、もう一着の同じような部屋着を持ってきた。
 
「あのー、一応これしか服なくて、リリナさん着られますか?」
 
「あーありがと!何から何まで悪いわね、ちょっと着てみるわ」
 
と二人は部屋に入っていく。

ドアを閉める瞬間にリリナはこちらに向けて「覗くなよ」と釘を刺してきた。

覗くわけねえだろ。興味は無くはないが・・・
 
部屋からはワザとらしく大きい声で「少しきついかも~」とわがままを言い出すゴスロリ。

どこまで馬鹿にすれば気が済むのだろうか。本気で泊めたことを後悔するのだった。
 

◇◆◇

数時間が経ち、今は深夜。
 
リリナはサーシャと一緒に寝ることになり、今は俺一人。
 
俺は暖炉に火をつけ、ソファーに座りながら、ハウクスさんから言われた「魔力で糸を作り、あやとりをする」という課題に挑戦中だ。
 
まず手に魔力を溜めて、そこから糸を形成しようとするのだが、なかなかうまくいかない。

溜めた魔力に何かしらアクションを起こそうとすると、すぐに弾けてしまう。まるでパンパン膨らんだ風船を指でつまんでるかのようだ。
 
ハウクスさんにヒントをもらおうとしたのだが、本人曰く「こういうのは、自分で発見しないと身につかない」とのことだ。

そうでも教えてくれた方が早いと思うんだけど。
 
この作業を続けて早3時間が経とうとしていた。疲労が溜まっているのか呼吸が少し乱れ、集中力が散ってくる。
 
「あーうまくいかないね。まあ、そんな簡単に出来るもんでもないよな」
 
と暖炉の火に話しかけるように独り言を呟く俺。
 
恐らくこれが、次のステップに重要な工程なのだろう。

ハウクスさんが言っていた魔力の形状変化。

確かに今まで俺が使っていた魔法は、ただ塊を打ち出していただけでありバリエーションに欠ける。

しかし、そこに形状の変化が加わることで戦略の幅が大きく広がる。1対1から1対多への対応も可能になるわけだ。
 
もう一度手に魔力を溜め、無色の塊を形成する。ここからが全然分からない。もう片方の手を使って触っても、硬いのか全く掴める気配がない。

かといって普段の魔法を使うように射出しようとすると、破裂してしまう。
 
これの繰り返しに俺は徐々にイライラしてくる。
 
「あー駄目だ、寝ようかな」と背もたれに寄り掛かり、顔を上に向ける。

そして、軽く目を瞑った。少し寝てから再開しようかと考え、重たい目を少し開けた時だった。
 
「なにやってるの?」
 
「うぇ!?」
 
変な声が出てしまった。目を開けるとそこには人の顔があったからだ。その顔の主はリリナだ。

リリナは不思議そうな顔で俺の顔を覗いてくる。黙っていれば可愛いんだけどなこいつは。
 
「ハハハ、そんな驚いてくれるんだ」
 
「ビビるってそりゃ、寝てたんじゃないの?」
 
彼女はやってやったぞと言わんばかりに笑っていた。

笑った顔を見るのは初めてだ。ずっとしかめ面だったもんだからてっきり笑わないやつだと思っていた。
 
リリナは視界から消えたかと思うと、俺の横からドスっとソファが沈む音が聞こえる。俺の横に座ったようだ。
 
「目が冴えちゃってさ、サーシャちゃんと一緒のベッドに寝てるんだけど、あの子全然起きないのね」
 
「あー、任務中とか野宿するときあるけど、あいつどこでも睡眠深いんだよな。逆に俺はあんま寝れないから、火の番をずっとやってんだけど」
 
俺は天井を向きながらリリナの対応をする。リリナから石鹸の香りがするからだろうか、何故か恥ずかしくて彼女の方を見られないのだ。

そんなリリナは「へー」と興味無さそうに返事をする。
 
するとリリナは「なにしてたの?」と聞いてくる。

俺は「魔法の練習」と一言。

魔力を消費した少しの疲労と暖炉の温かさによって眠気が襲い、うまく頭が働かなかった。
 
話題がないのかリリナは無言だ。

聞こえてくるのは火のパチパチという音だけ。何か話を振った方がいいのだろうか。
 
しかし、沈黙を破ったのはリリナだった。
 
「あのさ、一応感謝しとく」
 
意外な言葉だった。会った時とは180度印象が変わる感謝の言葉。とても本人が発した言葉とは到底思えない。
 
「どうしたの急に」と俺が聞くと再び彼女は口を閉ざした。

何か言いたいことがあるのか、ここで変に俺から何か言うのは得策ではないと思い、リリナが口を開くのを待った。
 
「・・・あたしさ、人の事信用できないのよ。さっき言ったでしょ?父親の事。あいつって悪い意味で町の有名人でさ、あたしそんな奴の子供だから、誰も寄り付かなかったのよね。手も差し伸べてくれない。ずっと一人。人間ってなんて薄情なやつらなんだって思ってた」
 
開かれた口から発せられたのは独白。自身の胸の内を俺にさらけ出してきたのだ。
 
「母親も耐えられなくて出ていくし、一人だけ助けてくれた人もいたんだけど、その人も結局あたしの事裏切ってさ。だから、人の事信じないことにしたの、一人で強くならないとって」
 
「その結果、自分の為ならなんだってしてやるって、悪者にだってなってやるって思ってさ、好きだって嘘をついて、自分の経歴を偽ってダンに近づいたの。でもね、ダンはあたしの事信じてくれたのよ」
 
 「接していくうちに、罪悪感が出てきてさ、なんであたしはこんなことやってんだろって。全然嬉しくないのよ、ご飯食べても、宝石貰っても、貢いでもらっても。信用してくれる人を騙すのが、自分に嘘をつくのが、人を信用できない自分が、全部苦しくなってさ。結局悪人になりきれなかったわ」
 
「・・・・・」
 
「もうやめようかなって思ってた時に、丁度現れたのがあんたらってわけ。肩の荷が下りた気がしたわ、それであたしの身の上話も信用してくれたりして、その時思ったの。あたしの事を信じてくれる人っているんだって」
 
彼女の声色は笑っているようだった。

自分の本音を打ち明けるのは難しい。何故なら相手の事を考えず、自分が嫌われてもいいと決心した時のみ、一定の条件下で許される行為だからだ。
 
その相手が俺でいいのだろうかと少し考えてしまう。
 
「色んな人がいるよ、いい奴だっているしどうしようもない屑だっている。優しい人柄は表面上で、中身はひどいやつとか。そんな中から自分が信用できる人間関係を作っていかないといけないし。人に合わせるために自分を殺したり、周りが悪いからって、同じように染まらなきゃ自分が間引かれたり」
 
「でも」と俺は続ける。リリナからは相槌はない。
 
「全部ひっくるめて、俺が信用し合える人達と関われるから生きていける。リリナの環境は確かに酷かったんだろうし、そうなるのも無理ないとは思う。だからって全員が全員同じ人じゃないよ。ダンだって俺達だって、リリナに酷いことをする人間じゃない。もしなんかあったら、俺たちに頼ってほしい。だから、信用しないなんて寂しいこと言うなよ」
 
空気に身を任せて柄にもないことを言ってしまった。

思ったことを継ぎ接ぎに話すもんだから、辻褄があってるかどうかも分からないし。むしろ言ってから恥ずかしくなってくる。
 
「考えとく」
 
リリナから発せられたのはその一言だった。あまり響かなかったかなぁ。
 
彼女が今どんな表情なのか気になった俺は、天井を見つめていた視線を右に移した。
 
「え、何着てんの?」
 
彼女の着ている服に疑問を向ける。

彼女は俺のパーカーを着ており、下は履いていなかった。

痴女かよ。
 
「なにってあんたの服だけど」
 
「いや、なんで来てるの?」
 
「サーシャちゃんの服着れなかったんだから、仕方ないでしょ?なに、興奮しちゃった?いやらし~」
 
「ちげえよ!」
 
さっきのしおらしい雰囲気から一転し、俺の事を小ばかにする態度に戻ってしまった。

クソ、こんな事になるならあんな恥ずかしいこと言うんじゃなかった。
 

「仲良さそうですね」


 「!?!?」
 
右耳から小声で呟く、白い女の姿に驚きを隠せなかった。サーシャが起きてきたのだ。
 
彼女の白い顔を見てみる。笑ってはいる、いるのだが何故だろう、恐怖を感じる。
 
「サーシャが起きてくるなんて珍しいね?」
 
「お喋りが聞こえて起きちゃいました。あ、わたしお邪魔でした?」
 
目が笑っていない、起こされたことに怒っているよりかは、仲間外れにされて怒っているのだろう。

でも仕方なくない?
 
「全然邪魔じゃないよ!むしろ話に・・・」
 
「この男がね?エッチな目であたしの事見てきたの!怖いよね~」
 
俺の言葉にリリナが被せてき、ありもしない事柄をべらべら話し始める。

そろそろ切れるぞお前。
 
「ヤナギさんって真面目な方だと思ってたんですけど、案外男の人なんですね。すごいと思います、わたしがいないところで結構お盛んだったなんて知りませんでした」
 
「ほんと、マジで、本当に!違うから!!!!」
 
「ねーえ~、嘘は良くないぞ~」
 
表情だけ笑っているサーシャと、責められている俺を見て楽しむリリナに板挟みに遭いながら、俺の夜は更けていく。
 
俺悪くないじゃん。
 
 
 



 
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