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怪しい彼女と謎編
13話 到着後の余計な仕事と謎の魔物
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「村に着いたぞ、俺は待機してるからちゃちゃっと終わらせてくれよな」
運転席からの掛け声に合わせて目が覚めた。
どうやら眠ってしまっていたみたいだ。
どうやら他二人は起きているみたいで、俺が起きるのを待つかのように俺の顔を覗き込んでいた。
俺の起床を確認した黒髪ゴスロリは、「フッ」と鼻で笑い最初に口を開いた。
「あら、お目覚め?いい夢見れたかしら?」
「うーん、ノンレム睡眠」
「なにそれ」と小馬鹿にした態度を取り、そそくさと荷台後方から外へ出る。
サーシャは「あ、おはようございます」と笑顔を向けた。
「俺どれくらい寝てた?」
「えっと1時間くらいですか?声かけても起きなかったので、どうしようかと思いましたよ」
『バレットウルフ』との戦闘から1時間が経過したということか。
4時間くらいで村に着いたと考えると、やはり荷馬車は便利かつ早いもんだ。
毎回依頼を受けた時は使いたいものだ。
「行くか」とサーシャに声を掛け、2人で荷台の外へ出る。
寝起きだからか日差しが眩しく目をしかめる。
そして現れる。
錆びた門に二人の甲冑を着た門番、その奥に広がっているのは意外と小綺麗な木造の家々。
その地域一帯を囲むような、地肌がむき出しで不規則な岩の山が圧巻の景観と共に寂しさを感じさせる。
ポツンポツンと老人や筋肉質の男性、若めの青年等が外を歩いている。
この村人たちはここで魔鉱石選別のプロたち、職人だ。
それと比べ女性の姿は少ない。
結婚している人は妻をローグに置いてここで就業している人がほとんどだからだ。
若干名の女性もまた職人で、趣が他の男性と変わらない雰囲気を醸し出している。
俺とサーシャは御者に「ありがとうございます」と声を掛け、リリナは俺たちについてくる形で村に入っていく。
俺たちの目的は、麓に出現するという魔物の調査。
そして、発生源を突き止めるというもので、あくまで戦闘を行うものではない。
状況によっては後日改めて、他パーティを引き連れ討伐隊を結成しなければならないし、俺たちが死んでは元も子もない。
安全第一である。
時と場合によるけど。
見たところ、そこまで魔物被害にあった様子は見受けられないが、油断はできない。
とりあえず情報収集をしないとな、まずは村の管理長に挨拶をし、状況を確認しに行くか。
今まで何回かここに来たことがある為、管理長の顔は一応分かっているつもりだ。
特徴は白髪に白い顎髭を蓄えた、腰が曲がっている眼鏡の老人。
この人は村では古株で、ローグ及び村の職人たちによって決定された代表者である。
そして、物腰は柔らかく人当たりが良い。長としては申し分ない。
俺たちは錆びれと小奇麗が錯綜する村を歩き始めた。
一応皆顔見知りな為、すれ違う人たちに「こんにちは」と挨拶を交わしながら周囲を見回す。
挨拶を返してくれる人や、うなずくだけの人、気さくに話しかけてくれる人と触れ合いながら、奥の方へと進んでいく。
ローグみたいに広い街というわけでもないが、それでも広いことに変わりはない。
外出している人が少ない分すぐに見つかると思ったのだが・・・
辺りを見回し歩いた結果、鉱山に続く北側の門まで来てしまった。
が、その北門には白髪の老人と3人の護衛隊が話をしている姿があった。
俺は申し訳ないと思いながらも、話途中の4人に割り込んだ。
「管理長こんにちは、『明けの明星』です。ギルドの依頼を受けてきました」
白髪の男性はくるっとこちらを振り向き、口元に白髭を蓄えた老人は俺たちを見るなり、ニコッと笑い「来てくれたか」と声を掛ける。
この人が管理長で間違いない。
「わざわざここまで来てくれてありがとう。早速調査に行ってもらいたいのだが、少し今状況が悪いんだ」
「状況ですか?」とサーシャは首を傾げながら話に入る。すると護衛隊の一人がこちらに事の経緯を伝えてきた。
「俺たちが皆さんが来る前にあらかじめ、鉱山付近に魔物が徘徊していないかどうか見に行こうと思ったんだが、新入りの新兵が書置きを残して、正義感からか鉱山に単独で行ってしまったんだ。顔合わせた時から暑苦しい奴だと思っていたが、まさか一人で見に行くとは思わなかったよ」
「え、そんな何が起こってもおかしくない状況なのに、無謀すぎだろ・・・」
「ああそうだ、先日も正体不明の魔物が2体ほど村に下りてきたんだが、仲間が1人負傷してしまったんだ。1体は倒したんだが、もう1体は逃げて行った。また魔物が来るかもしれないことを懸念して、慎重に行動する方針だったんだが・・・」
「やる気のある無能が一番やっかいよね」
「おい」とリリナの方を向き俺は睨む。
リリナは何事もなかったかのようにそっぽを向き始めた。
本当にこいつはなんでこう、イラン事を言うものかね。
言えたことじゃないけど、もう少し話す前に考えてほしいもんだ。
「ま、まあまあ、その新人さんの事も心配ですし、わたしたちで様子を見に行きませんか?」
気を利かせたのか、サーシャは重くなりそうな空気を払拭しようと提案する。
それもそうだ、ここにいたところで状況が動くわけではないし、その新人を探すと同時に調査を進めることが出来る。
管理長は「おお」と一言リアクションし、口ひげを弄りながら続けて話す。
「冒険者の方々が捜索してくれるのは心強い。村に下りてくる魔物の調査と並行して、新兵の捜索をお願いしたい」
「分かりました。必ず見つけ出します」
俺は管理長からの依頼を受諾すると、管理長が「ありがとう」と笑いながら頭を下げた。
それに続き甲冑の3人が「助かるよ」と俺たちに向かって同じように頭を下げ、一人が顔を上げ改めて口を開いた。
「俺たちが行きたいところではあるのだが、先日の謎の魔物1体ですら4人がかりでやっとだ。普段の魔物はそこまで手こずることはないのだが、俺達では戦力になりそうにない。よろしく頼む」
「はい」と力強く俺は相づちを打ち、俺たちは門をくぐるのだった。
◇◆◇
俺とサーシャ、リリナは山道を歩く。
空は明るく、歩くには困らない。
まわりには草花は一切なく、岩肌のみが景観を作り出し部分的には、崖となっている為注意が必要だ。
採掘場までの道のりは、所々危険だと思われる場所に柵による対策が施されている。
よほどのことがない限りは崖下に落ちることはまずないだろう。
となると、採掘場に新兵がいるのか、あるいは道中に正体不明の魔物によって、形も残らず食い殺されたか、だ。
ひとまずは今のところ、不審点は見つからないな。
「新人もなんで1人で飛び出して行っちゃうのかしらね」
暇だったのか、リリナが独り言のように呟いた。
「正義感がある方だったのでしょうね。新人とはいえ仲間の怪我が許せなかったんですかね」
「優しい人なのは分かるけど、無鉄砲だよね。よほど自分の力に自信があったか、ただ無策で突っ込んだだけか・・・」
「どちらにしたって、迷惑には変わりないわね。少しは物を考えて欲しいものね」
どの口が言ってんだこのゴスロリは、お前が言うな。
昨日の素直さはどこへやら、すっかり口悪い女に戻ってしまったようだ。
その時だった。
「うわああああああ」
男性の叫び声だ、しかもここから近い。
俺たちは駆け足で声の聞こえた現場に向かう。
そこまで遠くはなく、100メートル先の坑道入り口前にそれらは姿を現した。
そこには1体の魔物の姿と、地面に尻もちをつき慄える若い男性の姿だ。
恐らく例の新人だろう。
魔物はカニのようにも見えるし、ザリガニのようにも見える。
角ばった青い甲羅、右手には恐ろしく巨大なハサミ、6本の細い脚でなんとか体を支えている。
全長は1メートルくらいだが、俺が知っている甲殻類とは一線を画すでかさだ。
そして、あの巨大で歪なハサミにやられたら一たまりもないだろう。
「サーシャ準備を!」
「はい、リリナさんは下がっていてください」
リリナは少し後ろに下がり、俺とサーシャが甲殻類に近づいていく。
「『バリア』!」とサーシャの一言で新人の身体を守る魔法の壁を形成する。
サーシャの魔法が強くなったのか、甲殻類はバリアに向かって自前の大きなハサミを打ち付けるが、割れることはない。
俺は走りながら、魔法陣を展開し甲殻類に向かって雷魔法『ライトニング』を放つ。
バチっと甲羅に当たるが、効いている様子はない。
「魔法が効いてないんですか!?」
サーシャはその様子を見て驚く。
そして、違和感を感じた甲殻類はこちらを振り向いた。
1メートルの甲殻類は、よろよろと大きな甲羅を小さな6本足で健気に支えている。
やはり、甲羅部分に攻撃を当てても意味はないか。
となると・・・
「ヤナギさん!来ます!」
サーシャの一言と共に、横歩きではなく真っすぐに思ったよりも速い勢いで向かってきた。
俺は火の魔法陣を作り出し、自分の身体に負荷がかからない程度に、その上で魔力を初級魔法に必要な量を上回る量を込めて前方に打ち出す。
ワイバーンの時ならこの時点で俺は大ダメージを受けていただろうが、普段の修行によりあの時よりも、身体への負荷は少なくなっている。
「『ファイヤーショット』!」と俺の発した声と同時に、1メートルはある炎の玉を打ち出した。
「ヤナギさん!魔法は・・・」
大きな炎の球が甲殻類の顔面目掛けて飛んでいき、着弾。
身体を燃やしながら「キイイイイイイイイ」と絶叫するカニのような甲殻類は、ひっくり返りのたうち回る。そのままカニは動きが徐々に鈍っていく。
そして、ひっくり返り、剥き出しになったぶよぶよの腹に向かって、黄色い魔法陣を展開する。
魔法陣からは50センチほどの岩を生成し、『ストーンフィア』を飛ばす。
岩杖が腹に打ち込まれると同時に、腹の耐久力は限界を超え、紫の液体が辺り一面の岩場を汚す。
やがて甲殻類は動きを止めた。
俺は「ふう」と軽く息を吐いた。
とりあえずあの新人を救えたみたいだ。
サーシャは俺に近づいて来るや否や、首を傾げながら俺に質問をしてきた。
「すごいですねヤナギさん!火属性の魔法が弱点って知ってたんですか?」
「あーあれね、なんとなく熱いのが苦手かなと思ったんだけど、うまくいって良かったよ」
そう、ゲームの世界ではカニ等の甲殻生物は電気が弱点の事が多いのだが、実際は温度変化に極めて弱い。
それゆえに、火属性の魔法を放ったのだが、温度変化どころかあんなに燃え上がるとは思わなかった。
サーシャは「そうなんですか~」とぽかーんとしたような、しかし軽く納得したような微妙な顔を俺に見せてきた。
どんな顔?
リリナは戦闘が終わったことを確認したのか、重い盾により歩きにくそうな素振りでこちらに近づき、両手を腰に当てながら俺に一言述べる。
「あんたやるじゃん、こっち来るときはあんたの戦ってるところが見えなかったけど、ほんとに魔導士なのね。変な格好してるくせに」
彼女なりの誉め言葉だろうが何故か嬉しくない。
一言余計だっての。
「それより新人は!」と思い出したように俺は岩肌が広がる道の向こう、倒した魔物の奥を確認する。
彼はよろよろとこちらに歩いてくる。
見たところ怪我の心配はなさそうだ。
金色の髪を短髪に刈り上げた、新卒のような趣の彼は近づくなりこちらに会釈をすると、頭を掻きながら俺たちに感謝を述べ始めた。
「助けて頂いてありがとうございます!あのままやられていたらと考えるとぞっとしますね!」
ハキハキとしていてあまりに元気な印象の彼は、あまり自分が死んでたかもしれないとは思えない素振りだ。
馬鹿なのか?
「ええと、俺ら『明けの明星』ってパーティなんですけど、あなたが村から出てったって皆さん心配してましたよ?なんで1人でこんなところに」
「ほんと、まともなオツムじゃないわね」
俺が質問した後リリナが間髪容れずに憎まれ口を叩くと、それに対してサーシャは「まあまあ」とリリナを制止している。
このゴスロリは嫌味1つ言わないと死ぬのか?
「すいません・・・先輩がやられたとなったら怒りを抑えきれなくて・・・」
と新兵は申し訳なさそうに謝る。
どうやら単身で仲間の敵討ちをしに行った件については本当の事のようだ。
ナポレオンもこの新兵を見たら殴りつけるだろうな。
「とりあえず、新兵さんも見つかりましたし、一度村に送りましょう。その後でわたしたちは採掘場の調査にいきませんか?」
「サーシャの言う通りだね。また新兵の人に何かあっても困るし、一度戻るか」
俺たちは結論を出し、とりあえず新兵を村に連れ帰ることにした。
それに対し新兵もあっさりと了承したようで、来た道を戻り4人で歩みを進めるのだった。
運転席からの掛け声に合わせて目が覚めた。
どうやら眠ってしまっていたみたいだ。
どうやら他二人は起きているみたいで、俺が起きるのを待つかのように俺の顔を覗き込んでいた。
俺の起床を確認した黒髪ゴスロリは、「フッ」と鼻で笑い最初に口を開いた。
「あら、お目覚め?いい夢見れたかしら?」
「うーん、ノンレム睡眠」
「なにそれ」と小馬鹿にした態度を取り、そそくさと荷台後方から外へ出る。
サーシャは「あ、おはようございます」と笑顔を向けた。
「俺どれくらい寝てた?」
「えっと1時間くらいですか?声かけても起きなかったので、どうしようかと思いましたよ」
『バレットウルフ』との戦闘から1時間が経過したということか。
4時間くらいで村に着いたと考えると、やはり荷馬車は便利かつ早いもんだ。
毎回依頼を受けた時は使いたいものだ。
「行くか」とサーシャに声を掛け、2人で荷台の外へ出る。
寝起きだからか日差しが眩しく目をしかめる。
そして現れる。
錆びた門に二人の甲冑を着た門番、その奥に広がっているのは意外と小綺麗な木造の家々。
その地域一帯を囲むような、地肌がむき出しで不規則な岩の山が圧巻の景観と共に寂しさを感じさせる。
ポツンポツンと老人や筋肉質の男性、若めの青年等が外を歩いている。
この村人たちはここで魔鉱石選別のプロたち、職人だ。
それと比べ女性の姿は少ない。
結婚している人は妻をローグに置いてここで就業している人がほとんどだからだ。
若干名の女性もまた職人で、趣が他の男性と変わらない雰囲気を醸し出している。
俺とサーシャは御者に「ありがとうございます」と声を掛け、リリナは俺たちについてくる形で村に入っていく。
俺たちの目的は、麓に出現するという魔物の調査。
そして、発生源を突き止めるというもので、あくまで戦闘を行うものではない。
状況によっては後日改めて、他パーティを引き連れ討伐隊を結成しなければならないし、俺たちが死んでは元も子もない。
安全第一である。
時と場合によるけど。
見たところ、そこまで魔物被害にあった様子は見受けられないが、油断はできない。
とりあえず情報収集をしないとな、まずは村の管理長に挨拶をし、状況を確認しに行くか。
今まで何回かここに来たことがある為、管理長の顔は一応分かっているつもりだ。
特徴は白髪に白い顎髭を蓄えた、腰が曲がっている眼鏡の老人。
この人は村では古株で、ローグ及び村の職人たちによって決定された代表者である。
そして、物腰は柔らかく人当たりが良い。長としては申し分ない。
俺たちは錆びれと小奇麗が錯綜する村を歩き始めた。
一応皆顔見知りな為、すれ違う人たちに「こんにちは」と挨拶を交わしながら周囲を見回す。
挨拶を返してくれる人や、うなずくだけの人、気さくに話しかけてくれる人と触れ合いながら、奥の方へと進んでいく。
ローグみたいに広い街というわけでもないが、それでも広いことに変わりはない。
外出している人が少ない分すぐに見つかると思ったのだが・・・
辺りを見回し歩いた結果、鉱山に続く北側の門まで来てしまった。
が、その北門には白髪の老人と3人の護衛隊が話をしている姿があった。
俺は申し訳ないと思いながらも、話途中の4人に割り込んだ。
「管理長こんにちは、『明けの明星』です。ギルドの依頼を受けてきました」
白髪の男性はくるっとこちらを振り向き、口元に白髭を蓄えた老人は俺たちを見るなり、ニコッと笑い「来てくれたか」と声を掛ける。
この人が管理長で間違いない。
「わざわざここまで来てくれてありがとう。早速調査に行ってもらいたいのだが、少し今状況が悪いんだ」
「状況ですか?」とサーシャは首を傾げながら話に入る。すると護衛隊の一人がこちらに事の経緯を伝えてきた。
「俺たちが皆さんが来る前にあらかじめ、鉱山付近に魔物が徘徊していないかどうか見に行こうと思ったんだが、新入りの新兵が書置きを残して、正義感からか鉱山に単独で行ってしまったんだ。顔合わせた時から暑苦しい奴だと思っていたが、まさか一人で見に行くとは思わなかったよ」
「え、そんな何が起こってもおかしくない状況なのに、無謀すぎだろ・・・」
「ああそうだ、先日も正体不明の魔物が2体ほど村に下りてきたんだが、仲間が1人負傷してしまったんだ。1体は倒したんだが、もう1体は逃げて行った。また魔物が来るかもしれないことを懸念して、慎重に行動する方針だったんだが・・・」
「やる気のある無能が一番やっかいよね」
「おい」とリリナの方を向き俺は睨む。
リリナは何事もなかったかのようにそっぽを向き始めた。
本当にこいつはなんでこう、イラン事を言うものかね。
言えたことじゃないけど、もう少し話す前に考えてほしいもんだ。
「ま、まあまあ、その新人さんの事も心配ですし、わたしたちで様子を見に行きませんか?」
気を利かせたのか、サーシャは重くなりそうな空気を払拭しようと提案する。
それもそうだ、ここにいたところで状況が動くわけではないし、その新人を探すと同時に調査を進めることが出来る。
管理長は「おお」と一言リアクションし、口ひげを弄りながら続けて話す。
「冒険者の方々が捜索してくれるのは心強い。村に下りてくる魔物の調査と並行して、新兵の捜索をお願いしたい」
「分かりました。必ず見つけ出します」
俺は管理長からの依頼を受諾すると、管理長が「ありがとう」と笑いながら頭を下げた。
それに続き甲冑の3人が「助かるよ」と俺たちに向かって同じように頭を下げ、一人が顔を上げ改めて口を開いた。
「俺たちが行きたいところではあるのだが、先日の謎の魔物1体ですら4人がかりでやっとだ。普段の魔物はそこまで手こずることはないのだが、俺達では戦力になりそうにない。よろしく頼む」
「はい」と力強く俺は相づちを打ち、俺たちは門をくぐるのだった。
◇◆◇
俺とサーシャ、リリナは山道を歩く。
空は明るく、歩くには困らない。
まわりには草花は一切なく、岩肌のみが景観を作り出し部分的には、崖となっている為注意が必要だ。
採掘場までの道のりは、所々危険だと思われる場所に柵による対策が施されている。
よほどのことがない限りは崖下に落ちることはまずないだろう。
となると、採掘場に新兵がいるのか、あるいは道中に正体不明の魔物によって、形も残らず食い殺されたか、だ。
ひとまずは今のところ、不審点は見つからないな。
「新人もなんで1人で飛び出して行っちゃうのかしらね」
暇だったのか、リリナが独り言のように呟いた。
「正義感がある方だったのでしょうね。新人とはいえ仲間の怪我が許せなかったんですかね」
「優しい人なのは分かるけど、無鉄砲だよね。よほど自分の力に自信があったか、ただ無策で突っ込んだだけか・・・」
「どちらにしたって、迷惑には変わりないわね。少しは物を考えて欲しいものね」
どの口が言ってんだこのゴスロリは、お前が言うな。
昨日の素直さはどこへやら、すっかり口悪い女に戻ってしまったようだ。
その時だった。
「うわああああああ」
男性の叫び声だ、しかもここから近い。
俺たちは駆け足で声の聞こえた現場に向かう。
そこまで遠くはなく、100メートル先の坑道入り口前にそれらは姿を現した。
そこには1体の魔物の姿と、地面に尻もちをつき慄える若い男性の姿だ。
恐らく例の新人だろう。
魔物はカニのようにも見えるし、ザリガニのようにも見える。
角ばった青い甲羅、右手には恐ろしく巨大なハサミ、6本の細い脚でなんとか体を支えている。
全長は1メートルくらいだが、俺が知っている甲殻類とは一線を画すでかさだ。
そして、あの巨大で歪なハサミにやられたら一たまりもないだろう。
「サーシャ準備を!」
「はい、リリナさんは下がっていてください」
リリナは少し後ろに下がり、俺とサーシャが甲殻類に近づいていく。
「『バリア』!」とサーシャの一言で新人の身体を守る魔法の壁を形成する。
サーシャの魔法が強くなったのか、甲殻類はバリアに向かって自前の大きなハサミを打ち付けるが、割れることはない。
俺は走りながら、魔法陣を展開し甲殻類に向かって雷魔法『ライトニング』を放つ。
バチっと甲羅に当たるが、効いている様子はない。
「魔法が効いてないんですか!?」
サーシャはその様子を見て驚く。
そして、違和感を感じた甲殻類はこちらを振り向いた。
1メートルの甲殻類は、よろよろと大きな甲羅を小さな6本足で健気に支えている。
やはり、甲羅部分に攻撃を当てても意味はないか。
となると・・・
「ヤナギさん!来ます!」
サーシャの一言と共に、横歩きではなく真っすぐに思ったよりも速い勢いで向かってきた。
俺は火の魔法陣を作り出し、自分の身体に負荷がかからない程度に、その上で魔力を初級魔法に必要な量を上回る量を込めて前方に打ち出す。
ワイバーンの時ならこの時点で俺は大ダメージを受けていただろうが、普段の修行によりあの時よりも、身体への負荷は少なくなっている。
「『ファイヤーショット』!」と俺の発した声と同時に、1メートルはある炎の玉を打ち出した。
「ヤナギさん!魔法は・・・」
大きな炎の球が甲殻類の顔面目掛けて飛んでいき、着弾。
身体を燃やしながら「キイイイイイイイイ」と絶叫するカニのような甲殻類は、ひっくり返りのたうち回る。そのままカニは動きが徐々に鈍っていく。
そして、ひっくり返り、剥き出しになったぶよぶよの腹に向かって、黄色い魔法陣を展開する。
魔法陣からは50センチほどの岩を生成し、『ストーンフィア』を飛ばす。
岩杖が腹に打ち込まれると同時に、腹の耐久力は限界を超え、紫の液体が辺り一面の岩場を汚す。
やがて甲殻類は動きを止めた。
俺は「ふう」と軽く息を吐いた。
とりあえずあの新人を救えたみたいだ。
サーシャは俺に近づいて来るや否や、首を傾げながら俺に質問をしてきた。
「すごいですねヤナギさん!火属性の魔法が弱点って知ってたんですか?」
「あーあれね、なんとなく熱いのが苦手かなと思ったんだけど、うまくいって良かったよ」
そう、ゲームの世界ではカニ等の甲殻生物は電気が弱点の事が多いのだが、実際は温度変化に極めて弱い。
それゆえに、火属性の魔法を放ったのだが、温度変化どころかあんなに燃え上がるとは思わなかった。
サーシャは「そうなんですか~」とぽかーんとしたような、しかし軽く納得したような微妙な顔を俺に見せてきた。
どんな顔?
リリナは戦闘が終わったことを確認したのか、重い盾により歩きにくそうな素振りでこちらに近づき、両手を腰に当てながら俺に一言述べる。
「あんたやるじゃん、こっち来るときはあんたの戦ってるところが見えなかったけど、ほんとに魔導士なのね。変な格好してるくせに」
彼女なりの誉め言葉だろうが何故か嬉しくない。
一言余計だっての。
「それより新人は!」と思い出したように俺は岩肌が広がる道の向こう、倒した魔物の奥を確認する。
彼はよろよろとこちらに歩いてくる。
見たところ怪我の心配はなさそうだ。
金色の髪を短髪に刈り上げた、新卒のような趣の彼は近づくなりこちらに会釈をすると、頭を掻きながら俺たちに感謝を述べ始めた。
「助けて頂いてありがとうございます!あのままやられていたらと考えるとぞっとしますね!」
ハキハキとしていてあまりに元気な印象の彼は、あまり自分が死んでたかもしれないとは思えない素振りだ。
馬鹿なのか?
「ええと、俺ら『明けの明星』ってパーティなんですけど、あなたが村から出てったって皆さん心配してましたよ?なんで1人でこんなところに」
「ほんと、まともなオツムじゃないわね」
俺が質問した後リリナが間髪容れずに憎まれ口を叩くと、それに対してサーシャは「まあまあ」とリリナを制止している。
このゴスロリは嫌味1つ言わないと死ぬのか?
「すいません・・・先輩がやられたとなったら怒りを抑えきれなくて・・・」
と新兵は申し訳なさそうに謝る。
どうやら単身で仲間の敵討ちをしに行った件については本当の事のようだ。
ナポレオンもこの新兵を見たら殴りつけるだろうな。
「とりあえず、新兵さんも見つかりましたし、一度村に送りましょう。その後でわたしたちは採掘場の調査にいきませんか?」
「サーシャの言う通りだね。また新兵の人に何かあっても困るし、一度戻るか」
俺たちは結論を出し、とりあえず新兵を村に連れ帰ることにした。
それに対し新兵もあっさりと了承したようで、来た道を戻り4人で歩みを進めるのだった。
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