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怪しい彼女と謎編
14話 謎の魔物の大群と信用
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歩いてからしばらく経ち、足元がおぼつかない岩場を下りながら、もう少しで村に着くところまで来た。
戻る過程で会話はあまりなかったのだが、急に新人が俺たちに向き直り、話しかけてきた。
「それにしても皆さんお強いんですね!冒険者ってすごいな~・・・結構歴は長いんですか?」
「いや、まだパーティ作ってから一か月くらいですかね?俺らなんてまだまだですよ」
謎に褒め始めたので、一応社交辞令で謙遜しておく。
一応王都の新兵ではあるが、冒険者にでもなりたかったのだろうか。
「1か月ですか!いやー尊敬します!冒険者なんていつ死ぬか分からないし、自分じゃあとても」
なんだ?褒めてんのか煽ってんのか分からないな。
それを言うなら騎士だって条件は一緒だろ。
妙に棘のある言い方だ、天然で言ってるのか意図してなのか。
まあ、表面上の付き合いだけで、今後付き合いは少ないと思うから気にするのはやめとくか。
「新兵さんはなんで騎士になったんですか?」とサーシャは質問をした。
すると新人は「うーん」と空を見上げながら考え始めた。
そんなに迷うことなのだろうか。
一連の流れからもっと熱血で、自分なりの人生観みたいなものがあるもんだと思ってたんだけど・・・
「そうですね~僕は・・・」
言いかけたその時だった。
俺たちの後ろを歩くリリナが俺たちに「ちょっと!」と大声を上げたのだ。
俺たちはリリナの方を見ると、彼女は後ろを指さし、驚愕していた。
「あれ、やばいんじゃないの!?」
指さす方向、岩だらけで雑草一つない採掘場へと続く道の向こうに、俺は釘付けになってしまった。
さっきの甲殻類の魔物が、いや魔物達が進軍してきていたのだ。
20体はいるだろうか、そのうち19体はさっき俺たちが倒した魔物と同じ個体のようだ。
しかし、その後ろにいる奇妙な‘そいつ’は、こちらに大きな重圧を与えるほどの存在感を発していた。
「なによあれ・・・あんなのがここにいるわけ・・・」
「か、数が多いです・・・1体ならともかくあんなのが村に来たら・・・」
リリナとサーシャの血の気が引いている。
さっきの魔物ですら、倒すのに魔力消費が多かったのに、あれが19体もいるとなるとぞっとする。
そして、後ろの存在感を表す異形の存在に目が行く。
全体が薄紫色で、若干黒が混じっているようなクリスタルで形成されており、透明感がありながらも太陽の光を通さない。
3メートルはあろう巨大な体格。
ひし形立体をさらに歪にしたような大きなクリスタルから生えている、両腕らしきものも、先端の大きなハサミも、身体を支える4本の脚も、すべて個々のクリスタルで成っている。
その体の主軸となる大きなクリスタルの中から覗く、ぶよぶよした青い血管が目立つ、薄黒い白子のような物体の真ん中には、こちらを下に見るような1個の真っ赤な眼球。
綺麗とおぞましさを兼ね備えたその物体と、周りの1メートルの甲殻類。
こいつらをまとめて相手にしないといけない絶望感と、これ以上行かせてはいけないという責任感が俺の身体を渦巻いた。
俺は、手のひらにかいた汗を握り潰すように、ぐっと力を込め決意を固めた。
これ以上行かせる前にここで、こいつらをまとめて倒さないと村が終わる。
「サーシャ!やるぞ!」
「はい!行かせるわけにはいきません!」
俺はサーシャに呼びかけ、戦闘態勢に入る。
俺は魔法陣を、サーシャは杖を構え異形のあいつらを迎え撃つ。
リリナと新人を巻き込むわけにはいかない。
俺とサーシャは前に出る。
そして、後ろにいる彼らの方を向き、逃げるよう伝えた。
「リリナと新兵は村に逃げろ!巻き込むわけにはいかない!」
「いや、でも!」
とリリナはスカートの裾をぐっと掴みながら歯切れ悪く答える。
しかし、新兵がリリナの腕を掴み村に戻るよう促す。
「ダメです、彼らが逃げろと言っている以上、僕たちは行きましょう!」
「や、えっと、あ、あたし・・・」
どうやらリリナも戦闘に入りたいように思える。
しかし、彼女は戦闘能力のないあくまで同行の一般人。
責任は取れないと言ったが、今なら彼らを逃がすのにまだ間に合う。
瞬間、
後ろにいる巨大な化け物が水色魔法陣を出し、氷塊をこちら目がけて乱射し始めた。
「なっ!?」
前に向き直る。
無数の氷のつぶてが俺達に襲い掛かる。
こいつ、魔法を使えるのか・・・!
「『シェルドーム』!」とサーシャの掛け声とともに現れるドーム状の防御魔法。
全体を防ぐにはちょうどいい魔法だ。
しかし、展開時間はそう長くはない。
大きな氷の雨がドームに降り注ぎ、無数の金属音のような耳障りな音を出しながら、氷は壁によって砕け散る。
今がチャンスだ、早く彼らを逃がさなければ。
「逃げろ!・・・大丈夫!俺を信用しろ!」
進行が進み、大きな透明なドームが多数の粒を防ぐ中、もう一度後ろに向き直り叫ぶ。
「・・・・・っ!」
リリナは村の方へ向き直り、新兵と一緒に走り始める。
どうやら言う通りにしてくれたらしい。
とりあえず、逃がすことはできた、あとは目の前の敵に集中して倒すだけ・・・と言ってもこの数を相手にすると考えると背中が凍り付く。
やがて氷の粒の猛襲が止むと同時にドームも砕け散り、粒子のように消える。
「ありがとうサーシャ!たすかった」
ドス
右脚太ももへの違和感。
その違和感はじわじわと痛みに切り替わり、俺の脳天に大きな痛覚の信号が上る。
太ももには、握りこぶしほどの鋭利な氷塊が突き刺さっていた。
血が染み、脚が痛みで立つことを拒絶するかのように力が抜けそうになる。
「がっ!!!ぐっ・・・・!!!!」
「ヤナギさん!!!!」
痛みをこらえ、俺は氷を右手で渾身の力を込めて引き抜く。
痛みで声が出る。
抜いた傷口から血が噴き出す。
穴が開いたところから風が入り、激痛が俺に諦めろと諭すようだ。
ふざけんじゃねえ。
「『フェアリーサークル』!」
サーシャの掛け声とともに、俺とサーシャの足元には大きな薄緑の魔法陣が現れ、そこらからは光の粒子が昇ってくる。
そして、その粒子は俺の傷口に向かって集まっていき、徐々に穴を塞いでいく。
「これで少しの間は怪我しても大丈夫です!でも使えてあと1回なので過信しないでください!」
「助かる!」
しかしどうする、1体1体を相手にすることはできない。
かといってこのまま待ってても、大勢にやられて終わりだ。
甲殻類の魔物は、俺が作った1メートルほどの『ファイヤーショット』で倒せるレベル。
これを19体に当てなければならない。
しかし、全員倒すまでにこちらのスタミナが尽きてしまう。
しかもその後には、クリスタルでできた化け物が待ち構えている。
俺が最近覚えた中級魔法では、確実に倒せる手段にもならない。
なぜなら、正面からの魔法は、火属性以外は通さないからだ。
さっきの『ライトニング』が効かなかったことが物語っている。
魔法だけではだめだ、何か周りに使えるものはないか・・・
俺は周囲を見回す。
向こう50メートル先の右側の岩場には、10メートルはあろう大きな岩。
その岩はちょうど進軍してくる道の方へ少しではあるが傾いている。
ご都合主義すぎると思いつつも、今は感謝しかない。
あれで魔物を潰せば・・・いや足りないか。
仮に甲殻類をある程度押しつぶせたとして、その後残った奴らがこちらに来てしまう。
仮にうまくバリケードのように道を塞いだとしても、時間稼ぎが少し出来るだけ。
いや、もしくは・・・
ハッとした。
遠方から、また氷の礫が無数に襲ってきた。
それに対応して、サーシャはまた『シェルドーム』を展開し氷を弾いていくが、魔力消費が激しいのかサーシャの息が上がってきているのを感じる。
やがてドームが消え、残った氷の塊が俺の腕や肩に突き刺さる。
痛みをこらえ、刺さった氷をぶっこ抜く。
そして、サーシャが展開してくれた『フェアリーサークル』によって傷口が徐々に塞がっていく。
息が上がっているサーシャの方へ振り向き、声を掛ける。
「サーシャ大丈夫か?」
「な、なんとか。・・・次来たら危ないかもしれません・・・」
考えていても仕方がない。
俺は足元に1メートルほどの黄色い魔法陣を展開する。
そして両手を地につけ大量の魔力を流し込む。
体が軋む。痛みは感じないが、身体全体が鉛のように重い。
この魔法も使えて1日ギリギリ2回だ。
それも万全の状態が前提だ。
どんどん甲殻類がこちらに向かってくる。
そうだ、この岩石の横まで引き付けて・・・
俺がハウクスさんから教えられた、初めての中級地属性魔法
「『ロックブレイク』!」
流し込んだ魔力から創られる、6本の巨大な岩柱。
うち3本の岩石は意志を持ったかのように、目標である大きな岩まで、上下しながら自動車のようなスピードで動き始める。
「ヤナギさん!どこに魔法を!あ、道を塞ぐ気ですか!」
ものすごいスピードで進行する3本の岩石は、やがて道側に傾いた10メートルほど大きな岩に到着する。
ドゴンと大きな音とともにバラバラに破壊され、岩の1つ1つが雨のように甲殻類たちを襲う。
残り3本の岩柱は、魔物の群れの方へと向かっていき、テントの骨のように甲殻類達の周りに3点配置され、瓦礫から甲殻類達を守る。
間髪容れずに俺は、右手から1メートルほどの『ファイヤーショット』を甲殻類目掛けて飛ばす。
その炎は甲殻類何体かを燃やし、後方の魔物を塞き止める姿を確認しながら、そいつらは崩れ行くバラバラの岩に覆われ、やがて大きな岩山となりクリスタルの化け物ごと呑み込みつくす。
身体が重い……。
まるで強力な磁石で地面に引き寄せられるようだ。
立ってはいられなくなり、俺は片膝をついた。
「や、やったんですか……?」
「いや……まだだ、こっから」
俺はさらにここから追撃をする。
俺は足元に魔法陣を作り出し、必要最低限の魔力で中級魔法を練る。
そして、魔法陣から先ほどよりも小さい1本の岩柱が出現し、甲殻類がいるであろう岩山に向かって地面を這わせる。
「うまくいってくれよ」と呟きながら俺は、体力が限界に達したため俯いてしまう。
前のように体の痛みはない、日ごろの鍛錬の賜物だろうか。
それでも体には負荷がかかっているのか、身体に自由が利かないようだ。
上下運動をしながら地を這う1本の岩柱は、魔物達がいるであろう岩山に到着するなり、かまくらの入り口を思わせるように、岩石の山に入り口を作る。
入り口にはつぶれていない魔物達がひしめいていたが、まもなく大規模な爆発が引き起こり、入り口から炎が燃え上がる。
まるで地獄の業火だ。
そして、甲殻類たちの姿は爆発的な炎によって見えなくなる。
火のある密閉空間に空気が入ると、急激に火が燃焼し爆発する。爆発するらしい。
バックドラフト。
先ほど打ち出した岩石を3本柱にすることで、少なくとも多少の空間があるはずだ。
そこで俺は、一か八か甲殻類が燃えるように火属性魔法を撃つ。
密閉空間の中、くすぶらせた火に空気を送るために、密閉空間であろう岩山に穴をあけるために、無理やり入り口を作り出し、空気を供給させたというわけだ。
転生前の世界で行ったことがある、某遊園地のアトラクションの事を思い出せて良かった。
先ほど、甲殻類との戦闘で、魔物の身体が燃えることはあらかじめわかっていた。
そこで先ほど思いついたのだ。
まあ、半ば賭けに近かったのだが、とりあえず何とかなったし結果オーライだろう。
「わ、爆発しました!どういうことですか!?」
「たまたまうまくいったんだよ・・・」
サーシャの疑問に対し、変に説明をせず流す俺。
極度の疲労により説明する気力すら今はない。
俺は、燃え上がる魔物達の様子を確認しながら、炎の行く末を見届けるのだった。
戻る過程で会話はあまりなかったのだが、急に新人が俺たちに向き直り、話しかけてきた。
「それにしても皆さんお強いんですね!冒険者ってすごいな~・・・結構歴は長いんですか?」
「いや、まだパーティ作ってから一か月くらいですかね?俺らなんてまだまだですよ」
謎に褒め始めたので、一応社交辞令で謙遜しておく。
一応王都の新兵ではあるが、冒険者にでもなりたかったのだろうか。
「1か月ですか!いやー尊敬します!冒険者なんていつ死ぬか分からないし、自分じゃあとても」
なんだ?褒めてんのか煽ってんのか分からないな。
それを言うなら騎士だって条件は一緒だろ。
妙に棘のある言い方だ、天然で言ってるのか意図してなのか。
まあ、表面上の付き合いだけで、今後付き合いは少ないと思うから気にするのはやめとくか。
「新兵さんはなんで騎士になったんですか?」とサーシャは質問をした。
すると新人は「うーん」と空を見上げながら考え始めた。
そんなに迷うことなのだろうか。
一連の流れからもっと熱血で、自分なりの人生観みたいなものがあるもんだと思ってたんだけど・・・
「そうですね~僕は・・・」
言いかけたその時だった。
俺たちの後ろを歩くリリナが俺たちに「ちょっと!」と大声を上げたのだ。
俺たちはリリナの方を見ると、彼女は後ろを指さし、驚愕していた。
「あれ、やばいんじゃないの!?」
指さす方向、岩だらけで雑草一つない採掘場へと続く道の向こうに、俺は釘付けになってしまった。
さっきの甲殻類の魔物が、いや魔物達が進軍してきていたのだ。
20体はいるだろうか、そのうち19体はさっき俺たちが倒した魔物と同じ個体のようだ。
しかし、その後ろにいる奇妙な‘そいつ’は、こちらに大きな重圧を与えるほどの存在感を発していた。
「なによあれ・・・あんなのがここにいるわけ・・・」
「か、数が多いです・・・1体ならともかくあんなのが村に来たら・・・」
リリナとサーシャの血の気が引いている。
さっきの魔物ですら、倒すのに魔力消費が多かったのに、あれが19体もいるとなるとぞっとする。
そして、後ろの存在感を表す異形の存在に目が行く。
全体が薄紫色で、若干黒が混じっているようなクリスタルで形成されており、透明感がありながらも太陽の光を通さない。
3メートルはあろう巨大な体格。
ひし形立体をさらに歪にしたような大きなクリスタルから生えている、両腕らしきものも、先端の大きなハサミも、身体を支える4本の脚も、すべて個々のクリスタルで成っている。
その体の主軸となる大きなクリスタルの中から覗く、ぶよぶよした青い血管が目立つ、薄黒い白子のような物体の真ん中には、こちらを下に見るような1個の真っ赤な眼球。
綺麗とおぞましさを兼ね備えたその物体と、周りの1メートルの甲殻類。
こいつらをまとめて相手にしないといけない絶望感と、これ以上行かせてはいけないという責任感が俺の身体を渦巻いた。
俺は、手のひらにかいた汗を握り潰すように、ぐっと力を込め決意を固めた。
これ以上行かせる前にここで、こいつらをまとめて倒さないと村が終わる。
「サーシャ!やるぞ!」
「はい!行かせるわけにはいきません!」
俺はサーシャに呼びかけ、戦闘態勢に入る。
俺は魔法陣を、サーシャは杖を構え異形のあいつらを迎え撃つ。
リリナと新人を巻き込むわけにはいかない。
俺とサーシャは前に出る。
そして、後ろにいる彼らの方を向き、逃げるよう伝えた。
「リリナと新兵は村に逃げろ!巻き込むわけにはいかない!」
「いや、でも!」
とリリナはスカートの裾をぐっと掴みながら歯切れ悪く答える。
しかし、新兵がリリナの腕を掴み村に戻るよう促す。
「ダメです、彼らが逃げろと言っている以上、僕たちは行きましょう!」
「や、えっと、あ、あたし・・・」
どうやらリリナも戦闘に入りたいように思える。
しかし、彼女は戦闘能力のないあくまで同行の一般人。
責任は取れないと言ったが、今なら彼らを逃がすのにまだ間に合う。
瞬間、
後ろにいる巨大な化け物が水色魔法陣を出し、氷塊をこちら目がけて乱射し始めた。
「なっ!?」
前に向き直る。
無数の氷のつぶてが俺達に襲い掛かる。
こいつ、魔法を使えるのか・・・!
「『シェルドーム』!」とサーシャの掛け声とともに現れるドーム状の防御魔法。
全体を防ぐにはちょうどいい魔法だ。
しかし、展開時間はそう長くはない。
大きな氷の雨がドームに降り注ぎ、無数の金属音のような耳障りな音を出しながら、氷は壁によって砕け散る。
今がチャンスだ、早く彼らを逃がさなければ。
「逃げろ!・・・大丈夫!俺を信用しろ!」
進行が進み、大きな透明なドームが多数の粒を防ぐ中、もう一度後ろに向き直り叫ぶ。
「・・・・・っ!」
リリナは村の方へ向き直り、新兵と一緒に走り始める。
どうやら言う通りにしてくれたらしい。
とりあえず、逃がすことはできた、あとは目の前の敵に集中して倒すだけ・・・と言ってもこの数を相手にすると考えると背中が凍り付く。
やがて氷の粒の猛襲が止むと同時にドームも砕け散り、粒子のように消える。
「ありがとうサーシャ!たすかった」
ドス
右脚太ももへの違和感。
その違和感はじわじわと痛みに切り替わり、俺の脳天に大きな痛覚の信号が上る。
太ももには、握りこぶしほどの鋭利な氷塊が突き刺さっていた。
血が染み、脚が痛みで立つことを拒絶するかのように力が抜けそうになる。
「がっ!!!ぐっ・・・・!!!!」
「ヤナギさん!!!!」
痛みをこらえ、俺は氷を右手で渾身の力を込めて引き抜く。
痛みで声が出る。
抜いた傷口から血が噴き出す。
穴が開いたところから風が入り、激痛が俺に諦めろと諭すようだ。
ふざけんじゃねえ。
「『フェアリーサークル』!」
サーシャの掛け声とともに、俺とサーシャの足元には大きな薄緑の魔法陣が現れ、そこらからは光の粒子が昇ってくる。
そして、その粒子は俺の傷口に向かって集まっていき、徐々に穴を塞いでいく。
「これで少しの間は怪我しても大丈夫です!でも使えてあと1回なので過信しないでください!」
「助かる!」
しかしどうする、1体1体を相手にすることはできない。
かといってこのまま待ってても、大勢にやられて終わりだ。
甲殻類の魔物は、俺が作った1メートルほどの『ファイヤーショット』で倒せるレベル。
これを19体に当てなければならない。
しかし、全員倒すまでにこちらのスタミナが尽きてしまう。
しかもその後には、クリスタルでできた化け物が待ち構えている。
俺が最近覚えた中級魔法では、確実に倒せる手段にもならない。
なぜなら、正面からの魔法は、火属性以外は通さないからだ。
さっきの『ライトニング』が効かなかったことが物語っている。
魔法だけではだめだ、何か周りに使えるものはないか・・・
俺は周囲を見回す。
向こう50メートル先の右側の岩場には、10メートルはあろう大きな岩。
その岩はちょうど進軍してくる道の方へ少しではあるが傾いている。
ご都合主義すぎると思いつつも、今は感謝しかない。
あれで魔物を潰せば・・・いや足りないか。
仮に甲殻類をある程度押しつぶせたとして、その後残った奴らがこちらに来てしまう。
仮にうまくバリケードのように道を塞いだとしても、時間稼ぎが少し出来るだけ。
いや、もしくは・・・
ハッとした。
遠方から、また氷の礫が無数に襲ってきた。
それに対応して、サーシャはまた『シェルドーム』を展開し氷を弾いていくが、魔力消費が激しいのかサーシャの息が上がってきているのを感じる。
やがてドームが消え、残った氷の塊が俺の腕や肩に突き刺さる。
痛みをこらえ、刺さった氷をぶっこ抜く。
そして、サーシャが展開してくれた『フェアリーサークル』によって傷口が徐々に塞がっていく。
息が上がっているサーシャの方へ振り向き、声を掛ける。
「サーシャ大丈夫か?」
「な、なんとか。・・・次来たら危ないかもしれません・・・」
考えていても仕方がない。
俺は足元に1メートルほどの黄色い魔法陣を展開する。
そして両手を地につけ大量の魔力を流し込む。
体が軋む。痛みは感じないが、身体全体が鉛のように重い。
この魔法も使えて1日ギリギリ2回だ。
それも万全の状態が前提だ。
どんどん甲殻類がこちらに向かってくる。
そうだ、この岩石の横まで引き付けて・・・
俺がハウクスさんから教えられた、初めての中級地属性魔法
「『ロックブレイク』!」
流し込んだ魔力から創られる、6本の巨大な岩柱。
うち3本の岩石は意志を持ったかのように、目標である大きな岩まで、上下しながら自動車のようなスピードで動き始める。
「ヤナギさん!どこに魔法を!あ、道を塞ぐ気ですか!」
ものすごいスピードで進行する3本の岩石は、やがて道側に傾いた10メートルほど大きな岩に到着する。
ドゴンと大きな音とともにバラバラに破壊され、岩の1つ1つが雨のように甲殻類たちを襲う。
残り3本の岩柱は、魔物の群れの方へと向かっていき、テントの骨のように甲殻類達の周りに3点配置され、瓦礫から甲殻類達を守る。
間髪容れずに俺は、右手から1メートルほどの『ファイヤーショット』を甲殻類目掛けて飛ばす。
その炎は甲殻類何体かを燃やし、後方の魔物を塞き止める姿を確認しながら、そいつらは崩れ行くバラバラの岩に覆われ、やがて大きな岩山となりクリスタルの化け物ごと呑み込みつくす。
身体が重い……。
まるで強力な磁石で地面に引き寄せられるようだ。
立ってはいられなくなり、俺は片膝をついた。
「や、やったんですか……?」
「いや……まだだ、こっから」
俺はさらにここから追撃をする。
俺は足元に魔法陣を作り出し、必要最低限の魔力で中級魔法を練る。
そして、魔法陣から先ほどよりも小さい1本の岩柱が出現し、甲殻類がいるであろう岩山に向かって地面を這わせる。
「うまくいってくれよ」と呟きながら俺は、体力が限界に達したため俯いてしまう。
前のように体の痛みはない、日ごろの鍛錬の賜物だろうか。
それでも体には負荷がかかっているのか、身体に自由が利かないようだ。
上下運動をしながら地を這う1本の岩柱は、魔物達がいるであろう岩山に到着するなり、かまくらの入り口を思わせるように、岩石の山に入り口を作る。
入り口にはつぶれていない魔物達がひしめいていたが、まもなく大規模な爆発が引き起こり、入り口から炎が燃え上がる。
まるで地獄の業火だ。
そして、甲殻類たちの姿は爆発的な炎によって見えなくなる。
火のある密閉空間に空気が入ると、急激に火が燃焼し爆発する。爆発するらしい。
バックドラフト。
先ほど打ち出した岩石を3本柱にすることで、少なくとも多少の空間があるはずだ。
そこで俺は、一か八か甲殻類が燃えるように火属性魔法を撃つ。
密閉空間の中、くすぶらせた火に空気を送るために、密閉空間であろう岩山に穴をあけるために、無理やり入り口を作り出し、空気を供給させたというわけだ。
転生前の世界で行ったことがある、某遊園地のアトラクションの事を思い出せて良かった。
先ほど、甲殻類との戦闘で、魔物の身体が燃えることはあらかじめわかっていた。
そこで先ほど思いついたのだ。
まあ、半ば賭けに近かったのだが、とりあえず何とかなったし結果オーライだろう。
「わ、爆発しました!どういうことですか!?」
「たまたまうまくいったんだよ・・・」
サーシャの疑問に対し、変に説明をせず流す俺。
極度の疲労により説明する気力すら今はない。
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