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借金という名の牢獄
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「早速だけど現状を整理するか」
「はい」
「将来は保育士さんになること」
「それは…はい」
「必要なのは、お金と時間、と」
机の上にノートを広げて文字を書き込んだ。
「保育士って資格いるけど、そこは知ってる?」
「ガイダンスで聞いた気がします」
「借金を返済した上で、勉強もしないとね」
「頑張ります」
これは罠だ。俺は、悪意ではなく、邪悪を解き放った。夢花はそんなことには気にも留めず、ただ頷く。
「まず借金を返すためにはどうしたらいいと思う?」
「もっと沢山稼ぐ…ですか?」
「まぁそうだね。収入を増やすか、支出を減らすかだね」
ノートに書きこむ単語を一生懸命見つめてくれる夢花。理解してもらわなくてもいい。ややこしく、そして深刻に…
ヒトの脳は、処理しきれない状況や情報を与えられると、パンクしてしまうらしい。いわゆる思考停止だ。
だから続けた。全ての借金を書き出した。金利も計算した。あとは、少し頑張った程度では到底返せない事実を突き付ける。
夢花自身、働いても減らない借金の額を実感していただろう。最近は働き詰めで、何も考えられなかったらしい。
「ところでこの500万ってどうしちゃったの?何かの詐欺?」
「い、いえ…」
「まぁ、言いにくい事ならいいよ」
「父が残した借金です。ギャンブル依存だったもので…」
そんなことだろうとは思った。そして、正直に打ち明けてくれたこの目の前の生娘に、邪心はさらに強くなっていく。
「次に支出だけど、ウチに住むってのなら家賃は浮くでしょ?」
「そ、そうなんですか?」
「え?もしかして家賃分担してくれるの?」
「いえ、その、いいんですか?」
「その分を借金返済にまわそう」
「ありがとうございます…」
ひとまず、夢花との前向きな同棲を確定させた。俺の心の内で勢いを増す灰炎に、安堵する夢花は気づかない。
ノートに更に計算式を加えていく。それは最終的に10行に及んでいた。
「借金完済は10年後だね」
「えっ?」
「生活費を除いたバイト代と家賃を全部返済に充てて10年後」
「そんなにかかるんですか?」
「利子15%だからなぁ」
「……」
夢花は考え込んでしまった。無駄な足掻きだ。結局答えはでない。
俺は待った。辛抱強く待った。それでも、夢花が自分の人生に向き合うには時間が短すぎるのだが。
呆然としている姿を見ると、何とも言い難い。自分のせいじゃない借金を返すのに20代を棒に振る運命。残酷と知りながら俺には進む必要がある。覚悟は決めていた。
「さて問題です。悪い人ならここで何と言うでしょう?」
ハッと顔を上げる夢花。しかし、俺の放った質問の意味を理解したのか、目を伏せた。
「答えは『返せないなら体で払って貰おうか、グヘヘ』でした」
「それは…はい。考えたこと、あります」
「え?」
「父にも言われたんです。そんなの体で稼げばすぐだって」
夢花の口から漏れ出したとんでもない言葉に、俺の思考が停止した。
******
「そういうお仕事も、考えました」
夢花は机に開いたノートのただ一点を見つめ続けていた。青天霹靂だ。自分から言い出すとは思ってもみなかった。
「でもその仕事についてしまうと保育士さんにはなれなくなるんじゃないか。子どもたちには一体どう接したらいいのかを考えると、どうしても…」
考えてもみれば当たり前だった。保育園の先生が、夜の仕事をしていたなんてバレたら、理解の無い母親がしゃしゃり出てくるのは明らかだ。
「そこで俺にひとつ提案がある」
「提案…ですか?」
ここだと思った。確かに想定外なことは起きたが、ここしかないと決意は固まった。
「俺が借金を肩代わりするよ」
「!?」
「つまり俺から借金をして、返済に充てて欲しい」
「えっ、そんな…」
「返済期限は決めないから、出来る範囲で返してくれればいい」
「……」
「ここまで理解した?」
俺は、魅力しかない好条件を提示した。驚きの表情を見せる夢花は、顔を二度縦に振る。
「利子は取らないよ。だけどその代わり、そうだなぁ」
「……」
わざとらしく会話を止め、神妙な顔つきで夢花の胸元に視線を送る。
「……」
こんな時に使う言葉なのかは怪しいが、人事は尽くしたのだ。あとは天命を待つのみ。
「…たしってそんな価値あります?私なんかの体に?」
叫びそうになった。俺は心の中で湧き起る気持ちを拳に抑える。余計な返事はいらない。ただ無言のまま夢花の後ろに回り込んだ。そして両腕をゆっくり、お腹へ滑らせる。
「え、あっ…」
「これがその質問に対する答え」
夢花の肩に顔を乗せると、頬にあたる感触が互いの熱を上げる。抱きしめ、感じた温もりは冷えた部屋に心地よかった。
けれどそれ以上の事をおっぱじめる訳にはいかない。歪で歪んだ正義心は、信頼関係からの物語を求めていたのだ。
「引っ越し手伝うよ」
「はい…えっと…」
「ん?」
「これから…よろしくお願いします」
「こちらこそ」
こんな状況にも律儀な夢花が、愛おしくて、ただ、愛おしい。気付けば股間は硬直していた。夢花の背中に元気な醜棒が這い上がる。
「ッ!」
「…?」
俺はまるで逃げるように、スライドして元の位置に戻っていた。急に恥ずかしくなった。顔に血の気が押し寄せてきたのだ。
「とりあえず、今後の事を決めよう」
「は…はい」
「まず、夢花は大学に通うのが優先」
夢花はコクリと頷いた。一息つく前に、少し確認したかった。
「あ、今、俺、夢花って言ったけど大丈夫?」
「え?はい」
「じゃ、夢花も俺の名前、呼んでみて?」
「名前…弥人さん?」
「さんは、いらないからね」
「ヤヒト…」
「改めてよろしく夢花!」
こうして債権者と債務者の同棲生活が始まった。
「はい」
「将来は保育士さんになること」
「それは…はい」
「必要なのは、お金と時間、と」
机の上にノートを広げて文字を書き込んだ。
「保育士って資格いるけど、そこは知ってる?」
「ガイダンスで聞いた気がします」
「借金を返済した上で、勉強もしないとね」
「頑張ります」
これは罠だ。俺は、悪意ではなく、邪悪を解き放った。夢花はそんなことには気にも留めず、ただ頷く。
「まず借金を返すためにはどうしたらいいと思う?」
「もっと沢山稼ぐ…ですか?」
「まぁそうだね。収入を増やすか、支出を減らすかだね」
ノートに書きこむ単語を一生懸命見つめてくれる夢花。理解してもらわなくてもいい。ややこしく、そして深刻に…
ヒトの脳は、処理しきれない状況や情報を与えられると、パンクしてしまうらしい。いわゆる思考停止だ。
だから続けた。全ての借金を書き出した。金利も計算した。あとは、少し頑張った程度では到底返せない事実を突き付ける。
夢花自身、働いても減らない借金の額を実感していただろう。最近は働き詰めで、何も考えられなかったらしい。
「ところでこの500万ってどうしちゃったの?何かの詐欺?」
「い、いえ…」
「まぁ、言いにくい事ならいいよ」
「父が残した借金です。ギャンブル依存だったもので…」
そんなことだろうとは思った。そして、正直に打ち明けてくれたこの目の前の生娘に、邪心はさらに強くなっていく。
「次に支出だけど、ウチに住むってのなら家賃は浮くでしょ?」
「そ、そうなんですか?」
「え?もしかして家賃分担してくれるの?」
「いえ、その、いいんですか?」
「その分を借金返済にまわそう」
「ありがとうございます…」
ひとまず、夢花との前向きな同棲を確定させた。俺の心の内で勢いを増す灰炎に、安堵する夢花は気づかない。
ノートに更に計算式を加えていく。それは最終的に10行に及んでいた。
「借金完済は10年後だね」
「えっ?」
「生活費を除いたバイト代と家賃を全部返済に充てて10年後」
「そんなにかかるんですか?」
「利子15%だからなぁ」
「……」
夢花は考え込んでしまった。無駄な足掻きだ。結局答えはでない。
俺は待った。辛抱強く待った。それでも、夢花が自分の人生に向き合うには時間が短すぎるのだが。
呆然としている姿を見ると、何とも言い難い。自分のせいじゃない借金を返すのに20代を棒に振る運命。残酷と知りながら俺には進む必要がある。覚悟は決めていた。
「さて問題です。悪い人ならここで何と言うでしょう?」
ハッと顔を上げる夢花。しかし、俺の放った質問の意味を理解したのか、目を伏せた。
「答えは『返せないなら体で払って貰おうか、グヘヘ』でした」
「それは…はい。考えたこと、あります」
「え?」
「父にも言われたんです。そんなの体で稼げばすぐだって」
夢花の口から漏れ出したとんでもない言葉に、俺の思考が停止した。
******
「そういうお仕事も、考えました」
夢花は机に開いたノートのただ一点を見つめ続けていた。青天霹靂だ。自分から言い出すとは思ってもみなかった。
「でもその仕事についてしまうと保育士さんにはなれなくなるんじゃないか。子どもたちには一体どう接したらいいのかを考えると、どうしても…」
考えてもみれば当たり前だった。保育園の先生が、夜の仕事をしていたなんてバレたら、理解の無い母親がしゃしゃり出てくるのは明らかだ。
「そこで俺にひとつ提案がある」
「提案…ですか?」
ここだと思った。確かに想定外なことは起きたが、ここしかないと決意は固まった。
「俺が借金を肩代わりするよ」
「!?」
「つまり俺から借金をして、返済に充てて欲しい」
「えっ、そんな…」
「返済期限は決めないから、出来る範囲で返してくれればいい」
「……」
「ここまで理解した?」
俺は、魅力しかない好条件を提示した。驚きの表情を見せる夢花は、顔を二度縦に振る。
「利子は取らないよ。だけどその代わり、そうだなぁ」
「……」
わざとらしく会話を止め、神妙な顔つきで夢花の胸元に視線を送る。
「……」
こんな時に使う言葉なのかは怪しいが、人事は尽くしたのだ。あとは天命を待つのみ。
「…たしってそんな価値あります?私なんかの体に?」
叫びそうになった。俺は心の中で湧き起る気持ちを拳に抑える。余計な返事はいらない。ただ無言のまま夢花の後ろに回り込んだ。そして両腕をゆっくり、お腹へ滑らせる。
「え、あっ…」
「これがその質問に対する答え」
夢花の肩に顔を乗せると、頬にあたる感触が互いの熱を上げる。抱きしめ、感じた温もりは冷えた部屋に心地よかった。
けれどそれ以上の事をおっぱじめる訳にはいかない。歪で歪んだ正義心は、信頼関係からの物語を求めていたのだ。
「引っ越し手伝うよ」
「はい…えっと…」
「ん?」
「これから…よろしくお願いします」
「こちらこそ」
こんな状況にも律儀な夢花が、愛おしくて、ただ、愛おしい。気付けば股間は硬直していた。夢花の背中に元気な醜棒が這い上がる。
「ッ!」
「…?」
俺はまるで逃げるように、スライドして元の位置に戻っていた。急に恥ずかしくなった。顔に血の気が押し寄せてきたのだ。
「とりあえず、今後の事を決めよう」
「は…はい」
「まず、夢花は大学に通うのが優先」
夢花はコクリと頷いた。一息つく前に、少し確認したかった。
「あ、今、俺、夢花って言ったけど大丈夫?」
「え?はい」
「じゃ、夢花も俺の名前、呼んでみて?」
「名前…弥人さん?」
「さんは、いらないからね」
「ヤヒト…」
「改めてよろしく夢花!」
こうして債権者と債務者の同棲生活が始まった。
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