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燻る愛情の価値
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吹き抜けの中央広場。
軽快な音楽と同期して踊る噴水。家族連れや老夫婦の間を通り過ぎる学生カップル。
ショッピングモールである。午後は夢花との買い物だ。
初デートと言っていいのだろうか…
ここまで来るのにレンタル軽トラックという明らかにそうじゃない感の思い出を脳の隅へ追いやる。
俺がエスカレータ傍にあるフロア案内を眺めていると夢花がパンフレットを持ってきた。どうやら高校時代に友達と来たことがあるらしい。
そりゃそうか。
「その友達とは今も仲いいの?」
「最近は…私、忙しかったので」
ちょっと苦し紛れだった。これ以上は聞かないでおこう。
「友達いない俺が言うのもだけど」
「……」
「友達は大事にしたほうが良いよ」
「はい…」
夢花はこれから大学に通う。既に夏だ。半期は出遅れてしまっている。友達を作れるだろうか…俺が心配しても意味はないが。
「はい、これ」
「!?」
俺は約束していた服代にと思い、諭吉を差し出した。実はこのお金、なけなしである。
というのも、店内ATMで借金の振込みを済ませたからだ。俺にはこの1枚しか残されていなかった。
「あの…」
「一応約束だったからさ」
全額を払い終えて、俺は少し後悔していた。もしこの先、夢花に逃げられたらどうする。
友達…女友達とも限らない。嘘はついていない。不安の種がポツポツと、心の土壌で芽吹く。
でも、今更しょうがなかった。何か言いたげに歩き出した夢花の隣に並んだ。
一体どんな店に入ればよいのだろう。もはや文字記号にしか見えない店名の羅列。
俺がパンフレットを手に、目を回していたことに気付いた夢花が、軽く腕をつついてきた。
「ん?」
「前に来たことある店、行っても?」
「助かるよ。そうしよう」
さすが地域最大級のショッピングモールなだけある。いつ来ても変わらない人。
俺だって来たことはあった。
なんとなく人混みが見たくなる時があるのだ。行く当てもなく、ふらふら彷徨う孤独者はいつも俺だけだったが。
隣で歩く夢花を見て、俺もやっと一員になれた気がした。これで十分…天秤にかけた全財産が、へし折れた。頭の中は素直だった。
これからだ。
******
「彼氏さんもいかがですかぁ?」
「…ん?」
大学生のバイトっぽい女性店員がやってきた。俺は思わず自分のことを指さし、確認する。やたらとニコやかに頷く店員。商売魂を感じる。
「あちらの方とご一緒ですよね??」
「あっ、そうです、はい。一緒です」
「お似合いですよぉ」
「ありがとうございます」
「今はこんな感じのお揃いが人気なんですけど如何です??」
話し方はフレンドリーすぎな気もするが、こんなものか。勧められた服は夢花が試着室へ持って行った物とは違うけど雰囲気はピッタリだった。
一応『試着用』とタグ付けされてはいる。それでも、袖を通してしまえば買わないといけないような気がして、丁重にお断りすることにした。
なんせ今の俺には現金がない。二人合わせると諭吉が去っていく世界。
店のガラスに映る引き攣った表情を戻すのと同時にカーテンが開いた。
「おっ」
学祭のステージの中心にいても不思議じゃない。輝きに満ち溢れたオーラを纏う夢花。
「…どう?」
「いいじゃん。めっちゃ可愛い!」
片腕を抑え、控え気味な夢花だが顔は明るい。初めて見せてくれた表情に俺まで嬉しくなっていた。
しかし夢花は、感想を聞くとすぐに引き返した。何か間違った事でも言ってしまっただろうか…
******
店を出ると、椅子を見つけて休憩。
「買わなくて良かったの?」
「私もちょっと着てみたかっただけだから」
どういう意味だ?俺は脳内で必死に考えを巡らせる。
友達と来る店で、着てみたかった服。お金が無くて買えなかった夢花の前で友達はどうしたのか。
気になったのは『私も』という一言。
いやいや待て。そんな友達いるか?さすがに自分だけなんて…。悪い顔をした男友達が空想の中に現れたので頭を振って追い出す。
訳が分からなかった。午前中の引っ越しに、人混みの中で人生初デート。疲れない訳がない。少なくとも頭の中は疲弊していた。
「夢花の友達ってさ…」
「それより…スマホ貸して欲しい」
不意に俺の口から出た言葉に対して、夢花は店で見せた笑顔とは真逆の表情になった。
何より言葉を遮って無理矢理の話題変更。しまった。余計な詮索に思われたか。空気が豹変したように感じた。
「こ、これでいい?」
「うん」
言われるがまま。スマホを渡した俺は、まさに蛇に睨まれた鼠の気分。
「俺、ジュースでも買ってくるよ」
「ありがとう」
「何がいい?」
「何でも」
ヒビ入り画面の操作に集中している夢花の返答は少し雑に思えた。怒らせてしまったか。なぜか俺は主導権を取られていた。
債務者としての夢花は、先ほど終了している。俺と夢花は正式な借用書なんて書いていないのだ。
心の中に一度は抑えたはずの疑心暗鬼が、居座り始める。
俺は夢花のことを罠でハメようとした。そしてハマった。その報いを、彼女自身が執行してくるのではないか。
コーラとクリームソーダを受け取った俺は、足早に戻るしかなかった。
軽快な音楽と同期して踊る噴水。家族連れや老夫婦の間を通り過ぎる学生カップル。
ショッピングモールである。午後は夢花との買い物だ。
初デートと言っていいのだろうか…
ここまで来るのにレンタル軽トラックという明らかにそうじゃない感の思い出を脳の隅へ追いやる。
俺がエスカレータ傍にあるフロア案内を眺めていると夢花がパンフレットを持ってきた。どうやら高校時代に友達と来たことがあるらしい。
そりゃそうか。
「その友達とは今も仲いいの?」
「最近は…私、忙しかったので」
ちょっと苦し紛れだった。これ以上は聞かないでおこう。
「友達いない俺が言うのもだけど」
「……」
「友達は大事にしたほうが良いよ」
「はい…」
夢花はこれから大学に通う。既に夏だ。半期は出遅れてしまっている。友達を作れるだろうか…俺が心配しても意味はないが。
「はい、これ」
「!?」
俺は約束していた服代にと思い、諭吉を差し出した。実はこのお金、なけなしである。
というのも、店内ATMで借金の振込みを済ませたからだ。俺にはこの1枚しか残されていなかった。
「あの…」
「一応約束だったからさ」
全額を払い終えて、俺は少し後悔していた。もしこの先、夢花に逃げられたらどうする。
友達…女友達とも限らない。嘘はついていない。不安の種がポツポツと、心の土壌で芽吹く。
でも、今更しょうがなかった。何か言いたげに歩き出した夢花の隣に並んだ。
一体どんな店に入ればよいのだろう。もはや文字記号にしか見えない店名の羅列。
俺がパンフレットを手に、目を回していたことに気付いた夢花が、軽く腕をつついてきた。
「ん?」
「前に来たことある店、行っても?」
「助かるよ。そうしよう」
さすが地域最大級のショッピングモールなだけある。いつ来ても変わらない人。
俺だって来たことはあった。
なんとなく人混みが見たくなる時があるのだ。行く当てもなく、ふらふら彷徨う孤独者はいつも俺だけだったが。
隣で歩く夢花を見て、俺もやっと一員になれた気がした。これで十分…天秤にかけた全財産が、へし折れた。頭の中は素直だった。
これからだ。
******
「彼氏さんもいかがですかぁ?」
「…ん?」
大学生のバイトっぽい女性店員がやってきた。俺は思わず自分のことを指さし、確認する。やたらとニコやかに頷く店員。商売魂を感じる。
「あちらの方とご一緒ですよね??」
「あっ、そうです、はい。一緒です」
「お似合いですよぉ」
「ありがとうございます」
「今はこんな感じのお揃いが人気なんですけど如何です??」
話し方はフレンドリーすぎな気もするが、こんなものか。勧められた服は夢花が試着室へ持って行った物とは違うけど雰囲気はピッタリだった。
一応『試着用』とタグ付けされてはいる。それでも、袖を通してしまえば買わないといけないような気がして、丁重にお断りすることにした。
なんせ今の俺には現金がない。二人合わせると諭吉が去っていく世界。
店のガラスに映る引き攣った表情を戻すのと同時にカーテンが開いた。
「おっ」
学祭のステージの中心にいても不思議じゃない。輝きに満ち溢れたオーラを纏う夢花。
「…どう?」
「いいじゃん。めっちゃ可愛い!」
片腕を抑え、控え気味な夢花だが顔は明るい。初めて見せてくれた表情に俺まで嬉しくなっていた。
しかし夢花は、感想を聞くとすぐに引き返した。何か間違った事でも言ってしまっただろうか…
******
店を出ると、椅子を見つけて休憩。
「買わなくて良かったの?」
「私もちょっと着てみたかっただけだから」
どういう意味だ?俺は脳内で必死に考えを巡らせる。
友達と来る店で、着てみたかった服。お金が無くて買えなかった夢花の前で友達はどうしたのか。
気になったのは『私も』という一言。
いやいや待て。そんな友達いるか?さすがに自分だけなんて…。悪い顔をした男友達が空想の中に現れたので頭を振って追い出す。
訳が分からなかった。午前中の引っ越しに、人混みの中で人生初デート。疲れない訳がない。少なくとも頭の中は疲弊していた。
「夢花の友達ってさ…」
「それより…スマホ貸して欲しい」
不意に俺の口から出た言葉に対して、夢花は店で見せた笑顔とは真逆の表情になった。
何より言葉を遮って無理矢理の話題変更。しまった。余計な詮索に思われたか。空気が豹変したように感じた。
「こ、これでいい?」
「うん」
言われるがまま。スマホを渡した俺は、まさに蛇に睨まれた鼠の気分。
「俺、ジュースでも買ってくるよ」
「ありがとう」
「何がいい?」
「何でも」
ヒビ入り画面の操作に集中している夢花の返答は少し雑に思えた。怒らせてしまったか。なぜか俺は主導権を取られていた。
債務者としての夢花は、先ほど終了している。俺と夢花は正式な借用書なんて書いていないのだ。
心の中に一度は抑えたはずの疑心暗鬼が、居座り始める。
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