体で払ってくれませんか?

メンタルは大事に

文字の大きさ
6 / 43
2

燻る愛情の価値

しおりを挟む
吹き抜けの中央広場。

軽快な音楽と同期して踊る噴水。家族連れや老夫婦の間を通り過ぎる学生カップル。

ショッピングモールである。午後は夢花との買い物だ。

初デートと言っていいのだろうか…

ここまで来るのにレンタル軽トラックという明らかにそうじゃない感の思い出を脳の隅へ追いやる。

俺がエスカレータ傍にあるフロア案内を眺めていると夢花がパンフレットを持ってきた。どうやら高校時代に友達と来たことがあるらしい。

そりゃそうか。

「その友達とは今も仲いいの?」
「最近は…私、忙しかったので」

ちょっと苦し紛れだった。これ以上は聞かないでおこう。

「友達いない俺が言うのもだけど」
「……」
「友達は大事にしたほうが良いよ」
「はい…」

夢花はこれから大学に通う。既に夏だ。半期は出遅れてしまっている。友達を作れるだろうか…俺が心配しても意味はないが。

「はい、これ」
「!?」

俺は約束していた服代にと思い、諭吉を差し出した。実はこのお金、なけなしである。

というのも、店内ATMで借金の振込みを済ませたからだ。俺にはこの1枚しか残されていなかった。

「あの…」
「一応約束だったからさ」

全額を払い終えて、俺は少し後悔していた。もしこの先、夢花に逃げられたらどうする。

友達…女友達とも限らない。嘘はついていない。不安の種がポツポツと、心の土壌で芽吹く。

でも、今更しょうがなかった。何か言いたげに歩き出した夢花の隣に並んだ。

一体どんな店に入ればよいのだろう。もはや文字記号にしか見えない店名の羅列。

俺がパンフレットを手に、目を回していたことに気付いた夢花が、軽く腕をつついてきた。

「ん?」
「前に来たことある店、行っても?」
「助かるよ。そうしよう」

さすが地域最大級のショッピングモールなだけある。いつ来ても変わらない人。

俺だって来たことはあった。

なんとなく人混みが見たくなる時があるのだ。行く当てもなく、ふらふら彷徨う孤独者はいつも俺だけだったが。

隣で歩く夢花を見て、俺もやっと一員になれた気がした。これで十分…天秤にかけた全財産が、へし折れた。頭の中は素直だった。

これからだ。

******

「彼氏さんもいかがですかぁ?」
「…ん?」

大学生のバイトっぽい女性店員がやってきた。俺は思わず自分のことを指さし、確認する。やたらとニコやかに頷く店員。商売魂を感じる。

「あちらの方とご一緒ですよね??」
「あっ、そうです、はい。一緒です」
「お似合いですよぉ」
「ありがとうございます」
「今はこんな感じのお揃いが人気なんですけど如何です??」

話し方はフレンドリーすぎな気もするが、こんなものか。勧められた服は夢花が試着室へ持って行った物とは違うけど雰囲気はピッタリだった。

一応『試着用』とタグ付けされてはいる。それでも、袖を通してしまえば買わないといけないような気がして、丁重にお断りすることにした。

なんせ今の俺には現金がない。二人合わせると諭吉が去っていく世界。

店のガラスに映る引き攣った表情を戻すのと同時にカーテンが開いた。

「おっ」

学祭のステージの中心にいても不思議じゃない。輝きに満ち溢れたオーラを纏う夢花。

「…どう?」
「いいじゃん。めっちゃ可愛い!」

片腕を抑え、控え気味な夢花だが顔は明るい。初めて見せてくれた表情に俺まで嬉しくなっていた。

しかし夢花は、感想を聞くとすぐに引き返した。何か間違った事でも言ってしまっただろうか…

******

店を出ると、椅子を見つけて休憩。

「買わなくて良かったの?」
「私もちょっと着てみたかっただけだから」

どういう意味だ?俺は脳内で必死に考えを巡らせる。

友達と来る店で、着てみたかった服。お金が無くて買えなかった夢花の前で友達はどうしたのか。

気になったのは『私も』という一言。

いやいや待て。そんな友達いるか?さすがに自分だけなんて…。悪い顔をした男友達が空想の中に現れたので頭を振って追い出す。

訳が分からなかった。午前中の引っ越しに、人混みの中で人生初デート。疲れない訳がない。少なくとも頭の中は疲弊していた。

「夢花の友達ってさ…」
「それより…スマホ貸して欲しい」

不意に俺の口から出た言葉に対して、夢花は店で見せた笑顔とは真逆の表情になった。

何より言葉を遮って無理矢理の話題変更。しまった。余計な詮索に思われたか。空気が豹変したように感じた。

「こ、これでいい?」
「うん」

言われるがまま。スマホを渡した俺は、まさに蛇に睨まれた鼠の気分。

「俺、ジュースでも買ってくるよ」
「ありがとう」
「何がいい?」
「何でも」

ヒビ入り画面の操作に集中している夢花の返答は少し雑に思えた。怒らせてしまったか。なぜか俺は主導権を取られていた。

債務者としての夢花は、先ほど終了している。俺と夢花は正式な借用書なんて書いていないのだ。

心の中に一度は抑えたはずの疑心暗鬼が、居座り始める。

俺は夢花のことを罠でハメようとした。そしてハマった。その報いを、彼女自身が執行してくるのではないか。

コーラとクリームソーダを受け取った俺は、足早に戻るしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...