体で払ってくれませんか?

メンタルは大事に

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夏も終わり学校は始まった

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気が付けば、セミの声も聞かなくなった。

今日は大学の後期が始まる日。俺は構内の図書館にいた。

有給を取ってまで様子を見に行くなんて、過保護以外の何物でもない。だから夢花には一切会わず、同じ敷地に居るだけに留めた。

就活生向けだろうか。やたらとビジネス書が充実している。本のページを捲ろうとした所で、背景には見覚えのある顔。

倉持籐矢あのイケメン――。

俺は脳内に選択肢を並べた。話しかけるか否か。話しかけるなら話題は?

去年までの俺ならば確実に見ないふりを選択していた。それでも今は違う、違わなければいけなかった。行くしかないだろう。

「や、やぁ」
「先輩?七坂先輩じゃないですか」
「お久しぶり」
「お久しぶりです」

話かけて良かった。イケメンは、しっかりと応えてくれた。

「1つ聞きたいことがあって。いいかな?」
「えぇ。もちろん」

場所を変えて相談してみることにした。夢花と希海の関係について。

頭の片隅でずっと気になっていた。喉に刺さった魚の骨のように。

夢花は思い出の品をいつまでも大切に仕舞っている。心残りがあるから、次に進めないのではないか。

希海もどうして絡んできたのか。屋上で怒っていた理由だって分からない。なぜ夢花を拒否しない?

バーのママは夢花の味方であるから、中立的な意見も参考に聞いてみたかったのだ。あの時の様子を見ていた籐矢に。

「面白い課題ですね」
「そ、そう?」

この、頭脳明晰、容姿端麗、スポーツもきっと万能なズルい男の脳内には、一体どんな世界が見えただろうか。

「仲直りさせるのに、1つ解決策を挙げるとすれば」
「……」
「先輩、夢花さんと別れるのはどうです?」
「え…?ん…?」
「それでウチの籐花を好きになりませんか?」

俺の頭は、藤矢の言葉を理解できなかった。構内を散歩中だった付属の園児たちの弾む声だけが響く。

「じょ、冗談だろ?」
「わりとガチですが」
「お、おう」

麦わら帽子を被った美少女、籐花の姿を蘇す。いくらなんでも唐突すぎだろ。1回話しただけだぞ…。

「希海さんは、嫉妬しているのでは?」
「え?嫉妬?誰に?」
「先輩に、ですよ」

全く頭にない発想だった。言われてみれば、辻褄は合うのかもしれない。合う…のか?

希海は夢花の事が好きだった。親友として。

『親友ってなんですか?』

あの日、希海が知りたかった親友の意味…。

「なるほど」
「お役に立てたでしょうか?」
「ありがとう、藤矢くん」
「藤矢でいいですよ、義兄さん」
「え?」
「冗談です」

イケメンのさわやかな笑顔を背に、俺の足は国際教養の学部棟へと向かっていった。

******

恋は盲目という。

夢花のためにと行動して、それは本当に彼女のためだろうか?ただの自己満足ではないだろうか?

初めての彼女で大切にしたいと思い続けてきた。空回りが続く中で、俺は自問自答を繰り返す。

結局、学内で希海に会うことはなかった。捜し歩いたものの、偶然はそうそう起こるものではない。

家に帰った俺は、火照った身体を諫めるように冷水シャワーを浴びていた。

また一人で暴走するところだった。会えなかったことが結果的に良かったと切り替える。

俺はただ、身近な人がみんな幸せになる結末を見たかった。でも、これだという正解がない。

「今日、早いね」

タオル一丁で脱衣室を出ると夢花と鉢合わせ。初日を終えて、帰って来たばかりのようだった。

「すまん。こんな姿で」
「いいよ別に。見慣れてるし」

俺は夢花の身体、まだ見慣れないんだけど…。

そんなしょうもない感想は捨てて、どうすべきか考える。

「夢花…」
「ん?」
「今日どうだった?」
「んー」

夢花の表情は悪くなさそうだ。落ち込んで帰って来たらどうしようかと心配だったが。

「色々と必須の授業が多くて、頑張らないとなって」
「どんな授業があるの?」
「びっくりしたのは、歌の練習とか発声とかかな」

確かに音楽の授業はあった。まさか、大学生になってリコーダーを吹かされるとは思ってもいなかった。幼児だと歌の練習もあるのか。

「そりゃ大変だ。今夜カラオケでも行く?」
「…ごめん。バイトあるから」
「てか、俺も明日仕事あるんだよな」
「また今度、行ってくれる…?」

恥じらいながらも夢花は尋ねてくれた。抱き着くわけにもいかないから、手を差し出す。

「それじゃ、約束ね」
「うん」

夢花と話していると、さっきまでの苦悩が急にちっぽけに感じられた。

人生に正解などはない――。

図書館で見たビジネス書にドヤ顔(たぶん)で書かれていた一文。俺はしっかり実践できているだろうか。

進めば進むほど、問題にぶち当たる。進まなくても、問題は降って来る。

夢花との未来。周りの人たちとの未来。

俺は既卒生…社会人である。授業という枠組みの外で、学び続けることの多さに辟易しながら心を燃し始めていた。
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