体で払ってくれませんか?

メンタルは大事に

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どこにでも学びはあるものだ

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「さて問題です」

小川のせせらぎ、乾いた石が奏でる絶妙なリズム。

俺は、慣れない足で一生懸命に付いて来る夢花を振り返った。

「川遊びする時に最初にやることは、何でしょう?」

ここは、多摩川上流。

大学生活も慣れ始めた土曜日。奥多摩湖から更に奥地に進んだ河原へ来ていた。

幼い頃、小川はいつも身近にあった。今のご時世、園児に川遊びなんてやらせないかもしれないが、知識はあって越したことはない。

「川遊びの前にやること…準備体操?」
「確かに。だけど、それより先にやること。少し意地悪問題」
「イジワル…?」

夢花は他の答えを探して、川の上流や山の谷間を眺めるも、なかなか想像が付かないようだった。

「正解は天気でした」
「あー」
「今なら晴れてるから大丈夫だと思わなかった?」
「う?…うん」

きっと、思っていなかったのだろう。それでも、得意げな俺に合わせてくれる夢花。

山の天気は変わりやすい。よく言われる言葉だが、それだけが理由じゃない。

雨が降ると山に水が蓄えられる。蓄えが一杯になると、溢れて集まり川になる。身近なもので例えるなら、スポンジだ。重要なのは、そのスポンジがどれだけ広い範囲にあるか。その範囲を"集水域"と言って、周辺一帯の天気も見る必要がある。ちなみに、スポンジに水を通すと落ちるまでにラグがある。同じように雨が降った当日よりも、翌日、翌々日のほうが川の水が多くなったりする。つまり、当日晴れていても増水してることもある訳だ。

と、早口まくし立てた所で俺は我に返った。

とりあえず、ふむふむと頷く夢花。

「すまん」
「うんん。なんか小学校か中学校で習ったような懐かしい感じ」
「事前に天気を調べて、体操もした、さぁ行こうか」
「うん」

底が見える程、清く透き通っている川。

片足を水中に入れると、白い水飛沫と水流の圧がかかる。

「早さにもよるけど、膝より上は普通に持ってかれるから注意ね」
「これ…結構くる…」
「ちなみに足の向き変えてみると凄い変わるよ」

川の流れに対してそのまま突っ切るよりも、蟹歩きのほうが抵抗が少なく歩きやすい。

不格好であっても安全が優先だ。

「こっちは園児にはきついな」
「うん。危ないと思う」

遊びに来たつもりでも、勉強になることもあったようだ。秋の気配の中、二人の時間を満喫しながら。

******

帰りに寄った道の駅。

少し遅めの昼食を終えると、夢花はおもむろにポーチの中を探った。

「こんなの貰ったけど行く?」

そこそこ厚みのあるパンフレットを渡して来た。

西方祭せいほうさい

秋に行われる西大の学祭である。もちろん俺は、現役時代から一度も行ったことがない。

ページをめくると、各学科やサークルの出し物紹介からミスコン、ミスターコンの出場者プロフィール。末尾には、出店で使える割引券も付いている。

中でも目に留まったのは…漢たちのメイド喫茶『ふらわー・ガーデン・お菊』。

クソダサなネーミングに反して、並ぶ美少女(?)たち。女性服を着ただけのネタキャラを除けば、皆、可愛…いや待て。俺の手は、見知った文字列のページで止まる。

指名候補No.1 西大の王子姫プリンセス 倉持藤子

「これ籐矢だよね?」
「本人から貰ったから…そうだと思う」

俺は決めた。リア充の祭典などと敬遠していたのは、今となっては昔の話。

「行ってみるか」
「うん」

******

アンプの音が唸って止まると歓声が木霊した。ここは大講堂の舞台袖。

俺は出番を迎えて、頭が真っ白になっていた。

なぜ、はじめて参加した文化祭でこうなってしまったか。きっかけは、漢たちのメイド喫茶での出来事だ。


『七坂先輩と夢花ちゃん、来てくれたんですね!』
『ま、まぁね』

メイド喫茶となっている講義室の隣部屋。休憩中の籐矢が、衣装そのままにやって来た。

お店は大反響なため事前予約が優先で入れない。男女から人気殺到の籐矢は明日の枠まで埋まっている。にもかかわらず、忙しい合間を縫って会いに来てくれたのは…

『先輩、"キュンラブ”見てませんか?』
『み、見てるよ?』

正式名称は、"Q-Love+MAX"

今、一部界隈で流行っている美少女アイドルアニメ。ちなみに「+MAX」は第4シーズンであることを意味している。

『共演予定だった、この子が当日枠で想定外の人気でして…』

パンフレットにあるプロフ画像を指しながら続けた。

『よかったら一緒に歌いません?』


短めのスカートに、耳がくすぐったいリボン付きのプリム。周りに溶け込んでいるからか、羞恥心は消えていた。

「本当に俺なんかで良かったの?」
「助かりますよ!劇中歌なんて、歌える人限られてますから」

歌詞を確認しながら状況を思い出す。これは確か、廃部の危機を乗り越え、初めて挑んだライブで誰もお客さんが来てくれなかった中で歌った、思い出の1曲。

俺は断るつもりだった。でも、夢花の前で知人の頼みを退けることが出来なかった。

夢花は見てみたいと言ってくれた。それだけの理由だ。

「続いては~只今、大盛況中っ!漢たちのメイド喫茶より"キュンラブ"の皆さんでーす!」

逆境の彼女たちが果敢に挑戦したように、俺もステージへ挑む…。
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