体で払ってくれませんか?

メンタルは大事に

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再び繰り返す気持ち

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いくつもの山と川を越え、特急電車に揺られること約2時間。

「まつもとーまつもとーまつもとー」

独特な案内音声を聞いて、笑いが込み上げてきた。これが、あの有名な案内放送か。

長野県松本市。

日本の中央を縦に走る二つの大山脈に挟まれた盆地。国宝松本城の所在地である。

「現存する5重6階の中で最古のお城だって」
「昔からあるの?」
「そうみたいだね。400年以上前から残ってるらしい」
「400年…?」

夢花は駅で見つけたパンフレットを眺めながら呟く。あまり実感が湧かない様だ。

「そういえば夢花はお城とか行ったことない?」
「1回もないと思う。写真で見たくらい」
「なら、人生で1度は来ておいても損はないな」
「うん。楽しみにしてる」

季節は晩秋。少し肌寒いくらいで、歩くには丁度良い。

バス移動でもよかったが、座り続けだったこともあり適度に運動することになった。

「もう秋かぁ」
「夢花?どうしたの急に」
「なんか色々あったなーって」

澄み切った青い空に、薄い雲が撫でられ進んでいく。人ごみの会話に横断歩道の音、走り去っていく電車のリズム。鮮明に届く感覚の中に、互いに握る手の温度。

幸せな時間は、いつでもすぐに去っていくものだ。それでも、その時々をしっかり歩んでいく。

「1年前には想像もつかなかったから」
「俺もだよ」

年を重ねるにつれて忘れていた。1年1年の重み。それを夢花が、思い出させてくれた気がした。視界の中の街並みが、鮮やかに映える。

「私、弥人と会えて良かった」
「俺も良かったよ…ありがとう」
「こちらこそ」
「でもさ、これ行きに言う台詞じゃないよな」
「確かに」
「行くぞー松本。国宝が待ってる」

恥ずかしくなった俺は、手を解いて駆け出していた。

******

「階段凄かった。あと天守閣?からの眺めも。山と街並み」
「いい景色でしょ。あれ見ると天下取りたくもなるよ」
「それは言い過ぎじゃない?」
「夢花姫には、俺が天下取ったらやりたいほうだいさせてあげよう」
「取ったらね」

本丸庭園にあるベンチで休憩中も、俺は月見櫓を眺めていた。江戸幕府三代将軍、徳川家光のために、後に造成されたものだ。

城から突き出しており、見る人によっては余計な構造物かもしれない。だがそれも含めて今の松本城が、松本城として存在している。

「弥人?何考えてるの?」
「ん、あぁ」
「後付けの理由…かな」
「どういうこと?」
「あそこの色違う部分あるじゃん。広間になっていた所…」

俺は、己の醜欲を満たすため夢花にお金を貸した。

それは紛れもない事実であり、そして後付けの理由だ。

情けない男――。

心の中で嘲笑し、太陽には雲が掛かり始める。

夢花のことが好きだ。でも俺に好きになる資格はあるのか。

「ねぇ、今日は問題だしてくれないの?」
「…え?」
「もしかして、今考えてた?w」
「あ、あぁ…完全に忘れてた」
「もう、それじゃ私が出すよ?」

角がほんのり折れたパンフレットを取り出した夢花。

一生懸命に考える姿は、天に浮かぶ名月なんかよりもずっと眩しい。

まだ昼だけど。

「夢花は、どう思ってる?」
「…どう?って?」
「今の暮らしとか、状況だとか、俺のこととか…なんでもいいけど」

パンフレットを閉じた夢花の顔つきが真剣になった。

夢花は体勢を向き直す。そして、恐る恐る窺う俺の視線が合うまでじっと待ち続けた。

「私は希海のことが好き。仲直り出来るならしたいと思ってる」

俺の頭の中には、ひとつの選択肢が思い起こされる。

話だけは聞いていた。夢花と希海の馴れ初めは、なんの変哲もないエピソード。

「でもね…」

覚悟はこれまでに何度も決めきた。

初めからそうだった。

「そのために弥人と引き裂かれるくらいなら、希海は諦める」

真っ黒な核心を残したまま、邪な覚悟で誤魔化し続けてきた。

夢花が光を帯びていくたび、己が咎に心は蝕まれる。

「弥人?」
「俺は…」

俺は、とてつもなく汚い人間だ。

乙女の身体が欲しかった。自分のものにしたかった。

その執着心で夢花の檻を作り続けていた。

裂けない程度に心を広げながら、逃がさないよう四方八方に山を作ってきた。

「俺より希海ちゃんのほうがまともだよ?」
「まともじゃなくてもいい。私は弥人を一番愛してるから」
「まともじゃない答えだな」
「だって私、まともじゃない男の彼女だしw」

伏し目がちだった俺の顔を、夢花の両手が包み込んだ。

再び降り注ぎ始めた太陽光とは対照的に冷たい手。

「さて問題です。ここは一体どこ?」
「夢花…?」
「ぶぶッー正解はまつもとでしたー」

夢花からパンフレットを返されて、俺は立ち上がった。

「帰りの電車何時だったっけ?」
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