無名の花

葉月

文字の大きさ
1 / 1

立ち眩み

しおりを挟む
 強い西日に目が眩み、僕の体は目を閉じた。
 目の奥に光が刺さったような感覚の記憶があるから、多分そんな感じ。
 世界が揺れたのか、自分の頭が揺れたのか、僕の体は地面に座り込み、手のひらをついていた。
 人が通った跡だけ草が生えてない未舗装の砂利道で、デニムの短パンだから、不意についた膝に少し擦り傷と小さな石つぶが付いていた。
 いわゆるけもの道だけど、使う人が多いせいで、草は少ない。
 手のひらについた、いくつもの小さい石つぶを落としながら、僕は体を立ち上がらせる。
 
 そうだ。百円落としてないよな?
 手で触ったら、ちゃんと布の上からポケットにお金が入ってることは何となく感触で確認出来た。
 デニムの短パンは、しゃがむと太ももに食い込むのが不快だ。
 小銭くらいなら平気だけど、ポケットも浅いから何か入れると座りにくい。

 通学路には使われない裏道のような細い道は、うちから田村商店までの最短ルートだ。
 普通の道を使うと、丘の上の保育園の下の道や、みかんの段々畑を横目に過ぎて、茂みに防空壕がある車道を通って、結構遠回り。
 田村商店は、食器用洗剤やスポンジ、トイレットペーパー、ビニール傘とか色々扱ってる店だけど、カツみたいなお菓子とか、ポンポン菓子とか、駄菓子って言われるやつが沢山売られてる。

「ちょっと急ご」

 日が暮れ始めてるのを思い出して軽く走りつつ、ひとり言がもれた。

 走るのは好きだ。
 いつも後ろ側からオートモードで動いてる自分の体を見てる感覚が薄れて、何か追いついて半分は自分で体を動かしてる感じがする。でも、気を付けないと、完全にマニュアルになったら、足がもつれて転ぶ。
 全部を意識して動かすのは、難しいんだ。

 足だけ動かすと、手を振るのを忘れる。
 まぁ、普通の事なんだけど、足が早い人って、忙しいだろうなぁと思う。

 あれこれ考えてる間に、けもの道を抜けて田村商店のある通りにたどり着いた。

 軒下の看板には、緑下地にペンキで黄色く『田村商店』と書いてある。

 店の前には、紙袋の薄いパッケージに入った野菜の種が、金属の棚にズラっと並んでいる。
 それが五、六台くらいはあるから、メインのお客さんは農家なのかもしれない。
 
 店に入る前に、念の為にポケットの百円札円を取り出して確認してみた。

『昭和六十五年』

 何故かその文字だけが妙に印象に残った。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための25の技

MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。 私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。 すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。 そんな方に言いたいです。 アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。 あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。 アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。 書いたまま放ったらかしではいけません。 自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...