Magic Retention

卯佐美 うさ。

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01章:突飛な出会いと旅立つ日。

07:~運命られた人。~[前編]

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「なあ、お前が旅しようとしてる理由って何なんだ?」

 つい先刻の雷を伴う豪雨が嘘だったというように、すっかりいつもの晴天を取り戻した空の下。鈴丞とフランは、所々に出来た水溜りを避けながら、白煉瓦の道を歩いていた。

 足を前へ進める度に、バシャバシャと跳ねる水音を聞き流しつつ、とうとう鈴丞はずっと胸の中に留まっていた疑問をフランにぶつけた。
 その答えは聞かずともいずれ知ることになるのだろうが、強引に巻き込まれる形で長期的に家を開けることになったのだ。鈴丞にだって、街を出る前に少年の野望を知る権利くらいはあるはずだった。「この街を出る前に絶対に聞き出す」そんな心持ちの青年に振り返ったフランは、「そうだね……」と呟き、考え事をするように視線を横にずらした。

「ボクの研究――人が持つ能力の仕組みについてなんだけど、学校の書庫やこの街の本屋の資料だけじゃ物足りなくなってきてね。だから、この国に散らばった書物を片端から集めようと思って、この旅を決意したってわけさ。……でも、さっきも言ったように、運命さだめられた人じゃないボクが1人で外に行くには不安要素リスクが多すぎる。だから、困っていたんだけど……、そこで丁度リンと出会ったんだよね。これって運命なのかな?」
「まさか。偶然だろ」
「ええ?まさかリンってば現実主義者?結構ロマンチストな顔してるよ思ってたのに」
「どんな顔だ」

 フランを睨め下ろす鈴丞の表情に振り返ると、「そういう顔のこと」とケタケタと楽しげに笑う少年は、後頭部で腕を組み、ご機嫌な足取りで視線を前に戻した。今にも鼻歌を歌い出しそうな軽やかなスキップは、見ている側も小躍りしてしまいそうなくらいだ。

「だからどんな顔だ」
「ふふ……ま、かくいうボクも運命なんて不確定要素、信じてなんかいないけど」
「だろうな」
 それにしても、年下に夢見せるような返事してくれても良くない?キミって小さい子に嫌われるタイプでしょ」
「……仮に夢を見せるような返答が出来たとしても、お前は俺を揶揄からかうんじゃないか?」
「あ、バレた?」
「バレるわ」

 にへへ、と笑うフランと、呆れ果てた表情で少年の金髪を小突いた鈴丞は、セントラ大学を離れた後、旅支度を整えるためにフランの自宅へと向かう最中であった。

 誰もが利用する大通りを通り抜けた先にアドクロム家はあるらしい。長く、淡々とした道のりを億劫に思いながら、大通りに立ち並ぶ小さな店を転々として買い物を楽しんでいる人々の間を通りぬけ、ひたすら平坦で直線上の道を歩く。
 昼食の時間帯が刻一刻と近付き、フランと出会った早朝よりも随分と人の往来が増え、密度が倍増している。それなりの人数とすれ違い、極稀ごくまれに肩が触れてしまうほどであるのに、フランはそれをものともせずに器用に隙間を潜り抜け、鈴丞を置いて先へ先へと進み続けた。

 彼の歩く速度が徐々に早まっているのは、気のせいではない。そう気付いた鈴丞は、はあ、と全身で大きくため息を零した。
 街を出て旅に出るという活発アクティブな発想が出来るくらい活動的なフランに対し、あまり人の多いところを好まず、部屋の中で静かに過ごすことが多い鈴丞は、よそ見をして歩く者を避けつつ、すばしっこく元気な少年の後を追うだけで精一杯だった。疲労が体内に蓄積し、悲鳴を上げる脹脛ふくらはぎはじんわりと、足全体には熱を覚え始めていた。

「ちょ……は、速くないか?そんなに急がなくてもまだ時間は――」
「何言ってるのさ。フィレーヌから本島に行く船は午前と午後、1便ずつしかないんだ」
「マジか……」
「フィレーヌには大体何でも揃っているから、普通に生活するならわざわざ本島に出向く必要もないし、向こうからもセントラ大学に通うような物好きしか来ないからね」

 とうとう体力の限界を迎え、ゼエゼエと荒く呼吸をしながら、小走りになるフランを制止しようとする鈴丞。しかし、若く、体力も相当あるフランが、運動不足の男の現状など把握出来るはずもなかったのだ。
 焦るくらいなら明日でも良いのではないか、と意見するが、「善は急げっていうでしょ」と遺憾いかんにもたった1言で籠絡ろうらくされてしまったのである。 

 先を行く彼との圧倒的な体力の差に、ずっと部屋に引きこもっていた過去の自分を恨めしく思い、「もう少し頻繁に外出しておくべきだった」と後悔する。だが、過去を恨んでもフランが歩く速度を落とすわけでもない。はあ、と何度目かのため息を吐き、長い旅の中で体力を取り戻すことが出来たなら、と切願しながらフランの後に続いた。

「だから、早く支度を済ませて昼過ぎには港で手続きをしておかないと……。あ、そうだ。リンは乗ったことある?ロビンス・ケイルの豪華な移動手段――クラウン・ロード船」
「ないな。俺も例に漏れず、街から出る必要がなかったから」
「そっか。実はボクも1度しか乗ったことがないんだよ。元々客船なだけあって居心地が良かったし、また乗るのが楽しみだなあ」

 鈴丞の疲労を紛らわすかのように、矢継ぎ早に船旅の思い出を語ったフランは、恍惚とした表情を浮かべた。 

 目的の方角へ背を向け、浮ついた足取りで後進しているとは思えないほど、彼は人に衝突しなかった。それどころか、大通りを歩いている彼らを意のままに操り、指揮し、己のために道を作り出しているようにも見える。 彼が聞けば、「そんなわけない」と笑い飛ばすのだろうが――その恩恵おんけいを受けている鈴丞は、必要以上に他者にぶつかることなく歩を進めることが出来ていたのだった。

「――あ、着いたよ」

 会話を遮り、疲労のせいでほんのりと頬を紅潮させた鈴丞から顔を逸らすと、エメラルド色の大きな瞳を右斜め上へと向けた。その先には立ち並ぶ無彩色の壁を持つ家々と、差程変わりのない外観の一軒家がある。
 地面の煉瓦の色に合わせた白い壁と縁取られた黒い屋根の2階建ての建物はポツポツと雲が浮かぶ青空によく映える。シンプルなデザインだが、少女の玩具として販売されているミニチュアのような可愛らしいデザインは、やはり見ているのだけで癒しを与えたのだった――
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