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第4章
再会 14
しおりを挟む懇親会は都内ホテルの大ホールで開かれた。
受付を終えて中に入ると、既に多くの所属員や関係者たちが来ていて、会場は混雑していた。数百人規模のパーティだ。思わず人酔いしそうになる。
「来れば分かるって……皆、千尋兄の職場の人たち? 僕、この分野のことよく知らないんだけど」
「いいから。ちゃんとついて来いよ」
本部の会に出席するのは4年ぶりだ。時折声をかけられるのを、失礼がない程度に軽く流しながら、同時にゲストの顔を確認する。
やや開けた場所まで行き、一先ず足を止めた。
「ねぇ、僕、すごい場違いなんだけど……やっぱり帰ってもいい?」
今日は所属員の家族も出席していいことになっているが、さすがに亜矢ほど年齢の若い者はいなかった。辺りを見渡しながら不安げに言う亜矢を無視して、改めて会場全体に目を走らせた。
あの男がまだ来ていないことを確認した瞬間、「蓮見君」と肩を叩かれる。
「笠原室長……!」
こんなにも早くお呼びが掛かると思っていなかった俺は一瞬動揺した。
「北京から戻っていらしたのですね。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「いやいや、会えて嬉しいよ。4年間の海外調査、ご苦労だった。どうだ、こっちに来て少し話をしないか」
室長の話が長いことは分かっていた。これであの男を探せる時間は限りなく短くなる。早めに切り上げなければ。不本意ながら承知し、「お前は此処にいろ、直ぐに戻る」と亜矢に耳打ちして、室長の後に続いた。
「あの子は?」
「私の甥です。室長の論文に関心を持っていたので、勝手ながら連れてきてしまいました。今日は室長の講話もあると聞いていますから」
咄嗟に嘘をつく。
「そうか、若いのにあんなものを読むなんて、昔の君みたいだな。いや君の場合は既に高校生で……」
席に着き、にこやかに話す笠原室長の言葉を、俺はうわの空で聞いていた。
――まずい。俺のいない所で、亜矢とあの男がばったり出会いでもしたら……。
あいつも一緒に連れてくれば良かった、と今更ながら判断の過ちを悔やんだ。
「今日は詩織も来ているんだ。会うのは久しぶりだろう?」
訊ねられてハッと我に返る。室長の姪にあたる笠原詩織とは学生時代からの付き合いだった。
「……ええ」
「そうだ、まだ君に伝えてなかった事が……ああ、丁度いいところに」
室長が俺の向こう側を見ながら、小さく手を上げた。
振り返ると、ミモレ丈のワンピースの裾をふわりと揺らし、笑顔でこちらに歩いてくる詩織の姿が見えた。
彼女の隣には、ダークネイビーのスーツを着た長身の男。
「蓮見……」
傍に来るなり、呟くように名前を呼んだその男は、呆然とした様子で紺青の瞳を俺に向けた。
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