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05 竜の卵を授かる儀式4
しおりを挟む入場を始めるよう合図を送ったクローディアは、聖書台の隅に先ほどマリーから受け取った紙を置いた。そこには、これから儀式をおこなう男女の名前が記されている。
どこの家門の者だろうと名前を確認したクローディアは、大きく目を見開いた。
そこに書かれていたのは『竜たま』のヒロインと、攻略対象の一人である王太子の名だったのだ。
(オリヴァー様……!)
オリヴァーの名を見た瞬間。再びクローディアの記憶は呼び起こされる。彼は、クローディアが前世で好きだった攻略対象。前世では『推し』と呼んでいた存在。
ちょうどその時、儀式場の扉が大きく開かれ。白い衣装に身を包んだ二人が、クローディアの視線の先に映し出された。
ヒロインが抱きついている腕の持ち主は、黒竜の仮面をかぶった男性。すっぽりとその仮面に覆われているので顔は確認できないが、仮面の後ろに見えている艶やかな黒髪と立派な角を見れば、彼が誰なのか一目瞭然だ。
黒竜の仮面は、王族である印。そして現在、この国で唯一黒竜に変化できるのは、王太子オリヴァー・グラジルだけだ。
(ヒロインは、オリヴァー様を選んだのね……)
クローディアが知らぬ間にゲームは開始されていて、ヒロインはこのイベントに臨めるだけの好感度をオリヴァーから得ていた。
クローディアの心に、何とも言えない虚しさが広がる。
(竜神様はなぜ『神託』を授けてまで、私に前世を思い出させたのかしら……)
前世を知らなければ、このような気持ちにはならなかった。いや……。例え前世を思い出していなくとも、クローディアは虚しさを感じていたかもしれない。
なぜなら彼女にとってオリヴァーは、幼い日の淡い思い出がある人でもあるのだから。
――クローディアに聖女の力が発現する少し前。
オリヴァーと同じ年頃の貴族の子供たちが、彼の遊び相手として聖竜城に集められたことがある。
その際にクローディアは彼と出会っており、周りも期待するほど二人は仲が良かったのだ。
両親は「オリヴァー殿下と婚約できるかもしれない」と喜び、クローディア自身もそんな未来に淡い期待を膨らませていた。
しかし、クローディアは聖女の力が発現してしまい、彼との婚約は夢のまた夢となってしまう。
それから何度も、儀式などで彼を見る機会はあったが、彼は常に黒竜の仮面を身に着けているので表情がわからない。友情が続いているのか確認することができず。今ではクローディアを覚えているのかさえ分からぬほど、遠い存在となっていた。
(感傷に浸っている場合ではないわ。今は、儀式に集中しなければ)
「これより、オリヴァー・グラジル王太子殿下とベアトリス・モンターユ公爵令嬢による、竜の卵を授かる儀式を執りおこないます」
気を取り直したクローディアは聖書を読み始めたが、すぐに不機嫌な顔のベアトリスから横やりが入る。
「誓いの言葉なんて結婚式でもするのだから、二度もいらないわ。あなたが祈れば、卵が降ってくるのでしょう? 早くしてちょうだい」
どうやらヒロインは、手っ取り早く卵が欲しいらしい。記憶の中のヒロインとあまりに性格が違うので、クローディアは眩暈を起こしそうになる。
ゲームの中のヒロインは、いつも明るく皆を惹きつける魅力があり、攻略対象それぞれの気持ちに真剣に向き合う。そんなところに、プレイヤーからも好感を持たれていたが。
なぜ目の前にいるヒロインは、こうも残念な雰囲気なのだろう。
(オリヴァー様は、本当にこの方を愛しておられるのかしら……)
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