【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り

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06 再び盾のお願い2

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 迷惑を被っているにも関わらず、意外と乗り気なレイモンドによって、瞬く間に婚約の段取りは整った。
 彼の言うとおり、彼の両親は「リリアナ嬢のためなら」と快く引き受けてくれ、公爵はリリアナの父へ穏便に打ち明ける手はずまで整えてくれた。
 おかげでリリアナの父も、犯罪に手を染めることなく偽装婚約を受け入れた。

 それから公爵家のほうで、国王陛下にも事情を話してくれて許可も下りたので、無事に本日の婚約を交わす場を設けることができた。

 モリン男爵家に集まり、公爵夫妻と男爵が見守るなか、リリアナとレイモンドは交互に婚約の誓約書へとサインをする。
 それから双方の父親が確認して、了承する印章が押された。

(これで本当に、上司との結婚を回避できるわ……)

 一気に緊張の糸が途切れた気分で、リリアナはほぅっと安心する息を吐いた。
 すると隣に座っていたレイモンドが、リリアナの肩を抱き寄せながら顔を覗き込んでくる。彼も安心したのか、表情が随分と穏やかだ。

「これで俺たちは、正式な婚約者同士だね」
「はいっ。偽装だとバレないように頑張りましょうね」
「…………」

(……あれ?)

 本番に向けて気合を入れたつもりが、レイモンドは寂しそうに笑みが消え去る。また距離感を間違えたのだろうか。

(敬語が気に入らなかった? でも今は、公爵閣下と公爵夫人もいらっしゃるし……)

 気を取り直したリリアナは、公爵夫妻に向けて頭を下げた。

「このたびは、皆様に迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「リリアナ嬢は私たちにとっても娘同然だ。これくらいの協力はさせてくれ」
「そうよリリアナちゃん。困ったことがあればこれからも相談してね」
「公爵閣下、公爵夫人……」

 夫妻は昔から、リリアナをレイモンドと同じように可愛がってくれている。特に公爵夫人はまだ三十三歳という若さなので、歳の離れた姉のようにいつも頼もしく、母親がいないリリアナの相談にもよく乗ってくれている。
 公爵家の方々には、お世話になってばかりだ。このような無茶なお願いまで聞いてくれるとは、本当に優しすぎる。

「リリアナ。幸せになるんだぞ……」

 公爵夫妻の横では、リリアナの父がなぜだか感極まっている様子。リリアナは思わず口元を押さえて笑い出した。

「お父様ったら、大げさですよ。偽装婚約だということをお忘れですか?」
「…………」

 するとなぜか父には珍しく、気遣うようにレイモンドへと視線を向ける。公爵夫妻も、可哀そうなものを見るような目で、我が子を見つめていた。

(レイくん?)

 皆にならってリリアナも視線を移すと、レイモンドが絶望したように項垂れているではないか。

(あれ……。どうしちゃったの……この空気? 今はお互いの望みが叶って、喜ぶべき場面なのでは? レイくんも女性除けの盾ができて嬉しいのよね?)

 この場合の距離感はどうあるべきか。リリアナが考えていると、応接室の扉をノックする音が聞こえてくる。
 リリアナの父が返事をすると、ワゴンに大きな箱を乗せて執事が入室してきた。

「リリアナお嬢様へ、贈り物が届いております。皆様にお知らせすべきかと思いまして……」

 最後の意味ありげな言葉が気になり、皆は顔を見合わせた。
 執事から手紙を手渡されたリリアナは、眉間にしわを寄せる。

「……上司からだわ」

 今まで上司から贈り物など貰ったことはないのに、急にどうしたのだろうか。

「へえ……。何を贈ってきたのか気になるな」

 レイモンドにうながされたリリアナは、気は乗らないが贈り物を開けてみることにした。

「わ……ぁ…………」

 箱に納められていたのはドレスだ。
 色は薄茶で、デザインはシンプルというか、地味。生地の質がひどく悪いし縫製も雑。全体的にもっさり・・・・とした印象だ。

 端的に言えばあまりにダサい・・・ドレスなので、リリアナはドレスを持ち上げたまま固まった。

 恰好つけたがりの上司は、服装のセンスは良いほうだと思っていたが、なぜこれを贈りつけてきたのだろうか。リリアナは疑問でいっぱいになる。

 その答えと言うべきか、誰よりも先に声を上げたのはリリアナの父だ。 

「子爵はどこまでも、我が男爵家を侮辱したいようだな! そのようなゴミ・・など切り捨ててやる!」
「旦那様! どうか落ち着いてくださいませ!」

 剣を抜こうとするリリアナの父を、執事が慌てて止めに入っている。まぁこの光景は、モリン男爵家では珍しいことではない。

「レイ。リリアナちゃんにもっと素敵なドレスをプレゼントして差し上げなさい!」

 次に反応したのは、公爵夫人だ。同じ貴族女性として、このドレスは許せなかったのだろう。
 しかし母親の怒りに対して、レイモンドは冷静な態度で「お待ちください」となだめる。それから固まっているリリアナに向けて、優しく笑みを浮かべた。

「子爵にとっては最後の思い出となるだろうから、願いを叶えてあげたら?」
「……レイくんがそう言うなら」

 穏便に諦めてもらうには、そういった配慮も必要かもしれない。
 リリアナとしては不本意だが、レイモンドの提案どおりに上司のドレスを着て面談に望むことにした。
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