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01 小説の始まりと出会い
2 騎士団長がキャラ違いすぎる
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夜は、黒より白い服のほうが見えやすいように、この薄いピンクの髪の毛も、それなりに目立つ。それも、ウェーブがかった長い髪の毛は背中全体を覆っているのだから、とても目立っているはず。
昨日の時点では、髪の毛は束ねてローブの中に隠そうとリズは計画していたが、今日は朝から母の体調が悪かったので、すっかりと忘れていた。
これでは黒いローブと帽子で、闇夜に紛れる計画が台無しだ。
こうなったら、無理やりにでも包囲網を突破して、森を抜けるしかない。メルヒオールを掴んだリズは、彼にまたがり、森に向かって飛び出した。
「森へ向かったぞ! 捕まえろ!」
後ろから騎士達が追いかけてくるが、空飛ぶほうきに追いつけるはずもない。リズは難なく、彼らを振り切ることができた。
そのまま森へ入るが、そこにも騎士達は点在している。それを避けつつ、木にも激突しないように飛ぶとなると、あまり速度は出せない。
焦る気持ちを抑えつつ、振り落とされないようリズはほうきにしがみつく。
「メルヒオール! もっと高く飛べないの?」
そう提案するも、今のメルヒオールではこれが限界。上昇しようと試みるが、上下に揺れるだけの力しか残っていなかった。
元々は亡くなった祖母のほうきだった彼は、年季の入ったご老体。しかも運が悪いことに、今はこの地域の魔力が減少期に入ってしまったので、空気中からの魔力の吸収が困難な状態。
それに加えて、薬作りで魔力を消費してしまったリズからも、あまり力を貰えず。今は主従ともに、魔力がかつかつ状態。
申し訳なさげに、穂先をが垂れ下がるメルヒオールだが、騎士の様子を伺っているリズには見えていない。
(どうしよう。こんなに小刻みに動いていたら、メルヒオールがすぐに疲れちゃうよ……)
リズも、彼の事情は理解している。上空のほうが飛びやすいかと思い提案したが、その力も彼には残っていないようだ。
逃亡計画が足元から崩れ去るような感覚に襲われ、リズは背筋に寒気を感じる。
母の体調悪化は誤算だったけれど、小説の中でも騎士達が迎えにきた日のリズは、薬を作っていた。
薬作りはリズの仕事でもあるので、その部分については気にしていなかったが、まさか母のために作っていたとは思いもしなかった。
結局は前世の情報があっても、リズは逃げ延びられそうにない。何年もかけて、母と一緒に準備を整えてきたというのに、全てが無駄になりそうで悔しさがこみ上げてくる。
けれど、諦めるわけにはいかない。どうにかして、逃げ延びる方法はないだろうか。
必死に前世の情報を思い出していたリズだが、突然に身体が締め付けられる感覚に襲われ、ハッとする。
そして訳もわからないまま、リズの身体は後ろへと引っ張られ、その勢いで身体は空中へと放たれた。
「きゃ~~~!」
身体が宙に浮いたのは、一瞬だけのこと。メルヒオールなしでは空を飛べないリズは、受け身の体勢も取れないまま、ドサッと地面へと転がり落ちた。
「痛っ……!」
しかし、メルヒオールが高く飛んでいなかったことと、地面に草が生えていたこと。そして垂直落下ではなく、引っ張り落とされことで転がり、力を分散できたこと。それらが幸いして、骨が折れるような激痛は免れた。
とは言うものの、地面へ落ちた痛みそれなりにあり、骨は折れていなくとも打ち身で数日は痛いだろう。
呻きながらも状況を確認してみると、リズの身体には縄が巻き付いている。どうやら縄に絡めとられて、動物のごとく捕獲されてしまったようだ。
(ひどい……。仮にも私は、ヒロインなのに……)
あまりに粗雑な扱いに、リズは悲しくなってくる。小説の中では、それはそれはご丁寧な態度で、騎士団長がヒロインのもとへ迎えにきたのだから。
けれど、彼らの粗雑な態度にも一理あるかもしれない。
リズは騎士団の訪問を少しでも遅らせようとして、森にかなりの数の罠を仕掛けておいたのだから。
小説での訪問時刻は昼間だったにも関わらず、夜になってから到着した彼ら。相当、罠に手こずったことが伺える。村へ到着する前に、騎士道精神など置き去りにしてきたのだろう。
「手こずらせてくれたな、魔女」
リズの髪を鷲掴みにして、一人の青年が顔を確認してきた。
燃えるような赤い髪に水色の瞳をもつ彼は、二十三歳という若さで、ベルーリルム公国近衛騎士団長の座についた、カルステン・バルリング。
凛々しい顔立ちでヒロインを迎えにきた彼の挿絵は、多くの読者を虜にしたが、今のリズの目に映るカルステンは、盗賊が獲物を捕らえて喜んでいるような表情にしか見えない。
(そりゃそうよね……。縄で捕らえておいて、礼儀正しく「お迎えに上がりました」と微笑まれても、そっちのほうが怖いわ)
ちなみに小説の中のカルステンは、見目麗しいヒロインに一目惚れするが、そのくだりは完全に消え去ったようだ。
リズ自身も逃げようとしていたので、彼の愛など求めていないが。
昨日の時点では、髪の毛は束ねてローブの中に隠そうとリズは計画していたが、今日は朝から母の体調が悪かったので、すっかりと忘れていた。
これでは黒いローブと帽子で、闇夜に紛れる計画が台無しだ。
こうなったら、無理やりにでも包囲網を突破して、森を抜けるしかない。メルヒオールを掴んだリズは、彼にまたがり、森に向かって飛び出した。
「森へ向かったぞ! 捕まえろ!」
後ろから騎士達が追いかけてくるが、空飛ぶほうきに追いつけるはずもない。リズは難なく、彼らを振り切ることができた。
そのまま森へ入るが、そこにも騎士達は点在している。それを避けつつ、木にも激突しないように飛ぶとなると、あまり速度は出せない。
焦る気持ちを抑えつつ、振り落とされないようリズはほうきにしがみつく。
「メルヒオール! もっと高く飛べないの?」
そう提案するも、今のメルヒオールではこれが限界。上昇しようと試みるが、上下に揺れるだけの力しか残っていなかった。
元々は亡くなった祖母のほうきだった彼は、年季の入ったご老体。しかも運が悪いことに、今はこの地域の魔力が減少期に入ってしまったので、空気中からの魔力の吸収が困難な状態。
それに加えて、薬作りで魔力を消費してしまったリズからも、あまり力を貰えず。今は主従ともに、魔力がかつかつ状態。
申し訳なさげに、穂先をが垂れ下がるメルヒオールだが、騎士の様子を伺っているリズには見えていない。
(どうしよう。こんなに小刻みに動いていたら、メルヒオールがすぐに疲れちゃうよ……)
リズも、彼の事情は理解している。上空のほうが飛びやすいかと思い提案したが、その力も彼には残っていないようだ。
逃亡計画が足元から崩れ去るような感覚に襲われ、リズは背筋に寒気を感じる。
母の体調悪化は誤算だったけれど、小説の中でも騎士達が迎えにきた日のリズは、薬を作っていた。
薬作りはリズの仕事でもあるので、その部分については気にしていなかったが、まさか母のために作っていたとは思いもしなかった。
結局は前世の情報があっても、リズは逃げ延びられそうにない。何年もかけて、母と一緒に準備を整えてきたというのに、全てが無駄になりそうで悔しさがこみ上げてくる。
けれど、諦めるわけにはいかない。どうにかして、逃げ延びる方法はないだろうか。
必死に前世の情報を思い出していたリズだが、突然に身体が締め付けられる感覚に襲われ、ハッとする。
そして訳もわからないまま、リズの身体は後ろへと引っ張られ、その勢いで身体は空中へと放たれた。
「きゃ~~~!」
身体が宙に浮いたのは、一瞬だけのこと。メルヒオールなしでは空を飛べないリズは、受け身の体勢も取れないまま、ドサッと地面へと転がり落ちた。
「痛っ……!」
しかし、メルヒオールが高く飛んでいなかったことと、地面に草が生えていたこと。そして垂直落下ではなく、引っ張り落とされことで転がり、力を分散できたこと。それらが幸いして、骨が折れるような激痛は免れた。
とは言うものの、地面へ落ちた痛みそれなりにあり、骨は折れていなくとも打ち身で数日は痛いだろう。
呻きながらも状況を確認してみると、リズの身体には縄が巻き付いている。どうやら縄に絡めとられて、動物のごとく捕獲されてしまったようだ。
(ひどい……。仮にも私は、ヒロインなのに……)
あまりに粗雑な扱いに、リズは悲しくなってくる。小説の中では、それはそれはご丁寧な態度で、騎士団長がヒロインのもとへ迎えにきたのだから。
けれど、彼らの粗雑な態度にも一理あるかもしれない。
リズは騎士団の訪問を少しでも遅らせようとして、森にかなりの数の罠を仕掛けておいたのだから。
小説での訪問時刻は昼間だったにも関わらず、夜になってから到着した彼ら。相当、罠に手こずったことが伺える。村へ到着する前に、騎士道精神など置き去りにしてきたのだろう。
「手こずらせてくれたな、魔女」
リズの髪を鷲掴みにして、一人の青年が顔を確認してきた。
燃えるような赤い髪に水色の瞳をもつ彼は、二十三歳という若さで、ベルーリルム公国近衛騎士団長の座についた、カルステン・バルリング。
凛々しい顔立ちでヒロインを迎えにきた彼の挿絵は、多くの読者を虜にしたが、今のリズの目に映るカルステンは、盗賊が獲物を捕らえて喜んでいるような表情にしか見えない。
(そりゃそうよね……。縄で捕らえておいて、礼儀正しく「お迎えに上がりました」と微笑まれても、そっちのほうが怖いわ)
ちなみに小説の中のカルステンは、見目麗しいヒロインに一目惚れするが、そのくだりは完全に消え去ったようだ。
リズ自身も逃げようとしていたので、彼の愛など求めていないが。
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