【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り

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07 叙任式2

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「ほう。思ったよりも早く決心がついたのだな」
「そのようですね。安心しました」

 この制度へ、意欲的に参加する姿勢を見せてくれるのは喜ばしいことだ。
 にこにこしながら自分の席へと座ったレオンは、リーンハルトの配属先に関する書類を書き始める。それを見守りながら、ディートリヒはさらに尋ねた。

「それで、度胸はついた様子だったか?」
「冷静に対応しておられましたが、その……」
「なんだ?」

 レオンはどう言おうか迷ってから、やや困り顔で笑みを浮かべた。

「今後が心配になるほど、可愛らしい方でした」

 その言葉にディートリヒは、事前に彼から聞かされていた情報を思い出す。それから意味ありげにレオンへと笑みを浮かべた。

「アカデミー中を惑わせた、魅惑の令息か。俺も惑わされぬよう気を付けなければな」
「お戯れを。陛下はそれよりも、つがいを早く見つけてください。それでなければ――」

 レオンが小言を述べ始めたその時、部屋の扉が勢いよく開いた。

「陛下ぁ~! お探ししましたわ」

 皇帝の執務室へ気軽に入ってくる、もう一人が来たようだ。
 彼女はユリアーネ・ヴァイス・ヴォルフ。ヴァイス・ヴォルフ公爵家の令嬢だ。

「入室を許可した覚えはないぞ」

 他の者が皇帝からそのように言われたら、恐怖して逃げ出すだろうが、彼女は同じ狼族。余裕な態度でディートリヒの元へと向かう。

「まあ。婚約者に対して冷たいですわね」
「婚約した覚えもないのだが」
「そんなこと言ってぇ。叙任式で陛下がお一人で入場するのはお可哀そうですから、花を添えに参りましたのよ?」
「必要ない」

 ディートリヒは、いつも彼女に対して冷たい態度だ。
 それを分かりつつも、ユリアーネは気を効かせて来たというのに。
 少しも理解を示さないディートリヒへ、彼女も冷ややかな視線を向ける。

「……陛下。あまり私を蔑ろにしないほうがよろしくてよ。どうせ『運命の番』は現れていないのでしょう? 私と結婚なされば、少なくとも『ヴォルフ』の性は残せますわ」

 彼女の言うとおり、狼族同士で結婚すれば必ず狼の子を成せる。次代の皇帝もヴォルフを名乗ることになるが、一つだけ問題がある。
 彼女は白狼で、ディートリヒは黒狼。運命の番との間に子を成せば、必ず父親の種族が継承されるが、そうでない相手だと、どちらの種族が生まれるかは運任せだ。

 この国は遥か昔から、白狼族と黒狼族とで主権争いをしてきた。今でこそ戦争はしなくなったが代わりに、運命の番が見つからなければ、狼族同士で結婚すると取り決められている。
 お互いに虎視耽々こしたんたんと、次代の皇帝の座を狙い合ってきた。

「……二十五の誕生日まで、まだ猶予がある」

 その猶予がもうすぐやってくる。二十五歳までに運命の番が見つからなければ、ヴォルフ同士の結婚を前向きに考えなければいけない。それがシュヴァルツとヴァイスの間に交わされた約束。
 それまでにせめて、運命の番の居所くらいは見つけなければ、ヴァイスを納得させられない。

「ふふ。強がるところも可愛いですわ」
「陛下に対してなんという言い草ですか!」

 レオンの叱責を聞いているのか、いないのか。ユリアーネは楽しそうな足取りで、ドアへと向かい出した。

「本日は引き下がりますが、週末のパーティーではパートナーになってくださいませ。陛下がパートナーすら見つけられないと知れば、新人官吏が不安がりますわ。では、失礼いたします」

 彼女が部屋を出てから、ディートリヒは大きくため息をついた。

「彼女の言い分は妥当だから、痛いな……」

 運命の番はそう簡単には見つからない。歴代の皇帝も半数以上が運命の番を見つけられずに、シュヴァルツとヴァイスで婚姻している。
 存在するかどうかも分からない運命の番を探し続けるより、シュヴァルツとヴァイスの関係を深めたほうが合理的なのは確かだ。

 ユリアーネはそれを見越して自発的に、皇后になるに相応しい教養を身に着けてきた。
 彼女ならどこに出しても恥ずかしくない皇后となってくれるだろう。
 その努力は認める。だからこそ、彼女に対して曖昧な態度を取るわけにはいかない。

「まだ時間はございます。できるだけ多くの女性にお会いしてください」
「そうだな……」





 叙任式の会場へと到着したリーゼルとカイは、指定された順番に並びながら、式が始まるのを待っていた。

「あのね、カイ……」
「どうかした?」
「リーンって、アカデミーで虐められていたの……?」

 先ほどの控え室では、明らかに雰囲気がおかしかった。リーゼルを好奇の目で見て嘲笑っているような。そんな居心地の悪さを感じた。

「虐められてはいないよ。むしろ好かれていたさ。けれどリーンの名誉のために、俺の口からはこれ以上は言えない。ごめんリー……」

 カイは申し訳なさそうに、リーゼルへ向けて項垂れた。

「ううん、カイのせいではないわ。リーンがずっと隠していたのだもの。私には知られたくないことなのよね……」

 誰にでも、秘密の一つや二つはあるし、家族だからこそ知られたくないこともある。
 カイは家臣である前に、一人の友人としてリーンハルトの秘密を守ってくれている。

「しつこいようだけど、あいつらには十分に気をつけるんだよ。リーは可愛いから心配だ……」

 まるで娘が心配な父親のような顔をするので、リーゼルはこてりと首をかしげた。

(今は男装しているのに、そんな心配は必要ないと思うけど?)

「心配しないで。ちゃんと気をつけるから」
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