【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り

文字の大きさ
12 / 37

12 侍従のお仕事3

しおりを挟む

 パーティーから数日後。いつものように執務室で書類仕事をしていたレオンは、ディートリヒのため息を聞いて、走らせていたペンを止めた。彼のため息は午前中だけでも五度目だ。

「陛下。最近、ため息が多いですね。何か心配事でも?」
「別に。ところでシャーフ卿は?」
「リーンハルト卿でしたら、陛下の衣装室の掃除をしているはずです」
「待て。なぜだ」

 急に険しい表情を浮かべるディートリヒに、レオンは首を傾げた。

「はい? 衣装室の掃除は専属侍従の仕事ですが……」

 別に珍しいことでも、おかしなことでもない。しかもディートリヒは、リーンハルトが考えるコーディネートを気に入り、衣装室の鍵まで渡して管理を任せた。
 それからリーンハルトは毎日、衣装室の掃除をしている。今さらなにが問題なのだ。

「そうではない。なぜお前が、卿を名前で呼んでいるんだ」
「陛下。もしかして、私のほうがリーンハルト卿と仲が良いからと妬いておられるのですか?」

 にやにやと勝ち誇ったような態度のレオンに、ディートリヒは若干のいら立ちを覚える。

「お前に妬くはずないだろう。理由を聞いているだけだ」
「理由ですか? 少しでも馴染めたらと思っただけですよ。本来なら同期と仕事しているはずの彼が、陛下のわがままで孤独に侍従をしているのですから。私くらいは気軽に接してあげないと」
「まるで俺が、卿を不幸にしているように聞こえるな」
「違うのですか?」

 ディートリヒとしては、強くも否定できない。確かに新人官吏は皇帝の侍従にはならないので、リーンハルトは異例の人事。
 それを望んだ身として、レオンの考えに悔しさが湧いてくる。本来なら自分がもっとも、リーンハルトを気遣うべき立場なのに。

「シャーフ卿を呼んでくれ」


 ちょうど衣装室の掃除を終えたばかりのリーゼルは、レオンに呼ばれて皇帝の執務室へと入った。
 執務机の前には、難しい表情の陛下がいる。

「陛下。お呼びでしょうか?」

(またなにか、失敗してしまったかしら?)

 衣装室にあるものを壊してはいないし、掃除もエマにアドバイスをもらい日に日に精度を上げている。

「シャーフ卿。今の仕事はどうだ? なにか不便はないか?」

 けれどディートリヒの言葉に、リーゼルはその不安をすぐに捨てた。

(陛下は私を心配してくれているんだわ)

 侍従の仕事は、陛下たっての希望で引き受けたもの。その仕事をうまくやれているか気にかけてくれている。
 リーゼルは嬉しくて、にこりと笑みを浮かべた。

「初めは自信がありませんでしたが、皆様が親切に指導してくださいますし、レオン卿もお優しいです。今はとても楽しくお仕事させていただいております」

 伯爵家のための勉強にはあまりならないが、爵位を継ぐのはリーンハルトだし、リーゼルはこの仕事が気に入った。
 下手に同僚と接してボロが出るよりは、良い環境を提供してもらえたと思っている。

「……俺は?」

 ぼそっと呟くディートリヒの言葉の意味がわからず、リーゼルは「はい?」と聞き返した。

「俺は優しくないから、名前呼びを許してくれないのか?」

 リーゼルはぽかんとしながら考えてから、今の説明にディートリヒが入っていなかったことを思い出して慌てる。

「陛下はどなたよりもお優しいです! それに、私をどう呼ぶかは陛下がお決めになることかと……」

 職場環境のことを聞かれたので、仕事仲間の話をしただけなのに。それになぜ、呼び方の話が出てくるのだろうか。

「ならば、リーンハルト……と呼んでも?」

 ディートリヒは気遣うような様子で、リーゼルに許可を求めてくる。

「はい。光栄でございます陛下」

 陛下から直々に名前で呼んでもらえるとは、光栄の極み。それほどの信頼を得られたことを、リーゼルは誇りに思う。

「……聞いたか、レオン。俺はお前よりも優しいらしい」

 満足気に笑みを浮かべるディートリヒに対して、レオンは面倒そうな表情で降参するように両手を上げる。

「はいはい。うらやましくて泣きそうです」
「心がこもってないな」

 二人の仲の良さを見るのは楽しい。恐れられている皇帝にも、このように気安く接することができる相手がいる。
 獣人たちの頂点に君臨していても孤独ではないことが、リーゼルは自分のことのように嬉しい。

(それにしても、いつ本題にはいるのかしら?)

「あの……」
「どうした? リーンハルト」
「ところで、私へのご用事とは……?」

 本来の目的を尋ねると、レオンは吹き出すように笑い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...