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13 侍従のお仕事4
しおりを挟む「ところで、私へのご用事とは……?」
本来の目的を尋ねると、レオンは吹き出すように笑い出した。
おかしなことを言った覚えはないが。
ディートリヒは、きまずそうにリーゼルを見る。
「あー……。各省へ視察へ行くので、リーンハルトに同行してもらえないかと思ってな」
「私にですか……?」
視察への同行は補佐官の仕事。
侍従が同行したところで、役に立つとは思えないが。
ぽかんとしているリーンハルトと、冷や汗交じりのディートリヒの対比が可笑しすぎる。
レオンは笑いを必死に抑えながら、ディートリヒに耳打ちする。
「今、考えましたね」
「うるさい。リーンハルトを不幸にしていないと証明してやる」
皇宮の敷地を馬車で移動してたどり着いたのは、敷地の奥まった場所にある温室だった。
ここへ来るまでにも綺麗な外観の温室が見えたが、ここは飾り気のない小さな温室がいくつも。外には肥料などの袋や、農具などが無造作に置かれている。
(ここってもしかして)
期待しながらリーゼルはディートリヒを見つめる。彼はそれに答えるように笑みを浮かべた。
「ここは農林省で使用している品種改良用の温室だ。リーンハルトの領地も農地が多いから参考になるかと思ってな」
「それでわざわざ、連れてきてくださったのですか?」
「俺のわがままで、リーンハルトを侍従にしてしまった。制度の本来の目的を考えれば、必要なことだ。これからも、領地に役立ちそうな場所へ視察に行く際は、同行してくれ」
農林省での情報収集はカイに任せるしかないと思っていたが、陛下はやはりお優しい方だ。
「陛下。お気遣いに心から感謝を申し上げます」
その笑顔に、ディートリヒは心奪われていた。
こんなに喜んでくれるなら、もっと早くにこうするべきだった。
リーンハルトと離れたくないという気持ちばかり先行していて、レオンに指摘されるまで気づきもしなかったのが悔まれる。
それに、番かどうか悩むより、もっと行動に出るべきだった。
本来は番となるはずがない同性。リーンハルトは無意識のうちに同性は番ではないと、選択肢から排除している可能性もある。
それを壊すには、性別など関係ないと思えるほど好いてもらわねば。
その頃。皇帝陛下が視察に来られると連絡を受けた温室の責任者は、びくびくしながら到着を待っていた。
今年で勤続三十年を迎える彼だが、未だに皇族は怖くてならない。
ディートリヒの父親である先代皇帝も貫禄がある威圧感をまとっていて怖かったが、まだ若いディートリヒも、血の気が多い若者らしい威圧感がある。
むしろ、いつ捕食されるかもしれないという恐怖は、ディートリヒのほうが上だ。
いつもは首席補佐官のレオンが間に入ることで、何とかやり過ごしているが、今日はレオンは同行しないのだとか。
代わりに配属されたばかりの侍従が同行するらしい。
そんな頼りない者が、いざという時に陛下を止められるのだろうか。
不安が氷山のごとくそそり立っているところへ、陛下を乗せた馬車が到着した。
いよいよ今日が命日となるかもしれない。どうか骨だけは、家族に返してほしいとお願いしてみよう。
そう決意しながら陛下を迎えた責任者は、二人を見て驚いた。
いつもは威圧感により空気が岩よりも重い皇帝の周囲は、大自然に囲まれた花畑のように朗らかで。彼の瞳は、山から流れてくる小川のように澄んでいる。
このような威圧感が存在しない皇帝は、初めてだ。
そんな皇帝の瞳の先にいるのが、花よりも可憐な若い侍従。
陛下の表情を見れば、その雰囲気が彼によって引き出されていることがすぐにでもわかる。
レオンが同行しなかった理由を、責任者は即座に理解した。
「陛下。お待ちしておりました」
「突然、すまないな。先日、報告が上がっていた新品種の小麦を見にきた」
「ご用意しております。どうぞこちらへ」
「中へ入ろう」とディートリヒの手が、リーゼルの肩に触れたので、リーゼルはびっくりした。
まるで肩を抱かれているみたいだ。
思わずどきどきしてしまったが、冷静に考えて見れば、陛下が同性の肩を抱くはずがない。
今日はリーゼルに農林省を案内してくれようとしている。だからこれは、リーゼルを先に行かせようと気をきかせているだけ。
心が落ち着かないながらも、品種改良された小麦の種子や苗を見学していると、小さな声で「リーンハルト卿」と呼ぶ声が。
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