29 / 37
29 兄と再会1
しおりを挟む翌日。リーゼルとディートリヒは、カイとレオンを伴って離宮へと赴いた。
今日のリーゼルのドレスは、領地から持参したもの。普段は男装のままで生活しているが何かあった時のためにと持ってきてよかった。
ディートリヒには、妹のドレスがたまたまタウンハウスにあったと言い訳してある。
この姿を長く続けると、いろいろとボロがでてきそう。今回で終わりだとありがたいが。
離宮へと到着すると、ラウレンティウスがわざわざ玄関の外まで出迎えてくれた。
「ようこそ。来てくれて嬉しいですリーゼル嬢……と、本当にいらっしゃるとは」
ディートリヒがいることに苦笑い。ラウレンティウスとしては、双子を再開させるための作戦なのだから、困るのも当たり前。
「ああ。せっかくの招待を断るのは申し訳ないので」
しかしディートリヒのほうも、女装中のリーゼルを守らなければという義務で仕方なくついてきてくれたのだろう。
事情を話せぬまま付き合わせてしまい、リーゼルは申し訳なくなる。
同時に、兄と会えるのか心配にもなる。
そんな心配を察した様子のカイが、リーゼルへと耳打ちした。
「適当なところで、お花を摘みに席を立つんだ」
それならばカイを同行させつつ、自然な形でディートリヒから離れられる。リーゼルは小さくうなずいた。
離宮の庭園へと案内されると、そこにお茶会の用意がされていた。思えば皇宮でのお茶会は初めてであり、その相手が皇帝陛下と、隣国の王太子殿下。改めて考えると、贅沢すぎるお茶会だ。
リーゼルは少し緊張しながら席へとつく。
「今日はリーゼル嬢に、自国から持参してきたお茶を振る舞いたくて」
ラウレンティウスが指示して運ばれてきたお茶を見たリーゼルは、緊張が一瞬でとけて好奇心に支配される。
「わあ。赤いお茶ですか?」
「こちらはハイビスカスティーと言って、ハイビスカスの花を使っているのです」
色がよくわかるように、透明なティーカップに注がれており、見た目だけでも南国を感じられるお茶だ。
ラウレンティウスに促されていただいてみると、酸味があり爽やかな味わい。今まで飲んだことのあるどのお茶とも異なる味わいだ。
「美味しいです。陛下はいかがですか?」
「リーゼル嬢が気に入ったなら皇宮にも常備させよう。リーゼル嬢が淹れてくれたらさらに味が良くなりそうだ」
「でしたら王太子殿下のメイドさんから、淹れ方を習わなければいけませんね」
「わざわざ習わずとも、リーゼル嬢なら美味しく淹れてくれるはずだ」
お茶に関しては絶対的な信頼を得ている様子。そこまで期待されているならはやり、美味しいハイビスカスティーを淹れられるように練習しなければ。
「ハイビスカスの花はご存知ですか?」
ラウレンティウスは優雅な仕草でお茶を飲んでから、リーゼルへとにこりとを微笑んだ。
「名前は存じておりますが、実物は拝見したことがなくて」
「それならちょうど良かった。腕をこちらへ出してくれますか?」
「こうですか?」
不思議に思いながらもラウレンティウスへと腕を伸ばすと、彼はポケットから何やら取り出して、リーゼルの腕へと取り付けた。
「はい、できました」と彼の手が離れると、リーゼルの目には金色のブレスレットが映る。
そのブレスレットのチェーンには、赤やピンクの花のチャームが取り付けられている。花びらの先がフリルのように波打っている可愛い花だ。
「こちらが、ハイビスカスの花ですか?」
「可愛い花でしょう? 少しでもわが国を知ってもらえたらと思い、供の者と一緒に選びました。良ければ、リーゼル嬢に受け取っていただきたいです」
(供の者って、きっとリーンのことよね?)
これはリーンハルトとラウレンティウスからのお土産のようだ。
「嬉しいです。ありがとうございます殿下」
家族に何も言わず出て行った兄とは、心が離れてしまったように感じていたが。お土産を用意する辺りは、今までどおりの優しい兄だ。
少しほっとしながらブレスレットを見つめていると、ディートリヒがリーゼルの手を掴んだ。
「リーゼル嬢は花が好きなのか。宮殿の温室に本物のハイビスカスがあるから今度、二人きりで見に行こう」
「はい。お供します」
「…………」
(あ……。今は侍従ではないから、言い方が変だったかしら……)
考えごとをしている時に話しかけられたものだから、ついいつものように反応してしまった。
微妙な空気が漂ったところで、カイが小さく咳払いする。
そのおかげでリーゼルは、本来の目的を思い出した。
「あの……。お花の話が出たついでに、お花を摘みに行って参りますね」
カイを伴って建物へと入ると、メイドが「こちらでございます」と案内する。
とある部屋へと入ると、不安そうな表情のリーンハルトがソファから立ち上がった。
「リー! カイ!」
やっと兄と再会できた。リーゼルは涙腺が緩みそうになるのをこらえながら、リーンハルトのそばまで行き、兄を抱きしめた。
「リーン心配していたのよ。会えて良かった……」
「僕もリーのことがずっと心配で……。殿下にお願いして連れてきてもらったんだ」
お互いにお互いを心配していたようだ。
兄が家族を想う気持ちは今でも変わっていない。改めて確認できたが、それならなぜ、何も言わずに出て行き、皆に心配をかけたのか。
「どうして何も言わずに出て行ったの!」
「どうして置手紙を無視して、男装しているんだよ!」
同時にそう述べた二人は、ぽかんとしながらお互いに見つめ合う。
「え……?」
「え……?」
138
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる