32 / 37
32 兄と再会4
しおりを挟む(陛下にまでそう思われていたなんて……)
パウルから助けられて厳しい処罰をしてくれた時は、本当に嬉しかったのに。兄を理解してくれる者が皇宮にもいると安心したのに。
その相手にまで男色だと思われていたとは。あの時の気持ちを踏みつけられた気分だ。
「私は男色ではございません……。私は、陛下がお困りでしたのでこの恰好をしていいるだけですよ」
確かに女装を提案したのはリーゼルだが、好んで女装する者だとは思われたくなかった。
「悪いっ。そういう意味では……!」
「それならどういう意味なんですか。女装しているのも、他国の王子に失礼がないように接していいるのも、陛下のためですよ。それなのに疑うなんて、ひどいです……」
リーゼルは涙が溢れないようにドレスをぎゅっと握り閉めた。ここで泣けば、さらに女々しいと思われる。
「リー……」
カイの呟きのあとに、沈黙が流れた。
そしてその沈黙を破ったのもカイだった。
「馬車を止めていただけますか。私たちは歩いて帰ります」
「いや。俺が降りよう。アイヒ卿はリーンハルトを頼む」
ディートリヒは馬車を止めさせると、レオンにドアを開けるよう指示する。
「しかし陛下。それでは警備に問題が……」
「いいから降りろレオン」
レオンを外へと押し出してから、ディートリヒも自ら馬車を降りる。
それから振り返り、うつむいたままのリーゼルを見つめた。
「……リーンハルト。俺は一度だって卿を好奇の目で見たことはない。卿に対してはいつも真剣だ。これだけは信じてくれ」
静かにドアが閉められ、再び馬車は動き出す。
リーゼルは、大きなため息とともに顔を両手で覆い隠した。
「どうしよう……。陛下に対して、なんて無礼なことを言ってしまったのかしら……!」
あそこまで言うつもりはなかったのに、ディートリヒに誤解されがことがひたすら悲しくて、感情があふれ出てしまった。
「リーは悪くないよ。侍従として正しい行動だったと思う」
そう。侍従としては正しかったが、陛下の気持ちを考えると居たたまれない……。
カイは初めて長い時間をディートリヒと過ごしたことで、気づいてしまった。リーゼルへ向ける感情が侍従と主人の域を超えていると。
リーゼルの伴侶が陛下ならよかったのにと思いはしたが、これはこれで問題だ……。
その頃。馬車から降りたディートリヒは、街路樹に手をついたままずっと項垂れていた。
「終わった…………」
完全に嫌われた。
馬鹿みたいに嫉妬して、それを隠すこともできなかった。
リーンハルトは同性から異常な愛情を向けられて困っていたというのに、自ら同じ目に遭わせてしまった。
「レオン。俺を刑務所に入れてくれ。その後、首都から追放してくれないか」
「お気を確かに。陛下はただ、お気持ちを伝えられずに誤解されているだけです。失恋で落ち込むのは、堂々と告白した後にしてください」
「黙れ、レオン」
それをできないから、悩んでいるというのに。
けれどこれで確信した。リーンハルトは男が嫌いで、それがディートリヒに対しても例外ではなということ。
リーンハルトは運命の番ではないのか。
ならばやはり、リーゼル嬢が……。
その足で邸宅へと戻ったリーゼルとカイは、ラウレンティウスとリーンハルトを迎えるために忙しく準備を進めた。
綺麗に整えられた食堂や応接室を見て回ったリーゼルは、満足しながら使用人たちへと笑みを浮かべる。
「皆。急なことで時間も無かったのにありがとう」
「とんでもございません。王子殿下をおもてなしできる機会など滅多にございませんもの。料理長も張り切って準備をしておりますわ」
皆がやる気に満ちて整えてくれたおかげで、リーゼルも少し気分が晴れた。
ディートリヒの希望に添えなかったのは悔やまれるが、今夜は予定どおりにラウレンティウスをおもてなししよう。結果的には、それが陛下のお役に立つと信じて。
夜になり。約束どおり、ラウレンティウスとリーンハルトが邸宅へとやってきた。
「ようこそ、お待ちしておりました。王太子殿下。お帰りなさいリーンハルト」
「急に押しかけてしまい申し訳ありません。招待してくださってありがとうございます」
ラウレンティウスは、リーゼルへと花束を差し出す。それを受け取っていると、殿下の横でリーンハルトが不満げな表情を見せている。
「そうですよ。本当は僕だけのはずだったのに……」
「えっ。そうでしたの……? 私はてっきり作戦なのかと」
「いやあ。皇帝と話していたら、あのままリーゼル嬢と別れるのが悔しくなりましてね」
あの時は、お世辞にも話が弾んでいるようには見えなかったが。
「陛下とどのようなお話しをされたのですか?」
「大したことではないですよ。強いて言うなら、男同士の意地の張り合いですかね」
110
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる