【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り

文字の大きさ
33 / 37

33 兄と再会5

しおりを挟む

 それから晩餐を楽しみながらリーゼルは、リーンハルトのこれまでの行動を聞いた。
 ラウレンティウスはアカデミー時代のリーンハルトの先輩で、数少ないリーンハルトの理解者だったのだとか。

「私も幼い頃はよく女の子に間違えられたので、リーンの気持ちを少しは理解しているつもりです」

 アカデミーを退学した後も密かに連絡を取り合っていたようで、皇宮で働けるか悩みを打ち明けたところ、『男』として鍛える手助けとして留学を勧められたのだとか。

「初めからそう言ってくれたら良かったのに」
「あの時の僕は、責務から逃げている気持ちが強くて……。皆には言い出せなかったんだ……」

 それについてはもう責めるつもりはない。とにかく誤解がとけてよかった。

「それにしても、見違えたわ」

 留学の成果か。リーンハルトは立振る舞いからして、前よりも堂々としている。

「すべて殿下のおかげだよ。――僕のせいで、リーに苦労をかけてしまってごめんね」
「私のほうこそ、リーンのことを何も知らずにいたわ。自分を変えようと努力するなんて素敵よ」
「リーに褒められると嬉しいな。これからはもう苦労はかけないから。少しでもリーへのお礼になると良いんだけど」
「お礼……?」

 こてりと首をかしげると、リーンハルトはサプライズでも仕掛けるように、ラウレンティウスとアイコンタクトをしてから、リーゼルへと笑みを浮かべる。

「今度はリーが留学しなよ。とても素敵な場所なんだ」

(えっ。私が留学?)

「待ってリーン。どういうこと……?」
「殿下がリーを招待してくださるんだ」
「でも、私には侍従のお仕事が……」
「それは僕が戻ったからもう必要ないだろう?」
「あ…………。そうよね……」

 大事な話とは、このことだったようだ。
 リーンハルトが戻ったのだから、リーゼルの役目は終わり。それが自然な流れのはずなのに。
 兄は留学へ戻るとばかり考え、リーゼルも侍従の仕事を続けられると思い込んでいた。

 戸惑うリーゼルの向かいで、ラウレンティウスが真剣な表情を浮かべた。

「それにリーゼル嬢は、しばらく国を離れたほうが良いでしょう。理由は存じませんが、今は女装という形でリーゼルを演じておられますし、下手に双子が揃うと話が複雑になってしまいます」

 そうだ。リーンハルトが戻った今、リーゼルは速やかに首都から去らなければ、双子が入れ替わっていたことに気づく者が出てくるはず。
 もともと、リーンハルトの不在がバレぬよう、リーゼルが男装していたのだ。予定どおり、秘密を知られる前に首都を去るべきだ。

(けれど……)

「せめて、陛下に事情を話せませんか? 陛下はとてもお優しい方なのです。正直に話せばきっと理解してくださると思います」

 今まで見てきたディートリヒはそういう人だった。リーゼルは罰を受けるだろうが、だまし続けて後で知られるよりは誠実なはずだ。

「リーの気持ちはわかるけど、それだとラース殿下にご迷惑をかけてしまうよ。僕は殿下の庇護下にいたんだから。陛下にはいずれ、僕からしっかりと説明するから、リーは安全な場所にいてくれないか」
「それだとリーンが全ての責任を負うことになってしまうわ。リーンはちゃんと手続きを取ったのに、私が余計な真似をしてしまったのよ……」
「それはリーのせいではないだろう。リーは頼りない僕の代わりに、家門を守ろうとしてくれたんだから。これは次期当主として、僕が負うべき責任なんだ。これくらい対処できなければ、家門を守ることなどできないだろう?」
「でも……」

 兄に全てを押し付けてしまうことに納得できずにいると、ラウレンティウスが笑みを浮かべる。

「リーンだけで対処できない事態になれば、私も手伝いますから。彼のやる気を信じてみませんか?」

 リーゼルは兄をかばうことばかり考えていたが彼は、兄が後継者として相応しい行動が取れるよう手助けをするつもりのようだ。
 リーゼルをかくまうというリスクを負いながら。

「殿下はなぜ、私たちのためにそこまでしてくださるのですか……?」
「リーンハルトとの友情もあるけれど――」

 そこで言葉を終わらせたラウレンティウスは、リーゼルを眩しそうに見つめた。




 その頃。皇宮の晩餐室では、ディートリヒとサーム国王女との晩餐がおこなわれていた。
 けれどディートリヒは気もそぞろで、会話がまったく弾んでいない。
 ため息をついた王女は、席から立ち上がった。

「申し訳ございませんが、お先に失礼いたしますわ」
「急にどうしたんだ?」
「どうしたのは、ディートリヒ皇帝のほうです。ずっとうわの空ではございませんか」

 指摘されてやっとディートリヒは、自分がリーンハルトのことばかり考えていたことに気づかされる。
 今ごろラウレンティウスと楽しく食事しているかと思うだけで、胸が締め付けられる思いだ。

「すまない……」

 落ち込んでいるような謝罪を受けて、王女は面白そうなものでも見るように笑みを浮かべる。
 実際、滅多に見られない面白い状況だ。獣人たちに恐れられているあの絶対的支配者が、何かに心を乱されているのだから。

「本日の晩餐では、昨夜のご令嬢をご紹介いただけるのかと楽しみにしておりましたのよ。けれど、陛下の片思いのようですわね。噂によると、ラウレンティウス王太子が、外出中だとか」
「そこまで知っていて、からかうつもりか……」

 ディートリヒにはすでに、諦めにも似た暗い雰囲気が漂っている。

「皇帝は運命の番を求めておられますが、人間の私からすると、努力なしにそのような相手を得られるとは思えませんわ。特別な相手こそ、がむしゃらに頑張って、必死に繫ぎとめないと」

 「私のように」と王女は胸を張って笑みを浮かべる。
 彼女は没落伯爵家の息子を愛したがゆえに国中から結婚を反対されたが、廃業寸前だった伯爵家の織物事業を見事に再建させた。今回の協定が上手くいけば国王から結婚の許しが出るのだとか。

 人族には『運命の番』という感情はないらしいが、彼女にとっては伯爵家の息子が運命の相手と思えたのだろう。

 それに比べて。とディートリヒは自分を恥じた。

 運命の番の感情にばかり頼って、リーンハルトの気持ちを探ることばかり考えていた。
 自分の中にははっきりと、リーンハルトを求める感情で溢れているというのに、この気持ちを伝える努力もしてこなかった。

 明日、リーンハルトに気持ちを伝えよう。
 この気持ちのせいでリーンハルトを傷つけてしまったことを、謝罪しなければ。
 リーンハルトにはさらに嫌われるかもしれないが、気持ちを伝えないままこの恋を終わらせたくない。

「王女の助言に感謝する」
「ふふ。陛下の恋が成就したあかつきには、織物の関税をさらに下げてくださいね」

 ちゃっかりしている王女に、ディートリヒは感心にもにたため息をつく。

「まったく。愛の力は強いな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...