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36 番の気持ち3
しおりを挟む本当は女性だと打ち明けて、がっかりされたらどうしよう。
そんな二人の様子に呆れたラウレンティウスは、ため息をつく。
「皇帝。そろそろ気づいてあげたらいかがですか」
「何をだ」
「彼女は本物のリーゼル嬢です」
「……リーンハルトだろう?」
いまだ、信じて疑っていない様子のディートリヒに申し訳なさすぎる。
リーゼルは大きく頭を下げた。
「申し訳ございません! 私ずっと、リーンハルトの代わりに男装しておりました! 陛下を騙していたんです!」
「いや……。しかし……」
リーゼルの言葉を聞いてもなお、ディートリヒは納得できない様子。
それほどリーゼルは完璧に男装できていたのか。それとも女性としての魅力にかけるのか。
後者だったら悲しすぎる。リーゼルは半ばヤケになりながら、ドレスのリボンに手をかける。
「信じていただけないのでしたら、ドレスを脱いで証明します」
「いやっ、そこまではっ……」
「リーゼル嬢。その必要はなさそうだよ」
ラウレンティウスが指さす先には、大きな白狼の姿が。その狼の背にはリーンハルトとレオンが乗っている。
「リーゼル! 陛下ー! お召物をお持ちしましたー!」
リーゼルに向けて大きく手を振るリーンハルトの後ろで、レオンは乾いた笑い声を上げる。
「手遅れだったようですね」
届けられた服に着替えたディートリヒは、改めて並んだ双子を見比べた。
「確かに……。二人が並ぶと、俺と接していたほうがリーゼル嬢だな……」
双子に身長差はあまりないが、リーンハルトはわずかに筋肉質で、リーゼルは華奢な体つき。顔はそっくりだと思っていたが、並ぶとやはりリーゼルのほうが女性的な可愛さがある。
今まで番の匂いに当てられていたせいか、その他の情報は曖昧に認識されていたようだ。
「罰はお受けいたします。ですが、これは私が独断でしたことです。どうかリーンハルトはご容赦くださいませ」
リーゼルがディートリヒに向けて頭を下げると、リーンハルトは驚いたように妹の肩を掴む。
「リーなに言ってるんだよ! ――陛下! 僕がしっかりと説明しなかったばかりに妹に負担をかけてしまったのです! どうか、罰は僕だけにしてください!」
そしてリーンハルトも深々と頭を下げる。
そんな双子の姿を、ディートリヒは困りながら見つめた。
「二人とも、顔を上げてくれ。罰はこの場で下す。リーゼル嬢だけに」
「しかしっ!」
食い下がろうとするリーンハルトを、リーゼルが止める。
きっかけはリーンハルトだが、やはり今回の件はリーゼルとディートリヒの問題。二人で向き合わなければ、この先に進めない。
「お願いします陛下」
改めて見つめるリーゼルに、ディートリヒもうなずく。
「先ほどの言葉を訂正させてくれないか」
「先ほど……ですか?」
罰を下す前に、何を訂正するつもりだろうか。
ディートリヒは罰のことなど忘れたかのように、優しく笑みを浮かべる。
「ああ。リーゼル嬢のことを、そのような目で見ていなかったのは嘘だ。ずっと可愛いと思っていたし、抱きしめたいと思っていた。王太子に笑いかけるリーゼル嬢を見るだけで、はらわたが煮えくり返るほど嫉妬した」
「あ……あのっ」
急に何を言い出すのか。
「リーゼル嬢の白い肌に触れていたかったし、その果実みたいな唇に吸い付きたかった。できることなら全身をなめまわして」
「へっ陛下……?」
いつも誠実で素敵だと思っていた人の心の中が、このような気持ちで溢れていたなんて。リーゼルは恥ずかしすぎて顔が真っ赤になる。
「その羞恥に染まる顔は誰にも見せたくないな」
追い打ちをかけるように、ディートリヒに抱きしめられてどきどきが止まらない。
「陛下……それよりも罰を……」
「これが、俺を騙した罰だ。俺はこれらの感情を抑えるのに必死で、夜も眠れなかったんだ。全て受け止めてくれ」
ディートリヒは眠れず辛い思いをしていた様子は見ていたが、まさかそれがリーゼルに対する感情の表れだとは思いもしていなかった。
大変な苦労をかけたというのに、このような罰で許してくれるとは。
陛下はやはり優しくて素敵な方で、そんな方が番だと思うと愛おしさがこみ上げてくる。
「――はい。全て受け止めます」
抱き合う二人の間にはもう、微塵も入り込む隙はなさそうだ。
ラウレンティウスは、ため息をつく。
リーゼルを愛してしまったわけではないが、これから故国へ帰り良い関係を築ける予感はあったのだが。
獣人はこれだから興味が尽きない。ラウレンティウスは最後に、好奇心でリーゼルへと尋ねる。
「リーゼル嬢。本当にそのような皇帝を選ぶのですか? 私のほうがよほど紳士的にリーゼル嬢を満足させてあげられますよ?」
「本能には逆らえませんから」
「まさか往来で、全身をなめまわしたいと言う男に負けるとはね……」
あのような欲望丸出しの告白で負けたとなれば、ラウレンティウスのプライドも少しは傷つく。
しかしリーゼルは、きょとんとした顔で小首をかしげる。
「あら。私も、大好きな方は全身をなめたいですよ?」
「嗜好が合いそうで良かった」
「早速、今夜にでもして差し上げますね」
いちゃいちゃと約束を取り付ける二人を見て、周りは何とも言えない微妙な雰囲気になる。
まさかあの純粋無垢そうな令嬢から、このような言葉が出てくるとは。
そんな雰囲気を感じながらリーンハルトは、ため息をつく。田舎領地でのんびり育った妹がありえない。
「リーが言ってるのは、『毛づくろい』だよね……」
指摘されたリーゼルは、そうだけど? と言いたげな表情でディートリヒを見る。
「俺も、毛づくろいのつもりで話していたが」
紳士的に笑みを返すディートリヒ。
リーゼル以外の全員が心の中で同じ言葉を浮かべた。
嘘つけ。と。
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