悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り

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09 夫の様子がおかしい3

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 翌日。シャルロットは聖女宮を訪れた。
 王宮の大庭園の奥にひっそりと佇むこの宮殿は、シャルロットとジェラートが住む宮殿よりもこぢんまりとしている。
 ここは、王宮の豪華な暮らしに慣れなかったマドレーヌのため、先々代国王が建てたといわれている。
 マドレーヌが王妃だった頃には、公務の合間に訪れる安らぎの空間として。王位が息子に継承されてからは、先々代国王とともにこの宮殿へと移り住んだ。

「指示どおりに仕上げてくれて感謝するわ、侍女長。ミモザをイメージしたのは正解だったわね。春らしい柔らかな雰囲気になったわ」

 宮殿に到着したシャルロットは、模様替えされた箇所を見て回っていた。
 季節ごとの模様替えを考えるのも、シャルロットの仕事のひとつ。マドレーヌは都会的なものよりも、自然を感じられるようなものが好みなので、いつも植物をイメージした模様替えを心がけている。
 今回は春らしく、黄色い綿毛のような花ミモザをイメージしてみた。こだわったポイントはタッセル。基本形ではなく黄色い毛玉状にして、布製品の様々な箇所にアクセントとして付けられている。

「恐れ入ります、王太子妃殿下。聖女様も、大変お喜びになられておりました」

 真っ白な髪をきっちりと結い上げている侍女長も、この仕上がりには満足していた。
 侍女長は長年に渡り聖女に仕えているため七十歳を超えているが、シャルロットが宮殿の管理をするようになってからは、娘時代に戻ったかのように、一緒になって模様替えを楽しんでいる。
 シャルロットが聖女宮へ出入りするようになってからは、ふさぎ込みがちだった聖女も朗らかな雰囲気が戻ってきた。いつもありがたく思っていた。

 シャルロットにはこれからも、宮殿の管理をお願いしたいと思っていたが、ここ数日で出回り始めた『別居』の噂を侍女長は気にしていた。
 しかし聖女の侍女が、王太子夫婦の問題に口を挟むわけにもいかない。

「聖女様も、王太子妃様のご訪問を心待ちにしておられました。是非とも、お会いになられてくださいませ」

 侍女長ができる引き留め・・・・は、これしかなかった。

「聖女様が? 私もこの前のお礼をお伝えしたかったの。お会いするわ」

 貴族社会に慣れなかったマドレーヌは、人にはあまり会いたがらない。シャルロットも聖女宮へは頻繁に訪れているが、呼ばれた時にしか会わないようにしている。
 マドレーヌとは五日前に会ったばかりなので、珍しいこともあるものだと思いながらも、シャルロットは彼女の部屋へと向かった。



「ごきげんよう、聖女様。シャルロットが参りました」
「あら、シャルちゃん。よく来てくれたわね」

 マドレーヌの部屋へ入ると、ふわっと暖かい空気に包まれる。正面の暖炉には赤々と薪がくべられており、マドレーヌは暖炉の手前で揺り椅子に腰かけて、編み物をしていたようだ。
 王太子宮ではこの時期になると、朝晩しか暖炉を使っていないが、高齢のマドレーヌは昼間も暖炉がないと寒いらしい。

「こちらへ、いらっしゃいな」
「はい」

 マドレーヌに手招きされたシャルロットは、彼女の元へ向かい、暖炉の前に敷かれている絨毯の上に座った。

「いつも床に座らせて、ごめんなさいね」
「構いませんわ。領地の別荘にいるような気分で、懐かしいですもの」

 この部屋は簡素なベッドと、マドレーヌが座っている揺り椅子、その隣に小さなテーブル、そして聖女として祈りを捧げるための祭壇しかない。
 先々代王妃の部屋とは思えない質素さだが、これはマドレーヌ自身が望み、先々代国王がわざわざ作った部屋だという。
 マドレーヌが生まれ育った家を模しており、山小屋のような雰囲気となっている。

 シャルロットはこの部屋を訪れるたびに、領地の狩猟小屋を思い出す。ハット伯爵領は狩猟場で有名なので、シャルロットも弓が得意。結婚する前は、父や弟と一緒に狩猟小屋に何日も滞在した経験があった。
 普通の貴族女性なら、この部屋にはあまり来たがらないだろうが、シャルロットにとっては慣れ親しんだ居心地の良い場所でもある。

「聖女様。先日は素敵な贈り物をありがとうございました」

 前回の訪問時にシャルロットは、マドレーヌから贈り物を受け取っていた。
 マドレーヌの誕生祭が近づくにつれて、各国からは祝いの品が届いている。南の王国からは宴用にと、食器が献上されていた。
 その食器は巨大虹色二枚貝という、滅多にお目にかかれない魔貝から作られたもの。
 本来なら、魔法具の材料として高額取引される素材だが、聖女のため特別に食器として加工された。

 他国が貴重な品を献上するのは理由があり、聖女の『土地を浄化する能力』が、この国だけではなく大陸全体に作用しているからだった。聖女は、大陸全体の『宝』なのだ。

 その献上された食器の中に、ボンボン菓子用の器ボンボニエールがあり、マドレーヌはそれをシャルロットに贈ってくれた。
 ボンボニエールの中には、しっかりとボンボンが入っており。ひ孫としてマドレーヌに甘やかされているような気がして、シャルロットは嬉しく感じていた。

「ふふ。ボンボンは美味しかったかしら?」
「はい。少し食べすぎてしまい、フラフラしてしまいましたが……」

 就寝前だったので少しだけにするつもりだったが、止められない美味しさだったので一人で全部食べてしまった。食べきってから、ウイスキーのアルコール度数が高かったのだと気がついたのだ。
 そのせいか、思いのほか熟睡してしまったらしく、盛大にベッドから落ちて前世の記憶が戻ったのは、ボンボンのおかげと言っても過言ではない。

「シャルちゃんは、お酒に弱かったのね。ジェラートに教えてあげようかしら」
「ええっ!? そんな……、恥ずかしいですわ!」

 ジェラートと一緒の場ではお酒は控えていたので、知られてしまうのは恥ずかしい。
 シャルロットが顔を真っ赤にしながら、言わないでほしいとお願いしていると、マドレーヌは安心したように微笑み出した。

「その様子だと、ジェラートを嫌いになったわけではなさそうね」
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