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53 ヒロインと悪女のお茶会
しおりを挟むマドレーヌを見送った後、シャルロットはショコラをお茶に誘った。
ショコラが王宮で暮らし始めてから、約三か月。覚えることが多くて忙しかったショコラだが、マドレーヌからの聖女教育も終わり、やっと一息つけたところだ。
「マドレーヌ様が最後に、私の身体から漏れ出ている聖女の力を、抑える方法を教えてくれたんです。それを使いこなせるようになったら、カカオに触れられるようになるって」
聖女教育時の話をしていたショコラは、最後に嬉しそうな顔でそうシャルロットに報告した。
マドレーヌは、シャルロットだけではなく、ショコラにも贈り物を残してくれたようだ。
「まぁ! それは良かったですわね。カカオも喜ぶんじゃないかしら」
「そうだと嬉しいです。私の力が大陸中に満たされるまでは時間がかかるみたいなので、会えるのはまだ先なんですけどね」
ショコラの力が大陸に満たされるまでは、日に何度も祈る必要があるので王都を離れられない。それでも、カカオを抱きしめられる予定ができて、ショコラは幸せそうだ。
ふさふさ可愛いカカオを思い出したシャルロットも、抱きしめたい衝動に駆られる。
「カカオは元気にしているかしらね?」
「クラフくんがたまに、様子を見にいってくれるんです。領地や使用人にも慣れたようで、元気に暮らしているそうですよ」
「そうでしたの。クラフティに任せておけば安心ね」
(最近、留守が多いとは聞いていたけれど、カカオに会いに行っていたのね)
弟の行動力には、相変わらず感心させられる。そう思いながらシャルロットは、ショコラの右薬指にはめられている指輪に視線を向けた。
ショコラは友情の印として貰ったと言っていたが、弟の瞳の色であるルビーの指輪が、単なる友情の印のはずがない。
弟はカカオに会いにいくだけではなく、粛々と未来への準備を進めているのだろう。
近々、嬉しい知らせがあるような予感がして、シャルロットは顔が緩む。
ショコラは、シャルロットの視線に気がついたのか、慌てるように話題をそらした。
「と……ところで、シャルお姉ちゃん。そのボンボニエールは、マドレーヌ様からいただいたんですか?」
「あら。よくわかりましたわね」
以前マドレーヌから貰った、巨大虹色二枚貝から作られたボンボニエール。とても綺麗で気に入っているシャルロットは、頻繁にお茶会で活用している。
「ボンボニエールから、マドレーヌ様のお力の痕跡が見えるので」
「力の痕跡? 何か術がかかっていたのかしら?」
「私じゃ詳しくわかりませんが……、時間に関する術だと思います」
時間と聞いてシャルロットは、ボンボンを食べた日のことを思い出した。あの時はボンボンに酔ってしまい、寝相の悪さが悪化したために頭をぶつけて、前世を思い出したのだ。
(えっ……、待って。もしかして、その術で前世を思い出したとか?)
頭をぶつけたくらいで、前世の記憶が戻るのはおかしいと、シャルロットはずっと思っていた。それで前世を思い出せるなら、生まれつき寝相が悪いシャルロットは、もっと早くに思い出していても不思議ではなかったのだから。
ボンボニエールの素材自体も、本来は魔法具の材料として使われる。術をかけるにはちょうど良い器だ。
大聖女には及ばないものの、歴代聖女の中では力が強かったマドレーヌならば、前世を思い出させる術が使えても不思議ではない。
そう確信したシャルロットだが、なぜ前世を思い出させたのかについての疑問が残る。
(私を心配してくださったのかしら……)
断罪される未来をマドレーヌが知っていたとしたら、可愛がっていたシャルロットを助けたいと思う気持ちが、湧いてもおかしくはない。
そしてマドレーヌなら、こう言うだろう。
『シャルちゃんをジェラートには任せておけないから、私が連れて行くわ』
(ふふ、お別れの際の言葉は、冗談ではなくて本心だったのかしら)
しかしマドレーヌは、未来をシャルロットに選ばせてくれた。彼女が言ったとおり、シャルロットの物語の主人公は、シャルロット自身なのだから。
「あの……、何か思い出したんですか?」
一人で納得して微笑んでいるシャルロットに対して、ショコラは不思議そうに首を傾げる。
「いいえ。お別れしたばかりなのに、マドレーヌ様が恋しくなってしまいましたの」
「お優しい方でしたよね。私もまた会いたいです」
「今度、皆で遊びに行きましょう。そうね……、二年後くらいが良いかしら」
「二年後ですか? 随分と先なんですね」
「えぇ。その頃には、長旅に耐えられると思うの」
一緒に行くのはきっと、王太子夫婦とショコラとクラフティ。もともと長旅には慣れているはずだ。
またしてもよくわらないショコラは、再び首を傾げた。
それから一週間後。ジェラートは大量の白い土産を携えて、王都へと戻ってきた。
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