8 / 55
07 ヴィンセント10歳 07
しおりを挟む「この子。マナ核の動きが不安定だね」
「はい……。マナ核が安定する前に親と離れたみたいで、この歳まで苦労したみたいなんです。なので一・二年は私が付き添っているつもりです」
マナ核の染めは完了したが、マナ核が正常に動き続けるには、染めた者か、色が近しい親族のマナ核の音を聞かせて、リズムをマナ核に刻み込ませる必要がある。
大抵は親が育児をしている間に自然と完了するもの。
ヴィンセントは、エルがマナ核を染めてから三か月ほどしか経っていないので、赤子も同然の状態。ふとした瞬間にマナ核の動きが乱れ、体内のマナバランスが崩れると、発作で苦しむこともある。
そして彼はこれまで、マナ核が動いていなかった。頻繁にマナバランスが崩れて苦しんだはずだ。
(私がマナ核を染めたからには、もう苦しい思いはさせないわ)
「それで今日は、仕事のことでマスターにご相談しにきました」
「事情は大体把握したよ。それにしても、おまえさんたちの両親はとんでもない奴らだったようだね。心配いらないよ。私のことも親だと思って頼っておくれ」
ヴィンセントにそう笑いかけたマスターは、すぐさま執務机から依頼帳を取り出し、どさっとテーブルの上に置いた。
依頼帳にはびっしりと依頼の紙が貼りつけてあり、帳面が膨れ上がっている。
一階にある掲示板に貼られている依頼は、誰でも受けられるものだが、この依頼帳に納められている依頼は、相手を選ぶ。
特定の条件が必要な依頼だったり、マスターが信頼している相手にしか回さない依頼だ。
マスターはその依頼帳をぱらぱらとめくり始めた。
「それじゃエルには、子連れが許可されていて安全な仕事を回そうかね」
「これからは安定収入がほしいので、できれば長期の仕事が良いのですが」
「長期か……。長期で子連れだと、あまり良い仕事がなくてね」
依頼帳と睨めっこしながら、マスターは頭を悩ませている。エルとしてはそこまで条件がよくなくても、安定収入が得られるなら良いのだが。
「東の炭鉱でいつも治療魔法師を募集しているでしょう? あそこ、決まってしまいましたか?」
「いや。まだだけど……、子連れで炭鉱は危険じゃないかい? それにあそこはガラの悪い男ばかりだ。苦労するよ?」
「大丈夫です。診療所自体は安全が確保されているそうですし、最近は女性の労働者も増えたそうですよ」
それに鉱山なら、ヴィンセントの顔を知るような貴族は滅多に訪れないはず。ヴィンセントを隠しながら働くには良さそうな場所だ。
「お金が必要なら、またここで一緒に暮らせばいいじゃないか。ヴィーなら私も大歓迎だよ」
心底、心配そうな顔をするマスターに、エルは大したことではないような素振りで微笑んだ。
心配してくれるのは嬉しいが、マスターにはこの小説のストーリーには足を踏み入れてほしくない。
なにせこの小説は、ヒーローとヒロインが出会うまでに、ばったばたと人が死ぬ。そのような展開へ引きずり込みたくはない。
助けてもらうのも、今回限りだ。
「ありがとうございますマスター。けれど、私はあの家の暮らしが気に入っているので」
「そうかい? もし嫌な目にあったら、すぐに辞めるんだよ」
マスターに紹介状を書いてもらってからギルドを出ると、ヴィンセントがまた手を繫ぎながらエルに問いかけた。
「エルは、マスターと一緒に住んでいたのですか?」
「そうなの。マスターは魔法の才能がある孤児を孤児院から引き取って、自立させる活動をしているのよ」
「それなら、エルは……」
聞いてしまい申し訳なさそうにしているヴィンセントに、エルはにこりと笑みを浮かべながら彼を抱きしめた。
「だから私も家族ができて嬉しいの。私に迷惑をかけているなんて思わないでね」
今までエルにとっての家族は育ての親であるマスターと、兄貴分のアークだった。けれど、二人とはマナ核の繋がりがない。
ヴィンセントのマナ核を染めたことで初めて、強い繋がりを感じた。
「僕も、エルが家族になってくれて嬉しいです。炭鉱では僕もお手伝いしますね。エルを少しでも支えたいので」
「ふふ。ありがとう。ヴィーは良い子ね」
翌日。二人は面接を受けるために、東の炭鉱へと向かった。
炭鉱までは結構な距離がある。家がある林を抜けて街まで歩いてから、乗合馬車で終点まで行き、そこからさらに鉱山行きの乗合馬車に乗り換える必要がある。
片道二時間ほどかかるが、こればかりは仕方ない。
鉱山に到着して馬車を降りると、ヴィンセントが「わあ……」と小さく歓声を上げた。
山に囲まれたそこは意外と開けており。住宅や商店、学校まであり、ちょっとした町のようになっていた。
もっと寂しい場所なのかと思っていた二人は、にこりと微笑み合った。
「思っていたより良さそうな場所ね」
「はいっ」
学校のすぐ向かい側に、依頼書にあった名前と同じ診療所がる。二人はそこへと足を向けた。
82
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。
バナナマヨネーズ
恋愛
山田華火は、妹と共に異世界に召喚されたが、妹の浅はかな企みの所為で追放されそうになる。
そんな華火を救ったのは、若くしてシグルド公爵となったウェインだった。
ウェインに保護された華火だったが、この世界の言葉を一切理解できないでいた。
言葉が分からない華火と、華火に一目で心を奪われたウェインのじりじりするほどゆっくりと進む関係性に、二人の周囲の人間はやきもきするばかり。
この物語は、理不尽に異世界に召喚された少女とその少女を保護した青年の呆れるくらいゆっくりと進む恋の物語である。
3/4 タイトルを変更しました。
旧タイトル「どうして異世界に召喚されたのかがわかりません。だけど、わたしを保護してくれたイケメンが超過保護っぽいことはわかります。」
3/10 翻訳版を公開しました。本編では異世界語で進んでいた会話を日本語表記にしています。なお、翻訳箇所がない話数には、タイトルに 〃 をつけてますので、本編既読の場合は飛ばしてもらって大丈夫です
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる