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31 ヴィンセント25歳 04
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エルはヴィンセントの指示どおり、一週間の静養に入ることにした。っといっても、バルコニーから落ちた際の怪我はすでに治療魔法で治っているし、この身体へ入った違和感も徐々に薄らいでいる。
特にベッドで寝ている必要がないエルは、頻繁にエルヴィンの様子を見に行った。
生垣の隙間から見ることしかできないが、息子の笑顔を見るだけでも心が癒される。
今のエルにとっては、それだけが心の支えだった。
そして一週間後。エルの全快を祝うパーティーが開かれた。皇帝が自ら主催し、今日は公務を全てキャンセルしたという。
ヴィンセントなりに、エルシーが自殺を図ったことへの罪悪感があるのか。
はたまた、皇帝と皇妃の不仲説を払拭させるための演出か。
エルは前者であると願っている。
「皇妃。体調はどうですか?」
「おかげさまで、すっかり元に戻りました」
「そうですか。そろそろ時間なので入場しましょう」
彼はそう言いながら、ポケットから懐中時計を取り出して確認した。それを見たエルはどきりと心臓が跳ねる。
(ヴィーの十六歳の誕生日に、私がプレゼントした懐中時計……)
価値があるのは純金製であることだけで、宝石の一つも埋め込まれていない。皇帝が持つ装身具としては、シンプルすぎるデザインだ。
そのようなものを、なぜ今でも使っているのか。
エルの視線に気がついたようで、ヴィンセントは気まずそうに懐中時計を握りしめた。
「衣装に合わない懐中時計でご不満ですか? ですが、こちらは僕の宝物なんです。皇妃にとやかく言われる筋合いはありません」
(宝物ってなによ……)
エルヴィンを引き取ったことについては、父親としての責任を感じたのかもしれないが、エルがプレゼントしたものまでなぜ大切にしているのか。
エルシーに食って掛かるほど大切なら、なぜエルに兵を差し向けたのか。
「私は何も――」
エルが反論しかけた時。ヒールのかつかつとした音を立てながら、誰かが駆け寄って来る気配がした。二人そろって振り返ると、そこにはマリアンの姿が。
「陛下ぁ~。遅れてしまい申し訳ございません。準備に手間取ってしまいまして」
そう言いながら下を向いて息を整えたマリアンは、姿勢を正してからヴィンセントとエルを見た。それから、シュンと捨てられた子犬のような顔をする。
「あ……。私、婚約者だから陛下のパートナーだとばかり……。陛下には皇妃様もいらっしゃるのに……」
(ヴィーはエルシーにうんざりして、マリアンを皇妃に迎えようとしているのだから、当然そう思うわよね)
小説ならここでエルシーが激怒する場面だろうが、エルは大人しく悪役になってやるつもりなどない。にこりと二人に笑みを向けた。
「陛下には失礼に当たるかもしれませんが、お二人で先にお入りください。今日は私が主役なので、最後に一人で入場しても不自然ではないでしょう?」
エルとしては三人で入場しても構わないが、皇妃と婚約者を同列に扱う行為もまた、派閥間での波乱を呼びそうだ。少しでも波風立てないようにするには、この方法が最適だと考えた。
(それに見たくないものを見てしまったから、今は距離を置きたいわ……)
ヴィンセントもそれが良いと思ったようで、素直に「感謝します、皇妃」と謝意を表す。
「皇妃様ってお優しいのですね」
しかしヴィンセントを譲ったというのに、なぜかマリアンは不満そうだった。
二人を見送ってしばらくしてからエルが入場したが、会場の冷ややかな視線はなかなかのものだった。
(そうなるわよね。ヴィーの気を引くために、エルシーは自殺を自演したと思われているだろうから)
それよりエルが心配なのは、ちゃんと皇妃として振る舞えているかだ。エルシーの記憶や小説でも、彼女はどのような場面でもいつも堂々としたものだった。
あごを引き、胸を張り、視線は落とさず。そして、気に入らない者は睨みつける……これは参考にならない。
緊張しながら玉座に向かって歩いていると、前方からヴィンセントがやってきた。
(パートナーはマリアン嬢に譲ったのに、なぜこちらへ来るの……?)
「皇妃。皆が待っていました」
そして手を差し出す姿に、会場全体がざわついた。
特にベッドで寝ている必要がないエルは、頻繁にエルヴィンの様子を見に行った。
生垣の隙間から見ることしかできないが、息子の笑顔を見るだけでも心が癒される。
今のエルにとっては、それだけが心の支えだった。
そして一週間後。エルの全快を祝うパーティーが開かれた。皇帝が自ら主催し、今日は公務を全てキャンセルしたという。
ヴィンセントなりに、エルシーが自殺を図ったことへの罪悪感があるのか。
はたまた、皇帝と皇妃の不仲説を払拭させるための演出か。
エルは前者であると願っている。
「皇妃。体調はどうですか?」
「おかげさまで、すっかり元に戻りました」
「そうですか。そろそろ時間なので入場しましょう」
彼はそう言いながら、ポケットから懐中時計を取り出して確認した。それを見たエルはどきりと心臓が跳ねる。
(ヴィーの十六歳の誕生日に、私がプレゼントした懐中時計……)
価値があるのは純金製であることだけで、宝石の一つも埋め込まれていない。皇帝が持つ装身具としては、シンプルすぎるデザインだ。
そのようなものを、なぜ今でも使っているのか。
エルの視線に気がついたようで、ヴィンセントは気まずそうに懐中時計を握りしめた。
「衣装に合わない懐中時計でご不満ですか? ですが、こちらは僕の宝物なんです。皇妃にとやかく言われる筋合いはありません」
(宝物ってなによ……)
エルヴィンを引き取ったことについては、父親としての責任を感じたのかもしれないが、エルがプレゼントしたものまでなぜ大切にしているのか。
エルシーに食って掛かるほど大切なら、なぜエルに兵を差し向けたのか。
「私は何も――」
エルが反論しかけた時。ヒールのかつかつとした音を立てながら、誰かが駆け寄って来る気配がした。二人そろって振り返ると、そこにはマリアンの姿が。
「陛下ぁ~。遅れてしまい申し訳ございません。準備に手間取ってしまいまして」
そう言いながら下を向いて息を整えたマリアンは、姿勢を正してからヴィンセントとエルを見た。それから、シュンと捨てられた子犬のような顔をする。
「あ……。私、婚約者だから陛下のパートナーだとばかり……。陛下には皇妃様もいらっしゃるのに……」
(ヴィーはエルシーにうんざりして、マリアンを皇妃に迎えようとしているのだから、当然そう思うわよね)
小説ならここでエルシーが激怒する場面だろうが、エルは大人しく悪役になってやるつもりなどない。にこりと二人に笑みを向けた。
「陛下には失礼に当たるかもしれませんが、お二人で先にお入りください。今日は私が主役なので、最後に一人で入場しても不自然ではないでしょう?」
エルとしては三人で入場しても構わないが、皇妃と婚約者を同列に扱う行為もまた、派閥間での波乱を呼びそうだ。少しでも波風立てないようにするには、この方法が最適だと考えた。
(それに見たくないものを見てしまったから、今は距離を置きたいわ……)
ヴィンセントもそれが良いと思ったようで、素直に「感謝します、皇妃」と謝意を表す。
「皇妃様ってお優しいのですね」
しかしヴィンセントを譲ったというのに、なぜかマリアンは不満そうだった。
二人を見送ってしばらくしてからエルが入場したが、会場の冷ややかな視線はなかなかのものだった。
(そうなるわよね。ヴィーの気を引くために、エルシーは自殺を自演したと思われているだろうから)
それよりエルが心配なのは、ちゃんと皇妃として振る舞えているかだ。エルシーの記憶や小説でも、彼女はどのような場面でもいつも堂々としたものだった。
あごを引き、胸を張り、視線は落とさず。そして、気に入らない者は睨みつける……これは参考にならない。
緊張しながら玉座に向かって歩いていると、前方からヴィンセントがやってきた。
(パートナーはマリアン嬢に譲ったのに、なぜこちらへ来るの……?)
「皇妃。皆が待っていました」
そして手を差し出す姿に、会場全体がざわついた。
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