悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています

廻り

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46 ヴィンセント25歳 19

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 部屋で二人きりになったエルは、改めてヴィンセントの顔色をうかがった。彼は未だに眠ったままで、苦しいのか汗がにじんでいる。

(絶対に助けるわ)

 そう決意したエルは、ヴィンセントのシャツのボタンを外してから、自らのドレスの上半身を下ろして、コルセットを外した。
 そして昔したように、彼のマナ核とエルのマナ核を重ねるようにして素肌を触れ合わせる。

「ヴィー……。どうか無事に目覚めて……」

 これで解毒できる保証はないが、少なくともエルシーの身体はエルのマナで満たされることで再び活動を始めた。
 例え時間がかかっても、彼の身体から毒が抜けるまでマナを注ぎ続けるつもりだ。





 ――ヴィンセントは夢の中にいた。
 その夢の中で彼は、自分のマナ核からエルのマナが、水が蒸発するように抜けていく感覚に襲われていた。

「嫌だ! エル! 消えないでください!」

 必死にそれを押さえ込もうとするも、気体となったエルのマナを掴むことは叶わない。

「エル! また僕を置いて消えてしまうのですか! 嫌です戻ってきてください!」

 なす術もなく、天へと昇って行くエルのマナへと手を伸ばしていると、突然、天から光が差し込み、エルが舞い降りてきた。

「エル……。僕のもとへと戻ってきてくれたのですか?」

 ヴィンセントは、両手を広げてエルを受け止めた。
 しかしその感触を味わうことは叶わず。
 エルはヴィンセントの身体の中へと、溶け込むように消えていった。






 カーテンの隙間から差し込む日の光で、ヴィンセントは目覚めた。
 また虚しい夢を見てしまった。エルが自分のもとへと戻ることなどもう、一生ないというのに。

 エルヴィンと一緒に寝たのだろうか。この前も似たような感覚を味わった。
 胸の上に重みを感じならヴィンセントはそう判断し、目を開いた。

 しかしそこにいた者を見て、彼は驚きのあまり言葉を失った。

 なぜかエルシーが、上半身が裸の状態でヴィンセントに抱きついて寝ていたのだ。
 エルシーを誤解していた頃なら、寝込みを襲われたと判断した。けれど、彼女はそのようなことをする人間ではない。

 ヴィンセントは頭の中を整理するために、昨日のことを思い出した。

 昨日は儀式の際に、自分が用意したマカロンとは異なる色のマカロンがエルシーとエルヴィンに提供されていた。
 何か嫌な予感がしたヴィンセントは、二人の代わりにそのマカロンを食べた。

 その後からだ。マナが抜けるような感覚に襲われ続け、体調が悪かった。
 パーティーを抜け出したあとに限界にきて……。そのあとの記憶がない。

 しかし、体調は驚くほどすっきりと回復している。

「皇妃が、治療したのか……?」

 その考えに至ったと同時に、彼女と自分のどこが触れ合っているのか。ヴィンセントは気がついた。

 エルヴィンが抱きついている時のような、落ち着いた気分。いや、それよりもエルと寝ていた頃の、何よりも安心できる心地良さ。
 異なるはずの二人のマナ核の間には、なんの雑音も感じられない。

「エル…………」

 信じられない気持ちでそう呟くと、彼女はそれに反応して目覚めた。
 毎日見ていたように、眠そうな目を擦りながら目覚めた彼女は、ヴィンセントに目を留めると、やはりあの頃のように少し困ったような顔をする。

「申し訳ありません……。途中で寝てしまったみたいで。お加減はいかがですか?」

 それから彼女は、上半身が裸なことを思い出したのか、「きゃっ」と小さく悲鳴を上げてヴィンセントに背を向けた。
 これは初めて身体を重ねた時の、翌朝の反応とそっくりだ。

 慌ててドレスを着直している彼女を、ヴィンセントは後ろから抱きしめた。

「エル、なんですよね?」
「違います陛下……。私はエルシー……です」
「マナ核から、エルの音がします」

 ヴィンセントは彼女のマナ核に触れた。やはり、この音を間違えるはずがない。

「それはその……」

 言い訳は考えていなかったようだ。考える暇がないほど切迫した状況だったのか。
 そんな状況だった自分を、エルは助けてくれた。秘密を知られる危険を冒してまで。

 愛おしさがこみ上げてきたヴィンセントは、彼女の首筋に口づけを落とし始めた。

「あっ……。陛下困ります……」
「なぜですか? 僕たちは夫婦ですよ」
「そうなんですけどっ……。隣の部屋にエルヴィンとアークがいるんです……。だから……っ」
「でしたら、僕の名前を呼んでください。皇妃が知らない、あなたのための僕の名前を」

 彼女が着たばかりのドレスの袖を下ろすと、彼女は観念したように振り返った。

「ずるいわ。ヴィー……」

 ヴィンセントが好意を表すたびに困った顔をする。それがエルだ。
 困らせたくはなかったのに、愛する気持ちを抑えられなかった相手。

 本当に、彼女は戻ってきた。
 これまでヴィンセントを支えてきたのは、エルシーではなくエルだったのだ。

 ヴィンセントは懺悔するように、エルの膝へと泣き崩れた。
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