この世界で i を歌え。

ひとはな

文字の大きさ
1 / 5

序章

しおりを挟む
「ねぇ、覚えてる?」
そこに入るはずのない彼がいた。
「ここからさ、花火見たよね。小学生の時かな?
   親にバレないようにさこっそり家抜け出して。
   あの頃は楽しかったな。また、君と…」
そう言いかけて彼は消えていった。
そこには綺麗すぎて直視できない夕焼けと空っぽの待合室だけが残った。私は思わず笑ってしまう。
2年前に失踪した音楽家【渡世真瑞】まるでペンネームのようなこの名前が彼だった。彼そのものだった。
2年も前なんて昔のことどうして今更思い出したのだろう。どうせどこかで野垂れ死んでるか海にでも流されて沈んでしまっているのだろう。
彼が死んで悲しむ人はあまりいなかった。というよりかは悲しむ人はいても彼がいなくなることによってなにかが変わるという人がいなかった。
人に必要とされなかったのではなく世界から必要とされなかった彼の失踪は深夜のニュースで30秒くらいで言われそのご消えた。ニュースごと失踪した。

笑っちゃうな。こんなフィクションみたいな音楽家の話。彼の曲はすごく売れた。10代で失踪した謎の音楽家。そのイメージはきの雰囲気も似ていてそれがとても気持ち悪かった。
そんな音楽家と花火を見に行くほど仲が良かったのかと言われたら私にもわからない。あの時はまだ子供で何も考えていなかった。親に怒られるかもしれないということも暗い中山に入れば危ないということも。
私は多分彼のことを面白がっていたんだと思う。
いつも教室で誰かに話しかけては何かしらの方法でその子を裏切る。小学生の行動にしてはおかしかった。
おかしいものに興味を持つそれが私だった。
彼はだいたい図書室にいた。そこで私が声をかけた。
最初はどんな会話だっただろう、思い出せない。
他愛もない話をして盛り上がったのだろう。
そこから私たちは一緒にいることが増えた。移動教室や放課後、登下校も。その中で色々なことをしたな。
例えば帰りにザリガニを溝で捕まえたり、自転車で二人乗りをしたり。
「たのし、かった、、な」
誰の声だろう?、、私の声だ。
自分の声で現実に引き戻された私はすぅと小さく息を吸った。さっきまでオレンジ色で眩しかった空は少しずつ暗くなり始めていた。
「真那、まーな」
呼ばれた先を振り返るとそこには夏星がいた。
夏星は渡世真瑞の友達だった人だ。彼と繋がっていた人といえば私と夏星しかいないだろう。
真瑞が失踪してから私と夏星は一緒にいるようになった。なぜだと聞かれたらそれもわからない。
真瑞が生きている時一つも接点がなく会ったこともなかった私たちが出会ったのはなんというかそういう縁なのだろう。と私は思っている。
「なにやってんの、今日早く帰るんじゃねーの」
ぶっきらぼうに言った夏星は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。やめてよなんて笑いながら返事をするけど、
きっと私も夏星も一緒にいて楽しいなんて思ったことは無い、だろう。
「そーだね、そのつもりだったんだけどね、」
夏星が顔を近づけて私の髪を耳にかけた。そしてニコッと笑うと唇を重ねた。私たちは何もかもを忘れるかのように、何かから逃げるようにキスを重ねた。
それが終わったかと思うと急に強く抱きしめられた。
「大丈夫。」
何が大丈夫なのだろうか?何も大丈夫じゃない。
「ありがとう」
やっぱり気持ち悪い。
帰ろっかと夏星が言うのであとに続く。なかなか電車の来ない田舎の駅だったが運が良かったのか夏星が調べていたのかすぐ電車が来た。無言で電車は走っていく。なんの会話もなく私の降りる駅についた。
立ち上がってばいばいと言おうとすると、急に抱き寄せられそのまま電車は走り出してしまった。だいぶ外は暗い。次の駅で降りたとして折り返しができるだろうか、?終電まで待たないと無理だな。そんなことを考える。でも、次の駅についても夏星は離してくれず、そのまま電車の中にいる。
「夏星?どーしたの?」
「何で話してくれないの?」
なんと聞いても夏星は黙ったままだった。何も言わずに私が本当にここに存在しているか確かめるかのように何度もキスをした。そして多分夏星がいつも降りているだろう駅で強く引っ張られて降りた。そのまま駅から出てすぐのマンションに連れていかれた。
部屋につくと
「友達の家に泊まるって親に連絡して。早く。」
言われるがままに連絡する。
「連絡した?」
と自分から聞いてきた夏星は私の返事を聞かないで唇を重ねてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...