恋愛マイスターとMs.Aの誘惑

月駆 ニヤリ

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プロローグ

恋愛マイスターとMs.A

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「これ、あなたのじゃないですか...?」


そう言って胸の前で汚れた東野の紺色のハンカチをパタパタと叩いているのは、肌が透き通るように白く、ツヤツヤとした一本一本が細い腰まで伸びた黒髪、そしてクリクリとした愛らしい目に鼻のすっと通ったいわゆる超絶美少女だった。

「違ったのならごめんなさい...。」
「...!」

誰だってこんな超絶美少女にいきなり声をかけられた時には、一言目が喉につっかえてしまうだろう。それほどまでに美しく、愛らしさの中にも少し妖艶さが垣間見えた。

「あ!よかったぁ!」

本当に心の底から嬉しがるような彼女の様子は、初対面とは思えないほどの雰囲気をつくりだし、その場を包み込んでいく。

「これ、今度は落とさないでね...?」

彼女はそう言って東野の手を掴んで、さらに両手でその手を包み込むようにハンカチを渡す。
指先まで細く、ひんやりとした手が東野の手の熱をよりあらわにさせる。
東野より20cmほど低いだろうか。
自然となってしまう上目遣いと、シャツのすき間から覗かせる少し艶がかった胸部からは、百戦錬磨の恋愛ソムリエである東野もさすがに目をそむけてしまった。

「あっ、ホームルームはじまっちゃうっ!」

そう言うと、彼女は膝上ほどのスカートをひるがえしパタパタとなる校内専用スリッパで小走りに行ってしまった。

ふぅ。と一息付いた時、彼女が校舎に入る手前で振り返りながら

「またねっ!優くん!」

と一言いうと、今度こそ校舎に入っていってしまった。

熱い熱い熱い。
かぁーっと身体の中の方から熱いものがこみ上げて、顔まで達したのを感じたのはこれが初めてだった。
彼女がハンカチを手渡してくれた時の鼻に抜けていくシャンプーの香り、笑っていなければ一見クールに見え、周りがパッと明るくなる笑顔。
どれを思い出しても、きゅーっと胸が苦しくなる。
今まで数え切れないほどの女子を相手にしてきた東野には、その理由はわからなかった。

「名前聞くの、忘れたなぁ...。」

そう呟きながらボーッとしていると、
遠くから東野を呼ぶ声がする。

「優ちゃーん!」
「よう。」

幼馴染の新藤楓だ。

なぜだかこいつには、昔から東野も恋に落とそうとた事がなかった。
物心ついた時にはもう知り合っていたし、家どうしが隣だからかもしれない。

「今日一緒に帰ろー??」

先ほどの美少女とは多違いの、落ち着きのない声である。
そうゆう性格もあってか、昔から友達の多かったこいつに例の彼女について聞いてみることした。

こうゆう時、女という生き物は他の女の話をすると嫌悪感をあらわにするということを知っているだろうか。
長年恋愛ソムリエをしている東野は、むろん承知の上だった。
いやらしさの見えない、さりげない言葉で聞くことが大切である。

...と思いながらも先程から胸の高まりを隠すのに必死な東野は、自分でもなぜこう言ったのかわからないが、思わずこう言ってしまった。

「楓、好きな人の名前を教えてくれ。」
「...えっ!?」

こう言ってしまったのだ。

本当は、
“ハンカチを拾ってくれた女子にお礼をしたいので、とっても美人な女子の名前を教えてください。”
と言うつもりだったのだ。

楓は何を悟ったのか、顔を真っ赤にして走っていってしまった。
いきなりあんなことをきいて、怒ってしまったのだろうか。 

「あとで謝らないと...。」

またぽつりとつぶやいた。


結局あの美少女の手がかりを掴めないまま、帰宅の時間を迎えた。
他のクラスより少しはやくホームルームが終わったので、イスに掛けていたコートを手で持って楓のクラスを見に行ったが、やはりすでに楓は帰ってしまったようだ。
 
帰り道、夕陽がよくみえる河川敷を風でコートの裾がめくれるのを抑えながら歩いていると、懐かしい声が聞こえてきた。

「おーい、優!一緒に帰ろーぜ!」

楓ともう一人、幼馴染である斎藤一真である。

「なーにしてんだ?こんなとこで一人で。いつもみたいに女と帰ってんじゃないのか?」

ヘラヘラと笑いながら冗談を言う一真は、小さい頃から東野の唯一の相談相手である。その明るくて誰にでも同じように接する一真は、東野までには及ばないがそこそこ人気のあるやつだ。いつもヘラヘラとしているのが玉に瑕だが。

完全にこれからどうしたらいいのか迷子になっていたので、そんな一真に東野は今日あった楓の事以外の出来事を全て話した。

一真は少し考える素振りを見せて、。

「はっはーん。そらお兄さん、その小悪魔ちゃんに恋してますな?」

と言った。

ほんの少し自覚はしていたが、やはり確定してしまうとなると東野はまた顔が熱くなるのを感じた。

「んで、誰なの??ゆーてみほら、ゆーてみ!」

少しからかうような様子に、
“本当にこいつにゆってもいいのか?”
とも思ったが、まともな恋愛をした事がない東野にとって、藁にもすがる思いだった。

「ふわっとして、髪と手が綺麗で...」
「ほうほう、そんでそんで??」
「声もよく通って、いい匂いがする。」
「だーかーらー、名前だよ、名前!!」

焦れったくなったのか、一真はグイグイと直接的に聞いてきた。

「それが...わからないんだ。」
「はぁ!?」

ペチンと東野の頭を叩いた一真は横でじたんだを踏んでいる。
東野の煮え切らない様子に少し腹が立ったようだ。
しかし、わからないものはわからないのだ。

カバンの中から水筒を取り出してひと口飲み、一真は怒りが少しおさまったところで東野の肩に手をまわして言った。

「はぁ、だから言ったろぉ。普段からちゃんとした恋愛しとけって。」

心の底からため息をつくように一真は言う。

全くもって一真の言う通りだ。
モテることに自信を持ちすぎるあまり、告白される、または告白させることだけに快感を覚える性癖の東野にはこの言葉は的確だった。

「じゃーあ、こーしよう。仮に、仮にだ。名前が分かるまでその子を『Ms.A』としよう。ちょっとミステリアスでエキゾチックな感じがいいだろ??ドゥーユーアンダースタンド?」

英語混じりの発言に東野は少しいらいらしながらも、納得せざるを得なかった。
好きな相手の名前もしらないのだ。しかたがない。

分かれ際に、
“頑張ってね、恋愛マイスター君!”
と茶化しながら言われたのがベッドに横になってからも耳に残っていた。

こうして、高校の入学式当日から東野と美少女Ms.Aとの物語が始まった。

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