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輝石の国へ
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男性は何か心当たりがあるようで、真珠から視線を外し、考え込むような仕草を見せた。一方、真珠の頭の中は、ここが日本ではないという事実がぐるぐると回り、出口のない迷路に入り始めている。
「いいか。落ち着いて聞け」
「えっ、む、無理ですよ! ここが日本じゃないってなんですか!?」
いつの間に海外に飛ばされたのだろう。
(もしかして、眠っている間にどこかのマフィアに捕まって、ここに隔離された……とか!?)
日本ではないのに、男性が日本語に堪能なのはなぜか。ここは、日本語が公用語になっている国だろうか。いや、そんなこと、今はどうでもいい。
真珠は言葉を失い、目を白黒させた。どうして、こんなことになっているのだろうか。
「ど、どうしよう……!」
ふと、真珠の肩を掴む手に力が入った。僅かな痛みにはっとした真珠は、彼の方を見る。真っ直ぐな視線が、真珠を射抜いていた。
「落ち着け。鼻から息を吸って、口から吐いてみろ」
「は、はいっ! すーっ……はーっ……」
「よし、それを三回繰り返せ」
とにかく言われた通りに深呼吸を続けると、少しは冷静になってきた。混乱している時、誰かに傍にいてもらうというのは、大事なことなのだろう。真珠は、名も知らない彼に感謝しつつ、呼吸を整えた。
「大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます」
「今から、俺の推測を話す。お前の言ったことは疑ってない。信じるから、まずは聞くんだ」
「は、はい」
金色の瞳に、真珠の姿が映り込む。現実離れした今の状況に、脳が処理を放棄しそうだったが、彼の言葉のおかげで素直に頷けた。肩に触れていた彼の手が、離れていく。
「この村には、昔から一つの言い伝えがある。その伝承と、お前がここに現れた状況が、酷似しているんだ」
「伝承?」
『人のあらまし届きて、祈りの巫女現れし時、世界救はるる』
彼が教えてくれた、伝承とされる文言。つまり、人々の願いが祈りの巫女を呼び寄せた時、この世界が救われる、ということらしい。なんと幻想的な伝承だろう。
「この祭壇は、真珠村が遥か昔から管理してきたものだ。巫女を呼び寄せるために」
「はあ、なるほど」
「それで、突然現れたお前が、その巫女じゃないかってことだ」
「……え。いやいや、まさか……」
「名前が『真珠』だろう? 偶然の一致なんかではなく、俺は間違いなく伝承通りのことが起こっていると思う。それと、なんだか……」
彼が片目を瞑り、直後、頭がぐらりと揺れた。気分が悪いのかもしれないと、真珠は咄嗟にその腕に触れて支える。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ああ。さっきから、軽く眩暈がする……。強い色香が漂っているようだ」
「色香?」
「今まではなかったものだ。お前が発していると思う」
「ええ……そんなこと言われても」
とにかく、自分の常識は捨てた方がよさそうだと真珠は思った。今分かるのは、ここが日本ではないことと、自分が巫女として呼び寄せられたかもしれない、ということ。受け入れようにも簡単には納得できないが、現にありえないことが起こっている。
「まずは、村の首長に相談しよう。俺も確信を得たい。それに、村の中の様子を見れば、お前もここがどんなところなのか分かるだろう。連れて行くがいいな?」
「お……お願いします!」
まずは外に出て情報を集めよう。真珠がそう思って立ち上がろうとすると、男性が先に身体を起こし、真珠を横抱きにした。素早く軽々とやってのけるものだから、真珠は咄嗟にその首にしがみついた。
「わっ!」
「っ……おい、あまり顔を寄せるな」
「ご、ごご、ごめんなさいっ!」
しかめ面をして嫌がられてしまい、真珠はすぐに手を離した。彼は顔を少し赤らめ、元来た道の方へと歩き始める。
「えっと、お名前だけでも教えていただけないでしょうか?」
「俺は、銀という」
銀――異色な美しさを持つ彼にぴったりだ。それに、奇しくも、彼の名前も宝石に関連するものだった。不思議と、親近感がわいてくる。
「銀さん。よろしく、お願いします」
「……ああ」
ただ短く返事をして、彼はすぐにそっぽを向いてしまった。
銀は、真珠を抱えたまま洞窟のような暗い道を抜け、外へと出た。明るく、太陽の光が照りつけている。真珠が気を失っている間に時間が過ぎたのか、今は真っ昼間だ。
真珠は辺りを見回した。一切見覚えがない場所だ。草木と畑、川があって、作物の植えられた農地が広がっている。住んでいたところとは似ても似つかない、長閑な田舎、という雰囲気だ。
洞窟内の祭壇の前に、真珠は瞬間移動でもしたのだろうか。眠ってしまう直前のことも覚えているわけだから、記憶を失くしたのではない。たとえ意識が朦朧としていたとしても、外で全裸になって倒れ込むなんて、絶対にするわけがなかった。
「え……ここ、どこですか?」
「真珠村だと言っただろう」
「そ、そうでした」
銀は、歩きながら苛立ったように言った。せっかく丁寧に説明してくれたのに、真珠の理解があまりにも遅くて、神経に障ったのかもしれない。
それに、少し眩暈がするとも言っていた。これ以上、初対面の彼に、迷惑を掛けたくない。考えた末、真珠は、彼に降ろしてもらえるよう伝えてみることにした。
「あの、ここまでありがとうございました。あとは、自分で歩いて首長さんのところに行きます」
「……は?」
「場所だけ教えてもらえれば、自分でなんとか……。あっ、この羽織は後でお返しするので! だから、銀さんの家の住所も、その……教えていただけないかと」
真珠がしどろもどろになりながらそう言うと、銀は困惑したように眉をひそめ、渋い顔をした。どう言えば正解だったのだろうか。
(やっぱり、男の人って分からない……)
昔からの苦手意識が拭えず、真珠はぎくりとした。
「裸足でこの道を歩くのか?」
「はい……たぶん、大丈夫ですから」
「裸の上に羽織しか掛けてない。もしそれを誰かに見つかったら、痴女だと思われる」
「そ、それは……ちゃんと事情を説明すれば、分かってくれるかと」
甘い考えかもしれないが、彼に負担を掛けるよりはずっといい。真珠が脚をバタバタさせると、銀は「暴れるな」と諌めて、溜め息をついた。
「自分から危険な方法を選ぶなんて、馬鹿なのか? 俺が首長のもとへ連れて行くと言っているんだ。お前は素直に従っておけばいい」
さっきは真珠を落ちつけようと配慮してくれて、優しかったのに。銀の語気が急に荒くなって、真珠は怖くなってしまった。何か返事をしようと口を開いては、身体が震えてしまって声が出てこない。
「いいか。落ち着いて聞け」
「えっ、む、無理ですよ! ここが日本じゃないってなんですか!?」
いつの間に海外に飛ばされたのだろう。
(もしかして、眠っている間にどこかのマフィアに捕まって、ここに隔離された……とか!?)
日本ではないのに、男性が日本語に堪能なのはなぜか。ここは、日本語が公用語になっている国だろうか。いや、そんなこと、今はどうでもいい。
真珠は言葉を失い、目を白黒させた。どうして、こんなことになっているのだろうか。
「ど、どうしよう……!」
ふと、真珠の肩を掴む手に力が入った。僅かな痛みにはっとした真珠は、彼の方を見る。真っ直ぐな視線が、真珠を射抜いていた。
「落ち着け。鼻から息を吸って、口から吐いてみろ」
「は、はいっ! すーっ……はーっ……」
「よし、それを三回繰り返せ」
とにかく言われた通りに深呼吸を続けると、少しは冷静になってきた。混乱している時、誰かに傍にいてもらうというのは、大事なことなのだろう。真珠は、名も知らない彼に感謝しつつ、呼吸を整えた。
「大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます」
「今から、俺の推測を話す。お前の言ったことは疑ってない。信じるから、まずは聞くんだ」
「は、はい」
金色の瞳に、真珠の姿が映り込む。現実離れした今の状況に、脳が処理を放棄しそうだったが、彼の言葉のおかげで素直に頷けた。肩に触れていた彼の手が、離れていく。
「この村には、昔から一つの言い伝えがある。その伝承と、お前がここに現れた状況が、酷似しているんだ」
「伝承?」
『人のあらまし届きて、祈りの巫女現れし時、世界救はるる』
彼が教えてくれた、伝承とされる文言。つまり、人々の願いが祈りの巫女を呼び寄せた時、この世界が救われる、ということらしい。なんと幻想的な伝承だろう。
「この祭壇は、真珠村が遥か昔から管理してきたものだ。巫女を呼び寄せるために」
「はあ、なるほど」
「それで、突然現れたお前が、その巫女じゃないかってことだ」
「……え。いやいや、まさか……」
「名前が『真珠』だろう? 偶然の一致なんかではなく、俺は間違いなく伝承通りのことが起こっていると思う。それと、なんだか……」
彼が片目を瞑り、直後、頭がぐらりと揺れた。気分が悪いのかもしれないと、真珠は咄嗟にその腕に触れて支える。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ああ。さっきから、軽く眩暈がする……。強い色香が漂っているようだ」
「色香?」
「今まではなかったものだ。お前が発していると思う」
「ええ……そんなこと言われても」
とにかく、自分の常識は捨てた方がよさそうだと真珠は思った。今分かるのは、ここが日本ではないことと、自分が巫女として呼び寄せられたかもしれない、ということ。受け入れようにも簡単には納得できないが、現にありえないことが起こっている。
「まずは、村の首長に相談しよう。俺も確信を得たい。それに、村の中の様子を見れば、お前もここがどんなところなのか分かるだろう。連れて行くがいいな?」
「お……お願いします!」
まずは外に出て情報を集めよう。真珠がそう思って立ち上がろうとすると、男性が先に身体を起こし、真珠を横抱きにした。素早く軽々とやってのけるものだから、真珠は咄嗟にその首にしがみついた。
「わっ!」
「っ……おい、あまり顔を寄せるな」
「ご、ごご、ごめんなさいっ!」
しかめ面をして嫌がられてしまい、真珠はすぐに手を離した。彼は顔を少し赤らめ、元来た道の方へと歩き始める。
「えっと、お名前だけでも教えていただけないでしょうか?」
「俺は、銀という」
銀――異色な美しさを持つ彼にぴったりだ。それに、奇しくも、彼の名前も宝石に関連するものだった。不思議と、親近感がわいてくる。
「銀さん。よろしく、お願いします」
「……ああ」
ただ短く返事をして、彼はすぐにそっぽを向いてしまった。
銀は、真珠を抱えたまま洞窟のような暗い道を抜け、外へと出た。明るく、太陽の光が照りつけている。真珠が気を失っている間に時間が過ぎたのか、今は真っ昼間だ。
真珠は辺りを見回した。一切見覚えがない場所だ。草木と畑、川があって、作物の植えられた農地が広がっている。住んでいたところとは似ても似つかない、長閑な田舎、という雰囲気だ。
洞窟内の祭壇の前に、真珠は瞬間移動でもしたのだろうか。眠ってしまう直前のことも覚えているわけだから、記憶を失くしたのではない。たとえ意識が朦朧としていたとしても、外で全裸になって倒れ込むなんて、絶対にするわけがなかった。
「え……ここ、どこですか?」
「真珠村だと言っただろう」
「そ、そうでした」
銀は、歩きながら苛立ったように言った。せっかく丁寧に説明してくれたのに、真珠の理解があまりにも遅くて、神経に障ったのかもしれない。
それに、少し眩暈がするとも言っていた。これ以上、初対面の彼に、迷惑を掛けたくない。考えた末、真珠は、彼に降ろしてもらえるよう伝えてみることにした。
「あの、ここまでありがとうございました。あとは、自分で歩いて首長さんのところに行きます」
「……は?」
「場所だけ教えてもらえれば、自分でなんとか……。あっ、この羽織は後でお返しするので! だから、銀さんの家の住所も、その……教えていただけないかと」
真珠がしどろもどろになりながらそう言うと、銀は困惑したように眉をひそめ、渋い顔をした。どう言えば正解だったのだろうか。
(やっぱり、男の人って分からない……)
昔からの苦手意識が拭えず、真珠はぎくりとした。
「裸足でこの道を歩くのか?」
「はい……たぶん、大丈夫ですから」
「裸の上に羽織しか掛けてない。もしそれを誰かに見つかったら、痴女だと思われる」
「そ、それは……ちゃんと事情を説明すれば、分かってくれるかと」
甘い考えかもしれないが、彼に負担を掛けるよりはずっといい。真珠が脚をバタバタさせると、銀は「暴れるな」と諌めて、溜め息をついた。
「自分から危険な方法を選ぶなんて、馬鹿なのか? 俺が首長のもとへ連れて行くと言っているんだ。お前は素直に従っておけばいい」
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