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屈折して突き抜けて

所有欲イコール

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「…………」

テルさんが秦さんを連れて行くのが見えて、顔が引きつった。
テルさんは結構人望厚くて、人に好かれる。
アウトドアサークルの部長として、4年生にも関わらず、イベントには参加してみんなをまとめてくれてる良い人だ。
テルさんと秦さんを会わせてみたかったのは事実だ。
俺の中でテルさんは、信用出来る人間の1人だから……。

それが、なんだ?

自分で望んだことなのに、モヤモヤする。
この前から、ずっとだ。
あの後から、秦さんは俺を避けている。
だから、ほとんど顔を合わせてはくれない。

『男は信用しちゃダメ』

あの言葉を、思い出したからなのだろうか。
俺を信用すべきではないと。
それとも、俺が今を信用すべきではないのだろうか。

テルさんは一度振り返って、俺を見てニヤリと笑った。
それを見て、拳を握る。

落ち着け……。
自分で選んだんじゃないか。
秦さんと俺は、それ以上の関係にはならないと。
秦さんが、選ぶことでもある。
俺との関係を続けていくか、他の男を好きになるか。
それで、今その選択をして、他の男になっているのなら……。
それは、正しいことだ。
俺で傷付くのは、間違ってる。
秦さんを、これ以上傷付けたくない。
秦さんが望む間だけ、一緒にいるだけで。
切り捨ててもらわなくちゃ、困るんだ……。

「どうした栄司?」
「めっちゃ顔恐いんだけど」
「え………」

ハッとして顔を上げる。
みんながこちらに注目する中、美優と目が合った。
ここには…いたくない。

「ごめん、腹痛いから、トイレ」
「なんだ、風邪なら移すなよー?」
「入院して海行けませんでしたーとか嫌だしな」
「うん。ごめん」
「…………」

みんなが海について語り始める間、美優はジッと無言で俺を見つめていた。
俺は目を逸らして、食堂を出て行った。


***


「……さすがにここじゃないか」

思わず、1人で呟いた。
来たのは、あのトイレ。
一応女子トイレも覗いたが、人の気配は無かった。

まさか、俺じゃあるまいし。
テルさんがそんな盛ってるとは、思えない。
……というか、思いたくない。

ここで、初めて秦さんを助けた。
それでもホントは……何度か、秦さんを見たことがあった。
秦さんの噂は聞いてたし、大して驚きはしなかったけど。
それでも、間近で…京介に連れられそうになったのを見て、思わず手が出た。
心がどこか遠くに行ってしまったように、冷たい表情の彼女を、あのままヤろうなんて、思えるわけない。
 とは、違って……。
彼女の、深い闇を見た、気がして、ほっとけなかった。

それが、この前みたいに、他の男と同じように秦さんをここで抱くことになるなんて。
しかも、中出しするなんて。

……人生初だった。

中出しを知るとやめられないと聞いたが、確かに、癖になる。
最低だとは思いつつも、一度でいいから秦さんのナカに出したいと思っていたのも事実。
秦さんの初めては他の男に持ってかれてるだろうし、ア○ルとかは…拷問に近いと思うし。
ここでもきっと、ナカに出されてただろうなと、嫉妬もあった。

秦さんに愛を伝えた時に、ナカがギュッと締まって、イきそうになって、すぐに抜こうとしたが…。
秦さんに、あんな風に止められるなんて、思ってなかった。
その場の興奮に、流されてしまったのは事実。
凄く……良かった。
秦さんに求められて、受け止められて、余計に、感じた。

そのクセ、後から罪悪感でいっぱいになって、秦さんにあんな顔をさせてしまった俺は、最低クズでしかない。
俺も、他の男と変わりはしない。
今だって、あの日のことを考えて、少し勃ってる。
秦さんに欲をぶつけて、悦んでる。
秦さんが辛いの、分かってるのに……。

「はぁ……」

通路を歩きながら思わず、ため息をついた。
秦さんは、俺を好きだと言うけど。
俺なんかやめて、他の男を好きになるべきだ。
それこそ、テルさんみたいに……。

「………」

部室に手をかけて、思い留まる。
中から声はしない。
でも、もし部室の鍵が開いてて、もしヤってたら、俺はどうする?
秦さんの様子を見て、助けるのか?
それが、一体何になる?
秦さんは結局、俺が助けてくれたと思うだろう。
また、俺から離れられなくなる。
そうして更に傷付けることになるのに。

それでも……勝手な所有欲が出る。
秦さんを、取られたくない。
少なくとも、セフレにされたくは、ない。

そっとドアを開ける。
鍵は……開いていた。
少し残念に思う。

ゆっくり扉を押すと、中のほうが明るくて、光が漏れてきた。
隙間から、中を覗く。

ドクン……!

秦さんが、一番近くの椅子に座り、机に突っ伏してこちらを向いたままスヤスヤ眠っている。
顔の下に、アウトドアスクールの寝袋を枕代わりに敷いている。

目の下にクマ……寝不足なのか?
この前まで、あんなの無かったのに。

隣には肘を立てて秦さんを見守るようにテルさんが眠っていたが、俺にすぐ気付いたらしく、目を開けて俺を見て、人差し指を立てて口元に近づけ、ニヤリと笑った。

「っ……」

ガチャン……。

扉を閉め、ゆっくりと歩き出し、ため息を落として顔に手を当てた。
やっぱり、誤解してた。
何ヒーロー気取ってんだ俺。
テルさんが秦さんに手を出すなんて、酷い妄想だ。
秦さんの体調にいち早く気付いて、ああやって休ませてやってるだけじゃないか。
テルさんは、よく人を見ている。
だから、気付けたんだろう。
それに、秦さんとテルさんを引き合わせたのは俺だ。
今更、何戸惑ってるんだ。
もう、後には戻れないだろ……。

「栄司」

急に名前を呼ばれて、ドキッとする。
顔の手を退けると、壁に背中を預けている美優がいた。
ジッと、俺を見ている。

「何してたの?」

低くて、静かで、何を考えているか分からない声だった。

「……トイレだよ」
「そ……戻ろ?」

静かに答えると、美優は壁から離れて、先を歩いていく。

「…………」

ため息をつく代わりに、目を閉じた。
俺はもう、逃げられない。
でも、決断は、自分でやったことだ。
腹をくくるしか、ない。
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