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73.そんなことされどそういうこと
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母に倣って食器を流しに持っていくと、母はクルッと振り返り、私の服の裾をクイクイと引いた。
「こ・れ・よ♪」
「これって…服?」
私のこのチェックシャツが何か…と眉をひそめると、母は早々と食器を洗い始めた。
「それ、あなたが中学の時におばあちゃんに買ってもらった超古着でしょ?
それとそのジーンズ、今の若い子達は履かないわ。
初対面の婚約報告で彼女がそんな格好なら今時の男の子は不快になるかもね。
もちろんデートでもだけど」
「え、あっ、これは…」
指摘されて初めて、自分がいかにおしゃれに関心がないかに気づいて、恥ずかしくなる。
確かにこの長袖赤チェックシャツ+青ジーンズ状態は今時のおしゃれというよりは秋葉原のオタクのイメージだ……メガネだし。
でもこれは部長に付けられたキスマークを隠すためであって、いやでも確かにおしゃれ着なんて必要無いから持ってないけど……!
と言葉にする前に、母はフフッと肩をすくめて笑った。
「でも、その格好、一華さんは気にしないんでしょ?
そういう所よ、あなた達がお似合いなのは」
「え、えー……そんなこと?」
それのどこがお似合いなのか…というか、部長が私に関心が無さすぎるだけなのでは…。
「そういうものよ、結婚相手なんて。
それに、お昼のことも」
「お昼……?」
「一華さんのこと、庇ってあげたでしょ?
魚アレルギーなら先に言ってて欲しかったけど」
「あ…あー、ごめん……」
苦笑いして軽く頭を下げる。
そういえば私、せっかく豪華な料理を準備してくれた母に少し嫌な言い方をしてしまったんだっけ……。
自室で後悔してたはずなのに…すっかり忘れていた。
「ありがとうね。
実は私も少し、気を張ってたのよ。
嫌な両親だと思われたくないなぁ~とか、印象悪くはしたくないなぁとか。
ちょっと、無理し過ぎて肝心なこと忘れてたわ」
「……大丈夫。
お母さん達はちゃんと私の両親だもの」
そこまで言って、うまく表現出来なくて、口を結ぶ。
緊張してたのは、部長と私だけじゃないんだなと、今初めて思えた。
そう気付くだけで、胸が温かくなるのは、何故だろう?
「ふふ。
なんだか、やっと実感湧いてきたわぁ~♪
娘が結婚するって、変な感じね」
「まだ確定ってわけでは…」
「するわよ、きっと。あなた達だもの」
私達だからって、理由が全く分からない……けど、母は食器をキュッキュと鳴らしながら嬉しそうに微笑んでいた。
「私とお父さんが結婚したのも、ほんの些細なポイントがあったからなのよ。
ま、1つアドバイスするなら…」
母は意味深に手を止めてまたこちらに向き直る。
「私生活の時は名前で呼んであげるのよ?
そしたら一華さんも喜ぶと思うわ」
「え……あ」
さっき、ついクセで部長と言ったっけ。
ずっとお酒の席では名前で呼ぶようにしてたのに……。
ボロ出過ぎでしょ、私。
「…私ってそんなに分かりやすい?」
つい口に出てきた言葉に、母はニコッと笑顔を見せた。
「当たり前でしょ。
私はあなたの母親なんだから♪
見てれば大体のことは分かるわ♪」
こんなに明るくサラッと娘を貶す母親も珍しいとは思うけど、と心の中で突っ込みを入れつつ、どこか胸のわだかまりが和らぐのを感じた。
母には隠し事が出来ない。
けど、それ以上踏み込んで来ないのなら、それは私に任せているということなのだろうから。
私が母を騙している、なんて、そもそも出来っこない話だったんだ。
母には全部お見通しなんだから。
だから、心配する必要なんて無いんだ。
「早く孫の顔が見たいわねぇ~」
「まだ流石に早いから!」
冗談なのか本気なのか、分からない母の発言にツッコミを入れ、2人で思わず笑った。
特に何も私から話したことは無いけど、母と私はそういう関係でいいんだ。
こういう母で、良かった。
ありがとう、お母さん。
「こ・れ・よ♪」
「これって…服?」
私のこのチェックシャツが何か…と眉をひそめると、母は早々と食器を洗い始めた。
「それ、あなたが中学の時におばあちゃんに買ってもらった超古着でしょ?
それとそのジーンズ、今の若い子達は履かないわ。
初対面の婚約報告で彼女がそんな格好なら今時の男の子は不快になるかもね。
もちろんデートでもだけど」
「え、あっ、これは…」
指摘されて初めて、自分がいかにおしゃれに関心がないかに気づいて、恥ずかしくなる。
確かにこの長袖赤チェックシャツ+青ジーンズ状態は今時のおしゃれというよりは秋葉原のオタクのイメージだ……メガネだし。
でもこれは部長に付けられたキスマークを隠すためであって、いやでも確かにおしゃれ着なんて必要無いから持ってないけど……!
と言葉にする前に、母はフフッと肩をすくめて笑った。
「でも、その格好、一華さんは気にしないんでしょ?
そういう所よ、あなた達がお似合いなのは」
「え、えー……そんなこと?」
それのどこがお似合いなのか…というか、部長が私に関心が無さすぎるだけなのでは…。
「そういうものよ、結婚相手なんて。
それに、お昼のことも」
「お昼……?」
「一華さんのこと、庇ってあげたでしょ?
魚アレルギーなら先に言ってて欲しかったけど」
「あ…あー、ごめん……」
苦笑いして軽く頭を下げる。
そういえば私、せっかく豪華な料理を準備してくれた母に少し嫌な言い方をしてしまったんだっけ……。
自室で後悔してたはずなのに…すっかり忘れていた。
「ありがとうね。
実は私も少し、気を張ってたのよ。
嫌な両親だと思われたくないなぁ~とか、印象悪くはしたくないなぁとか。
ちょっと、無理し過ぎて肝心なこと忘れてたわ」
「……大丈夫。
お母さん達はちゃんと私の両親だもの」
そこまで言って、うまく表現出来なくて、口を結ぶ。
緊張してたのは、部長と私だけじゃないんだなと、今初めて思えた。
そう気付くだけで、胸が温かくなるのは、何故だろう?
「ふふ。
なんだか、やっと実感湧いてきたわぁ~♪
娘が結婚するって、変な感じね」
「まだ確定ってわけでは…」
「するわよ、きっと。あなた達だもの」
私達だからって、理由が全く分からない……けど、母は食器をキュッキュと鳴らしながら嬉しそうに微笑んでいた。
「私とお父さんが結婚したのも、ほんの些細なポイントがあったからなのよ。
ま、1つアドバイスするなら…」
母は意味深に手を止めてまたこちらに向き直る。
「私生活の時は名前で呼んであげるのよ?
そしたら一華さんも喜ぶと思うわ」
「え……あ」
さっき、ついクセで部長と言ったっけ。
ずっとお酒の席では名前で呼ぶようにしてたのに……。
ボロ出過ぎでしょ、私。
「…私ってそんなに分かりやすい?」
つい口に出てきた言葉に、母はニコッと笑顔を見せた。
「当たり前でしょ。
私はあなたの母親なんだから♪
見てれば大体のことは分かるわ♪」
こんなに明るくサラッと娘を貶す母親も珍しいとは思うけど、と心の中で突っ込みを入れつつ、どこか胸のわだかまりが和らぐのを感じた。
母には隠し事が出来ない。
けど、それ以上踏み込んで来ないのなら、それは私に任せているということなのだろうから。
私が母を騙している、なんて、そもそも出来っこない話だったんだ。
母には全部お見通しなんだから。
だから、心配する必要なんて無いんだ。
「早く孫の顔が見たいわねぇ~」
「まだ流石に早いから!」
冗談なのか本気なのか、分からない母の発言にツッコミを入れ、2人で思わず笑った。
特に何も私から話したことは無いけど、母と私はそういう関係でいいんだ。
こういう母で、良かった。
ありがとう、お母さん。
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