入れ替わるようになりまして。

天野 奏

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初めてのデートは嵐の前触れ

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「……泣きすぎ」
「だっ、だって……」

劇場を出て、ティッシュを目元に当てて涙を拭う。
片手を亜貴が握って誘導してくれたから、歪んだ視界でも転ばずに歩けた。

ことは90分前ぐらいだろうか。
最上階に上ったと思ったら、連れてこられたのは映画館だった。
男女が入れ替わるあの映画の公開時間が近くて、結構いい席で観ることができたのだが……
途中からオレが泣き始めて、亜貴は少し集中出来なかったらしい。

「こんな感動ものだとは思ってなかったから…!
てっきりお笑いみたいな話だと……」
「フッ……あーあ化粧落ちたな。
マスカラとかつけなくてホント良かった。
10代の黒い涙はダサい」
「だ、ダサいって言ったって、出たら流れてもしょうがないじゃんか!
てか、入れ替わらなくなる方法、なんかヒントとか、見つかったか!?」
「んー……さぁ?
あれはあくまでフィクションだし、ありえねーしな」

亜貴は無表情のままほんの少しだけ考えたフリをして、キッパリ諦めた。

こいつ……大してよく観てなかったな!?

「でも、死んだ人間の過去と繋がって、ああやって悲劇を避ける為ののサインだとしたら」

急に静かに口を開くから、顔を上げて亜貴を見た。

「俺たちに起こる悲劇は何だろうな、とは、考えた」

ほんの少し口角を上げて、微笑む亜貴だけど、目は、どこか寂しそうだった。

「……オレは死なないよ。
たぶん、亜貴も死なない」

言い切って、やっぱりそうだと、納得する。

元々、オレがあの桜の木に変なお願いしたことがきっかけだろうし。
オレたちが入れ替わったのは、ただの偶然で。
あんな、意味を持って、何人もの命を背負ったものじゃない。
だから、あの映画のような、カッコいいことは起こらないだろう。

亜貴はしばらく何も言わなかったけど、何か思いついたのか、ふと笑った。

「……ありがとう」
「な!なんだよ気持ち悪い!!」
「気持ち悪い、って。
優しさを込めて言ったつもりなんだけど」
「あ、亜貴が優しいとか、気持ち悪いんだよ……」

口元を手で隠して、顔を逸らした。

「なんか、最近の亜貴、変だ」
「俺のことなんか知ってたか?」
「っ!最初と違うんだよ!
話聞かない悪魔じゃなかったのかよ……
なんか、調子狂う……」
「……純もだいぶ変だけどな」
「はぁ!?何が……」

バッと顔を上げると、握られてた手が肩を抱いて、コツンと頭を合わせた。

「俺を意識して、乙女になってる。
もうさ、俺のこと好きなんじゃねーの?」

ドキッ……!

「そ、それは……ないっ!」
「へぇー」
「お前がさっき、意識しろって言ったから、意識してるだけであって……!
別に好きなわけじゃ……!」

なんとも、苦し紛れな言い訳に聞こえてくる。
自分でも、わかる。
ただ口に出すことで、平常を保っている。
こんだけ近くに一緒にいて、好きにならないわけないじゃないか、とも思ってしまう。
でも、それは、オスとメスの話であって。
(あくまで認めない)
心の底まで、恋を奪われたわけでは、ない、はず。

「そ。
別にいいけどね」
「そ、そうだよ!
だいたい、オレがお前を好きになったら、亜貴はどうすんだよ?」
「……さぁ?」

ニヤリと、笑ったのが分かった。
あ、これは、悪魔の笑みだ……。

「勝った、とは思うね」

だ、誰に……オレか!!

「バカ!お前に勝ちは譲らねーよ!」
「フッ……楽しみにしてる」

亜貴は余裕の表情でオレの手をキュッと握った。
……付き合ってない、好き合ってもいないなら、ましてや、片想いの相手がいるのなら、この手を離すべきだ。
分かっていても、この手を振り払えない。
この手の喜びが、温もりを通して伝わってくるから。

亜貴、なんで、嬉しいの?
オレは、遠回しに何度もお前を振ってんのに。

なんで亜貴は、オレのそばにいてくれるの?
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