入れ替わるようになりまして。

天野 奏

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初めてのデートは嵐の前触れ

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ガチャ……

風呂場前の脱衣所に入って、洗濯機を回す。

チラッと横を見ると、薄っすらと亜貴の姿がある。

なっ……何見てんだオレは!

ふと、水音が止まる。

『純』
「はっ!はいっ!!」

くぐもった音で亜貴に呼ばれて、ドキッとして声が裏返った。

『わりーんだけど、俺の下着とスウェットズボン取ってきてくれない?
そのまま入ったから忘れてた』
「あ、はいはい……」

いそいそと脱衣所を出る。

びっくりしたぁ……。
いや、何もビビるようなことは無いんだけどね?
呼びかけられただけであって、何も……。

扉を開けて、リビング兼寝室に入る。
亜貴の匂いが溢れてきた。

あ……亜貴の匂いだ。
そう思うと、少し落ち着く。

入って左側に勉強用机とイス、床にコタツにもなるタイプの小さな机と、チェストと、一番奥の窓際にベッド、その横に2段のカラーボックスがサイドテーブルがわりにある。
特に物が出ているわけではなく、スッキリしている。

フローリングの床が少し冷たく感じる。

亜貴の高さでいつも見ていた部屋だから、雰囲気が少し違った。
どれも、心なしか大きく見える。

えっと、確かパンツは……

チェストから一枚引き出して、手に持つ。
これくらいは、別にいつも兄貴達の洗ったり畳んだりしてるし、亜貴のだって変わらない。
イスにかけている黒のズボンを手に取り、すぐに脱衣所に戻って、扉を少しだけ開けて、見ないように亜貴に差し出した。

「はい……!」
「さんきゅー」

予想通り亜貴はもう上がっていた。
よかった、そのまま開けなくて。
手を高めに伸ばすと、亜貴の手がオレのに触れた。

「っ……ぅあっ!?」

手に持っていたものを亜貴が受け取ったと思えば、チュッとリップ音が響いた。

手の甲にキス……!!

引っ込めようとしたら、思いっきり腕を壁にぶつけた。

「いったぁ……な、何してんだよ!」
「クククッ……純が面白いから…!」

忍び笑う声が隙間から漏れてくる。

な、なんだよそれ……!
今どんな顔して笑ってんだ!?
絶対腹抱えて笑ってんだろ!!

「ふざけんなよ!!
急になんか当たるから……!」
「はいはい。
これくらいは遊びだろ?
部屋で待ってろよ。
すぐ行くから」

そう遇らわれ、扉が閉まる。

遊びって、なんだよ!

ムッとしたまま、ベッドに座る。

亜貴の遊びっていうのは、オレをからかうところなのか?
何処までが本気で、何処までが遊びなの?
それとも、全部遊びなの?

侘しくて、亜貴の枕を取って前に抱いた。
顎を乗せると、余計に亜貴の匂いがする。

オレは亜貴の遊びにまんまとハメられてるのか?
だとしたら、オレは凄くバカで、単純で。

だいたい、亜貴を好きになる要素なんて何かあったか!?
オレはいつから面食いになったんだ!!

理央先輩も確かにイケメンだけど、理央先輩の優しさとか、分け隔てなく接してくれるところとか、そういうところが好きなわけで……。

亜貴は傲慢だし、強引だし、自己中だし、話聞かないし、無表情で何考えてるか読めないこと多いし……。
時折、ちょっと優しい時があるだけで。
時折、笑う顔が、可愛く見えたりもするだけで。

そんなの、みんな普通にあることだし、亜貴が特別優しいとかじゃなくて、ほんの、ほんのちょっとなわけで。

説教じみた言葉はちょっとウザいと思うし、オレのこと知ったような口ばっかりで、やっぱりウザいし。

『好きだよ』

キスをする瞬間の亜貴の顔が、頭に浮かんだ。
とたんに顔が、グッと熱くなる。

ボフッ……

ベッドの布団に枕を抱いたまま横になった。

そっか、オレ、流されてるだけ……なんだよな。
亜貴がオレで遊んで、ファーストキスも奪って。
好きって言われるのだって、いつ以来なんだろうか?

でも、亜貴の好きはその好きじゃないし?
いや、その好きじゃないって意味が分からないし?
好きじゃない相手にキスしたり胸揉んだりする意味が分かんないっていうか……
いや、盛ってるのか?
エロいだけか?
セフレでも欲しいのか?

……だとしたら、絶対無理。

だけど、結婚するかとか色々聞いてきたし……脈ありなのか?
いや、あったからって、オレが好きなのは理央先輩で……

ギュッと、目を瞑って、枕を抱き寄せた。

もー……分かんない。

亜貴が好きか、って言われたら嫌いじゃない。
今日のデートのこと聞かれたら、楽しかったと答えられるし、かといって付き合うと言われたらそうじゃないってなるし。
何回か、好きだって思っちゃったけど、やっぱり言い寄られ慣れてないこっちとしては、ああいう態度取られると本気にしちゃうっていうか、そういうのがあって……。

てか、オレ、恋愛経験ゼロじゃね!?

中学校の時もバスケ一筋だったし、今より更に髪短かったから、全然男寄ってこなかったし。
てか、男子は友達!
女子より男子と一緒の方が楽!!って感じだったしなぁ。

だからダメなんだ。
亜貴に何かされると、勝手に過剰反応しちゃって。
恋愛慣れてないのバレバレだし。
でも、亜貴も亜貴で、男っぽくないっていうか、他の男と違ってて。
……女として、扱ってくれてる。

そういえば、理央先輩を好きになったと意識したのも、可愛いと呼んでもらったあの時からだ。
女の子なんだから、って、持ってたゴミ一緒に運んでくれたんだっけ。

『女だって、自覚しろ』
『……可愛い女、だと思います』

亜貴の言葉が、また頭に浮かぶ。

そっか。
亜貴と理央先輩の共通点って、オレのこと女と認めてくれてるところなんだ。

オレは女だって、誰かに認めて欲しかったのかな……。
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