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亜貴が幸せになりますように

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ビーッ……


あっという間に最後のクオーター。

「おお!出てきたぞ京野!」
「亜貴せんぱぁぁぁあい!」
「京野せんぱぁぁぁぁあい!!」

女子の声と男子の声が、一瞬1つになった。

亜貴がこちらを見上げる。
フッと笑って、柄にも無くガッツポーズを決めた。

ドキッ……。

「きゃぁぁああ!!
カッコいいーー!!」
「亜貴様ぁぁぁああ!!」

あれ?
いつの間にか目をハートにした女バスが数人現れている。

亜貴、いつの間にファンなんて作ったんだ…。

ドキ……。
胸が、痛む。

亜貴はボールを受け取ると、的確にパスを回す。
いつものように自分で決めに行くことはしない。
それだけマークがついているからだが、パスにも隙は無かった。

あと、少し……。

ギュッと、両手を組んだ。

「残り10秒……!」

誰かが叫んだ。

ふと、ノーマークになった亜貴に、ボールが回った。

相手ゴールに、敵はいない。

今しか、ない!

「亜貴ぃぃいいい!!
いっけぇぇぇええええ!!!」

声が出るギリギリの高さまで、胸の奥から何か出てくるんじゃないかというくらい、めいいっぱい叫んだ。

亜貴が、笑ったのが分かった。

大きなドリブル。

既に後ろからは敵チームが亜貴を止めようと横についている。

亜貴の身体が、重い。

それでも、みんなの声が、1つになって。

ドクン……!

「残り3秒!」

ドクン……!


「亜貴ぃぃいいい!!
負けんなぁぁぁああ!!」


亜貴の手が、ゴールへ伸びる。

ゴールに触れたのが、見えた。


ビーッ……。


大きく、長いブザーが響いた。

得点板を見た。

……3点、差………。

ゴールを抜けたボールは、ポンポンと1人で弾んで。
亜貴はゴール下で膝をついて、そのまましばらく起きてこなかった。

他のメンバーが、亜貴を迎えに行って、整列する。

「「ありがとうございましたっ!!」」

大きな挨拶と共に、みんなが泣きながら、こちらに走ってくる。

「応援、ありがとうございました!!」
「「ありがとうございました!!」」

コートにいたみんなが、応援席に向かって一礼した。
後ろから、大きな拍手が巻き起こった。

「良い試合だった」
「なんか、感動した」
「男子の試合見てこんなに泣きそうなの、初めてかも」

後ろの声が、代わる代わる言葉を発する。

でも……。

「……亜貴……?」

亜貴が、いない……。

亜貴は1人でフラフラと外へ歩こうとしていた。

オレは、それを追って走り出した。
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