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第3章 少年の真意
日が暮れる前に
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リヴの額から、汗が流れた。
酷い汗だ。
でも、発汗が始まったということは、毒が体内から出され始めたということだ。
何回目かの薬草を交換し、新しく濡らしたタオルで顔の汗を拭う。
目を閉じたままのリヴが、僅かに瞼を動かし、目を開いてこちらを見た。
「身体はどうだ? そろそろ動かせそうか?」
「……ここにいろ」
質問には答えず、リヴは僅かに手を伸ばし、私の手を握った。
ホントに、自分の意見ばかりだな。
これが村の人達を想っている男の口調とは思えない。
「……悪いが、それは出来ない。
私があの魔物を取り逃がしたことで、この村は襲われてしまう。
今すぐにでも主を倒し、魔物を抑えねば……」
「死ぬぞ」
リヴは、大きく息を吸った。
無表情だが、声を出すのが苦しげだ。
「シュラには、倒せない」
「忠告も脅しも無意味だ。
何度もそういう修羅場はくぐり抜けてきている。
今更死など恐くない」
思わず、声に棘が出てしまった。
リヴは、指を動かした。
ギュッと握ろうとしているようだが、ほとんど力が入っていない。
「……俺は、恐いよ」
「は?」
リヴは、目を閉じた。
「俺は、死ぬのが恐い。
誰かが死ぬのも、自分が死ぬのも、恐い」
「……はっ! 臆病者だな」
「でも、それは、誰もが根底に持っているものだ。
生きたいと思うことは、死にたくないということ。
シュラは、生きたいと思ったことはないのか?」
「っ……ある、が、それが死への恐怖だとは……」
目を逸らし、ふと視線を戻すと、目を開けたリヴが、微笑んでいた。
ドキッと、心臓が痛んだ。
「あんたも、機械じゃ無いんだな。
よかった」
「っ……! ど、どういう意味だそれは! 私は人間だ!」
「分かってる。
それだけ、知りたかった」
リヴの視線が後ろに向けられて、振り返ると、ロウソクの火に囲まれて輝くステンドグラスの絵が浮かび上がっていた。
日が当たればはっきり見えるのだろうが、今はどんな絵柄なのか、よく見えない。
女の人、だろうか?
「あんたは、俺が守るよ」
唐突に言葉を発するリヴに、ドキッとした。
「な、何を急に……! そんな身体も動かせない分際で!」
「シュライカ・ディート」
「な、なんだ?」
リヴは、フッと、息を吐いて、視線をこちらに向け、また微笑む。
「俺が、守る。
死なせないから」
その自信に満ちた表情に、熱い指先に、つま先が震えるような、ムズムズした感覚が訪れた。
「ふ、ふん! 減らず口を叩く暇があるのならさっさと毒を出しきれ! 装備を整えて夜中に出発する。
それまでに動けないようなら置いて行くからな!」
「分かった。
……おやすみ」
そう言って、またすぐに目を閉じるリヴ。
本当は声を出すのは辛いのだろう。
私も以前同じような毒を受けたことがあったが、治りかけでも呼吸ですら苦しいと感じた。
リヴは、強い。
それだけは、認めざるを得ない。
一通り汗を拭い、椅子の上にもらった食料を置いて、魔剣ギリアンを腰に添え、その場を離れた。
「リヴ・ラインド。貴様の助けなど借りぬ」
教会を振り返り、誰が聞いているわけでも無いのにそう言い放って、村の出口に向かう。
リヴは、いくら強くても所詮は村人だ。
そして、魔物を殺せない。
私を守ることも、止めることもかなわない。
私の生き方を変えられるわけがないのだ。
酷い汗だ。
でも、発汗が始まったということは、毒が体内から出され始めたということだ。
何回目かの薬草を交換し、新しく濡らしたタオルで顔の汗を拭う。
目を閉じたままのリヴが、僅かに瞼を動かし、目を開いてこちらを見た。
「身体はどうだ? そろそろ動かせそうか?」
「……ここにいろ」
質問には答えず、リヴは僅かに手を伸ばし、私の手を握った。
ホントに、自分の意見ばかりだな。
これが村の人達を想っている男の口調とは思えない。
「……悪いが、それは出来ない。
私があの魔物を取り逃がしたことで、この村は襲われてしまう。
今すぐにでも主を倒し、魔物を抑えねば……」
「死ぬぞ」
リヴは、大きく息を吸った。
無表情だが、声を出すのが苦しげだ。
「シュラには、倒せない」
「忠告も脅しも無意味だ。
何度もそういう修羅場はくぐり抜けてきている。
今更死など恐くない」
思わず、声に棘が出てしまった。
リヴは、指を動かした。
ギュッと握ろうとしているようだが、ほとんど力が入っていない。
「……俺は、恐いよ」
「は?」
リヴは、目を閉じた。
「俺は、死ぬのが恐い。
誰かが死ぬのも、自分が死ぬのも、恐い」
「……はっ! 臆病者だな」
「でも、それは、誰もが根底に持っているものだ。
生きたいと思うことは、死にたくないということ。
シュラは、生きたいと思ったことはないのか?」
「っ……ある、が、それが死への恐怖だとは……」
目を逸らし、ふと視線を戻すと、目を開けたリヴが、微笑んでいた。
ドキッと、心臓が痛んだ。
「あんたも、機械じゃ無いんだな。
よかった」
「っ……! ど、どういう意味だそれは! 私は人間だ!」
「分かってる。
それだけ、知りたかった」
リヴの視線が後ろに向けられて、振り返ると、ロウソクの火に囲まれて輝くステンドグラスの絵が浮かび上がっていた。
日が当たればはっきり見えるのだろうが、今はどんな絵柄なのか、よく見えない。
女の人、だろうか?
「あんたは、俺が守るよ」
唐突に言葉を発するリヴに、ドキッとした。
「な、何を急に……! そんな身体も動かせない分際で!」
「シュライカ・ディート」
「な、なんだ?」
リヴは、フッと、息を吐いて、視線をこちらに向け、また微笑む。
「俺が、守る。
死なせないから」
その自信に満ちた表情に、熱い指先に、つま先が震えるような、ムズムズした感覚が訪れた。
「ふ、ふん! 減らず口を叩く暇があるのならさっさと毒を出しきれ! 装備を整えて夜中に出発する。
それまでに動けないようなら置いて行くからな!」
「分かった。
……おやすみ」
そう言って、またすぐに目を閉じるリヴ。
本当は声を出すのは辛いのだろう。
私も以前同じような毒を受けたことがあったが、治りかけでも呼吸ですら苦しいと感じた。
リヴは、強い。
それだけは、認めざるを得ない。
一通り汗を拭い、椅子の上にもらった食料を置いて、魔剣ギリアンを腰に添え、その場を離れた。
「リヴ・ラインド。貴様の助けなど借りぬ」
教会を振り返り、誰が聞いているわけでも無いのにそう言い放って、村の出口に向かう。
リヴは、いくら強くても所詮は村人だ。
そして、魔物を殺せない。
私を守ることも、止めることもかなわない。
私の生き方を変えられるわけがないのだ。
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