陽の下の吸血鬼

天野 奏

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太陽に触れてはならない

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しばらくして、シャワーの音が止まった。
俺はベッドの上に寝転がって、ただ天井を見つめていた。
それにしても喉が渇いている。
いつから血を飲んでいないんだ?
あの男から多くもらったとはいえ……ここまで限界を迎えるまで気づかないなんて。
つけられていることにも、人間の女よりも気付けないとは。

少し、油断しすぎているのか。
しばらく俺が“人生”に対してマンネリ化しているのも理由だろうが……。

キー……。

扉が開いて、少女が出てきた時、甘いニオイが立ち込めた。
シャンプーか、とも思ったが、あれは俺たち吸血鬼にはキツすぎる。
特に風呂上がりのニオイは濃い。
そしてふと、気付く。

俺たち吸血鬼が“甘い”と感じるニオイとは何か。
心臓によって身体中を押し流れる、血のニオイだ。

目を向けると、白いバスローブを身につけ、肩を露出させた少女がこっちを見ていた。
髪は濡れ、肌は艶やかに光り、脈が大きく音を立てている。

ーー限界だ。

もともと、ことは少女が寝静まってから起こす予定だった。
首に毒を盛れば、多少のことじゃ起きないし、ヤッたことさえ記憶を曖昧に出来る。
吸血鬼が記憶を奪うことは案外難しいことじゃないのだ。
だが、その計画は一瞬のうちに頭の中から掻き消された。

「次、どうぞ……んっ!?」

少女がこちらを向くか否か、気付けば俺は、彼女にキスをしていた。
手を伸ばした彼女の手首を壁に押し付け、自分の膝を彼女の足の間に入れた。

「んっ……!
んっ……んん……!!」

きっと不思議に思っただろう。
ベッドから扉までの距離は多少ある。
今の一瞬でどうやって距離を詰めたのか。

そして、後悔しただろう。
自分がどうしてこんなにも無防備なのか。

だが、もう遅い。

唇を離し、目を合わせる。

「やっ……んっ……!」

口答えなど、させない。

抵抗するな。俺に身を委ねろ。

また唇を離すと、俺の吐息が熱を帯びていた。

俺の呼吸が乱れている?
いや、この女のだ。

「お前が悪い」

掠れた声でそう告げ、また目を合わせると、有無を言わさず唇を奪う。
見つめ合ったままキスをしていると、少女は目に涙を浮かべ、抵抗を止め、目を閉じた。
いつもより、時間がかかった。

「はっ……はぁ……あっ!」

素早くベッドへ移動し、少女を寝かせると、首筋を伝うように唇を落とす。
脈が強く、俺を誘っている。

ーー喰いたいーー

肩の近くまで降りて、片手で少女の腰を抑えると、そこに牙を降ろした。
柔らかい肌は、吸血鬼の牙をスッと身体に通した。


「イタッ……!」


少女の声が、それまでほとんど消えていた理性を起こした。

「え?」

ほんの少し頭を離すと、少女の手が首に伸びた。

「血……?」

そのゆっくりとした時間、おれは思考が追いつかず、ただポカンとそれを見ていた。
催眠が、解けた?
いや、効いていなかった?
牙を入れた傷口が、塞がらない。
それ自体、おかしい。
どんな人間でも、吸血鬼の唾液で傷は消えるはずだ。
例え催眠が効いていなくても、一噛み目の少量の毒で思考を奪える。
それが、今もまだ全く効いていない。

ーー人間、じゃない……?

「瞳が、赤い……」

頬に手が伸びてきて、そっと触れた。
ハッとして、少女と目が合う。

「牙に、さっきの動き……もしかして……
吸血鬼……?」

ドクン……!

バッと、ベッドの下まで下がり、距離を取って身構えた。

「お前は、なんだ?」

俺が……初めて、失敗した。
知られた。
だが、人間じゃなければなんだ?
同族か?

違う。
あの血は、人間のものだ。
がした。

どうする?
殺すか?
それとも記憶を消して……いや、傷が治らない、催眠がかからないやつの記憶が消せるのか?
分からない。
殺したら付けてた連中に確実に追われる。

どうしたらいい?
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