【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第9話-野心

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~王太子視点~


『…と申しますと?』


『フェレネス家のセリア嬢はファルカシオン辺境伯のライアン次期当主の婚約者だ。』


『存じておりますが?』


『だから聞いているのだ!!何を考えているのかと!!』


王は玉座を叩き俺を威圧した。
我が父は頑固な人間だ。

回りくどい御為倒しは逆効果なのでありのままを話すことにする。


『セリア嬢は私が知るアルテア人の中で誰より優れた女です。最も優れた女を妃として娶る…それだけでございます。』


『馬鹿者!!セリア嬢の事情を考えろ!!なんの面識も無い者からいきなり妻になれと言われ困惑しない者がおるか!!』


父であり王とは言え…馬鹿者呼ばわりされる事に少しムッとする王太子


『愛なき政略結婚は高い地位の家に生まれた者ならば当たり前ではありませんか?"結婚は愛より慣れ"と申しますし。』


『そもそもが!婚約者のいる者に求婚をするとは何事か!!』


『どちらを選ぶかは彼女次第ではありませんか?アルテアを背負って立つ王太子の妃となるか…辺境伯の妻となるか…決めるのはフェレネス家でございます。』


『これはフェレネス家やファルカシオン家だからと言う問題ではない!!ましてや政略結婚がどうと言う話でもない!!セリア嬢とライアン令息の問題なのだ』


『???…同じ事ではありませんか?決めるのは個人では無く各々の家なのですから』


『はぁ…』


王は溜息をついた。


『息子よ…儂は確かにお前に儂の跡を継がせるべく厳しく育てた。時には冷徹な決断も下す様に教えたのも儂だ。』

『だが…お前は度が過ぎている…合理を追求する余り人の道から逸れる様な真似は王族と言えど許されぬのだ。人の心を忘れた王は暴君となりアルテアの歴史に永遠の汚点を残す事となろうぞ。』


『心得ております、彼女には選択の自由がございます。まず有り得ない事ですが仮に尚、辺境伯夫人の地位で満足すると彼女が申す様ならば私は潔く諦めるつもりです。』


俺は心にもない事を言った。
そんな選択有り得るはずもない。

ダイヤと石炭を並べて"さぁ、どちらか取れ"と言い
石炭を選ぶ女が何処にいる?


『お前は優秀だ…少なくとも儂がお前程の歳だった頃よりずっと…』


王の言葉に王太子はニヤリと口元を緩ませた。


『しかしそんなお前に儂が未だ王位を譲らない理由が分かるか?』


この発言にニヤけていた王太子の顔色は曇り不機嫌な顔付きに戻る。


そんな事分かるはずがない…先程の"何故呼ばれたか分かるか?"と言う質問もそうだが何故陛下は分かり得る筈もない人の心を知っていて当たり前と言う口ぶりで話すのだろうか?


人が心で考えている事なんて予想は出来ても完全に分かるはずがない。
陛下が…実の息子である俺の心が分からない様に

考えている事は口にせねば伝わらないのだ。
黙っていても理解しろと言うつもりなら、俺は超能力者では無いので不可能だとハッキリ言ってやろうか?


『分かりかねます…』


『そうだろうな…分かるまい。』


王の発言に更に腹を立てる王太子。
彼からすれば人の心や気持ちを汲み取る事は"超能力"と言う超常的な力がなければ出来るはずもないと言う考えているからだ。

故に王の問いは彼からすれば答えの存在しない意地悪な理不尽クイズを出されている様な物なのだ。


ちっ…当たり前だ分かるはずがない、俺は王が自分以上と認める器を持っている。

そんな俺に王位を譲らず、分からなくて当たり前の問いを分からないと返した俺を未熟者と見下す様な発言。

刺し詰め…自分より力を付けた息子への劣等感を理不尽クイズに答えられなかったと言う理由で見下し牽制しているつもりだろうか?


女の嫉妬は恐ろしいと言うが、男の嫉妬は見苦しい…
賢王と称えられた我が父も歳には勝てないと言った所か?


王太子は王を老害認定する事でなんとか自尊心を回復させる。


実の父だろうが、能力が自分より下と見なせば彼には侮蔑の対象なのだ。


『まぁ良い…もはや止めまい。』


王は玉座から立ち上がり王太子に歩み寄る。


『これも良い機会だ。一度口に出したからには後には引けぬぞ?』


『分かっております。』

"良い機会"と言う言葉に引っかかったが、思いの外セリアを王太子妃に迎えたいと言う要求を認めた王に拍子抜けする王太子。


『お前が次代の王としてで無く、人としての魅力を持つ男ならば、セリア嬢はお前の妻となる道を選ぶだろう。お前がその器であると言う自信があるならば…それを証明して見せよ。さすれば儂も王位をお前に速やかに譲ろう。』

『本来ハイネ嬢とお前を披露する筈だった国を挙げての結婚式は中止にせずセリア嬢とお前の式として執り行うと招待客達に改めて文を出す。構わんな?』


なるほど…父の考えが読めたぞ。
俺が留学の許可を求めた時と同じで試練を与えているおつもりだな?

その猶予は1ヶ月…それ以内にセリアの懐柔に失敗しセリアが俺との婚約を承諾しなければ、俺は花嫁のいない結婚式をアルテアの重要人物達を招いた式で晒す羽目になる。

即ち醜態だ。


そのリスクが嫌ならば発言を覆して従えと言いたいのだな?


"どうせお前には出来はしない"と…そう思っているのだな?


全く懲りないお方だ。
この俺がここまであからさまな挑発をされて引き下がるとでも?


『承知致しました。必ずやセリアをアルテアの王太子妃として迎え陛下に満足して頂ける立派な式にしてみせましょう。』


王太子は"望むところだ"と言わんばかりに自信満々に宣言した。


『うむ、式は1ヶ月後だ。楽しみにしておるぞ…あと1つ老婆心ながらお前に忠告しておく』

『何でしょう。』

王は王太子を萎縮させるかの様に重々しい表情で間を開ける。


『お前は優秀な王太子だ。だからわざわざ言わずとも儂の性格は理解しておろうが……儂はもし仮にお前が王族として…いや、人としての心を忘れる様な所業をしたならば……儂はお前を王位継承者から除名する。例えソルガデス王制がここで絶え様が他の者を推薦するからそのつもりでいろ。』


『こ、心得ております。』

『ならば良い…話は以上だ。下がってよいぞ』


王太子はペースを崩されたまま謁見の間を後にする。
外で控えていたサイン侯爵を含む王太子の家臣達が声を掛けようとしたが、王太子の不機嫌な顔付きを見て思い留まる。彼らは王太子に側に置かれる人間だけあって彼に声を掛けて良い時と悪い時の見極めは付いている。

王太子は一人ブツブツと呟きながら王宮の廊下を歩く



『ちっ…こんな時だけドスを効かせて凄みを出ししやがって…』


口から出るのは王に自分の勢いやペースを崩された事の恨み節だが、頭の中では冷静に王からの叱責や試練の意味について思考を巡らせていた。


王は確かに身内だろうが容赦はしない。
先程のハイネの流血沙汰が王の耳に入っていなくてよかった…もし耳に入って居たならば俺も先代王の様になっていたかも知れない…

王の兄君に当たる先代王は私情の為に国教を利用し神の神託を騙って隣国のサラバドに戦争を仕掛け大虐殺を行ったそうだ。

その先代王は俺が生まれる前にはもうこの世にいない。父が権威を乱用した罪で先代王に反旗し王位を取り上げた上で罰したからだ。


アルテアの国教では戦争はアルテアの地と国教を守る事以外で行う事は大罪とされている。

王ですら、国教の法を破る事は許されないのだ。

国教アルテルシオン教を深く信仰する父は実の兄である先代王すら容赦なく粛清した。

民達が心の支えにしている国教を重んじ、無法の王は兄弟でも討ち取った父は民や貴族達から賞賛され信頼を得て本来謀反人である筈の父が現アルテア王として君臨しているのも、誰であろうが無法は許さないと言う厳しい姿勢と政策故だろう。

少なくとも王は息子だからと言って俺の罪を許したりは絶対にしないだろう。

現に王は愚弟フェルリオの怠惰な暮らしぶりに憤怒し王族としての特権をほぼ全て剥奪し殆ど勘当したも同然だ。

つまりは王家の権力を使ってフェレネス家やファルカシオン家に圧力を掛けることは許さないと言いたいのだろう。


つくづく舐められたものだ…
王太子と言う肩書きが無ければ俺にはたかだか伯爵家の娘すら落とせないと思われているらしい。


正してやる…その見誤った俺への過小評価を
そして認めさせてやる!俺以外に王に相応しい人間等いないと言う事を!


その暁には…今まで散々俺の考えを否定して来たツケを払わせてやる……


俺のやり方を異端扱いし邪魔をして来た王も…アルテアの重臣達も纏めて…変化を拒む前時代の遺物をアルテアから根絶するのだ!

その為にも…俺が王となる迄は本性を隠し従順な良き息子を演じる必要がある。

ふふ…王はハイネの流血沙汰気付く事はないだろう

何故なら御三家の貴族家や古くから王に仕える重臣達…そして一部の近衛兵を除き、殆どの貴族家…果ては王宮にいる従者達もが既に俺の息が掛かった者達。

即ち王太子派に転身しているからだ
これも俺が留学で持ち帰った他国との外交ルートのパイプや最新の技術がもたらした成果故だろう。

つまり俺と王、どちらに付いた方が有益かを考えた結果だ。

愚鈍にも平和に胡座をかいて玉座にふんぞり返っている王は想像すらすまい。

目の前にいる忠実な家臣が実は俺の間者となっている事を

王宮にいる者はもはや殆どが俺の手駒なのだ。
この王宮は既に俺の物だ…!

しかし俺が表立って王に反発しないのは、王が未だに民からの支持が厚いからだ。

アルテアで有力な武家貴族達も未だ王の側に付いている…特にセリアの実家であるフェレネス家やファルカシオン家が王に忠誠を誓っている事は大きい…

あの二つの家はアルテアでも抜きん出た戦果を挙げてきた有力な一族だ。

俺が手駒に従えた貴族家達の兵力を持ってしても武力で制圧するのは難しいだろう。

そこで俺はサイン侯爵が提案した策を受け入れた。

フェレネス家とファルカシオン家は長年均衡した武力を持つライバル同士の関係が何年も続いた一族だ。

しかし近年、両家の当主達の意識が変わり、和睦の印に互いの家の子を結婚させ共存しようと言う政略結婚を図ろうとしている。


これをぶち壊してしまおうと。


王にとって二本の懐刀である両家の政略結婚を破綻させ再び衝突させれば王の軍勢は一気に弱体化する。


俺がセリアを王太子妃に迎える事に成功すればフェレネス家を取り込む事が出来る上、王は両家の政略結婚を邪魔した事になりファルカシオン家から反感を買う事となろう。


そうなったらもはや王の許可等必要ない


今まで挙げてきた成果とアルテア1の武力を持って俺がアルテアの王として君臨するのだ!


そうなった暁には…俺をバカにした奴等には首輪を付けて飼い慣らしてやる…


教えてやるんだ…どちらが浅はかで程度が低かったのかを!


『あら、リフェリオじゃありませんか』

『あっ…』


邪悪な野心を胸に抱き決意を固め奮い立っていた矢先
一人の女性に声を掛けられ表情は一気に崩れる。


この女性の名はエミリア・ソルガデス


アルテアの王女であり王太子の姉に辺る人物だ。
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