【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第13話-隠し事

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領地見回りの途中で、ファルカシオン邸から一番近い街であるエプソンに辿り着く。

朝の見回りはファルカシオン邸からこのエプソンの街を一周して終わる短距離ルートで、領地内全てを見回る長距離ルートは兵士達を連れて行う。

言わばこの朝の見回りは半ば散歩の様な物だ。

エプソンは辺境地を守る兵士達の武器や防具や馬車等の金具を精製する中規模の鍛冶屋街だ。

まだ日が登ったばかりだが、所々の煙突からは煙がのぼり、何処からか鉄を叩く音が聞こえる。


鍛冶職人達もチラホラと朝の作業を初めており、エプソンの住民達の会話がチラホラと耳に入る。


「新入りのバカが溶鉱炉に水を流して固めやがった!」

「またか?今度やったら溶鉱炉に沈めてやるって親方に言われたばかりだろ」

「相変わらず作物は芋しか育たねーが殿下が異国から持ち帰った船の技術のお陰で上手い魚が食えて最高だ!」

「確かにな!カミさんの芋料理には飽き飽きしてた所だ!まさに王太子殿下様様だな!」

「俺は魚なんかより上等な酒が飲みてぇーな!」


エプソンの街の住民の話題を聞く限り、どうやら今日は平和な様だ。

こうして領主が直接街に赴いて、住民達の自然な会話を聞く事で、領土内に不穏の兆しが無いかを把握している。

領民達が領主に相談に来る頃には、それは既に問題が明確に発生していると言う事になる。問題の早期発見と解決の為にも、この朝の見回りはそれなりに有効なのだ。


「おーーー!!!若にセリアさんじゃねぇかい!!!」


一人の快活な男性に呼び止められる。
この男はこのエプソン工業街で鍛冶職人達を束ねる親方だ。

屈強な体付きとは相反し年齢は60歳近くだが老いを感じさせない風貌だ。

ライアンが子供の頃から彼が武具を作り、成長する様を見守って来た為、口調は貴族と平民の会話とは思えないほどラフだ。

因みにライアンが今持っている剣もここで打っている。

『おはようございます。今日も精が出ますね』

『親方…今日も問題なさそうだな』

ライアンとセリアは軽く挨拶を交わす。

『あんたらも朝っぱらからご苦労さんだな!』

『いえ、これも仕事ですので』

『俺も毎日皆の働きに世話になってるからな…見回り位はさせて貰うさ』 

第三者の人間が入るとライアンは2人きりの時よりは喋る。いつもこうだといいのだが…

『へへっ、そりゃ立派なこった!おい、お前らぁ!!若にセリアさんが来てるぞ!!』

男性はそう叫ぶと工房に向かって叫んだ。


『『『うぃっす!!』』


男性の叫び声に呼応するように複数の男の声が聞こえてくる。

そして暫くすると、数名の男が現れ……


『『『『『若とセリア様に敬礼!!』』』』』


皆、一斉にこちらに敬礼をする。


この工房にいる者の中には元兵士だった者もいる。戦場で戦えなくなった者を見習いの鍛治職人として親方が雇っているのだ。


『皆さん、おはようございます。いつもお疲れさまです。』

『……』


セリアはニコリと微笑みながら挨拶を返す。
ライアンは素っ気なく手を振り答える。
これが毎度のパターンだ。

『若にセリア様!今日の予定はどうなってんです?』

『この後、エプソンの周辺を見回ろうと思っています』

『そうかぃ……』

『……?』

何か言いたい事があるのか、モジモジとしながら口籠る親方にセリアは首を傾げる。


『……あの、良かったら……その……若に話があるんだが時間は大丈夫かい?』

いつもハキハキとした親方がこの様な言い方をする際は…何か問題があった時だ。

『あぁ、分かった…セリアは先に戻っていなさい。』

こう言った相談話がある時は決まってセリアは人払いされる。

必要以上に領民達に不安を与えない為に内容を知るのは少数であるべきなのはセリアも同意しているが、これではまるでセリアが言いふらす事を警戒している様に見える。


"もう少し信頼してくれてもいいでしょ…"


普通、こんな不快感を抱いてもおかしくないがセリアは"いつもの事か"と言わんばかりに二つ返事で了承し親方や鍛治職人達に挨拶をして帰路に向かう。


『それで?どうしたんだ』

『いや…実はよぉ…ここ最近エプソンの周りで見慣れない余所者の姿が…』


ライアンと親方の会話が少しだけ耳に入る。


"余所者"と言う呼び方は所謂、アルテア人ではない者に使われる。

アルテア人は皆、濃薄の差こそあれど白い髪を持つ。
余所者…即ちアルテア人でない者は一目で分かってしまう。


そしてアルテアは他国との国交を避けている鎖国国家である為、アルテア領土に余所者とは密入国者と言う事だ。

即ち犯罪者であると言うことになる。



-また…サラバドの盗賊がアルテアに来たのかしら…


ライアンは当主代行として領内に賊が侵入したとの知らせを受けると兵を連れ何日も家を空ける事になる。


王太子の求婚の件もあり、出来れば側にいて婚約者としての存在感を示して欲しいセリアにとっては、この親方の相談事は嬉しくない…


しかし、いずれは領主となるライアンの婚約者と言う立場上、そんなワガママが口に出来る訳もなく、また"仕事と私とどっちが大事なの!?"とヒステリックを起こすほど、セリアは子供でもない。


ただ…黙って見送り帰りを待つしかセリアに選択肢はないのだ。


セリアは一人ファルカシオン邸を目指しコンスタンスで翔る。


一人で悩みを抱え帰路を目指すセリアは気づかなかった。



いつもなら気付くセリアを尾行する人間の気配に…
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