【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第14話-義姉

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~セリア視点~


ファルカシオン邸に一人帰路についたセリアは、メイドに出して貰った暖かい紅茶で一服しながら、ライアンが父親であるファルカシオン辺境伯から任されている領内の支出管理書に目を通していた。

漏れや誤記入などのミスがないかチェックするのも辺境伯夫人の役割だ。

この公務は本来、ファルカシオン家にとって重要な機密の一つだ。その仕事をまだ正式な婚姻をしていないフェレネス家のセリアが早くも任されている。


先代まで犬猿の仲で諍いが絶えなかった一族の娘であるセリアだが、彼女はそんな遺恨を無い事の様にしてしまう程、優秀で真面目な女性であり、その性格が評価されて仕事を任されているのだ。


『ライアンったら…計算がめちゃめちゃだわ…一体どうしたのかしら?』


普段はあまりないが、ライアンが計算ミスをした数字を訂正し正しい支出額を割り出してして、領民達の税金が何に使われたかを明確にするのがセリアの仕事だ。

-今日はやたらと間違いが多い…
昨日も何か沢山書き損じの書類を床に散らばらせていたし…何か悩みでもあるのだろうか…?


-しかし悩みがあろうとも、彼が私にそれを打ち明ける事はない、彼は今まで誰にも弱味を見せようとはしなかったもの。



『セリアちゃん!おはよう!』


セリアが帳簿とにらめっこしていると、ファルカシオン家の長女であり義姉のアレクシアが声を掛けて来た。



『おはようございます。アレクシアお義姉様。』

『だぁ~かぁ~らぁ~!呼び方が堅苦しいってば!普通にアレクシアって呼んでくれていいのよ?私達はもう家族なんだから!』


-彼女は私とは真逆の社交的で気さくな性格だ。


『どうしたの?辛気臭い顔して』

『あはは…辛気臭かったですか?』

『ライアンと何かあった?』

『うっ…はは…まぁ…』


-また…包み隠さずに物を言う一面も持つ。
本人に悪気は無い事は分かっているが…時たまに痛い所を突いて来る。


ハイネと同い年のアレクシアはこのハッキリ言う性格からハイネと反りが合わず対立していたらしい

しかし彼女は自分に正直なだけで、その正直さには爽やかさすら感じる。

セリアの事も気にかけてよく話し掛けている。


『ライアンは寡黙ですからね~!私ですら何を考えているかよく分からないからセリアちゃんが不安になる気持ちも分かるわ!』


『ま、まぁ…ライアンが何を考えているかは、おおよそ分かっているつもりですけど』


『え?惚気話?聞かせてちょうだい!貴方達どこまで進んでるの?私も姉として知る必要があるわ!もうキス位はしたの?もしかしてもう…』


『いえ、手すら握って貰った事はありません。』


『はぁ~~~~何やってんのよライアン』


『でも私は彼に大切にされてます。それだけで満足ですよ』


セリアは苦笑いしながらそう応える。
彼の姉の前だから気を遣っているのだろうか?


今日のやり取りだけを見ても、第三者ならばセリアが大事にされている様にはとても見えないだろう。


『でも男ならガツッと行きなさいよ!!女にリードさせるなんて情けないわ!!』


『そ、そういうものなんですね……』


セリアは少なくとも両親が自身の前で仲睦まじくしている姿は見た事がなかった。

母は父の仕事をアシストする付き人の様に常に父についてまわっていたがそれはあくまで公務の為。

腕を一緒に組んで歩く姿等、母親が亡くなるまでついぞ一度も見たことは無かった。


セリアは両親の関係を見て"夫婦とはこう言うもの"といつしか納得していたのだろう。


アルテアでは淫らな男女の関係を"穢れ"として蔑視する風潮がある。


アルテアの女性は婚姻前に純潔を失えば"妻とする価値なし"と烙印を押され、嫁ぎ先は先ず無くなる。


男性は生涯に一人の女性のみを愛する事が誉れとされ、複数人の女性と関係を持つ事は"不貞の輩"の烙印を押され、先ず人の上に立つ仕事は任されなくなる。


そう言ったアルテアの風潮からも、アルテアの男女は一定の距離を置き、政略結婚を除けば"生涯の愛"を誓いあった者同士だけが肌を触れ合うと言うのが、言わば習わしとなっている。


そしてセリアとライアンの関係は、損得勘定が絡んだ典型的な政略結婚における婚約者の関係だ。

もし仮に…ライアンに別の想い人がいたならばセリアは邪魔者でしかなかっただろう。

そう考えるとライアンのセリアに対する態度にも納得が行く。

表立ってセリアを邪険に扱いはしないが、いても居なくても変わらない様な態度だ。


『全く!ライアンにセリアちゃんは勿体無いくらいよ』

『そんな事は…』

アレクシアの言葉に慎ましく返すセリアだが…


『あぁ、確かに勿体無いな』


割って入って来たのはライアンだった。


『あ、あら…ライアン帰ったの…おかえりなさい』

アレクシアも、流石に本人に話を聞かれていたと知りバツが悪そうだ。


『もっと他にマシな相手がいるだろうに。今からでも遅くない…他の嫁ぎ先を探したらどうだ』


ライアンは淡々とした口振りでセリアに向けて言葉を放つ。


『・・・』


セリアは俯き、ライアンから視線を逸らした。


『ちょっとライアン!?』


『俺は姉上の意見に同調しただけだ。』


そう言うと踵を返してセリア達のいる部屋から出ていこうとする。


『そんな態度じゃセリアちゃん 本当に他所に嫁いじゃうかも知れないわよ?』


『それは彼女の自由。俺の意思は関係ない…そんな事より、これから遠征に出るので暫く家を空ける。』

『遠征…?やはりまたアルテアに盗賊が現れたのですか?』


黙っていたセリアも口を開くが…


『君には関係ない。君はいつも通りに過ごしていればいい。』


そう冷たく吐き捨てて部屋を後にする。
セリアは見送ろうと直ぐにライアンの後を追う。


『もうライアンったら…セリアちゃんもあれで本当に良いのかしら?』


この光景もいつもの二人の日常だ。


領地に賊が現れればライアンは元のスケジュールを放棄して討伐に向かう。

ライアンの父 ファルカシオン辺境伯は高齢で戦地に向かう事は望ましくないと考えたライアンはこうした交戦の可能性がある仕事は率先して引き受けて来た。


セリアはそれを見送り、ただ黙って帰りを待つ。


これがもはや当たり前なのだ。



セリアが外に出るとファルカシオン邸の前には既に戦闘服を来た兵士達が十数人程整列していた。


『いってらっしゃい。お気を付けて』


セリアはライアンと兵士達に深々と礼をする。
その礼に兵士達も敬礼で返すがライアンだけは振り返る事なく愛馬のドゴンに跨る。


『者共ッ!!行くぞ!!!』


普段物静かな彼からは想像も出来ない程の怒号をあげると兵士達も声を挙げ、ライアンが率いる騎馬隊はファルカシオン邸を駆けて行った。


馬で掛けていくライアンの背に向かい
一人彼の無事を祈るセリアの健気ぶりにアレクシアは内心呆れにも似た感情を抱いていた。
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