【一章完結】王太子殿下は一人の伯爵令嬢を求め国を滅ぼす

山田山田

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本編【表】

第47話-毒牙

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-セリア視点-


ここは王宮内の医務室。
アルコールの過剰摂取で王太子殿下とサイン侯爵閣下は卒倒し、吐瀉物を撒き散らしあそばされ、医務室に連れ込まれた。

王宮薬医師がアルコールを分解する効能がある薬草を煎じて二人の口に運んでいる間、私も同席しなければならない。

ムキになって自分の許容範囲を越えた酒を喰らい卒倒したのは殿下達の自業自得だが、仮にも一緒に飲み比べをした私が、一人だけ何処かに行ってしまう訳にも行かない。


それに仮初にも私は今日の夕方まで殿下の婚約者役だ。

嫌いな人間が泡を吹こうと、鼻から吐瀉物を吐こうと興味も無いのだが、このまま放っておくのもなんだか忍びなかったから同行した。


こう言う自分を持たない性格だから…殿下みたいな人に付け込まれる形になったのだろう。


兄の様に嫌なものは嫌だとハッキリ言える性格ならどれだけ楽だろう。


『うっ…クソ。』


殿下が目を覚ました。
アルテアの医学・薬学は他国に劣ると殿下は言ったが、その代わり薬草学には多少なり精通している。
薬医師が殿下に施した薬草が効いた様だ。


ない物をある物で補うのが人間だ。
なんでも他国の良い所を真似れば良い訳では無い。


隣の芝ばかり見て自分の芝が疎かになっている様ではお話にならない。


『あれから…どれ位経った…?』


『2時間です殿下。ただ待つ2時間と言うのは耐え難き退屈でした。』


『すまないな…セリア…』


殿下がベッドから体を起こした
出来ればそのままタイムリミットまで寝ていてくれた方がありがたい。しかしどうやら王宮薬医師は腕が良いらしく殿下はフラつく事も無く起き上がると頭を抱えていた。


私を酔い潰す筈が、自分が酔い潰され醜態を晒したのだから頭を抱えたくなるのも当たり前だろう。


しかし殿下が顔をタコか焼け石の様に赤くし、鼻水を垂らしながら吐き気を堪えている顔は…不覚にもほんの少しだけ可愛いと思えてしまった。


普段あれだけ格好付けマンだった殿下が、こんな無様を晒している姿が面白く思えてしまった。


吹き出さなかったのは私が死ぬ気で自分の足を抓り堪えたからだ。


あら…?私ってこんな性格でしたっけ……?


今までは…他人のする事にあまり興味関心なんて無かったのに…


『殿下。タイムリミットの夕刻まであと数十分でございます。本日は私如きには勿体無い大変貴重な体験をさせて頂き誠にありがとうございました。』


『まだだ…まだ終わってない…』


『もうすぐ期限の時刻でございます。』


淡々と返すセリア。


『まだ終われないんだ…』


王太子はヨロヨロと立ち上がる。


『殿下?無理をなされないで下さい。』


心配等していないが、立たれても面倒だ。


『セリア…君が必要なんだ…』


はぁ…
この期に及んで、また私を愛している振りですか。
三文芝居は結構です。
この間、私に恋情は無いとハッキリ言った自身の言葉をもう忘れてしまわれたのでしょうか…?


『私はライアン・ファルカシオンの婚約者ですので。殿下の御期待に沿うことは致しかねます。ご了承下さいませ。』


『何故だ…?奴の何処が良いんだ…?俺の方が地位も名誉も力も勝っている!昨日の奴の無様な姿を見ただろう!?』


『・・・』


私は無言を貫いた。
口を開けばとんでもない無礼な言葉が飛び出すと分かって居るからだ。


『セリアよ…俺達は出だしが悪かった…その非を認めよう。』


『だがな。俺はお前を諦める訳には行かないのだ。だから今誠意を持ってお前に頼む。どうか正しい判断をして欲しい。』


『何故…私なのですか?何故そこまでフェレネス家の力を欲するのですか?』


『………それはまだ話せない。』


-呆れた
人の人生を大きく左右する結婚の話をしておきながら
その理由は話せないで済ます。

殿下。""の意味、分かってらっしゃいます?


『…だがこれだけは本当だ。全てはアルテアの為なのだ。セリア…決してお前の悪い様にはしない…だから黙って首を縦に降ってくれ』


『殿下の御期待には添いかねます。ご了承下さいます様お願い申します。』


セリアは王太子の懇願を装った求婚を無機質な返答で返す。


『.........仕方がない。』


王太子は俯き絞り出す様な声で呟いた。


漸く諦めたのかとセリアは張り詰めていた気が緩み掛けた時、王太子は顔を上げセリアを見詰めた。


『お前がこうさせたのだ。』


『はい...?』


王太子の藪から棒な発言に困惑するセリア。
しかしその言葉の意味はすぐ明らかになった。


王太子が目配せすると扉の前に王太子直属の近衛兵達が立ち塞がる。


『殿下...?』


セリアの背筋にゾクリと冷たい戦慄が走る。
"まさか...いや...幾ら殿下とてそんな..."と頭の中で思考を整理しようとするが...、セリアの思考が纏まるのを待たずして王太子はセリアを力任せに押し倒した。


『殿下...!?な、なにを...』

『こんな手荒な真似...したく等なかった!!お前がこうさせるんだ!!!』

王太子の瞳孔が開き切っていた。
死に物狂いの動物の様に...追い詰められた野獣の様に目を血走らせていた。

この状態は非常にマズイ...

晒された醜態に
伯爵家如きの令嬢に歯牙にも掛けられないと言う失態が彼を狂わせ、この強行に走らせたのだろうか...?


とにかく今の王太子は冷静では無い。
こんな事をすれば王太子たれどタダでは済まされないのだ。


『俺に純潔を散らされれば俺の妃にならざるを得まいッ!!王族と体を重ねたと広まればフェレネス家の一門も飲み込むだろうッ!!!』


『い、いやぁっ!!!』


セリアは生まれて初めて腹の底から叫び声を挙げた。
しかし医務室の扉に阻まれセリアの声が部屋の外に漏れ出る事は無かった。
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