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第五話 戻らない覚悟
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数日後……。
何者も残っていない洞穴へディンは歩みを進めていた。
体調は万全に整え、すっかりと傷は癒えている。
あの首輪を手にして始まる自分のこれからに微塵の不安もない。
唯一気掛かりなのは、これから短くても一年以上とも思える無成長期間。己に何が出来るのだろうか。答えはあるのだろうか。
耐え抜いて磨き上げた先に何が待っているのか、いくら耐え抜いたところで無が待ち受けている可能性だって捨て切れない。
ディンはこの事を幼馴染のリアナにも相談をしようとしたがやめた。彼女はきっとディンの事を思い、全力で止めてくると思ったから。
若干十四の歳にして、人生を大きく左右するであろう分岐点に差し掛かる。不思議にも母には思い止まるようにという干渉が一つも無かった。流石は大英雄であるライドと結ばれた者。止めた所で無駄だと知っていてのことか、大した器量であった。ただ一言「ディンは何があっても帰ってくるのよ」と。
それにしても、今回の事を自分一人でカタをつけると息巻いた事はいいが、抱え切れないほど大きく重過ぎる事だと自覚はある。歩きながらも苦い笑いを浮かべる程に。
それを受け止める力がこれからの自分にはあるのかわからない。無ければいつしか、破滅を呼ぶ事になるだろう。
最悪を考えれば、このまま剣聖としての道を目指せばいいだけの事に思えた。現に剣を極めし者も存在しているのだから。それはまた別の話。
それでも捨て切れない想いが少年ディンを駆り立てるのである。大英雄、魔導剣士であった父の姿が脳裏を掠める。
(やっぱり、オレも……!!)
今までの不安材料は胸の高鳴りを誤魔化すことに過ぎない。
ディンは待ち焦がれた転機に恵まれた。もう、余計な思考は必要なかった。
(そうだ、今は……)
ただ、自分を信じて前へと進むだけだと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミザリーは既に洞穴でディンを待っていた。退屈そうに大きな岩に腰を掛けて足を組んでいる。
「あら、思ったより早く来たわね」
「特にする事もないからね」
ぴょんと岩から降りるミザリー。ディンの顔をまじまじと見て「うーん?」と声を漏らす。
「それじゃあ早速、と言いたいけど何か心残りが有るなら今のうちに聞いておくわよ?」
「無いね」
そう言って笑って見せるディン。表情に一切の曇を見せない。少年にしては大した貫禄だ。
「でしょうね。って言ってもこれを付けてすぐ終わるから……。じゃあ、いくわよ」
そう言って自分の開発した呪術の施されたアイテムをディンの腕に装着する。ディンがその気なら、こっちもやりやすいとミザリーは思う。
スルルル…と腕に這うように馴染んでいく黒い蛇を象った呪い。
ディンは体を静かに支配していく気持ちのよくない感覚に身を委ねる。黒蛇は己の尾を飲み込み、硬化する。多分、壊れないだろうなとディンは思う。
「これでいいのか? あまり実感ないけど」
キョトンとした顔でディンは問う。
「えぇ、しっかり呪いはかかってるわね……」
いつも以上に慎重になり、胸を撫で下ろすミザリー。研究者としてもこんな初歩の段階でつまづく訳にはいかなかった。
「これからは時折様子を見に来るわ。それまで元気でいてね」
「もう、行くのか?」
あっけない別れに戸惑いを隠せないディン。
「忙しいのよ」
そう言うとさっさと踵を返すミザリー。
ディンはミザリーに甘えを覚えていたのか、とふと思う。自分について知っている事、知らない事、この人なら何とかしてくれるんじゃないかって思っていた。
本当に一人で立ち向かわなければならない。それを再確認する。
そして、ミザリーのいない崩れかけた洞穴でディンは自分の力を確かめる。
グググ……と掌に力を込めてみても何も変わらない。発動しかできない魔法を見つめる。
この蓋を壊すために力を集める。
どれほどの月日が経とうとも。自分の中に眠る力を自らのものにする為、惜しまぬ努力を重ね続けるとディンは誓った。
何者も残っていない洞穴へディンは歩みを進めていた。
体調は万全に整え、すっかりと傷は癒えている。
あの首輪を手にして始まる自分のこれからに微塵の不安もない。
唯一気掛かりなのは、これから短くても一年以上とも思える無成長期間。己に何が出来るのだろうか。答えはあるのだろうか。
耐え抜いて磨き上げた先に何が待っているのか、いくら耐え抜いたところで無が待ち受けている可能性だって捨て切れない。
ディンはこの事を幼馴染のリアナにも相談をしようとしたがやめた。彼女はきっとディンの事を思い、全力で止めてくると思ったから。
若干十四の歳にして、人生を大きく左右するであろう分岐点に差し掛かる。不思議にも母には思い止まるようにという干渉が一つも無かった。流石は大英雄であるライドと結ばれた者。止めた所で無駄だと知っていてのことか、大した器量であった。ただ一言「ディンは何があっても帰ってくるのよ」と。
それにしても、今回の事を自分一人でカタをつけると息巻いた事はいいが、抱え切れないほど大きく重過ぎる事だと自覚はある。歩きながらも苦い笑いを浮かべる程に。
それを受け止める力がこれからの自分にはあるのかわからない。無ければいつしか、破滅を呼ぶ事になるだろう。
最悪を考えれば、このまま剣聖としての道を目指せばいいだけの事に思えた。現に剣を極めし者も存在しているのだから。それはまた別の話。
それでも捨て切れない想いが少年ディンを駆り立てるのである。大英雄、魔導剣士であった父の姿が脳裏を掠める。
(やっぱり、オレも……!!)
今までの不安材料は胸の高鳴りを誤魔化すことに過ぎない。
ディンは待ち焦がれた転機に恵まれた。もう、余計な思考は必要なかった。
(そうだ、今は……)
ただ、自分を信じて前へと進むだけだと。
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ミザリーは既に洞穴でディンを待っていた。退屈そうに大きな岩に腰を掛けて足を組んでいる。
「あら、思ったより早く来たわね」
「特にする事もないからね」
ぴょんと岩から降りるミザリー。ディンの顔をまじまじと見て「うーん?」と声を漏らす。
「それじゃあ早速、と言いたいけど何か心残りが有るなら今のうちに聞いておくわよ?」
「無いね」
そう言って笑って見せるディン。表情に一切の曇を見せない。少年にしては大した貫禄だ。
「でしょうね。って言ってもこれを付けてすぐ終わるから……。じゃあ、いくわよ」
そう言って自分の開発した呪術の施されたアイテムをディンの腕に装着する。ディンがその気なら、こっちもやりやすいとミザリーは思う。
スルルル…と腕に這うように馴染んでいく黒い蛇を象った呪い。
ディンは体を静かに支配していく気持ちのよくない感覚に身を委ねる。黒蛇は己の尾を飲み込み、硬化する。多分、壊れないだろうなとディンは思う。
「これでいいのか? あまり実感ないけど」
キョトンとした顔でディンは問う。
「えぇ、しっかり呪いはかかってるわね……」
いつも以上に慎重になり、胸を撫で下ろすミザリー。研究者としてもこんな初歩の段階でつまづく訳にはいかなかった。
「これからは時折様子を見に来るわ。それまで元気でいてね」
「もう、行くのか?」
あっけない別れに戸惑いを隠せないディン。
「忙しいのよ」
そう言うとさっさと踵を返すミザリー。
ディンはミザリーに甘えを覚えていたのか、とふと思う。自分について知っている事、知らない事、この人なら何とかしてくれるんじゃないかって思っていた。
本当に一人で立ち向かわなければならない。それを再確認する。
そして、ミザリーのいない崩れかけた洞穴でディンは自分の力を確かめる。
グググ……と掌に力を込めてみても何も変わらない。発動しかできない魔法を見つめる。
この蓋を壊すために力を集める。
どれほどの月日が経とうとも。自分の中に眠る力を自らのものにする為、惜しまぬ努力を重ね続けるとディンは誓った。
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