悪役令嬢は令息になりました。

fuluri

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幼少期

幼馴染の第一歩です。

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…ふ、ふふふふ。
まあ、ね?
アシュレと仲直りするためにわざと乱暴なことをしたのは分かるよ?
でもさ。
私まで巻き込むことなかったよね!
しかもその後私放置されてるからね!!

「……ねえ。なんで僕まで巻き込んだのかなあ、ラズ?」

爽やかな笑顔でラズに問うと、ラズは私の方を向き、にっこり笑って優しい声で答えてくれた。

「リュートがそこにいたからだ。他に理由はないぞ」

ヒクッ。
私は自分の笑顔がひきつるのを感じた。
へーえ、そう、なるほどねぇ……。
そこにいたから巻き込んだだけであって、私を巻き込む必要も理由も特になかったと……。

あまりの理不尽さに、私がラズに言い返そうと口を開きかけたその時、セイル兄様が私の視界を遮るように目の前に立った。
そして、いつものように穏やかな口調でラズに話しかける。

「ラズ、そこまでだよ。リュートが嫌がっていることをこれ以上すると言うのなら……」

分かってるよね?とセイル兄様が首をかしげた。
きっといつもみたいに天使のような微笑みのままで言っているんだろうなーと遠い目で考えていると、ラズの視線が泳ぎ、「あー……」と唸ってから最終的に苦笑しながら口を開いた。

「……すまない、悪ふざけがすぎた」

「……いや、それでラズとアシュレが仲直りできたからそれはまあいいんだけど……」

それよりもさ。
セイル兄様はいったいどんな魔法使いなんでしょうか。
『あの』ラズが……ドSで俺様でプライドの高いキャラのはずのラズがセイル兄様に微笑まれただけで素直に謝るなんて!!
あ、もしかしてラズ、天使なセイル兄様に惚れちゃった?!
惚れた弱み的なことなの?!(混乱)

「……リュート?どうしたの、そんなに僕のことをじっと見て」

「いえ、いつのまにかセイル兄様とラズが仲良くなってるなぁ~と思ったんです」

ま、惚れた云々は冗談としても、なーんか二人とも気安い感じの雰囲気が出てるし、親しげだよね。
だって今、ラズがセイル兄様に脅されてとか、笑顔に気圧されてとかじゃなくて、『しょうがないな』みたいな感じで謝ってきたし。
二人が仲良くなること自体は私の未来のためにも凄く良いことだし、嬉しいんだけど、なんかこう、兄様をとられたみたいで……ジェラシー……。

「……リュート。そんなに心配しなくても僕はリュートが一番大好きだよ」

「……その台詞は浮気男の言い訳の定番です、兄様」

私の表情から考えていることを読み取ったらしいセイル兄様が満面の笑顔でそう言ってくれたけど、昼間のドラマとかでものすごい聞き覚えのある台詞ですねソレ。
まだ微妙にジェラシーを感じている私はちょっとそっけなくセイル兄様に返す。
すると、ラズが私の頭に手を置き、ぐしゃぐしゃと撫で回しながら苦笑した。

「リュート、俺はセイルよりお前の方が可愛くて好きだぞ」

「……ラズ、それはフォローになってない」

「まあまあ。それより、セイルと俺が親しくなったのはお前たちのおかげだぞ。それぞれ可愛い弟がいるからな、可愛さを競っていたら自然と仲良くなったんだ」

「「は?」」

私とアシュレの驚きの声がハモった。
セイル兄様はうんうんと頷き、ラズに同調している。
……弟の可愛さを競っていた??
え、何このブラコンども。
私も大概ブラコンだけど、そんなことするほどじゃな…………いや、私もセイル兄様の自慢は結構する、かも……。
…………兄弟の良さを競うのは至極真っ当で普通のことだね!うん!
これくらいならまだ軽度のブラコン……のはず!

「あ、兄上、今なんと……」

「だから、可愛さを競っていたらセイルと気が合ってな。お互い弟を守ろうという話でまとまったんだよ」

「へー……」

……ん?ちょっと待て。
『弟を守ろうという話でまとまった』?
その話でまとまったのにも関わらず、ラズが倒れていた?
何故?
それに……そうだ、アインだけならともかくどうしてハイルまでセイル兄様とラズの状況を知ってたの?
ハイルはいつも私のそばにいて、わざわざ私のもとを離れて自分からセイル兄様の方へ行くところなんて見たことないのに。
しかも、『セイル兄様のところへ帰れ』って最初に言い出したのはアインじゃなくてハイルだ。
……それは不自然じゃない?

「……?おいリュート、どうした?」

それに、セイル兄様は私たちが噴水のところへ帰ってきた時、驚きもせずラズを隠すようなこともせずにこやかに私たちを迎えた。
それも不自然。
私はあの時『セイル兄様がキレていたらどうしよう』ってものすごく焦ってたから気づけなかったけど……。
いくら苛ついたからって、セイル兄様が仮にも王子であるラズを倒れさせるなんていう、目撃されたらいくらでも悪い噂が立つような迂闊なことを、こんな目撃されやすい場所でするのはおかしい。

「おい、リュート?セイル、リュートが突然固まったぞ」

「あぁ……そういうときは簡単には戻ってこないから、少し見守っているのが一番良いよ」

そして、決定的なのが……「聞きたい?リュート」という言葉。
普段のセイル兄様なら、私が訊ねたことに答えないなんてことはほぼないし、答えられない時はきちんとそう言う。
こんな風にはぐらかしたりなんて基本的にはしない。
……と、いうことは、つまり……。

「……そういうことか……セイル兄様!」

「ああ、戻ってきたね。どうしたの?」

「ひとつ確認したいことがあります。……ハイルは、ちゃんと言うことを聞きましたか?」

そう問うと、セイル兄様は少し笑みを深め、「もちろん」と答えた。
……うん、この反応からして、私の予想は間違ってなかったみたいだ。
私とアシュレがこの場を去ってから、セイル兄様はラズと結託してラズを倒れさせ、ハイルとアインにも協力を頼んで私たちをこの場に呼び戻し、最終的にラズとアシュレが仲直りできるように持っていく……。
細かいことは分からないけど、大雑把にはこういうことだろう。

でも、この作戦。
私がアシュレの心を解し、多少なりとも仲良くなっていることが最低条件だ。
だってそうじゃないと、私たちという『他人』がいる前でアシュレがラズの方へ行くかどうかは賭けになる。
セイル兄様は基本的にある程度の上手くいくという確信がないと動かないタイプのはず。
なら、私ならアシュレの心を開くことができる、と信頼してくれたと思って良いのかな?
そうだとしたらかなり嬉しい。

「……へえ、あの一言でそこまで読めたのか。聞いていた通り、二人とも俺についてこられるくらいには優秀みたいだな。これから楽しくなりそうだ」

ラズが私とセイル兄様のやり取りを聞き、私が勘づいたことを悟ったらしい。
ニヤリと笑いながらそんなことを言ってきた。
すると、首をかしげながらも何か言いたくなったのか、アシュレもラズの隣に立って、私たちに笑顔を向ける。

「よく分からないけど、これからも仲良くしてね、リュート。それから……セイルも」

はにかみながらそう言うアシュレは本当に可愛らしい。
そのまま純粋に育ってほしいとも思うけど、でも言葉の裏を読めるようにならないと王族としてやっていけないので、ちょっと複雑だ。
でもアシュレにはこの純粋さも忘れないでいてほしい。
ラズはもう既に純粋さなんて欠片もないからね!
なんて考えていると、セイル兄様が穏やかな笑顔で口を開いた。

「僕も、優秀な二人の王子殿下の噂は聞いていたよ。噂通り、二人とも聡明で、良い関係が築けそうで安心した」

ラズ、アシュレ、セイル兄様、ときたので、次は私の番だ、と思い、自然と笑顔になる。
初対面なのに色々ありすぎだったとは思うけど、でもやっぱり幼馴染として一番最初の日になるんだから、もう一度きちんと関係を始めたい。

「幼馴染になるんだし、仲良くするのは当然だよ!まあ短い時間に色々あったけど……改めて、これからよろしくね!」

「リュートの言う通りだね。よろしく、二人とも」

「うん、よろしくね!」

「ああ、お前たち二人には感謝してる。いい幼馴染、友人になれそうだ。よろしくな」

────こうして私は、運命を変えるための大事な二人との出会いを果たしたのだった。
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