悪役令嬢は令息になりました。

fuluri

文字の大きさ
37 / 66
幼少期

ハイルの記憶です。Part3

しおりを挟む
しばらく無言のまま馬車に揺られていたお父様とハイルだったが、その時間は城についたことで終わりを告げた。
馬車の扉が開けられる前にハイルは姿を消し、お父様はそれを横目で見ながら立ち上がり、馬車を降りる。
門を開けた門番たちが緊張しながら敬礼しているのを気に留めることもなく、お父様はつかつかと歩いていく。
その後ろを姿を消しているハイルが飛びながら追いかけていった。

「あ、おはようございます、フィル様~」

「…ああ」

宰相執務室に着き、扉の前に立つ騎士によって扉が開かれると、お父様の姿に真っ先に気づいたアルが笑顔で挨拶をした。
それにより、他の文官たちも次々に挨拶をし、それに視線だけで応えながらお父様は自分の席まで歩いていく。
お父様の机の上は、今日も今日とて書類が山積みである。

「フィル様、本日の予定ですが、今から二時間ほどは書類の処理、その後二時間ほど今年の会議、移動して午後からはケーヌ地方への視察及び陛下への報告となっております」

「……やはりか」

お父様が座ったと同時に斜め後ろにすっと立ったアルが、お父様の今日のスケジュールを読み上げる。
それを聞き、私が『うわ~、アルが秘書してる!』などと呑気な感想を抱いていると、お父様が肩に乗っているハイルにしか聞こえないような小さく低い声で呟いた。
やはり、って何がやはりなのかね?
ただ単にアルがスケジュールを読み上げただけなのに。

「…?フィル様、何か言いましたか?」

「…いや。予定は把握している。予定の時刻になったら知らせろ」

「分かりました」

アルにはお父様の呟きが聞こえていなかったらしく不思議そうな顔をしたけれど、物凄いスピードで書類を処理しだしたお父様にこれ以上聞こうとは思わなかったらしい。
すぐに真面目な顔になって自分の席へ戻っていった。
いや、それはいいんだけど、お父様が仕事を始めた途端に吹き荒れ始めたブリザードに誰も反応しないのね。
まあ、毎日のことだから反応するのも面倒なのかもしれないけどさ。

……しっかし、私がハイルから報告をもらったのはお昼頃なんだよね。
つまり私はこの後四時間くらい、ひじょーーーーーに暇な訳ですよ。
お父様に何があったのかと気持ちは急いているし、現実の方の時間が進んでいない確証なんてどこにもないっていうのに、四時間も待ってられないんですけど!
多分お父様がお城にいる間は敵も襲ってこないから、狙われたのは午後の視察に出かけたあたりのはず。
そこまでDVDみたいにスキップとか出来ればいいのになあ。

お父様がお仕事を開始してしまい、暇すぎてぼーっとお父様の手元を見ながらそんなことを考えていると、不意に景色がブレた気がして、はっとする。
なんだ、地震か?!
…と、びっくりして周りを見回すと、さっきと同じ部屋なのにどうにも雰囲気が違う。
人が少ないのかも?
なんで?

「フィル様、そろそろ視察に出発するお時間ですよ」

えっ、視察?!
それは午後からなんじゃ…。
…もしかして、本当にスキップ出来ちゃったの?
記憶なのにスキップとか出来るんだ…。
っていうか、アルが話しかけてるのにお父様ちっとも書類から目を離そうとしないね。
これ、集中しすぎて完全に外界の音が聞こえてないパターンだ。

「…………」

「はあ、全くこの人は…。…あ、そうだ。…フィル様~、ご子息が来てますよ~」

ため息をつき、呆れ顔になったアルは何かを思いついたらしく、悪戯っ子のように楽しそうな顔でニヤッと笑う。
そしてすぐに笑いを消し、すまし顔でお父様に私たちの来訪を告げた。
…いやいや、私たち今日はお城には行ってませんけど?
アル、何さらっと嘘ついてるのさ。

「………どこだ?」

けれど、お父様には効果抜群だったようで、その言葉を聞いただけで書類から顔を上げた。
ついでに視線を巡らせて私たちを探している。
いや、気付こうよお父様。
私たち今日は行く予定なかったでしょうに。
まあでも、これは純粋に嬉しくもあるのでちょっとニヤニヤが止まらないけど。
ここ、スキップしなくて良かった。

「やっと気付きましたね。視察の時間です」

「…そうか」

微笑ましそうな、嬉しそうな顔で笑いながら、アルはもう一度用件を伝えた。
アルの言葉を聞き、私たちが来たわけではないと知ったお父様は、アルを絶対零度の視線で一瞥して立ち上がり、アルを伴ってお城の正門に向かって歩きだした。
うん、だからさ、お父様。
そんな人を視線だけで凍え死にさせそうな表情は親しい人に向けるものじゃないんだってば!
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた

桃瀬さら
恋愛
嫌われ公女ナディアは、婚約破棄され学園で孤立し、家族からも見放されていた。 どれほど努力しようが周囲からは「嫌われ公女」と蔑まれ、誰も味方なんていない。 「もういい。愛されたいなんて、くだらない」 そう心に誓った瞬間から、状況が一変した。 第二王子が婚約破棄を撤回し跪き、寡黙な騎士団長が「君を守りたい」と熱く迫ってくる。 そして、冷ややかな兄まで「婚約など認めない。家を出ることは許さない」と……。 愛されることを諦めた途端、なぜか執着される。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

処理中です...