悪役令嬢は令息になりました。

fuluri

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幼少期

贈られた《影》です。

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お待たせしました…((((;゜Д゜)))))))
読み専に回り、気づいたら半年以上…恐ろしいですね…。
今日中に、もう一話upしたいと思います(><;)


————————————


色々あった初顔合わせから1週間。
私はあの日から毎日毎日朝から晩まで忙しそうに動き回り、殆ど会うことが叶わなかったお父様に呼び出されていた。

「失礼します」

「ああ」

執務室に入ると、山積みになった書類の間からちらとしか見えないお父様が出迎えてくれた。
今日も忙しそうだな~と思いつつ、何の用事で呼ばれたのかと首を捻っていると「そこに座って少し待っていなさい」と言われ、椅子に座る。
キリの良いところまで仕事を進めるつもりなのか、暫くさらさらとペンが紙面の上を流れる音だけが室内に響き、心地の良い午後の陽気と相まってうっかり眠たくなってきてしまった。
多分、午前に治癒魔法をより深く理解するために現代で言う解剖生理学のような学問を学び、頭を使ったことが眠気の原因だろう。

(ああ…良い気持ち…)

柔らかい日差しが差し込み、誰かが黙々と書きものをしている音が聞こえる静かな環境というのは、どうしてこれほどまでに眠気を誘うのか。
きっと午後の授業が眠たいのも同じ理由なのだろう…と半分夢の世界へ旅立っている頭で考えていると、侍女により目の前にすっと紅茶が置かれた。
ありがとう、とお礼を述べ、しゃきっと背筋を伸ばして紅茶へ手を伸ばす。

(いけないいけない、お父様は仕事ばかりで疲れてるのに、私がすぐ側で寝るなんて)

そう思いはするものの、やはり眠気は襲いくる。
どうにか打ち勝とうとしきりに紅茶を口へと運び、中身が半分程にまで減った頃、漸くお父様が書類の山から立ち上がった。

「…待たせてすまなかった。退屈だったであろう」

そう言いながら私の向かいの椅子に座るお父様に、内心で眠かったです…と思いつつ、とりあえず否定しておく。
実際、暇ではあったもののお父様の仕事をしている音は良いBGMとなっていたし(その音に眠りに誘われてしまったけれど)穏やかで案外好きな時間だった。

「大丈夫ですよ。それよりも、今日はどんな用件ですか?」

さっきの書類の山から見るに、お父様は今日も変わらず大変忙しそうだ。
だというのに呼び出すなんて、何か大切な——少なくとも仕事と同等かそれ以上の——用事があるという事だろう。

「…リュートが倒れた翌日に交わした約束があったであろう。…その約束を果たす用意が漸く整った」

えーと、約束っていうと…何だっけか。
私が倒れた時ってエルクが来た日だった筈だけど、もう随分と前な気がして全然思いだせない…歳かな。
とりあえず曖昧に誤魔化して話を進めたら分かるだろうか。

「約束…ですか」

「…そうだ。…『影』は自分の命を預ける事もある存在。選別に時間を要したために遅くなってしまった。…下手な者をあてがうわけにはいかぬからな」

…ああ!
そういえばお父様に『影』を強請ったんだった!
ちなみにここで言っている『影』とは、文字通り主人の影で動く、隠密の様な存在のことである。
分かりやすく言うと忍者みたいなものだね。
まあ忍者とは違って普通に護衛みたく隣に立つこともあるし、人前に全く姿を現さない訳じゃない。
…というより、そこら辺は主人の使い方次第って感じかな?
その仕事内容は多岐に渡り、情報収集から主人の護衛、影武者、刺客など、主人の手となり足となり動く必要がある。

私がその『影』を欲した理由は、エルクの一件で見えた自分の情報収集能力、事態に対する処理能力…ひいては自分の一存で動かせる力の少なさをどうにかしたかったから。
もうあんな後悔はしたくないし、他の攻略対象達にだって出来ることならトラウマになるような辛い思いなんてさせたくない。
幼少期にトラウマのある攻略対象はあと何人いるのだろうか…。
隠しキャラに関しては本当にどうすればいいんだろうって感じだし。

こうなってくると本っ当にあのゲームを隅々までやり尽くしておかなかったことやストーリーをきちんと覚えておかなかったことが心底悔やまれる。
最近ちょっと忘れ気味だったけど、幼いうちからフラグをへし折っていかないと私の処刑ルートの回避も出来ず若くして死んでしまうことになるのだし。
あれ、そうなってくるとヒロインより先にトラウマを解消して死亡フラグを折るっていう計画自体無謀ってことになるのでは…?
これは早めに計画修正しないとまずいかも…。

まあそれは後で考えるとして、話を戻そう。
貴族の世界において最も恐ろしいのは、直接の武力行使よりも情報を駆使して行われる計略、謀略である。
古来より情報を使うことに長けた者達は生き残り、苦手とする者達は利用されるか潰されるかの二つに一つ。
しかし、いくら情報を「使う」術に優れていても使うことのできる「情報そのもの」がなければ意味はなく、情報を集める術がない者も同様に生き残ることはできない。
つまり、自身の代わりに手札となる情報をかき集めてくる『影』は貴族として情報戦を勝ち抜いてゆく為に必須の、いわば生命線。
その生命線に裏切られでもしたら、それこそその貴族の命運は尽きたと言っても過言ではない。

それに、『影』は最後の最後まで主人を守り続け、命運を共にする正真正銘の「最後の盾」。
血を分けた家族ですら信用しきれないことも少なくない貴族にとっては、下手をすると家族よりも自分に近く、信頼できる存在かもしれない。
そんな『影』すらも信じられなくなったら、私なら本気で人間不信に陥ること間違いなしだ。

…いや、待てよ。
さっきから一人につき一人であること前提で話していたけれど、そもそも『影』って普通一人しか抱えないものなのだろうか。
忍者のイメージでいくと何人も抱えてそうだけど、その分裏切りも多くなりそうな感じもある。
でも、人数が多い分裏切りにおける損失や衝撃は少なくなる。
そうやって考えてみると、どちらの方が良いのかなんて分からないな。
抱えてる『影』の人数を大っぴらにする貴族なんている訳がないし、扱い方と同じでその辺も自由なのかもしれない。
…まあそれはともかく、それほどまでに自分に深く関わってくる存在なのだから、お父様が選別に慎重になるのも頷ける。
生涯に渡って主人を支え続ける為、基本的には年齢もそう離れた者をあてがう訳にもいかないのだろうし。

けど、この場合どうなのだろうか。
私は現在四歳だけど、近い年齢の者となると良くても十代になるんじゃなかろうか?
私が現状最優先で欲しいと思っている情報は、ゲームに関係する攻略対象達の情報。
そんな年若く経験も浅いであろう『影』に、いきなり他の公爵家や王家なんかの情報を探ってこい、なんて最難関のミッションを与えて大丈夫なのか…!?
レベル1で魔王に挑むようなものじゃない?
警備も情報管理も、侯爵以下の家とは桁違いに厳重だっていうのに!
下手したらお仕事初日で、いつまで経っても帰って来ませんでした…なんてことにもなりかねない…!
どうしよう、慣れるまでその辺の情報収集は諦めてもっと簡単なところからにした方がいいのかな。
いやでも、様子見してる間に幼少期のトラウマ完成しちゃってました、なんてことになったら目も当てられないし…。
……まあ、その辺は会ってみてから考えようか、うん。

「用意してくださってありがとうございます。…けれど、ただでさえお忙しいのに無理をなさったのではないですか?お父様が僕のことを考えて下さったのは嬉しいですけど、僕のわがままなど後回しでも…」

「…リュート、これはお詫びなのだ。ならば出来うる限り早急に対処するのが筋というものであろう。…初めての贈り物ということで、少し張り切ってしまったのもあるが」

前半は私の目を見ていたが、後半は凍えるような視線をティーカップに向けてお父様がそう言った。
…照れてるんだろうけど、そんな視線向けたら紅茶が冷めちゃうよ、お父様。
けど、そうか。
そういえば、お父様からの贈り物って初めてかも。
誕生日はいつも使用人達が全身全霊でお祝いしてくれてたけど、お父様は忙しくて会うことすら出来なかった。
それでもメッセージカードは送られてきてたけど、お父様が書いた書類の筆跡と比べると違いがある。
多分あまりの忙しさに息子の誕生日すら忘れているお父様を見て、誕生日に何ももらえない息子達を哀れに思った部下がメッセージカードを代筆し、お父様に許可を取って送っていた…とか、そんなところだろう。
まあ、お父様のことだから覚えていても何を送ればいいのか分からずに結局部下が代理で選ぶ、とかになりそうだけどね。
ともあれ、これはお父様の心遣いや気持ちなのだし、これ以上言うのは野暮というものだろう。

「そういうことなら、ありがたく受け取っておきます。それで、その『影』はどちらに?」

部屋を見渡してもそれらしき人物はいないし、別室にでも待機しているのだろうか。
私がワクワクする気持ちのままに視線を部屋のあちらこちらに向けながらそう言うと、お父様は私の後ろに視線をやりながら口を開いた。
え、まさか…?

「…既にリュートの後ろにいる」

やっぱり!?
その言葉を聞くなりばっ!と勢いよく振り返ると、そこにはセイル兄様とそう変わらない年頃の男の子が立っていた。
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