無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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前とは違う、新しい人生

不思議な少女 《SIDE》セス・フォード

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貴族のほとんどは、プライドが高い。高位貴族ならばなおさらだ。

僕は平民として生まれ、セスと名付けられた。平民だったため、そのころの僕に苗字はかった。
裕福ではなかったけれど、僕は両親に愛されながら幸せに暮らしていた。

そんな僕には、魔法の才能があった。

この王国に生まれた者の大半は神聖力を持っているけれど、僕が5歳になって鑑定した際、残念ながら神聖力は持っていなかった。

その代わり魔力保有量こそ普通の量だったけれど、魔力保有限度値は目を見張るほど大きな数字だった。
そして属性は「風」、「土」、「火」の3つ。これでは魔法以外の道を進む理由がない。

僕はその後できるだけ魔法を学んで、高位貴族は必ず入ると言われているオリエット魔法学園に、12歳の時に魔術首席生として入学した。

これは出世のチャンスだ。僕は魔法が大好きで、才能もある。
ここで活躍すれば、魔術師になれるかもしれない。魔術師は収入が大きいから、僕はもちろん、両親も不自由なく暮らせるようになる。

そんなふうに考えていた僕は、知らなかった。貴族にはあんなにプライドの高い人がたくさんいるなんて。

学園に通っている貴族の学生達は、平民で魔術首席になった僕が気に入らなかったらしい。
そりゃあ、平民よりも高い教育を受けているのに、平民の僕に首席の座を取られたのだから貴族としてのプライドはズタズタだろう。

たくさんの貴族に妬まれた僕に、居場所はなかった。これ以上は言わなくても大体察せるだろう。

そうして僕は何とか学園を過ごし、学園最後の年である16歳になった時、転機が訪れた。この学園がある王都に、ドラゴンが現れたのだ。

この国、ライオール王国は神の中で最も力のあるとされる女神リアナから加護を授けられていて、魔物は国に入ることが出来ない。

これが、大陸の中ではライオール王国が最も財力を誇っている国と言われている理由だ。
魔物の入れないこの王国に、魔物対策は必要ないから。

だから、この王国に、しかも王都に魔物のドラゴンが現れるなんて、どう考えても異常なのだ。
もちろん騎士や魔術師は派遣されたが、ほとんどが王国出身で、魔物との対戦が初めての人が多い。

国の民は皆、心底不安だった。
けれど不思議なことに、騎士と魔術師達が到着した頃には、ドラゴンは倒されいていて、住民たちはそれはもう盛り上がっていた。

僕は偶然その時ドラゴンと出会い、偶然倒してしまったのだ。
一応言っておくが、ドラゴンは魔物の中でも高位ランクだから、めちゃくちゃ強いのだ。

この時の僕は既に膨大な魔力を持っていたから、風魔法で抑え込んだら一瞬だったのだ。

もちろんその光景はたくさんの人が目撃しており、噂が広がるのに時間はかからなかった。
その後の僕はというと英雄と崇められ、フォード伯爵という地位とフォード魔術師団の団長職を17のときに国王陛下からたまわった。

あっという間に出世してしまって、僕はなんとも言えない感情を抱いた。

僕はもう地位を持っているのにもかかわらず、元平民だと見下してくる貴族はそう少なくなかった。
特にもう一つの魔術師団、メイエド魔術師団団長のヘインツ・メイエドはすごかった。

僕に会うたびに嫌味を言うやら決闘を申し込んでくるやら、とりあえずあいつは僕を敵視してくるのだ。
おそらく、僕があいつとの決闘で毎回勝つから、そのことも関係しているのだろう。

そんなにあからさまに敵視を向けてくるのに、あいつに悪い噂がないのは、あいつが猫かぶりの達人だからなのだろう。
猫かぶりの腕には素直に尊敬する。

ヘインツ・メイエドは伯爵家出身だ。だから僕が団長になって4年の頃、この王国唯一の公爵、ウィステリア公爵に公爵令嬢の教師をお願いされた時は断ってしまいたかった。

伯爵家出身でさえあんなにプライドが高いのだから、公爵家の令嬢なんて周りに甘やかされて、ヘインツ・メイエドよりも傲慢で我儘でプライドが高いに決まっている。

だが僕に公爵からの願いを断る権利なんてない。

そう考えていた僕は、本当に馬鹿だった。この時の自分を火で炙ってやりたい。

僕が公爵邸に着いた時、公爵令嬢は僕を歓迎してくれたのだ。

僕を歓迎してくれる貴族は今まで、僕を味方に引き入れたい奴しかいなかったのに。

それと、僕は髪と瞳の色こそ誰でも持っているような色だけど、顔立ちはまあまあいい。お陰で、僕を引き入れたい貴族達は自身の娘を利用して僕と引き合わせようとする。迷惑でしかないのだが。

ウィステリア公爵家が僕に媚を売っても、何も得るものはない。領地は安定していて資源が盛んで、事業も成功していると聞く。

だったら何故こんなに歓迎してくれるんだ?

もしや俺に一目惚れしたとか…いや、自惚れるな。

公爵令嬢自身が3歳でもわかるほどの絶世の美少女なんだから、僕みたいなそこそこ顔立ちの良いだけの奴に惚れるわけがない。

しかも公爵令嬢は3歳とは思えないほどの落ち着きを持っていて、所作も完璧だった。

なんなんだ?これも何かの策略か?公爵家は俺が必要なほど経済面に困っているのか?

公爵令嬢は、俺が驚いて固まっているところを不思議そうに見ていたが、僕を咎めるどころか、兄の無作法を謝罪した。

一方の公爵令息の方はと言うと、俺を怖いほどに睨んでいた。
明らかに僕を見る目と公爵令嬢を見る目との差がありすぎる。僕が貴族嫌いだという話を聞いたのか?

だから僕が公爵令嬢の言葉を無視してしまったことも、それが理由だと思ったのか。
あの冷たいことで有名な公爵令息が、妹の公爵令嬢を溺愛しているという噂は本当だったんだな。

それから、公爵令嬢が案内していてくれたが、公爵令嬢は途中から何故かニマニマしている。

本当に、公爵もそうだが(いつも無表情)、ウィステリア一族は全く考えが読めない。
ああいや、公爵は夫人の前だといつも笑っていたな。気持ち悪いほどに。

まあ、僕も人のこと言えないか。僕、魔法以外関連だとあまり表情がないらしいから。

そして公爵邸の書庫に着くと、公爵令嬢は僕を先生と呼んでいいかと聞いてきた。
本当に今日はびっくりさせられる。公爵令嬢が平民出身の僕を先生と呼びたいだなんて。

だが、念のため釘を差しておこう。

「大丈夫です。それと、僕は元平民ですが、今からはあなたの教師。僕はあなたを公爵令嬢としではなく、生徒として扱うつもりなので、そのつもりでいてください。」

「はい! このアイシャーナ・ウィステリア、しょうちいたしました、フォードせんせー!」

そんな公爵令嬢の姿に、一瞬思考が停止した。先程までの落ち着いた少女は、どこへ行ったのだろうか。

…これが、彼女の素なのだろう。今までの公爵令嬢としての姿は、猫を被っていただけだったんだ。
この素を今までよく隠せていたものだ。これは、ヘインツ・メイエドよりも猫を被るのがうまいんじゃないか?

僕は思わず、公爵令息の言葉に頷いてしまった。

一番驚くべきなのは、これからだ。

「公爵様から、あなたは既に魔法が使えると聞いています。見せてもらえますか?」

僕は公爵令嬢に魔法を見せてくれ、と聞いたのに、を見せてくれとは言っていない。

それなのに、あの幻影魔法を無詠唱で完璧に使用し、さらに他の水魔法もやってみせたのだ。

3歳でだぞ?あり得ない。本当に。あり得ないはずなのだ。
…今の目の前の光景が夢ならば、の話だが。

それから、彼女は僕と気が合うことが判明した。

そして僕は、彼女に魔法仲間になってくれと言った。あんなに無礼な態度をとってしまったのは本当に申し訳ないが、気の合う仲間を逃すわけにはいかないのだ。

公爵令息からの視線が痛いが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

そして彼女は、僕の願い出を了承してくれた。あんなに無礼な態度をとった僕に怒りもせず、魔法仲間にまでなってくれるとは。

やっぱり、魔法好きに悪い奴は居ないんだ。
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