無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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前とは違う、新しい人生

家出(?)しました! 強硬手段が一番!

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いつものように家族との朝食を終えて部屋に戻ると、色んな意味で騒がしかった。
部屋の中にはドレスが大量にあり、メイド達はあちこちを走り回っていて、愚痴をこぼしてる人もいる。

今日の午後、私は王城に登城して国王夫妻とフェリクス・エルアルド・ライオール殿下、つまり私との縁談が出ている王太子殿下と会う。

だから、確かに装いには気を使わなければいけないんだけど…

嫌だなぁ、面倒になりそうなことはなるべく避けて平穏に暮らしたいのに…公爵令嬢の身分じゃ無理かもしれないわ。

いや、私は諦めないわよ! できるだけ好きな事をして、満足できる人生にしてみせるんだから!

きっとこの後、何時間もかけて準備をさせられるのだろうけど…

あ、我ながらいいことを思いついてしまったわ!

今逃げちゃえば、あの面倒くさ…大変な身支度をしなくてもいいし、きっと「お転婆令嬢はお断りだ」とか言って婚約の話もなしになるわ! でも、王家からの誘いを断ることになる…あっ、王城への出発直前に戻ればいっか! そうしたら遅れないために、そこまで手の込んだ身支度はしないはず!

そんな私を見て、城の人はどう思うかしら?

それに会っても、どうせ私みたいな可愛くもなくてさらに図太い女の子となんて、婚約したくないと思うはずだし。
なら先にお転婆だという噂を作れば、相手も婚約を断る口実が出来るんじゃない?

よしっ、思いついたら実行するべし!私の身勝手な行動で迷惑をかけてしまうみんなには悪いけど、ごめんなさい!でもきっと、私が王太子殿下の婚約者になった時のほうが迷惑をかけちゃうと思うの!

「お嬢様! 失礼ですが、今から準備しないと間に合いません!こちらに来て…って、お嬢様!? どちらに行かれるのですか!? 本当にもう時間が…!」

「ごめんねエリー! 今日中には戻るわ!」

「え!?お嬢様! お待ち下さい!!」

心が痛くなるけれど、私はエリーの言葉は聞かずに、そう叫びながら急いで部屋を出ていき、外へ向かった。

ふふっ、3歳児だからと舐めないでよね!こう見えて私、結構足が早いんだから!

って、あれ?そういえば逃げようとは思ったけど、どこに行けばいいんだろう?逃げることに夢中で、行き先は全く考えていなかったわ。

庭園だと簡単に見つけられてしまうし…あっ、そうだ!
確かこの近くに、小規模な森があったはず。そこならきっと見つからないわ!

この邸からは出たことがないけど、書庫にあるこの辺りの地図を読んでおいてよかった。

地図通りなら、風魔法で飛んでしまえば10分くらいで着くはず。

そこで神聖力の使い方でも練習してようかな。今日中に戻るって言い残しておいたし、自然の中でゆっくりしていよう!ああ、本があったらもっと良かったんだけどなぁ。

◇◇◇

「ふぅ、とーちゃく!」

ここがメリルの森だよね?予想通りに10分くらいで着いたなぁ。方向が合っててよかった!

邸からは出たことがないから、土地勘が全く無いのよね。

「わぁ…!きれーなみずうみだわ…!」

周りを見回すと近くに湖があり、私は思わず言葉をこぼしてしまった。

せっかくだから、周りを探索してみよう!

そう思い、私はしばらくの間この森を歩いていることにした。

「あ!これってめったにそだたない花じゃない!?」

私は色々な珍しいものを発見してはしゃいでいると、近くに人の気配があることに気づいた。

あれ?先客がいたのね。はっ、なら誰もいないと思ってはしゃいでいたのだけど、迷惑をかけちゃってたのでは!?
うっ、はしゃいでて全く気配があることに気づかなかった!

きっと相手は、私がいることに早くから気づいていたに違いない。

なのに文句も言わ黙ってくれていたなんて!優しすぎるのではないかしら!?
私がうるさかったことには自覚があるもの!

謝ったほうがいいかな?でも、その人がここにいるということは、人を避けるためかもしれないし、嫌な思いをさせてしまうかもしれないわ。

うーん、と私が考え込んでいると、気配がするほうからカサカサっという音がした。
すると、私と同じ年くらいの金髪の男の子が木の上からひょっこりと顔を出した。

そう、気配がしたのは上のほうからだった。

「ははっ、黙り込んでしまったね。もしかして、ようやく僕の存在に気がついたのかい?君は他のことに夢中で、全く僕に気づいていなかったからね。」

そういってふふっ、とその男の子が上品に笑うと、私は確信した。

この男の子、今まで大変な人生を送ってきたのだな、と。
そうでないと私と同じ年頃の子供が、こんなにも落ち着いていて作り笑顔を浮かべられるはずがない。

この子は、私の前世の子供の頃と似ている。
いつも笑みを浮かべて感情を表情にださず、本音を隠して過ごしていた

だからだろうか。私はどうしようもなく、この男の子に教えて、救ってあげたくなった。

世界にはたくさんの楽しいことがあり、温かさがあって。
それを知ることで、今までに見ていた世界が全く違って見えるようになるということを。

そうすれば、この男の子はこれ以上、影で苦しむことはなくなるはずだ。

「うんっ!ごめんなさい。あなたのいうとおり、まったく気づいていなかったわ!…ねえ、わたしね、おうちからあまりでられなくて、ともだちがいないの。もし、これからもあなたがこの森にくるなら、おともだちになってくれる?」

今は、きっと私が何を言っても伝わらない。ならば、距離を縮めるまでだ。

そう思った私は、心からの笑顔で、そう答えたのだった。
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