無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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前とは違う、新しい人生

どうも私は言い回しが下手らしい。

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公爵邸に向かいだして10分ぐらいが経つと、ようやく公爵邸の影が見えてきた。

よしっ、もうすぐ着く…って、あれ?庭がなんだか騒がしい気が?もしかして、勝手に逃げちゃったから迷惑かけちゃった…?
たっ、大変!早く戻らないと!

トンッ、と私が地面に降りて騒がしい庭へ向かってみると、中心に険しい顔をした両親とレイ兄様がいた。

やっぱり、逃げちゃったのが問題になったのかな…こんなに騒ぎになるなら、逃げるなんてことするんじゃなかったわ。

そもそも私が逃げた理由には、れっきとした理由がない。ただの私の私情だった。
確かに私が公爵邸から出られないのに退屈していたのは事実だけど、だからって王族と会う日に抜け出なんて正気じゃなかった。

こうなるのは考えればわかることなのに、私ったら調子に乗って…

ともかく、早く謝らないと。

私は騒ぎの中心に、タタタッと小走りで向かった。

「アイシャ…!一体どこへ行っていたの!?私達がどれだけ不安だったか…!」

私に気づいたお母様が、慌てて私の側へ走ってきて私の両肩を掴んだ。それに続いてお父様もレイ兄様も走ってくる。

やっぱり…みんな、今までに見たことがないほど険しい顔だわ。

心から反省をした私は、謝罪をするために肩にあるお母様の手を外して、勢いよく頭を下げた。

「ほんとーにごめんなさい。みんなにめいわくをかけてしまったわ…わたしはほんとーにさいていな子だわ…」

「迷惑とかの話じゃないのよ!アイシャは自分がどうして悪いのか全く理解できていないわ!」
そうお母様が怒鳴ったように言うと、お父様が私と視線を合わせるためにかがんで、お母様の言葉に賛同するように口を開く。

「そうだぞアイシャ。そんなに王城に行くのが嫌だったのなら、私達に相談をすればよかった。それを君は一人で判断して、行動に出た。そんなに私達が頼りなかったのかい?それでも少しは、心配する私達家族のことも考えてほしかったよ…」

?でも私、自分の身を守れるくらいには魔法も出来ると思うのだろうけれど…それに少なくともお母様は、私が神聖力を使って結界を張れることを知っていると思うのだけど…?

私の考えがわかったのか、今度はレイ兄様が私を論するように言った。

「もちろん、みんなアイシャが強いことはわかっているんだよ。でもね、お前はまだ3歳で、大人に守られていなきゃいけない。アイシャがどんなに大丈夫だと思っていても、僕たちは心配で仕方がないんだよ。」

邸の人全員が悲しい顔をすれば、私は静かに黙っていることしか出来なかった。沈黙で逃げるだなんて、我ながら卑怯な性格だ。

けれど、みんなの言いたい気持ちは何となくわかった気がする。きっと私がいなくなった後、みんなは私のことを心配してくれていたんだ。私も、突然家族が消えてしまったら心の底から心配するだろう。

今の私は一人じゃない。心配してくれる人が居て、助けてくれる人・支えてくれる人が居て、愛してくれる人がいる。

そのことがわかると、最初は空っぽだった心が、完全に満たされた気がした。

今までの私は、みんなを愛してはいたけれど愛を求めているわけではなかった。
それなのに今の私はというと、みんなが私のことを嫌ってしまえば、耐えられる気がしない。

ああ、本当に私は恵まれているなぁ。恵まれているからこそ、何も返してあげることが出来ない自分が申し訳ない。
見返りを求めて愛してくれている訳ではないことはわかっている。そんなみんなに、私は幸せで居てほしい。

ならば、私のできる限りのことをするだけだ。

今、みんなが私に望んでいる言葉がわかる気がする。

「みんなにたくさんのしんぱいをかけて、ごめんなさい。わたしはみんなのきもちを、ぜんぜんりかいできてなかったみたい。だからね、これからはわたし、みんなのしあわせのためになんでもがんばるわ!」

私がそう宣言すると、どうしてかみんなは引きつった顔をしていた。

「…私達がアイシャを心配したことを理解してくれたのは良かったが……何故か嫌な予感がするのは私だけだろうか」

「あら、奇遇ねクリス。私もそう思っていたところよ」

「ええ、僕も父上と母上と全く同意見です。アイシャは確実に悪い方向へ向かっています」

え?ええ?私はみんなが望んでいるだろうことを言ったはずなのだけれど、誰も喜んでいないわ!
そんなに私は言い回しが下手だったのかしら!?

その後、「アイシャはこういう子だった」ということで話は終わったのだけど、当然私は納得できていなかった。

本当に、人生難しいわ…


「ところでアイシャ、あなたが魔法を使って何処かへ行ったことはわかっていたのだけど、どこへ行っていたの?…一体どこへ行けば、そんなにドレスがボロボロになるの?」

お母様にそう指摘されて、私はハッとする。

「あああぁ!そうだったわ!おとーさま!きょうはおしろにいける!?」

急に慌ただしくなった私にびっくりしたのか、お父様が動揺した様子で答えた。

「え?あ、ああ。大至急で準備すれば間に合うんじゃないか?それより、王城へ行きたくなかったのでは―」

「ほんと!?なら、いますぐじゅんびしなきゃ!みんな、ほんとーにもうしわけないのだけど、てつだって!」

私は周りに集まっていた使用人達にそう伝えると、みんなして「承知いたしました、お嬢様!」と、やる気満々だった。

これは私が後で知る話なのだけど、メイド達は私を着飾るのをとても楽しみにしていたらしい。

せっせと公爵邸の中へ入って準備をしに行く私に、庭に残る家族達は呆然として立って私の後ろ姿を見送ることしか出来ていなかった。

「あ!アイシャ!今までどこで過ごしていたのかは後で聞くからな!」

お父様がそう叫ぶのが聞こえた私は、走りながら後ろを振り返ってグッと笑顔で親指を立てたのだった。
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